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シリーズ企画

2018年10月号

「地域未来牽引企業」が果たす役割

2017年12月、経済産業省は地域経済牽引事業の担い手の候補として 「地域未来牽引企業」2148社を選定しました。今後、選定企業が地域未来投資促進法などの支援施策を活用し、 地域未来牽引事業が活発に行われ、好循環な社会が形成されることを目指していくそうです。そこで、経済産業省の 地域経済産業グループ 地域企業高度化推進課 地域未来投資促進室に、地域経済牽引事業の概念や特徴、 今後の展望について伺いました。

地域未来投資促進法により地方企業の新事業を応援

2017年7月に「地域未来投資促進法」が新たに施行されました。地域の特性を生かした経済的波及効果の高い事業(地域経済牽引事業)にチャレンジする企業を応援することが目的です。具体的には、医療機器や航空機部品の製造、インバウンドビジネス、IoTやAIを活用したビジネス、環境・エネルギー産業など、これから成長が見込める分野の新事業に対し、国が予算を与えるなどして支援するというもの。実際に支援に至るまでの流れは、次の通りです。

①国の基本方針に基づき、自治体は事業の基本計画を策定する。

②基本計画に基づき、事業者は地域経済牽引事業計画を自治体に提出する。

③提出した地域経済牽引事業計画が承認された事業者は、税制や金融など、さまざまな支援措置を受けられる。

①の基本計画は、全国の市町村および都道府県から提出され、国は現時点で計190(8月末時点)の計画に同意しています。例えば、北海道旭川市は「地域の森林資源を活用した家具製造業」、富山県は「豊富な水資源を生かした医薬品、電子デバイス、繊維、機械などに関連する産業」を支援するというように、それぞれの地域の特性を生かした基本計画が策定されています。

②の地域経済牽引事業計画については、これまで全国で1186事業者(8月末時点)が各都道府県知事から承認を受けています。国は今後3年間で2000社程度まで増やし、投資拡大1兆円・GDP5兆円の押し上げを目指しています。

③の事業者が受ける支援措置は「予算」「税制」「金融」「情報」「規制」の大きく5つに分かれます(表1)。特に「税制」による支援措置は魅力的で、承認された事業のための設備投資に対して「課税の特例」が認められるようになります。「総投資額が2000万円以上であること」「前年度の減価償却費の10%を超える投資額であること」などの条件がありますが、適用されれば機械・装置などで「40%特別償却、4%税額控除」、建物・設備などで「20%特別償却、2%税額控除」が受けられます。また、国は地方税の減免に伴う補填措置もとっており、事業者の固定資産税などを減免した自治体に対して、減収補填をしています。つまり、事業者の固定資産税を国が一部、肩代わりするわけです。

このように国は地域経済牽引事業を推進し、地方の企業が中心となって地域経済を元気にしてもらいたいと考えています。そして、その地域の中核企業候補として、2017年12月に経済産業省が選定したのが「地域未来牽引企業」2148社です。

今後の活躍が期待される地域未来牽引企業

地域未来牽引企業は、次の3つの観点から選定しました。「高い付加価値を生み出している」「成長力がある」「域内外のハブとしての役割を果たしている」です。実際の選考にあたっては、大きく次のふたつのプロセスを踏みました。ひとつは、自治体の他、地域の経済団体(商工会、商工会議所)や金融機関(銀行、信用金庫)などによる推薦。もうひとつは、帝国データバンクのデータベースによる定量的な指標の分析で、例えば「営業利益」「従業員数」「域外販売額」「域内仕入額」などを用いて算出されたスコアがその指標に当たります。

経済産業省は地域未来牽引企業に選定された企業には、その証しとして選定証と専用ロゴを交付しています。専用ロゴは、名刺へのプリントの他、社屋外壁への貼り付け、制服への刺繍など、さまざまに活用してもらっています。また、情報の共有と発信を目的として、7万人以上の経営者が購読している経済産業省の広報誌『METIジャーナル』において、地域未来牽引企業の経営者の声や事業内容などを今年5月から掲載しています。さらに、4月には福島県会津若松市で、7月には熊本市で「地域未来牽引企業サミット」を開催しました。その他、全国の地方ブロックごとにシンポジウムを開催し、先進事例などについて学び合う機会を提供しています。

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地域未来コンシェルジュが選定企業をサポート

地域未来牽引企業への支援として、全国の経済産業局に専用のワンストップ窓口「地域未来投資促進室」を設置。そこに都道府県ごとの「地域未来コンシェルジュ」を置いて、選定企業の海外展開支援や他企業とのマッチングの相談にも乗っています。

また、コンシェルジュによる選定企業への直接訪問も進めており、今年度中に全社への訪問を行う見込みです。選定企業間の連携だけでなく、大学や研究機関といった支援機関との連携など、今後もさまざまなネットワークの拡大をフォローしていきたいと思います。

地域未来牽引企業の選定から10カ月ほどが経った今、民間にも連携の輪が広がってきています。例えば、大手就職支援サイトの「マイナビ」が選定企業を紹介する就職説明会を開催した他、みずほ銀行が特別貸し出しファンドを創設し、選定企業を個別訪問して融資の実施やコンサルタントを紹介するなどの動きがありました。

「地域未来牽引企業」は、選定してからが始まりです。今年度も選定企業を増やす予定で、選定後も徹底して支援を続け、地域経済を牽引する事業への積極的な挑戦を後押ししていきたいと思います。

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株式会社Wakka Japan

北海道 札幌市

2015年にアメリカ圏初の拠点としてオープンした「ホノルル精米所 the rice factory」。「ななつぼし」や「つや姫」など、さまざまなブランド米を扱っている

2015年にアメリカ圏初の拠点としてオープンした「ホノルル精米所 the rice factory」。「ななつぼし」や「つや姫」など、さまざまなブランド米を扱っている

海外で精米したての米を販売価格は日本国内と同程度

2013年に創業した(株)Wakka Japanは、日本産米の輸出専門業者です。全国約100件の農家・JAから仕入れた米を、玄米のまま冷蔵コンテナで輸出。海外にある自社法人で精米し、計1万8000人の個人客、400件の飲食店に販売しています。代表取締役の出口 友洋氏によれば、「取り扱うお米の約6割は北海道産。北海道米のブランドをさらに高め、地元にお金が落ちるように、苫小牧や石狩湾新港から世界に向けて輸出しています」とのこと。同社はこうした地域密着の姿勢が評価されて、地域未来牽引企業に選定されました。そもそも出口氏は、大学卒業後に経営コンサルティングの会社に勤務。その後、大手アパレルメーカーに転職し、香港支社に赴任した際、「現地で買って食べた日本米が1㎏当たり1500円と高価にもかかわらずおいしくなく、ショックを受けました」と話します。それもそのはず、当時、米の輸出といえば、日本で精米して温度・湿度の管理機能のないドライコンテナで輸送するのが一般的で、時にコンテナ内は「温度50℃、湿度90%以上」という米にとって劣悪な環境になることもあったそうです。そこで「日本産のお米の本当のおいしさを、現地の人に知ってもらいたい」と出口氏は、09年に会社を辞めて、店頭精米の米店「香港精米所」を設立。郊外の工場ビルの一室を借りて小さな精米機を1台購入し、お米の通信販売を始めたそうです。

玄米は商社を介して日本から冷蔵コンテナで輸送。現地滞在の邦人や日本料理店などに精米したての「本物の日本米」を売り込んだところ、徐々に顧客が増えていきました。そして、11年にシンガポールに進出、13年には台湾にも拠点を設けました。「海外拠点の増加に伴い、米の仕入れから販売までの物流を、一貫して自社で管理する必要を感じて設立したのがWakka Japanです。商社を介さず輸出ができるようになったため、結果的に販売価格も抑えられるようになりました。今は一般的な銘柄で、1㎏当たり600円ほどで販売しています」と出口氏は話します。

海外の消費者のハートをつかむ輸出専用米の生産に着手

16年に進出したハワイでも業績は好調、その勢いに乗って今年の秋にはニューヨークに新たな拠点を設ける予定だといいます。「やはり世界で多く流通しているのは、アメリカ産のいわゆるカリフォルニア米。これに打ち勝つために、アメリカ本土で勝負することに決めました」と出口氏。また「米を主食とする日本人からは想像がつきにくいのですが、アメリカ人は米を『健康食』として捉えています。そのため、スーパーでは白米よりも玄米の種類が豊富で、よく売れているのです」と。

そんな米国人の嗜好に応えるために、同社のハワイ法人では栄養士の資格を持つスタッフが米の販売にあたっています。栄養価だけでなく顧客の体調を考慮しながら、米の銘柄や精米度合いを提案しているそうです。 そして、17年には長野県伊那市に農業生産法人「Wakka Agr」を設立。農薬も肥料も一切使用しない米の自然栽培に取り組んでおり、今後は「各国・各地域の食文化を踏まえつつ、そこで暮らす人々の嗜好に合わせて、少量多品種の米づくりに挑戦していきたい」としています。また、最近では地域未来牽引企業に選定されたことで、メディアでの露出も増加し、同社の取り組みに共感してくれる農家や企業も増えてきているそうです。 北海道だけでなく、日本の農業全体を元気にしてくれそうな活気ある企業です。

「米・食味鑑定士」と栄養士の資格を持つスタッフが、お客様の好みに合わせて米を選び、おいしい炊き方を教えてくれる

「米・食味鑑定士」と栄養士の資格を持つスタッフが、お客様の好みに合わせて米を選び、おいしい炊き方を教えてくれる

稲刈りをする出口社長

稲刈りをする出口社長

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中村留精密工業株式会社

石川県 白山市

最大加工長さ1600mm、大型製品の加工に使われる「NTRX-300」

最大加工長さ1600mm、大型製品の加工に使われる「NTRX-300」

チャレンジ精神溢れる複合加工機のトップランナー
1949年創業の中村留精密工業(株)は、工作機械業界で「複合加工機のトップランナー」と称される企業です。同社が得意とする複合加工機は、金属やアルミをはじめとしたさまざまな材料に切削を行う旋盤やマシニングセンタ※などの多様な機能を1台の中に収めたもの。ルーツとなったのは65年、業界に先駆けて開発した油圧制御と電気によって自動運転を行う旋盤機械でした。以来、同社では一貫して高機能な工作機械の開発に挑み続けており、コンピューターによる数値制御で行う精密CNC旋盤や精密マシニングセンタを搭載した複合加工機の製品化もいち早く実現しました。 また、複合加工機で培った技術を基にガラス加工分野にも進出しており、光学用レンズや液晶ガラス、ハードディスク、光通信用コネクターなど、情報産業の最先端素材の自動加工システムも開発、提供しています。 「売り上げの6割から7割と大半を占めるのは海外輸出。地域別では欧州、北米、中国・アジアの順に多くなっています。米国では医療用人工骨、スイスでは時計の製造向けに高いシェアを取っています」と中村 健一社長は話します。また「工作機械の需要はその産業の景気によって大きく左右されるので、常に他社にはできない技術に着目し、専門性の高い分野に特化した製品を供給することにもチャレンジしています」と自社の経営方針を説明します。 こうした特徴と世界中に販売できる製品を持つ同社にとって、石川県は「ものづくりに最適な場所」だそうです。実際、「工場スペースが十分に確保でき人員の質も安定している他、IT技術の進歩と普及によって東京をはじめとした大都市とも遜色なく戦える理想的な条件が整っています」と話します。
地域経済を牽引する地域中核企業としての役割

今回、地域未来牽引企業に選ばれた理由の一つには「日本の産業が発展していくためにますます重要になるファクター、すなわち『地域中核企業』として評価されたことがあります」と中村社長。地域中核企業とは、所在する地域や近隣地域において「雇用創出など経済に大きく貢献している」「地域の強みの活用に取り組んでいる」「域外販売やインバウンドなどによる売り上げが多い」「今後大きな成長を遂げられる高い技術やサービスなどの潜在力を有している」といった要素に加えて、新分野や新事業などに挑戦し、地域経済を牽引するプロジェクトで中心的な役割を担ったり、地域の活性化につながる活動が期待される企業のこと。 「特に地方においては大メーカーでも中小企業でもない、ある程度の規模を持ちながらフットワークが軽く、地域内の企業や団体を結び付け相乗効果を高めていける地域中核企業が果たす役割が大きくなります。当社は地域社会の期待に応えていく責任があるのです」と意欲を示します。

具体的な取り組みとしては、同社が中心となって定期的に異業種も参加できる経営者勉強会を開催したり、県内学術機関や研究機関との産学連携を進めている他、ものづくりに興味のある中学生からキャリア体験ができるインターンシップ体制を充実させるなどして産業育成や人材育成に力を入れています。こうした取り組みが地域の未来を牽引していく原動力になることは間違いないでしょう。

高剛性と高精度加工を得意とする新製品「SC-300Ⅱ」

高剛性と高精度加工を得意とする新製品「SC-300Ⅱ」

インターンシップの様子

インターンシップの様子

海外輸出に力を入れる中村社長

海外輸出に力を入れる中村社長

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