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シリーズ企画

2018年11月号

シニア雇用の最新動向

 少子高齢化が進む日本では、2065年に総人口が9000万人を割り込み、現在約60%の「生産年齢人口割合」(15~64歳)は、50%程度まで低下すると予想されています(国立社会保障・人口問題研究所)。否応なく「シニアの活躍」が期待される時代の流れにあって、現在、どんな取り組みがされているのか。今号のシリーズ企画では、シニア雇用の最新動向についてお伝えします。

林 幹雄 (はやしみきお) 様

林 幹雄 (はやしみきお)

厚生労働省職業安定局
雇用開発部高齢者雇用対策課 課長補佐

インタビュー①

課題は65歳以上の雇用促進さまざまな取り組みを実施

2012年に改定された「高年齢者雇用安定法」では、事業主に「60歳未満の定年禁止」に加え、「希望者全員の65歳以上までの雇用確保措置」を講ずるように義務付けています。つまり労働者は、60歳で定年を迎えたとしても、原則、65歳までは再雇用制度や勤務延長制度などを利用して同じ企業で働き続けられるというわけです。現在、国の課題は「65歳以上が活躍しやすい社会をいかにつくるか」にあり、施策の方針として次の3つの柱を立てています。 ひとつ目は「同一の企業で働き続けられる環境の整備」です。65歳以降も働ける会社を増やすために、国は企業に対して「継続雇用延長」と「定年引き上げ」の提案を行っています。現在、日本には従業員31名以上の会社が約15万社ありますが、そのうち「65歳以上定年」あるいは「66歳以上継続雇用制度」を設けている会社は、約3万社に過ぎません。残りの12万社に対し、国は2018年度から5カ年計画で専門員を派遣し、高齢者雇用のメリットや制度化の方法についてアドバイスを行っています。同時に「65歳超雇用推進助成金」(表1)を設け、高齢者の採用を支援しています。 ふたつ目の柱は「再就職支援・多様な就業機会の確保」。全国の主なハローワークに、55歳以上の高年齢求職者の支援に取り組む「生涯現役窓口」を設置し、65歳以上の再就職支援に重点的に取り組んでいます。現在180カ所に窓口を開設しており、相談に訪れた対象者の約7割が再就職に成功。2020年度までに窓口を300カ所に増やす計画です。 最後の柱は「地方における就業促進」です。2017年度から「生涯現役促進地域連携事業」としてスタートしました。これは地域の特性を活かした「高齢者雇用に寄与する事業」に対して、国が年間3000万円前後の補助金を3年間支払うという制度です。これまで44の事業が採択されており、例えば秋田県横手市では「豪雪地帯」という地域特性を生かし、除雪作業の分野で高齢者活用を目指す構想などを盛り込んだ事業が採択されています。今後も事業の募集を継続していく計画です。 高齢者の雇用制度の変更は、社会に与えるインパクトが大きいため、「70歳までの雇用確保措置を義務化」などの変更が簡単にできるわけではありません。環境整備を着実に進めながら、「生涯現役」でいられる社会の早期実現を目指していきます。

写真1

崎山 みゆき(さきやまみゆき)様

(株)自分楽 代表取締役
静岡大学大学院 客員教授
一般社団法人 日本産業 ジェントロジー(老年学)協会 代表理事
サンフランシスコ州立大学学術博士

崎山 みゆき 様

相模女子大学短期大学部を卒業後、IT 企業に入社。在職中に取得した「余暇 開発士」の資格を評価され、企画職とし て社内活性化プロジェクト・研修講師に抜 擢。その後フリーランスの講師として独立。 同時期、元東京大学医学部教授・大島 正光氏にストレス・ライフスタイルについて 学ぶ。35歳で働きながら社会人大学院に 進み、トップの成績で桜美林大学大学院 国際学研究科修士課程を修了し、この間 に老年学も学ぶ。厚生労働省所轄事業 団の助成事業「中高年の生きがい支援 」 セミナー・シンポジウムを東京、広島、大 阪、神奈川、埼玉などで展開。

インタビュー②

最も大切なのは管理職のシニア理解教育

シニア雇用において最も問題なのは、シニアに対する偏見です。日本は特にそれが強い国で「60歳以上は使えない」「雇うことにリスクがある」などと考える人が少なくありません。今の高齢者は、ひと昔前よりも体力、気力ともに充実している方が多いので、シニア人材の能力を信用せず生かし切れていない環境に問題があるのです。 その点を踏まえ、企業におけるシニア人材活用のポイントを3つ挙げます。

ひとつ目は「管理職のシニア理解教育」です。いくら会社のトップが前向きに捉えていても、30〜40歳代の管理職クラスが「シニア世代は仕事が遅い、理解力が低い」などのマイナスイメージを強く持っていてはいけません。中途採用をしようとしても、フィルターがかかって振り落としてしまいます。確かに「流動性知能」という計算力、暗記力、思考力、集中力は、 40歳を過ぎたあたりから低下していくとされていますが、「結晶性知能」という知識、経験に基づいた判断力、理解力は、60以降も伸び続けると言われています。シニアの方でも若い人より優れている能力があるのです。その点を現場の管理職に理解させ、シニア人材の優位性を会社全体で共有することが大切です。 ふたつ目のポイントは「シニアのキャリア開発」です。先に述べた「結晶性知能」をなるべく生かせる業務を割り当ててください。例えば「クレーム対応」は、シニアの人生経験や判断力などが生きやすい分野です。また、ルーティンワークをコツコツこなすための忍耐力にも優れている方が多いので、「帳簿の整理」なども力を発揮しやすいでしょう。ただし、やはり能力には個人差が大きいので、一様に見なさず、若い人に対する以上に「適材適所」を心がけてシニア人材の活用を考えるようにしてください。 最後のポイントは「健康管理と労災対策」です。当然ながら、年齢を重ねるほど、体力が衰えて病気や怪我もしやすくなります。実際にシニアを雇用した会社からの相談で多いのは、「こんなに休むとは思わなかった」ということです。また、建設現場で働いていたあるシニアが「段差を飛び越えられると思ってジャンプしたら骨折してしまった」という話もありました。労災防止や健康管理には特に気を配り、通院時間や休憩を取りやすくする「シニア向けの就業規則」を作成することも考えてみてください。女性や障害者にとって働きやすい環境の整備が進められてきたように、シニアの労働環境も改善され、ワークライフバランスの実現も保障されるべきではないでしょうか。 現在の国の高齢者雇用対策は、「就業まで」しか考えられていません。「高齢者の継続雇用」を真に実現するためには、「就業後」を見通した施策が行われるべきだと思います。

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株式会社スタックス

神奈川県 川崎市

世子社

世子社

若手の技術の底上げを実施シニアが技術指導しやすい環境を整備

定年を65歳まで引き上げ70歳を超える営業パーソンも活躍

1933年に創業した(株)スタックスは、精密板金加工とアルミ溶接加工を得意とする会社です。「多品種少量生産」をモットーに、機械では難しい加工も職人による手作業で対応しており、これまで50業種1000社以上との取引実績があります。3代目の星野 妃世子社長によれば、「新幹線やH−Ⅱロケットに搭載される高精度な部品も数多く製造しています。千葉県勝浦市の他、新潟県十日町市にも工場があり、そこでは主に医療用機器の筐体製造などを手掛けています」とのこと。

同社には現在、パートを含めて53名の従業員が在籍していますが、その約3割にあたる16名が60歳以上、平均年齢は46・5歳です。「昔からシニアの再雇用には積極的です。本社のある京浜工業地帯には、さまざまな分野の工場が林立しており、弊社ではNECや日立、JFEエンジニアリングといった大手メーカーを退職した方などに来てもらっていました。なかには品質管理部門の責任者を務められていた方などもいて、入社後、前職で培った経験とノウハウを生かして弊社の品質管理体制を大きく改善してくれました」と星野社長は話します。

数年前には、それまで60歳だった定年を65歳まで引き上げました。さらに希望すれば、定年後も準社員として継続勤務できる体制を整え、現在、70歳を超える営業パーソンもいるそうです。「自分で車を運転して、バンバン営業に行っています。今のシニアはみんな元気で、70歳を過ぎても大きな戦力になります。かつては80歳まで勤めた方もいました」と言います。

また、シニア雇用のメリットについて星野社長は、「技術はもちろんのこと、仕事に向き合う姿勢の手本になるのが大きいです。継続雇用しているベテラン社員は先代社長と長年、一緒に仕事をしてきているので、会社の理念をよく理解しており、それを体現してくれます。早朝から出社し、黙々と精度の高い仕事をする人が多い」と話します。

シニアが若手を指導しやすい環境をつくることが大切

同社では、以前はシニア雇用に関する国の助成金制度を利用していましたが、現在は利用していません。その理由について星野社長は、「助成を受けるための手続きが複雑な上、添付資料も多く中小規模の企業が対応するには使い勝手が良くないと感じているからです。必要な人材を雇うのであれば、助成金の有無は関係ありません」と断言します。

では、シニア雇用に関して課題はなかったのでしょうか。「若手への技術指導を期待していたのですが、職人気質のシニアたちは、自ら進んで指導しないという問題がありました。そこで若手のほうにテコ入れをすることに。市内にある溶接技術学校など、外部機関に研修に行かせ、基礎的な技術や知識を一通り学んでもらったのです。それにより『何が分からないのかが、分かるようになった』ため、シニアに積極的に質問をする若手が増えました。シニア側も、素人に近いスタッフをどう指導すればいいのか戸惑いがあったのだと思います」とのこと。世代間のギャップを埋めて、コミュニケーションを取りやすい環境をつくることもシニア人材活用の大切なポイントと言えそうです。

新潟県十日町市の工場は廃校になった小学校を活用

新潟県十日町市の工場は廃校になった小学校を活用

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三和コムテック株式会社

東京都 港区

柿澤 晋一郎会長

柿澤 晋一郎会長

能力のある人材を求めて「定年制度」「雇用の年齢制限」を廃止

日本ほど「シニア人材」を敬遠する国はない

IT業界では久しく「人材不足」が叫ばれていますが、三和コムテック(株)は、そんな心配とは無縁。シニア世代の人材が多数活躍しているシステム開発の会社です。創業社長で現会長の柿澤 晋一郎氏は、元大手石油元売り企業のIT担当者。「ITコンサルタントとして独立後、イスラエルのセキュリティ会社と連携して1991年に同社を立ち上げた」と言います。現在、社員は約40名で、そのうち60歳以上は管理職を含め8人ほどとのこと。「経理課長は84歳で、毎日元気に若手に檄を飛ばしています」という柿澤会長自身も78歳のシニア世代です。

ビジネスパーソン時代、イギリス、オランダ、シンガポールなどの国々を渡り歩き、長く海外で活躍してきた柿澤会長ですが、「世界で日本ほどシニア人材を敬遠する国はない」と言います。「海外のIT企業では、人材を採用する際、経歴やスキルを参考に『その人に何ができるのか』という点だけに着目し、年齢は全く問題にしません。業務をこなす能力さえあれば、たとえ70歳でも80歳でも『使える』と判断するのです」と。 実際、同社も人材を「年齢」で判断しない方針を貫いており、そのため「定年」も存在しません。「仕事ができるうちは、いつまでもいてほしい。仕事ができなくなった時点で、引退や他の会社で働くことを本人が決めればいいわけです。全員一律で退職する年齢を設ける制度は間違っていると思います」と柿澤会長は話します。採用についても年齢制限は設けておらず、「かつては在庫管理や生産管理のシステム開発に明るい70歳以上のエンジニアを採用したこともある」そうです。ちなみに、国の助成金は現在使用していないとのことです。

IT人材の派遣ビジネスがシニア雇用を妨げている

柿澤会長は「そもそも日本のIT業界の構造はおかしい。SIer(エスアイアー)と呼ばれるシステム構築会社がエンジニアを雇用し、システム導入を希望する会社や他のシステム開発会社に一人当たり月額60~70万円程度で派遣しているわけですが、海外ではありえません」と言います。そして、その商習慣があるので「エンジニアのシニア雇用が進まない」とも。「派遣先から『できるだけ若い人がいい』『現場のマネージャーが40歳なので、それよりも下の年齢の人を希望』などと年齢に関する要望が少なくないため、SIerはシニア人材を雇用しにくいのです。このように、エンジニアの仕事をする上では本来関係のない『年齢』が重視されているというわけです」と。

「人材採用では、年齢も、人種も、性別も関係なしにして、ただその人の能力だけにスポットを当てるべきだと思います。加えて大切なのは、入社後も自分で勉強を続け、その能力を高めていける人かどうかの見極めです」と柿澤会長。若者だろうが、シニアだろうが、いくつになっても「学び続けること」が大切なことのようです。

会社外観

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