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シリーズ企画

2019年06月号

あらためて「防災」を考える

北海道胆振東部地震や大阪府北部地震、さらには平成30年7月豪雨などに見舞われた2018年。地域を守るためにも、企業の持続可能性を高めるためにも、防災への意識を高め、積極的に取り組んでいく必要があります。そこで、数多くの災害を調査し、独自のノウハウを蓄積されている防災システム研究所の山村 武彦氏に、日本の防災と災害の現状、そして平素から企業や事業者が災害に備えておくべきポイントなどを伺いました。

山村 武彦 氏

防災システム研究所 所長

山村 武彦 氏

1943年、東京都出身。新潟地震(1964)でのボランティア活動を契機に、防災・危機管理のシンクタンク「防災システム研究所」を設立。以来50年以上にわたり、世界中で発生する災害(250カ所以上)の現地調査を実施。日本各地での講演、テレビ解説、執筆などを通じた防災意識啓発活動に取り組む。また、多くの企業や自治体の防災アドバイザー(顧問)を歴任。BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)マニュアルや防災・危機管理マニュアルの策定など、災害に強い企業、社会、まちづくりに携わる。実践的防災・危機管理の第一人者、防災・危機管理アドバイザー。著書多数。

災害はいつ・どこで発生してもおかしくない

 日本は世界屈指の火山大国であり、さらに台風の通り道に位置することから、地震や台風、豪雨などの災害が発生するリスクが他国に比べて高い状況にあります。現に日本には全世界の活火山の約10%が存在しており、マグニチュード6以上の地震が発生する割合は全世界の約20%にも上っています。そして、台風に関しては年に約11個の台風が300㎞以内に接近し、平均3・5回も上陸しています。しかも、近年は地球温暖化の影響で気温や海水面温度が上昇し、スーパー台風や集中豪雨が発生する頻度が増えています。

 日本は全世界の0・3%ほどの面積しか有しませんが、それにもかかわらずこれだけの災害リスクを抱えているのです。例えば地震に焦点を絞ってみると、政府の地震調査研究推進本部は東北から関東地方沖の日本海溝沿いの海域を震源とするマグニチュード7~8の大地震が今後30年間で発生する可能性が高いと公表しています。また、静岡県から九州沖合にかけての南海トラフ沿いでは30年以内にマグニチュード8~9の巨大地震が起こる確率が70~80%に上るとし、北海道東部の千島海溝沿いに関しても震度6弱以上の地震が30年以内に釧路市で約70%、根室市で約80%の確率で発生するとしています。つまり、日本はいつ・どこで大規模な地震が発生してもおかしくない状況にあるのです。

 にもかかわらず、多くの日本人は自分の地域は大丈夫だろうという楽観的な考えを抱きがちです。例えば、熊本県庁はかつて企業誘致の際に「この120年間にマグニチュード7以上の地震が発生したことがない」ということをアピールしていましたが、3年前には熊本地震が発生し、立地企業も大きな被害を受けました。長年にわたって災害が発生していないような地域であっても、いつ何が起こるか分からないということをしっかりと認識しておくべきなのです。まさにその意識こそが防災対策の大きな一歩となります。

大企業と中小企業における防災対策の実態

 では、企業は災害に対してどの程度、備えをしているのでしょうか。東日本大震災を契機に多くの大企業はBCP(事業継続計画)を作成しましたが、中小企業は目の前の業務に手一杯で、依然としてBCPの作成率は20%程度にとどまっています。

 しかし、実際に災害が発生すると、大企業以上に体力のない中小企業のほうが存続の危機に立たされてしまいます。東京商工リサーチのデータによると、東日本大震災の関連倒産は全国で1903件にも上っていますが、その多くが中小企業であると考えられます。中には補助金が支給されるまで体力がもたず、倒産してしまった例もあるようです。ちなみに、倒産企業の業種に関してはサービス業が全体の4分の1を占め、次いで製造業、卸売業、小売業となっています。また、事務所や工場などが直接損壊を受けた直接型倒産が10・6%であるのに対し、取引先・仕入先の被災による販路縮小などが影響した間接型倒産が89・3%と圧倒的に多いことにも注目しなければなりません。こうしたことからも、体力のない中小企業こそ、災害時に備えて一定の内部留保を確保しておくこと、主要な取引先・仕入先の災害リスクも視野に入れておくことが肝要なのです。

 BCPや防災対策を行ったとする企業についても、あらためてその状況をチェックすると、決して十分な対策でないこともしばしばあります。熊本地震を機にサーバーラックを固定するなどの対策を講じたという中小企業を視察したことがありますが、実際に現場を見てみると床とラックを固定しているだけで、震度6強以上の地震に対応できていませんでした。震度6強以上の地震に備えるのであれば、天井や壁なども同時に固定しなければなりません。サーバーラックに限らず、棚類は震災時に人を下敷きにしてしまうリスクがあるので、確実に複数箇所をしっかりとボルトなどで固定しておいてほしいと思います。また、できることなら重要なデータや書類に関しては、バックアップオフィスを設けるなどしてリスクヘッジしておくことをお勧めしたいところです。

 また、BCPに関して落とし穴となっているのが、出勤・帰宅中の従業員の行動マニュアルです。昨年の大阪府北部地震では発生時刻が午前7時58分だったこともあり、多くの人たちが出勤すべきかどうかで混乱してしまったり、交通機関がパニックに陥ったりしてしまいました。あらかじめ企業が「震度5強以上の地震の際は安全な場所で待機すること」などのマニュアルを作成していれば、こういった混乱を招くことはなかったはずです。休日や夜間の際の災害対策マニュアルを準備しているような大企業ですら出勤・帰宅中の対策マニュアルを用意できていなかったようなので、今後はそのあたりの整備も急務となるでしょう。

防災に関するチェックリスト

持続可能な防災対策は企業の利益につながる

 防災というと、企業の利益につながらない投資だと思われがちなのですが、決してそのようなことはありません。防災はリスクヘッジにつながるだけでなく、CSR(企業の社会的責任)にもつながり、地域住民から信頼を得るのにも一役買うことができます。時にはその信頼が売り上げにつながることもあるでしょう。だからこそ、私は講演会などの機会を頂戴するたびに、「少しでも利益が出たら、防災対策や備蓄の充実などに投資してほしい」と話すようにしています。また、そうした企業活動が地域の防災においては要になってくるはずなので、政府には企業の防災投資に税制優遇などの措置を与えてほしいと思います。

 ただし、こうした取り組みは依然として大企業が中心となっており、中小企業の参画は今一つという印象が拭えません。自治体や商工会議所などはより積極的に企業に働きかけ、一社でも多くの企業に参画してもらえるようにしていただきたいものです。とはいえ、多くの中小企業は目の前の仕事に手一杯でしょうから、私は簡易的な防災マニュアルの作成をお勧めするようにしています。防災マニュアルというと分厚いものを想定しがちですが、中小企業の場合はポイントを絞り、A4用紙10枚程度の簡単なマニュアルを準備しておくだけでも、災害対策に十分な効果を発揮することができるはずです。

 というわけで、そのポイントについて紹介していきましょう。一つ目はリスクを浮き彫りにした上で対策とコストの限界を定めることです。リスクについては、自治体が提供しているハザードマップなどで自分たちの会社の立地などを確認し、どのようなリスクや脆弱性があるのかを把握してください。その上でチェックリスト(前ページ図参照)のうちどの程度の対策を講じるべきなのかを検討すると同時に、利益のうち何%を投資に回すといった基準を定め、取り組んでいくといいでしょう。

写真1
写真2

 二つ目のポイントは、人的被害ゼロを第一の目標とすることです。防災の範囲は実に広く、全てに取り組もうとすると膨大なマニュアルになってしまいます。なので、まずはとにかく従業員とその家族、そして、来訪(店)客の命を守ることを念頭に置いた対策を練り上げ、どんなに大規模な災害が発生しても、従業員やその家族がスムーズかつ安全に避難できるような体制を構築するとともに、そのための情報収集などに取り組んでほしいと思います。

 三つ目のポイントは、あらかじめ災害時にキーパーソンとなる人物を定めておき、災害直後に連絡を取れるような仕組みを設けておくことです。災害時の経営リスクには直接型倒産だけでなく、関連型倒産もあるので、社内や主要な取引先・仕入先のキーパーソンを選定しておき、メーリングリストなどで災害直後に自社の状況を一斉配信できるような仕組みを整えておくことが重要です。電話やメールは災害が発生してしばらくするとつながりづらくなってしまいますが、実は災害発生直後はいずれもつながりやすい状況にあります。まさに時間が勝負となりますので、文面に関しては事前に文案を用意しておき、必要事項のみを追記してすぐに送信できるような状態にしておくといいでしょう。そうやって、社内外のキーパーソンたちに必要な状況や支援要請を迅速に伝えることができれば、従業員の安否確認や取引先・仕入先への連絡などをスムーズに行うことができ、関連型倒産などのリスクを最小限に抑えることができます。私がアドバイスをしている会社ではこのやり方を実践し、災害発生直後に主要取引先・仕入先に対して一斉メールを配信しました。そして、文中にて自分たちの現況や必要としている物資について詳細に記述したところ、事業リスクを最小限に抑えることができたほか、主要取引先・仕入先から効率的に支援を受けることもできたそうです。まさに備えあれば憂いなし、ぜひとも税理士の先生方、そしてその顧問先の皆さんにも実践いただきたいと思います。

 そして、最後に注意しておきたいのは、防災マニュアルを作成して満足するのではなく、それをきちんと運用できるような体制を整えておく必要があるということです。そのためにも、年に数回は防災用品点検の日を設け、防災マニュアルの確認をしたり、非常食を消費し、新しいものに買い替えるといった機会を設けていただきたいと思います。これは企業においても、家庭においても導入していただきたい手法の一つです。

「近助」の意識を大切にし地域一丸となった防災対策を

 ところで、近年はBCPだけでなく、CCP(Community Continuity Plan:地域の持続可能計画)という考え方が広がりつつあります。これは企業やグループだけでなく、地域や自治体、周辺住民も含めた災害対策を練り上げていこうというものです。おかげで、最近は地域との連携を図ったり、地域住民と一緒になって防災訓練を実施したりする企業が少しずつ増えています。特に東京においては東日本大震災を機に東京都帰宅困難者対策条例を施行したこともあって、多くの大企業がCSRの一環として災害時に避難所や備蓄品を提供する準備を整えています。例えば、六本木ヒルズは5000人の帰宅困難者受け入れを表明しているほか、10万食の非常食を備蓄しているといいます。

 また、よく防災において大切なのは「自助」「共助」「公助」だと言われますが、災害大国である日本では、それらに加えて向こう三軒両隣で助け合う「近助」の意識を養うことが大切です。災害で亡くなられた方の実に84%が災害発生から15分以内に亡くなっているとのデータがありますが、この「近助」の意識が普及し素早い救助・避難活動ができれば、災害時にもっと多くの人命を救うことができるはずです。それは地域住民一人ひとりにとっても重要な考え方であるとともに、地域の企業においても大切な考え方だと思います。

 中小企業がこうした対策に取り組むには、何よりもまず防災対策に関する意識改革をしなければなりません。税理士の皆様方には日本において、いつ・どこで災害が起きてもおかしくないことをあらためてご認識いただくとともに、顧問先に防災マニュアルの作成や持続的な運用の徹底をご指導いただければと思います。

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