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アフターコロナ時代の経営のあり方

創業 100年超でも進化を続ける

ECや物流システムの強化で
アフターコロナをたくましく生き抜く!!

本コーナーではアフターコロナを見据え、新たなチャレンジをされている 企業様を取材し、これからの時代に即した経営のあり方を模索します。 初回には、製菓・製パンの食材・器具などの販売を手掛ける (株)富澤商店の富澤 淳社長にご登場いただきました。

コロナ禍の窮地をECが救う

まずは御社の沿革から伺いたいと思います。

富澤 淳社長(以下、敬称略) 当社の創業は1919年で、初代の富澤正雄は商店街の乾物屋として海の乾物を小分けにして販売していました。転機となったのは1970年、戦後復興とともにパン食が普及する中にあって、私の祖父で2代目である富澤 正が業務用小麦粉の小分け販売を開始したのです。これが大いにヒットし、当社は小麦粉をはじめとした製菓・製パン材料の販売をチェーン展開し始めることになりました。
 当初は主に東京都町田市周辺の百貨店にテナントを構え、その後、少しずつ直営店やテナントを増やしていったのです。また、それと同時に扱う商品のバリエーションも増え、製菓・製パンの材料だけでなく、製菓・製パンに必要な道具なども取りそろえるようになりました。そして、その後もクリスマスやバレンタインデーなどのイベント需要の高まりとともに売上が増加し、2000年代に入った頃には倉庫のキャパシティが不足するまでに成長しました。そこで、2018年頃に新倉庫を整備し、あらためて出店計画を推進。以降は関西にも店舗展開ができるようになり、毎年10店舗ずつくらいのペースで規模を拡大していきました(現在は90店舗以上)。

EC※1に力を入れ始めたのはいつ頃からですか。

富澤 BtoB(企業間取引)については2010年から稼働していましたが、当時のECは従来の電話やFAXによる通販と大差がなく、マーケティング戦略などの裏付けがありませんでした。その後、少しずつマーケティングやSEOなどに力を入れていき、2017年には同業でECに強みを有していた企業を買収し、BtoBはもちろん、BtoC(対消費者)のECなどにも注力し始めました。

※1 Electronic Commerceの略称で、オンラインで物やサービスの売買などを実施すること

コロナ禍の影響はいかがでしたか。

富澤 2020年4月に入ると百貨店が営業を停止して、当社もほとんどの店舗を閉めざるを得ない状況に陥りました。しかも、開いている店舗にもお客様がほとんど入らず、全体の売上が半分ほどにまで落ち込んでしまったのです。
 この窮地を救ってくれたのがECでした。巣ごもり需要などの影響で一般消費者のEC利用が急増し、またBtoBでもインターネットの利用が一気に増えたのです。ただ、当時はECの受け入れ態勢が十分ではなく、2020年5月頃にはECサイトや受け入れ態勢の整備に注力することになりました。
 例えば、BtoB向けのECサイトについては、EC初心者でも使いやすいようなアナログ感のあるUI(ページデザイン)を取り入れ、従来の帳簿のように、過去の購入品一覧を参照しながら必要な数量を入力するだけで、注文が完了するようにしました。食品業界はデジタル化がなかなか進まない業界の一つでしたが、これを機に多くの取引先がデジタルに移行してくださり、当社としても大幅に業務の効率化を図ることができました。
 もちろん、こうしたデジタル化の恩恵は取引先にもあります。例えば、当社のECサイトだと「どの商品がいつから値上げになる」といったことを一目瞭然で把握できるようになっているので、「安いうちに買いだめしておく」といった経営判断がしやすいはずです。

2024年問題を見据え物流再構築

今年7月に同社のキッチンスペースで実施した
イベント(水まんじゅう作り)の様子

リアル店舗はどうですか。

富澤 住宅街にあるリアル店舗はかなり回復してきましたが、繁華街にある百貨店のテナントは依然として厳しい状態が続いています。最近はインバウンドなども戻ってきて、少しずつ回復基調にありますが、まだまだテコ入れが必要な状況です。そこで、現在はリアル店舗に足を運んでもらえるように、コロナ禍で取り止めになっていた試食やイベントなどを積極的に展開していこうと考えています。

今後の課題についてお聞かせください。

富澤 当社では大口の法人にはルート配送、小口や個人向けには宅配便を利用しています。いずれも物流の2024年問題※2の影響を受けるのは間違いないので、物流コストの高騰を想定したシステムを構築しなければなりません。

今年4月25日オープンの「星が丘テラス店」
(名古屋市)の様子

 例えば宅配便の場合、1日1000以上の発送手配業務をいかに効率化するかということが課題になります。そこで、現在は京王相模原線の多摩境駅の近くに物流センターを建設中で、来年からここに物流機能を集約していく予定です。当社の売上の4割程度を首都圏のお客様が占めているので、その中心地点に物流センターを設けられることは大きな強みになると見ています。これを機に運送業者との連携をより強固なものにし、当日配送などにも対応できるような体制を構築したいと考えています。なお、この物流センターはピッキングなどがしやすい環境の整備はもちろん、温湿度管理などにも万全を期しています。法律上、小麦粉などのドライな食品には温湿度管理の義務はないのですが、高品質なものを手頃な価格でお届けするという精神を大切にしたいと思います。

 これからも人口減社会に向き合いつつ、コロナ禍で顕著になった「コト消費※3」の需要を取り込んでいきたいですね。その一環として、リアル店舗で「キッズ料理教室」などイベントを開催し、中長期的な視点でファンを獲得していきたいと考えているところです。

※2 2024年4月1日以降、自動車運転業務の年間時間外労働時間の上限が960時間に制限されることによって発生する運送・物流業者の売上減、ドライバーの収入減などの問題
※3 商品の所有に価値を見出す「モノ消費」に対して、商品やサービスを購入したことで得られる体験に価値を見出す消費傾向

アフターコロナにあってもさまざまな成長の可能性がありそうですね。
今後の展開を楽しみにしています。

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