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東京会企画③

2020年09月号

キョンなどの狩猟体験ツアーで
「命と自然の尊さ」を伝える

千葉県の房総半島で有害獣として駆除の対象となっているキョンという動物をご存じでしょうか。キョンは中国南東部と台湾に分布するシカで、日本では2005年に特定外来生物に指定されています。千葉県ではレジャー施設から逃げ出したものが野生化、その数は5万頭にも達しており、ここ数年、農産物などに深刻な被害を与えています。そこで、千葉県いすみ市でキョンやイノシシなどの害獣駆除に携わった経験をもとに、その肉や皮を活用した事業を展開している石川 雄揮氏に害獣被害対策の現状と事業の内容についてお話しいただきました。

シカの最期の姿に圧倒され

 私は2018年から千葉県いすみ市で狩猟を中心にした自然体験ツアーなどを提供していますが、以前はフリーランスの記者やテレビ制作会社のディレクターとして、貧困に苦しむ子どもたちやパレスチナ、アフガニスタン、リビア、ミャンマーなどの戦場を取材していました。

 そんな私にとって大きな転機となったのが、房総の森での狩猟体験ツアーでした。心身ともに疲弊しきっていたときに思い立って参加してみたところ、罠にかかってもがきながら、必死に仲間に危険を知らせようとするシカの最期の姿に圧倒され、あらためて「命と自然の尊さ」について考えることができました。そして、自分も狩猟を通して、命と自然と向き合い続けたいと考えるようになったのです。

 こうして私は15年、東京から父の故郷でもあるいすみ市に移住し、狩猟免許を取得、同市の猟友会ハンターとして「地域おこし協力隊」(※)に採用され、キョンやイノシシといった有害鳥獣対策を担いました。実をいうと、キョンのことはこちらに来るまでは知りませんでした。キョンとはシカ科の小型草食獣で、国内では千葉県と伊豆大島で野生化しています。成獣の体重は10㎏ほどと小さいのですが、農作物被害や生態系への影響が危惧されています。

※人口減少や高齢化などが進む地方で、地方自治体が地域外の人材を受け入れて地域協力活動を行ってもらう総務省の事業

駆除から狩猟体験ツアーへ

 私が地域おこし協力隊に赴任した時も、いすみ市の農家の方々や住民の皆さんは大増殖するキョンの被害に苦しんでいました。草食動物ですから柑橘系の葉や大豆の新芽、ブルーベリー、ハーブなどをことごとく食べてしまうのです。しかも、警戒心が強くて捕獲が難しく、猟師が少ないことも相まって、その数は増え続けていました。実際、当時は千葉県内の生息数5万頭に対し捕獲数が年間でわずか2400頭といった状況でした。

 こうした中で、私はワイヤーなどで足をくくって捕らえる罠猟を中心に、キョンなどの駆除活動に取り組んできました。そして任期が終了してからは2018年9月にハント・プラス合同会社を設立し、狩猟体験ツアーなどを展開し始めました。現在、当社の狩猟体験ツアーでは「命と自然の尊さ」を伝えたいという思いから、猟師目線で山歩きをして、罠にかかったキョンやイノシシを捕獲し、解体してその肉を食べてもらうといった取り組みをしています。また、キョンの命を最大限に活用するために、革の活用も進めています。キョンの革は柔らかく、きめ細やかなので、古くから赤ちゃん用品の素材などに使われてきたそうで、当社ではその革でキーケースなどのクラフト小物を制作するワークショップを開いています。

 これからも引き続き、狩猟の現場を通して、獣害被害の現状、そして「命と自然の尊さ」を伝えていきますので、機会があれば、ぜひ房総での狩猟体験に参加してみてください。

グランピングなどの宿泊サービスも提供。透明なバブルテントに宿泊し、ジビエバーベキューや星空観察を楽しむことができる

グランピングなどの宿泊サービスも提供。透明なバブルテントに宿泊し、ジビエバーベキューや星空観察を楽しむことができる

キョン革クラフトワークショップではキーホルダーなどを制作

キョン革クラフトワークショップではキーホルダーなどを制作

「狩猟体験に参加してみてほしい」と話す石川代表ハンター

「狩猟体験に参加してみてほしい」と話す石川代表ハンター

狩猟体験ツアーでは解体も体験する

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狩猟体験ツアー。山登りをしながら罠の仕掛け方などを学ぶ

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すばしっこくて捕獲が大変なキョン。肉は柔らかく、台湾では高級料理とされている

すばしっこくて捕獲が大変なキョン。肉は柔らかく、台湾では高級料理とされている

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