2019年07月号
顧問先とのこれからの
コミュニケーションの取り方
顧問先が会計事務所に求めるコミュニケーションのあり方が多様化してきました。特に近年は「頻繁に会う必要はないが、ビデオ会議などで打ち合わせや情報共有を行いたい」「電話やメールではなく、チャットツールなどでタイムリーに連絡を取り合いたい」といった方が増えているようです。そこで本特集では、船井総合研究所の鈴木 利明氏にこれからの顧問先とのコミュニケーションのあり方や便利なツールの導入の仕方についてご紹介いただきました。
スマートフォンの普及を機にコミュニケーションが多様化
スマートフォンの普及を機に、顧問先とのコミュニケーションの取り方が大きく変化しつつあります。以前は訪問か電話によってコミュニケーションを取るのが主流であり、特に訪問が重要な役割を果たしていましたが、インターネットが普及してからはメールによるコミュニケーションが増え、さらに近年はスマートフォンの普及によってチャットツールの活用が著しく増加しています。実際、比較的若い世代の税理士さんと経営者は当たり前のようにチャットツールで連絡を取り合い、オンラインでのファイル共有やビデオ会議などを行うケースを目にすることも増えてきました。
こうしたコミュニケーションツールを利用する最大のメリットは、なんといっても業務の効率化を図れることです。例えば、実際に訪問するとなると移動時間が必要になりますが、ビデオ会議であれば移動時間がかからない上に、場合によっては出先からでも対応することができます。とりわけ地方の場合は移動に1~2時間を要することも多く、この移動時間の削減は都市部以上に業務効率化に寄与します。また、スマートフォンでどこからでもタイムリーに顧問先と連絡を取り合うことができるので、顧問先の満足度を向上させることができるでしょう。さらに、こういったコミュニケーションツールを活用して業務の効率化を図れば、残業などを減らし、労働環境を改善することもできます。これからの時代、優秀な職員を採用するには労働環境の整備も重要なポイントになってきますので、コミュニケーションツールの活用による働き方改革も意識しておくとよいでしょう。
コミュニケーションツールの導入が顧問先獲得にも影響を及ぼす
しかし、訪問をはじめとした従来のコミュニケーションにもメリットがあることを忘れてはいけません。例えば、実際に経営者と会うことで、その表情や声のトーンなどからさまざまな感情を読み取ることができ、それを重ねれば信頼関係を構築できます。そして、培った信頼関係をベースに、相続や事業承継などの相談・依頼を引き受けるケースも多いと思います。実際、あまりにも顧問先と会わないでいたら他に移られてしまったという話を耳にすることもあるので、時には訪問し、お互いに信頼関係を構築する機会を設けるようにしておくといいでしょう。
ただ、顧問先が望む訪問の頻度は、顧問先によって異なってきます。全ての顧問先のニーズを満たそうとすると収拾がつかなくなってしまうので、それぞれのニーズをある程度把握した上で、Aグループは月に1回訪問する、Bグループは半年に1回訪問する、Cグループは年に1回訪問するといった具合にグループ分けして対応するといいかもしれません。
いずれにしても、これからの時代は訪問とコミュニケーションツールそれぞれのメリットを理解した上で、バランス良くコミュニケーションツールを活用することが肝要になってきます。また、今後は5Gをはじめとするインターネット環境や技術の発達を背景に、コミュニケーションツールの活用はますます当たり前になっていくでしょう。既に現時点でもベンチャー企業などはコミュニケーションツールを使用するのが前提で会計事務所を探したりしています。つまり、そういったニーズに対応できなければ、新規の顧問先を獲得しづらい状況になってきているのです。事務所経営という観点からも、コミュニケーションツールの導入はできるだけ早い段階で取り組んでいただきたいと思います。
いざコミュニケーションツールを導入してみたいと思っても、中にはその導入や活用に関して不安を覚える方もいるかもしれません。そうした場合は自ら先頭に立ってコミュニケーションツールを使用したり、導入を推進したりするのではなく、事務所内の若い世代に一任してみるといいでしょう。後継者がいる場合はそのあたりを後継者に一任することで、事務所内でリーダーシップを発揮する機会になったり、顧問先の後継者とコミュニケーションを取り合う機会になったりするので、スムーズな事業承継にも寄与すると思います。
一方、「事務所としてはコミュニケーションツールを活用していきたいが、顧問先が対応できるか不安」ということもあるかもしれません。その場合は顧問先にコミュニケーションツールを積極的に活用していく旨を伝えた上で、その使用法を指導するというスタンスを取ってみてはいかがでしょうか。コミュニケーションツールをはじめとした新しいテクノロジーを活用するのは顧問先にとっても有益なことで、場合によってはそういったサービスが事務所の新しい付加価値の一つになる可能性もあるので、積極的に働きかけていくとよいでしょう。
導入時におけるツールごとの注意点と活用方法
次に具体的にどのようなコミュニケーションツールを導入すべきかといったことを紹介していきたいと思います。
最初に思いつくのは「LINE」をはじめとしたチャットツールでしょう。これを活用すれば、出先であってもスマートフォンを使ってタイムリーに顧問先と連絡を取り合うことができます。また、メールでは冒頭に挨拶などの定型文を記載するのがビジネスマナーになっていますが、チャットツールの場合は用件のみを端的に伝えるのが一般的になっているため、連絡する際にメールよりも手間がかからないという利点もあります。チャットツールではデータ添付などができないのではないかと思われる方もいるかもしれませんが、現在、多くのチャットツールはメールと同じようにデータ添付ができます。
ただ、チャットツールを導入する際には次のことに注意してください。それはビジネス版のアカウントを取得し、顧問先とコミュニケーションを取る場合には全職員が必ずそのアカウントを使用するようにすることです。既にチャットツールを活用されている事務所や税理士さんは多いのですが、まだまだ個人のアカウントを利用されているケースが散見されます。しかし、個人のアカウントでのやりとりは情報をブラックボックス化してしまうだけでなく、職員の退職などに伴う情報漏洩のリスクを高めてしまいます。そういった事態を招かないようにするためにも、事務所でビジネス版のアカウントを取得し、しっかりと情報管理をすることが重要なのです。
チャットツールを導入することができたら、ビデオ会議のツールも積極的に導入してみてください。ビデオ会議のツールとしては「Skype(スカイプ)」や「Googleハングアウト」などのサービスが有名ですが、まず気軽に試してみたいという場合には、無料かつインストールなどをせずにビデオ会議を始められる「appear.in(アピアイン)」というツールを使ってみるといいかもしれません。簡単な手続きで同時に4人までビデオ会議に参加することができるので、ビデオ会議の実用性や雰囲気を感じるのに最適かと思います。なお、ビデオ会議ツールをする際に注意してほしいのは、できるだけ静かな環境でビデオ会議に臨むということです。特に出先でビデオ会議を使用する際は注意が必要です。例えばカフェなどで使用してしまうと、想像以上にパソコンのマイクが周囲の音を拾ってしまい、他の利用者たちが声を聞き取れないことがあるからです。もちろん、そういった状況は出先に限らず事務所内でも生じる可能性があるので、事務所内で使用する際にも会議室などできるだけ静かな環境で利用するようにしてください。また、これは通常の会議の際も同じですが、会議に臨む前にきちんと資料などを事前に共有したり、準備しておくことが大切です。ビデオ会議の場合は画面に共有したいデータを表示できるので、事前に準備しておいたデータを提示しながら話すことができますが、「ビデオ会議だからその都度パソコンに保存しているデータを探せばいい」と考え、準備を怠ってしまうと、せっかくビデオ会議で効率化を図っているのに会議そのものがスムーズに進まなくなってしまいます。より充実した会議をするにはリアルであっても、ビデオ会議であっても、事前の準備が重要なのです。
最後にコミュニケーションツールとは少々種類が異なりますが、ファイル共有ツールに関しても紹介しておきたいと思います。ファイル共有ツールの代表的なものとしては「Googleドライブ」や「Box」などがあり、いずれもクラウド上に共有フォルダを設けることで、どこからでも共有フォルダ内のデータにアクセスできるようになるのが特徴です。また、フォルダごとにデータ閲覧などの権限を定め、顧問先が必要とするデータをファイル共有ツールを介して提供することもできます。そのため、事務所内にあるデータを整理して共有フォルダに入れておけば、膨大な資料やデータを持ち運ぶ必要なく外出でき、顧問先の求めがあれば出先からでもデータを簡単に提供することができます。実に便利なツールですが、その半面、データの取り扱いに関してはしっかりとルールを定めておかなければなりません。データの閲覧権限を管理・設定するのも大事なルールの一つです。全ての職員があらゆるデータにアクセスできるような状態になっていると、データの紛失や改ざんなどのリスクが生じるので、一般の職員は顧問先の一部のデータのみを閲覧できるようにするなどのルールを設ける必要があります。また、職員が退職した際にはきちんとそのデータ権限を削除することを忘れてはいけません。データ権限を残したままにしておくと、いつまでも共有データにアクセスすることができ、情報漏洩につながりかねないので要注意です。
コミュニケーションツールが差別化のポイントにも
こうしたコミュニケーションツールには膨大な種類がありますが、当社では「Chatwork(チャットワーク)」というサービスを利用しています。チャットツールとしての機能はもちろん、ビデオ会議やタスク管理、ファイル共有などの機能も備えており、これ一つで十分に社内外のコミュニケーションを網羅することができるからです。また、セキュリティ面に関する評価が高いのも、会計事務所にとっては大いに意味があると思います。
なお、コミュニケーションツールを導入する際には、まず事務所内でその使い勝手や使い方を試したり、練習したりしていただきたいと思います。そうすれば、おのずと自分たちの事務所に適したツールや使い方、そして注意点などが見えてくるはずです。その上で前述したような注意点や活用方法を参考にし、事務所独自のマニュアルやルールを整えていくのが望ましいと思います。
これからの時代、コミュニケーションツールの活用は、業務の大幅な効率化につながるだけでなく、差別化のポイントにもなってきます。また、業務の効率化によって生じた時間やリソースを活用すれば、さらに付加価値の高いサービスを提供できるようになるはずです。コミュニケーションツールの導入・活用を進めると同時に、ぜひともサービスの充実に努めていただきたいと思います。