CHANNEL WEB

特集 SPECIAL FEATURE

災害が激甚化するこれからの
時代にバックアップ対策を

能登半島地震被災からの復興状況と
災害に備えたBCPのあり方を考える

2024年1月1日に石川県・能登半島地域にて大地震が発生し、甚大な被害がもたらされました。 公費解体の完了目標は2025年10月とされ、現在も復旧への取り組みが続けられています。国内では過去にも1995年の阪神・淡路大震災、2011年の東日本大震災など、大規模な災害に見舞われてきました。大災害は今後も起こり得るとされ、それを考える際には企業のリスクマネジメントを見直すBCP※が重要になります。本特集ではMJS社員の能登半島地震の現場レポートとともに、独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が推進する中小企業向けの簡易版BCPについて紹介します。
※Business Continuity Plan:事業継続計画

MJSが被災直後を振り返るユーザー報告で垣間見えたバックアップ対策の重要性

 2024年1月1日、最大震度7の能登半島地震が発生しました。各地で火災や建物の倒壊が相次いだ他、石川県珠洲(すず)市や能登町では津波が高さ4m以上に達するなど、甚大な被害が生じました。また、追い打ちをかけるように同年9月には豪雨災害が発生し、今も能登半島ではこの「二重被災」からの復興がままならない状況にあります。七尾市より北は依然として建物が半壊または全壊しており、スーパーマーケットが廃業するなどして、住民が生活面で不便を強いられています。さらに、産業に関しても輪島塗などの分業制のモノづくりについては、1つの工程の職人が廃業することで、連鎖的に廃業が進んでいると聞きます。全体的な復興が遅れる中にあって、今後、どう進んでいくかは不透明な状況です。

 地震発生後、 MJS金沢支社では24年1月5日からユーザーの皆様に電話で状況確認をしました。震災により廃業した会計事務所はありませんが、金沢市などに一時的に移転したり、職員が退職したり、建物が倒壊してプレハブでの営業を余儀なくされたりと、会計事務所の皆様も厳しい状況に立たされています。

震災後の火災被害を受けた輪島市にて、救助用具を抱えて
救助に向かう警察の方々
写真提供:東方通信社輪島支局

 また、今回のヒアリングや問い合わせで多かった課題は「ハードの電源が入らない」「ソフトが起動しない」「ネットワークがつながらない」の3点でした。現にしばらくは電気が通っていなかったので、PCなどの電源が入るかどうかの確認も遅れ、遅いところだと2カ月後くらいにようやく確認がとれました。

 そこで、MJS金沢支社ではPCなどの代替機や「MJSセキュアストレージサービス(5頁に記載)」の無償提供などを実施した他、電話での問い合わせの対応や訪問でのサポート活動に注力しました。MJSセキュアストレージサービスに関しては提供数が35件に達し、無償期間後も継続利用いただくケースが増えています。また、自宅でも業務ができるテレワーク環境のツールについても問い合わせが増えており、BCPの意識が高まってきていることを実感しています。

 MJSではこうした経験から、あらためてユーザーの皆様の情報整備が重要だと感じています。どのようなネットワーク環境か、どのようなバックアップ対策を実施しているのかを正確に把握・管理させていただき、こういった緊急時に必要な対応をより迅速に取れるようにしたいと思います。

自然災害の激甚化に伴い注目度が高まるBCP

 近年の自然災害の激甚化にはさらなる注意が必要です。2024年1月の能登半島地震をはじめとした地震はもちろん、近年では水害発生頻度も急増しており、2011年から2020年の間に全国1741市町村のうち約98%で水害が発生しています。災害が発生すると、ヒト、モノ、カネ、情報が損なわれ、事業の復旧に相当の時間を要するだけでなく、取引先を失ってしまいかねません。つまり、BCPをはじめとした事前対策に取り組み、いざという時に素早く事業を復旧することが重要になっているのです。

事業継続力強化計画のメリットと申請フロー

 こうした中、注目を集めているのがBCP、そして国の認定制度である「事業継続力強化計画」です。現在、中小機構 災害対策支援部では事業継続力強化計画の普及促進から策定支援、フォローアップ支援、専門人材の育成など幅広いメニューを提供しています。この計画の特徴は、比較的簡単に防災・減災の事前対策を策定できる仕様になっていることと、認定事業のみが利用できるロゴマーク、金融支援、税制措置、補助金の加点措置、損害保険料の割引などの支援策やメリットが用意されていることです(図1参照)。


 例えば、金融支援については設備投資に必要な資金に関して低利融資を受けることができるようになる他、税制措置に関しては中小企業防災・減災投資促進税制(特定事業継続力強化設備等の特別償却)を活用できるようになります。

 BCPの策定というと大変だと思われるかもしれませんが、事業継続力強化計画ならウェブ上の手引きに従って検討ステップを確認・記載していくことで、容易に計画を策定することができるようになっています。詳しくは図2をご覧ください。入力項目にあるステップ2と4「カネ(財務や資金繰り)」については税理士の皆様も支援いただき、顧問先のBCP策定を推進いただければと思います。


 ちなみに、この事業継続力強化計画には「単独型」と「連携型」の2種類(図3参照)があるのですが、中小企業の皆様にお勧めしたいのは連携型になります。というのも、自然災害の激甚化に加え、近年はコロナ禍をはじめとした感染症、サイバー攻撃などの脅威が日々拡大しており、それらに中小企業が単体で対策を講じるには限界があると思われるからです。その点、複数の企業で連携すれば、人員・設備・情報などを共有することによって、BCPに関するコストを削減することができますし、何かあっても代替生産などで営業を継続することが可能になります。なお、連携型は①地域型②組合型③相互補完・成長型④サプライチェーン型に分類することができ、中小企業の皆様にはぜひ自社にマッチしたタイプを選択の上、活用いただきたいと思います(図4参照)。


 図4に記載の通り、石川県テントシート工業組合らの連携体では事業継続力強化計画策定後、先般の能登半島地震でテントシートを迅速に供給するなど、素晴らしい実績を残しました。また、下呂温泉旅館協同組合のように町ぐるみの連携体として機能が向上した事例もあります。連携型では、有事だけでなく、平時においても共同受注や代替生産などが可能になり、新たなビジネスチャンスを掴む可能性もあります。BCPを策定する際には、これらも念頭に検討いただきたいと思います。

計画の更新時に内容見直し早めのバックアップも検討を

 ところで、事業継続力強化計画の実施期間は最長3年となっており、更新時には報告書を付して、あらためて申請する必要があるので、ぜひ計画内容や実践内容を見直し、改善につなげてほしいと思います。また、事業継続力強化計画では平時の取り組みとして、年に1回、訓練を実施することが定められているので、その際にも計画を見直すことで、より定期的な内容になっていくと思います。

 また、もし被災してしまった際、その後に事業を迅速に再開するにはデータなどのバックアップが不可欠です。この際、データを確実に復旧させるための「3−2−1ルール」が重要です。これはあらゆる事態を想定してデータのバックアップを行うための基本ルールで「3つのコピー、2つのメディア、1つは遠隔地へ」を意味します。まずは紙で管理している情報をスキャンするなどしてデータ化し、データ化して管理しているものを事業所内のサーバーからクラウドへ移行するというステップが重要になります。日頃の業務もメールを中心に連絡することで「人の業務の見える化」につながります。災害が起きた際、より早く事業を再開させるための備えとして少しずつ始めてみてください。

 他にも、建物の耐震構造や大雨などに備えた止水板の用意、浸水時の漏電対策と機械などを安全に止めるための対策としてコンセントの位置を高くするなど、備えておくことはたくさんあります。また、保険を見直すこともお勧めします。本当に必要な特約が付いているのか、支払いに見合った内容なのか、税理士の皆様も顧問先と一緒に検討いただけたらと思います。

税理士の声がけによる連携型のBCPに期待

 能登半島地震を契機にさらに注目度が高まり、事業継続力強化計画の申請数も増加傾向にあります。ただ、人手やコストを割きづらい中小企業の中には経営の負担を懸念し、なかなか一歩を踏み出せないという事情もあるかもしれません。今回ご紹介したように中小企業同士で協力して連携するのもそうですし、その時、会計事務所の皆様のお力添えで中小企業同士をマッチングさせることもできるのではないかと期待しています。ぜひとも会計事務所の皆様には顧問先に積極的にお声がけいただき、地域におけるBCP推進の担い手となっていただけたらと考えております。

地震発生後の津波被害の様子
写真提供:MJS金沢支社

地震発生直後の様子
写真提供:MJS金沢支社

2024年6月時点。
復興に向けた瓦礫の撤去の様子
写真提供:東方通信社輪島市局

輪島市の被災風景
写真提供:東方通信社輪島市局

▲ ページトップ