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シリーズ企画

2020年08月号

「デジタル遺品」への生前対策
「デジタル終活」の重要性

亡くなった人のデジタル機器に保存されたデータやインターネット・サービスのアカウントなどを「デジタル遺品」と呼びます。デジタル遺品には、ネット証券の口座や仮想通貨などお金に関わるものも多く、相続におけるトラブルの原因になることもあります。プライベートにもビジネスにもデジタル機器が欠かせなくなっている今、生前から「万が一の場合」に備えてこのデジタル遺品への対策を行う「デジタル終活」の重要性が増しています。その現状や具体的な対処法について、日本デジタル終活協会代表理事で弁護士の伊勢田 篤史氏に伺いました。

伊勢田 篤史 氏 (いせだ あつし)

日本デジタル終活協会
代表理事、
終活弁護士・公認会計士

伊勢田 篤史 氏
(いせだ あつし)

「あなたはパソコン・スマホを遺して死ねますか?」というキャッチフレーズとともに、「デジタル終活」を普及する活動を2016年より始動。「あさイチ」(NHK)「WBS」(テレビ東京)などのテレビ番組にも出演し、セミナーやメディアなどを通じたデジタル終活の情報発信を行っている。現在では、一般社団法人緊急事業承継監査協会を設立し、経営者の突然死による緊急事業承継対策の普及活動を行っている。

遺族による把握・管理が難しい「デジタル遺品」

 「デジタル遺品」とは、パソコンやスマートフォン(以後、スマホ)などのデジタル機器を通じてのみ把握できるデータのことで、大きくオフラインデータとオンラインデータの2種類に分けることができます。オフラインデータとは、パソコン内に保存されているワードやエクセルなどの他、スマホで撮影された写真データなどのことを指します。一方、オンラインデータとは、SNSや通販サイト、ネット証券といったインターネット・サービスのアカウント等を指します。いずれも実体がなく、遺族による把握・管理が難しいのが特徴です。

 昨今のデジタル機器にはパスワードロック機能が標準装備されており、多くの人が利用していますが、自分自身のパスワードを他人に伝えているケースはまれでしょう。これはセキュリティー上当然のことですが、もしデジタル機器の持ち主が突然亡くなってしまったら、どうなるでしょうか。デジタル機器のログインパスワードを解明しなければ、その遺族が機器内のデータにアクセスすることは困難です。また、スマホについては、ログインパスワードを一定回数誤ると、スマホ内のデータを初期化してしまうといった機能もあります。こういった場合、遺族による対応次第ではスマホ内のデータが全て初期化されてしまう恐れもあります。デジタル機器内のデータにアクセスできない場合には、電話帳にアクセスし、友人などに個別に死去を知らせることも、仕事に関するデータをしかるべき人に引き継ぐことも、金融関係の口座や取引などの有無を調査することも困難となります。その他、家族も知らないネット証券の株が存在したとしても、その資産は宙に浮いてしまう可能性もありますし、内緒で行っていたFX取引を放置すれば、為替変動等の条件が重なることで、遺族に多額の追加証拠金の請求がなされる可能性もあります。このように、デジタル遺品は遺族にとって極めて重要なものなのです。

「デジタル世代の引き継ぎノート」

日本デジタル終活協会の
「デジタル世代の引き継ぎノート」

 なお、パスワードが分からない場合でも、データ復旧会社に依頼することで、パスワードを解除し、データを復旧することができる可能性があります。実際、データ復旧サービスを手掛ける企業に聞いてみると、デジタル遺品にかかわる依頼が年々増えているといいます。ただ、パソコンであれば、5〜10万円ほどでデータ復旧が可能なようですが、近年セキュリティーが強化されているスマホについては、データ復旧が非常に難しくなっており、費用も20~30万円ほどかかるようです。

もしもの時を想定した「デジタル終活」の普及へ

 そこで重要なのが、当人によるデジタル遺品の生前対策、いわゆる「デジタル終活」です。終活というとシニア層のためのものというイメージを持つ方も多いですが、人間いつ何があるか分からない以上、そしてパソコンやスマホがプライベートにもビジネスにも欠かせないツールとなっている今、デジタル終活は全ての世代に必要な備えと言えます。

 私が「デジタル終活」という言葉を初めて知った2015年当時、デジタル終活に取り組む法律専門家も団体も皆無でした。そこで、私はデジタル終活をもっと世の中に普及させたいと考え、日本デジタル終活協会を立ち上げました。

 デジタル終活普及のため、まず私はデジタル終活版エンディングノートとも言うべき「デジタル世代の引き継ぎノート」をつくりました。これは自分が持っているパソコンやスマホなどのデジタル機器と、その中にあるオフラインデータとオンラインデータを棚卸しした上で、死後にそれらのデータを誰にどう管理してもらいたいのかを書き記すためのノートです(次頁参照)。これをもとにデジタル遺品のリスクやその対処法としてのデジタル終活の重要性、実践法などについてレクチャーするセミナーを開催、回を重ねているうちにメディアなどの取材も増えていきました。今では、日経新聞等にも「デジタル終活」に関する話題が定期的に掲載されるようになりました。

デジタル終活は中小企業にとって究極のBCPになる

 私はデジタル終活の普及活動の中で、税理士の先生方にもその重要性を積極的に伝えています。というのも、先生方の顧問先である中小企業経営者は、デジタル機器を仕事とプライベート両方に使っていることが多いからです。経営者のデジタル機器の中には、突然亡くなった時に他の誰かに速やかに引き継ぐべき業務上のデータもあれば、逆に家族に見られたくないプライベートなマル秘データも多いことでしょう。それらを故人の遺志どおりに整理・管理する橋渡し役として、経営者と距離感の近い税理士は、非常に適しているといえます。「社長にもし何かあった時には、自分が残された従業員や家族との間に立って、さまざまなケアを行います」と伝え、その一環として生前対策としてのデジタル終活をサポートすれば、税理士としての大きな付加価値となるのではないでしょうか。

 一方で、税理士先生自身にとっても、「デジタル終活」は非常に重要です。特に税理士一人が実質的に顧問先情報を抱え、自ら顧客に対して訪問や対応をしているケースで、他のスタッフは事務所内作業のみに集中し、所内で適時に情報共有されていない個人事務所では、急に先生が倒れたら各顧問先の情報も訪問などのアポイントも何も分からなくなり、事務所として対応ができず、顧問先に迷惑がかかってしまう可能性もあります。そんな時、デジタル遺品についてのエンディングノートがつくられており、万が一のときの対応策がきちんと練られていれば、残された事務所スタッフの方にも大いに助けになるはずです。あらゆる事業者にとって、デジタル終活は「もしもの時」のための備えとして必須、いわば究極のBCP(事業継続計画)なのです。

 現在、こうした重要性にも関わらず、全国の中小企業経営者にはデジタル終活のことがほとんど知られていません。通常の「終活」にしても、その言葉自体は広く知られていますが、実際にエンディングノートをしっかりと書いている人はわずかです。誰も「明日、自分が死ぬかもしれない」とは考えませんから、自身の死後の対策に積極的になれないのは仕方のないことだと思います。

 私は、セミナーなどでデジタル終活の重要性を説きながらも「デジタル遺品についてのエンディングノートを完璧に書きましょう」と言うのではなく、「手軽にできるところからはじめましょう」と話しています。最低限、デジタル機器のログインパスワードさえ分かればあとは何とかなります。たった5秒だけでよいので、お持ちのデジタル機器それぞれのログインパスワードを名刺の裏などにメモし、財布に入れる、通帳と一緒にしておく等の対応をしておきましょうと伝えています。これだけでも立派なデジタル終活の第一歩であり、やるのとやらないのとでは大きく違います。

 皆さんもぜひ、まずはこの第一歩を踏み出してみてください。そしてできればその先、デジタル遺品についての引き継ぎのためのエンディングノート作成へと歩を進めてみてほしいと思います。次頁に当協会の「デジタル世代の引き継ぎノート」についてより詳しく解説しておりますので、ぜひ参考にしてみてください。

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デジタル遺品についてのエンディングノート「デジタル世代の引き継ぎノート」解説

日本デジタル終活協会

デジタル機器のログインパスワードを共有することが「デジタル終活」の第一歩。しかし機器内のデジタル遺品にアクセスできたとしても、どこにどんなデータがあって、それをどうしてほしいのかについて、遺族は知る由もありません。そこで、一歩踏み込んでエンディングノートを作成するのがオススメです。引き続き伊勢田氏に解説していただきます。

デジタル引継ぎ世代の世継ぎノート記入例①

デジタル引継ぎ世代の世継ぎノート記入例②

デジタル引継ぎ世代の世継ぎノート記入例③

【オフラインデータのための対策】

 まず各デジタル機器等の基本情報とログインパスワードなどをリスト化し(①、③、④)、個々のデータについて希望する処理を記載します(②、⑤(1))。この時に大事なのは、特にパソコンの場合、引き継ぐべきデータをフォルダごとに整理するとともに、相続人に分かりやすいよう必要なファイルなどの入ったフォルダの場所(ファイルパス)を明確に示すこと。そしてそれを誰に引き継いでほしいか、そしてもし見られたくないデータがある場合には「引き継ぎが必要なデータ以外はハードディスクごと物理的に破壊し、完全消去してほしい」と指示を記載しましょう。

【オンラインデータのための対策】

・SNSについて(⑥、⑦) アカウントを有するSNSの名称を記載し、死後に行ってほしい対応を明らかにします。昨今では新しい弔いの形としてFacebookの「追悼アカウントサービス」などがあり、また仲間たちがタグづけして過去の生前の思い出をSNS上で語ることもできます。自分の死後、こうしたサービスを使うのか、アカウント自体削除するのかも記しておきましょう。 ・金融機関について(⑧)

 最低限、取引のある金融機関名と証券会社名を記しておく必要があります。 ・有料サービスについて( ⑨、⑤(2))

 サービス名称などを記載し、死後の処理について明らかにしておきます。例えばヤフーオークションやメルカリで商品を出品していると、放置してしまえばその落札者とトラブルになってしまいます。そうならないような配慮が必要です。 ・ホームページやブログについて(⑩)

 各サービスのIDやパスワードを共有するとともに、死後の処理を明らかにしておきましょう。 ・クレジットカードについて(⑪)

 クレジットカードの停止や銀行口座の凍結で、有料サービスなどの決済手続きも止まりますが、同時に死後も継続すべきだったサービスも止まってしまう可能性があるため注意が必要です。

 こうした内容を記載したエンディングノートは、封筒などに入れて封印し死後に開封するよう伝える、取引銀行の貸金庫を利用する、信頼できる第三者(士業など)に預けておくといった方法で保管しましょう。よく「果たして家族はノートに記した通りにデジタル遺品を処理してくれるだろうか」と不安で書き残すことをためらう人がいますが、死後の事務作業を依頼する上で最も大事なのは「信頼」です。信頼関係を築くことも終活の一部、そう思ってチャレンジしてみてください。

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