3代にわたり地元事業者を支え
若手育成やDXにも挑戦
過去 2度の事業承継を経て、長きにわたり地元事業者を支えてきた吉江悟税理士事務所。 初代所長の二口 尚弘先生の時代から地元事業者の納税意識を高めることに努め、顧問先とのコミュニケーションを密に重ねてきたといいます。 吉江 悟先生は約8年前に入所し、2024年1月から所長に就任。 若年層や子育て世代が働きやすい環境になるよう業務のDX化推進も見据えています。
高い納税意識と堅実な経営が根付く地域
吉江先生はこの事務所の創業者である二口 尚弘先生、2代目の谷内 重憲(やち しげのり)先生に続く3代目の所長だそうですね。どのような経緯で入所し、事務所経営を引き継いだのでしょうか。

「税理士の役割は顧問先に最適な経営支援サービス
を提供し、お客様の機会損失を防いでいくこと」と
強調する吉江先生
吉江 悟所長(以下、敬称略) 私は以前、国税局や富山・石川県各地の税務署の職員として働いていたのですが、昭和60年代、富山税務署総務課にいた頃の先輩が谷内先生でした。谷内先生は二口先生が亡くなられたのを機に国税OBとして事務所を承継し、その後、2015年に私が53歳で税務署を早期退職して谷内重憲税理士事務所に入所、そして2024年1月1日から所長を引き継ぎ「吉江悟税理士事務所」の看板を掲げました。約8年間、谷内先生と共に多くの顧問先の税務・経営支援に携わってきたので、比較的スムーズに引き継ぐことができました。
顧問先にはどのような業種が多いですか。
吉江 高岡市は伝統的に銅やアルミ合金、スズ、鉄などの金属加工業が盛んで、当事務所でも昔から数多くのモノづくり事業者の税務・経営支援を手掛けてきました。現在では、富山県内を中心に90件ほどの顧問先があり、業種は上述のような製造業だけでなく、商社や小売業、医療法人、建設業など多岐にわたります。
また、富山県の事業者の傾向として、本業で稼いだら過不足なく納税しようとする意識が根付いています。国税時代の経験を振り返っても、特に富山県の事業者の意識は高かったと記憶しています。当事務所では、二口先生の時代からこうした納税意識を顧問先に浸透させてきましたが、そのおかげか、当事務所の顧問先のうちの2社が高岡税務署管内でも数少ない優良申告法人として税務署長より表敬を受けております。
その2社は配管材料や住宅設備の卸売りを手掛ける企業と医薬品の商社で、いずれも百数十名の従業員を抱え、経営者がリーダーシップをとって現場にも目を光らせており、次代への事業承継も進んでいます。顧問先にはこのように堅実な経営で地域経済をけん引している事業者が多いですね。
顧問先支援で重視するのは対面でのあらゆる経営情報の交換
顧問先の税務・経営支援にあたって心掛けていることを教えてください。
吉江 二口先生や谷内先生のスタンスを引き継ぎ、経営者と対面でお会いして、お話に耳を傾けることを大事にしています。近年はネット会議システムなどが広く浸透しているせいか、会話をするだけなら「時間効率を考えてZoomで」といった方もいらっしゃいます。ですが、私はあえて顧問先の事業所まで足を運び、他愛のない雑談でもいいので、直接お会いする時間をつくるよう心掛けています。
持論ではありますが、対面で何度もお会いする方が経営者との親密度が高まり、経営者の頭の中にある先を見据えた機材購入や設備投資への考え、事業承継や人材育成の悩みなどを知ることができます。一方で、経営者は決して直近の税制に詳しいわけではありません。自分から積極的に機材購入や設備投資をされることはよいのですが、そのタイミングで自治体が補助事業や助成金制度を展開していることをご存じなかったケースは多々あります。購入後にその制度を知ってからでは遅く、これは後の経営に影響が出ます。
私たち税理士の役割は顧問先に最適な経営支援サービスを提供するとともに、お客様の機会損失を防いでいくことにあると考えています。ですから、お客様の新規事業や設備投資の考え、投資に最適な時期、税制面の優遇措置や補助金、償却の仕方などについて対面で説明しながら一緒に資金計画を立てることに努めています。
また最近、製造業などの分野で廃業について相談を寄せられることが増えています。ある事業者は事業が順調にもかかわらず、経営者のケガで事業継続が困難となり、後継ぎも不在なので会社をこのまま畳みたいとのことでした。同社は技術力の高さはもちろん、従業員もそれなりの人数でしたのでそのまま畳むには惜しいと思いました。そこで、私は地元の金融機関に相談し、事業を引き継げそうな市内の同業他社を紹介いただき、工場も従業員も丸ごとその企業が引き受けるということで話をまとめることができました。こうしたM&Aは金融機関との対話能力が求められますが、それに加えて普段から顧問先と交流を重ね、経営の内情を理解していないと、銀行などと適切な情報共有が行えないと考えています。
若手の採用とDX、そして次代に向けた展望
事務所を引き継いで1年以上が経過しましたが、今後の展望はいかがでしょうか。

職員の作業スペース(1階)。2階の応接室とは出入り口が
異なり、お客様用と職員用でスペースがきちんと分けられて
います。
吉江 所長になったこの1年は事務所経営そのものに忙殺されてしまい、顧問先とのコミュニケーションが不十分になったと感じています。まずは、人員を拡充して私の業務負担を減らし、なるべく顧問先を訪れる回数を増やそうと考えています。
特に力を入れたいのは20~30代の若手人材の採用です。目標としては次年度に若手人材の採用をスタートさせたいところです。これは事務所職員の人数を持続的に安定させたい狙いがあります。当事務所の職員の年齢層は40~60代と、二口先生、谷内先生の代から勤めていらっしゃる方が多く、私が引退するとなったときに、職員も同時にリタイアとなってしまっては事務所運営が持続しません。そして、これと同時に中堅クラスの職員に新人の教育を経験させたいという考えもあります。おそらく、20~30代であれば大半は未経験者なので、既存職員からすれば教育・指導の機会にもなり、これを通じて中堅も若手も成長すれば当事務所の組織力強化につながると期待しています。
また当然、事務所のDX推進による業務効率化も喫緊の課題です。テレワークといった柔軟な働き方ができるように、近い将来、MJSのテレワーク支援ツール(iCompassリモートPC2など)を導入し、育児中でも柔軟に働ける仕組みづくりを進めたいと考えています。導入に向けては情報漏洩対策を意識したセキュリティの管理の仕方など、他の事務所の先進事例も取り込みながら検討していきたいですね。また、AI-OCRによる紙の領収書などのデータ化や業務の自動化にも取り組む必要があると考えています。
新しい仕組みの導入時には苦労もあるでしょうが、それ以上に多くのメリットがあります。まずはこれらを駆使して時間を創出し、私や職員たちが顧問先を今以上に足繁く訪問して皆様のニーズを汲み取れるようにしたいです。
事務所の次の代を担う人材についてはいかがですか。
吉江 今、後継者候補を探していますが難航しています。そこで、地域の他の先生たちと意見交換をし、合併して税理士法人化を目指す方法についても検討しています。ただ、規模も待遇も顧問先支援のスタイルも異なる事務所同士が一緒にやっていくには様々なハードルがあります。なにより、税理士同士の仲が良くても考え方の違いなどで職員同士の相性が合わなければ事務所運営を継続できません。それを乗り越えるためには、先ほど申し上げたDXはもとより、旧態依然とした会計事務所の業務フローからの脱却が必要なのだと考えています。これからの時代にフィットした新しい業務フローを確立し、それを統一して導入することが、共に歩んでいくための最初の足掛かりになりそうな気がしています。
今後、若手人材の採用・育成とDXは避けては通れません。二口先生と谷内先生の代から受け継がれてきたバトンを、何としても次の代にしっかりと渡したいと思います。
今後のより一層のご発展をお祈り申し上げます。
History & Story税理士までのあゆみ
高校生の頃まで、国税や税理士の仕事については全く意識したことがなかったという吉江先生。進路指導の教師から「大学進学以外に、公務員として就職する道もある」と聞かされたのを機に公務員を目指すことを決め、中でも税に関する仕事の重要性や安定性に惹かれたそうです。高校卒業後、税務職員の採用試験に合格し、千葉県船橋市の税務大学校 東京研修所での研修を経て山梨県甲府市の甲府税務署へ。同署に2年間勤務した後は金沢国税局や富山県・石川県内各地の複数の税務署に配属され、法人税担当として数多くの地場企業の実情に接しながら経験を積んだといいます。当初は定年まで勤めようと考えていたそうですが、富山税務署 総務課時代の先輩の国税OB税理士、谷内 重憲先生から声をかけられたのを機に53歳で早期退職、2015年9月に谷内先生の会計事務所に入所することに。約8年間、同事務所で谷内先生とともに税理士として地場企業の税務・経営支援に携わった後、2024年1月に3代目所長として事業承継されました。
吉江悟税理士事務所

- 所在地/
- 富山県高岡市 清水町2-2-18
- TEL/
- 0766-25-0080
- 設立/
- 2024年
- 職員数/
- 9名
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富山県高岡市が誇るモノづくりの技と銘酒
新たなセンスを融合させた
四津川製作所のインテリア


(上)昨今ではインバウンド客がお土産に購入
することも多い、ライフスタイルブランド「KISEN」のぐい呑み
(下)コロナ禍に売り出し人気を博している
「空穏KUON」シリーズ
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江戸時代初期、加賀前田家が高岡の地に7人の鋳物師を呼び寄せたことがルーツとされている「高岡銅器」。当初は農機具や日用品の鉄鋳物が主力でしたが、江戸時代後期には銅鋳物の生産が盛んとなり、精巧な装飾を施された美術品や仏具などが全国に知られるようになっていったといいます。そして現在では、多くのメーカーが長年培ってきた鋳造技術を活かし、銅だけでなく鉄やアルミ、スズ、金、銀といった様々な金属でバリエーション豊かな製品を造っています。こうした中、次々とユニークな商品を打ち出しているのが1946年創業の(有)四津川製作所です。
同社ではもともと真ちゅう鋳物や大量生産向けの鉄鋳物、意匠を凝らした茶道具や香炉を製造していましたが、1982年に企画・販売に特化したファブレス業態へと転身。2014年には専務取締役兼ブランドプロデューサーの四津川 晋氏が中心となってライフスタイルブランド「KISEN」を立ち上げました。伝統技術をベースとし、柔軟な発想で金属の新たな魅力を引き出し機能美も兼ね備えたテーブルウェアやインテリアが話題となり、中でも木と金属(真ちゅう)を組み合わせたぐい呑みは海外からの引き合いも多い人気商品となっています。また、コロナ禍の2020年には新たに「空穏KUON」シリーズをリリース。シンプルでかわいらしいデザインの「手元供養」用の小さな仏具ですが、組み合わせや飾り方によっては癒しのインテリアとして用いることができ、ヨガや瞑想を行っている人からの注文も多いそうです。「これからも、高岡の地で培われてきた技術に新たな機能性やデザインを組み合わせたこれまでにない品物を造り続けたい」と話す四津川氏。次にどんなものが生み出されるのか、常に楽しみなメーカーです。
「勝駒(かちこま)」を醸す
清都酒造場


(上)歴史ある風格の蔵の外観
(下)北陸の銘酒「勝駒」
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高岡市内でも古い町並みが残る旧氷見街道沿いに位置する(有)清都酒造場は明治39年の創業以来、「不容偽」(偽りを容れず)をモットーとして代々、高品質な酒造りにこだわり続けてきた酒蔵です。看板銘柄は「勝駒」、多くの日本酒ファンに愛され〝富山の地酒ナンバーワン〟とも評される逸品です。現在、この勝駒を手掛けている4代目社長の清都浩平氏によれば「酒造りは多くが口伝。蔵人たちで一心になって味覚を共有し、全ての工程に細かく目配りをしている」とのこと。蔵人は5人、その中には20代の若手もおり、蔵の味を継承する若手職人もしっかりと育っているといいます。
「勝駒」の定番ラインは山田錦で醸す大吟醸、純米吟醸、五百万石使用の純米酒、本仕込、普通酒の5種類。いずれも米の旨みが艶やかに感じられ、上品で透明感がある味わいで、「きときと」※な地物の魚介類と一緒にこの銘酒を味わうのはまさに至福のひとときです。少量生産のため小売りは特約店のみですが、同蔵に問い合わせれば近くの特約店を教えてくれるそうなので、興味のある方は連絡をしてみては。もちろん、富山県内には「勝駒」を取り扱っている店がいくつかありますので、富山旅行の際にはぜひこの銘酒を味わってみてください。
※きときと……「新鮮」を意味する富山県の方言