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こんなにある!生成AIの活用法

東京商工会議所が紹介する 中小企業における生成AIの活用状況

東京商工会議所では2023年に「中小企業のための『生成AI』活用入門ガイド」を公開するなどして、中小企業に向けて生成AIの活用を促しています。そこで、東京商工会議所 中小企業部 IT活用推進担当の皆様に「中小企業でも使える生成AI実践例」をテーマにお話を伺います。最終回はこのガイドを公表して以降の反響や中小企業における活用状況についてお伝えします。

中小企業の生成AI利用拡大文書作成以外の活用も模索中

 東京商工会議所では2023年に「中小企業のための『生成AI』活用入門ガイド」を公表し、これまでに6回の改訂を実施してきました。24年6月にはChatGPTの無料版でも利用できる機能が拡充されたことを受け、該当するプロンプト例を追加するなどしました。

 具体的には、①前提条件の指定(設定で自身のプロフィールや考慮してほしい前提条件の指定によるプロンプト入力の手間の省略、より質の高い回答が期待)、②画像・音声の読み込み(画像・音声データの入力・認識)、③画像生成(画像生成エンジンが組み込まれ、対話をしながら画像やイラストを生成)、④ファイルの取り込み・分析・出力(Excel、Word、PDFなどのファイルを入力および出力)、⑤カスタマイズGPTの作成・使用(プログラミングなどの専門知識がなくても、対話を通じてカスタマイズ可能に)。無料機能は使用回数や使用範囲に制限があるものの、ChatGPTの機能を一通り体験することができるので、興味がある方はまずは無料ユーザーになってみて、当ガイドを参考にしながらプロンプトを試してみるといいでしょう。

 なお、東京商工会議所が24年5月に実施した会員中小企業への調査では、ChatGPTを含む生成AIの活用状況について、「活用している」と回答した企業の割合が11・7%、「現在活用していないが、今後活用を検討している」が33・5%となり、前年同時期よりも前向きな企業が増えました。生成AIを「活用している」と回答した企業では「コンテンツ作成・校正(社内外向け文書、メール・あいさつ文等)」に活用している企業が最も多く63・8%となりました。また、データベース管理をはじめとしたバックオフィス業務で利用されているケースも目立ちますし、最近では技術承継などに活用されているという話も耳にします。

 生成AIの活用を検討される方々の中には、情報漏洩をはじめとしたセキュリティ面に関する不安を訴える方がいますが、その点については社内利用にあたってのマニュアルを作成したり、データ学習をしないようにするオプトアウト(※1)機能を設定したりすることで、リスクの軽減が可能です。
※1 本記事ではサービス提供者がユーザーの活用情報などを無断で収集することを、ユーザー側で拒否することを指す

オプトアウトの設定方法

 また「生成AIを利用せずとも既に業務が回っている」という方もいますが、業務を効率化することができれば、空いた時間を営業や顧客サポートに充てられますし、福利厚生を充実させて雇用状況の改善を図ることもできるかもしれません。そういった利点があることを認識した上で、生成AIの導入を検討いただきたいと考えています。

 実際、東京都品川区のある製造業(従業員22名)では、23年4月頃からChatGPTを使用。あいさつ文・お礼状の作成、文章の言い換え・類語の検索、英文の翻訳、ビジネス・事業アイデアの考案などで活用している他、製品設計のための計算にも使用した実績があるとのこと。今ではそういった経験を通じて「回答を鵜呑みにせず、アドバイザーとして活用すること」という注意点を共有しながら業務に活用しており、「ChatGPTは文章作成・校正・要約が非常に得意なため、日頃から文章の作成に慣れていない業種・職種の人たちに特にオススメ」としています。

文章の校正・要約のプロンプト例

税理士の皆様によるアドバイスに期待

 このガイドを公表したことで、私たちのもとにも他の商工会議所や支援団体などからの問い合わせが増え、中小企業部IT活用推進担当のメンバーがセミナーの講師を務めたり、ピッチイベント(※2)を開催したりしています。
※2 スタートアップ企業などが自社のサービスやアイデアをPRするイベント

 24年12月に開催したピッチイベントではAI・生成AIに関連した、多様なソリューションを提供している6社にプレゼンしてもらった上で、中小企業の皆様との交流を図りました。早い段階で100名弱の申し込みがあったことからも注目度の高さがうかがえました。現に生成AIは導入するだけで業務改善がなされるものではなく、用途に応じて、社内で使用方法やプロンプトを明確に定めなければ意味をなしません。そのため、このピッチイベントで登壇いただいた企業についても、ほとんどのところがツールを提供するだけでなく、あわせて伴走支援も展開しているのです。

 ただ、一方で私たちからすると、収集できている活用事例が少なく、提供できる情報に限りがある点が課題になっています。そこで、東京商工会議所としてもさらに積極的に情報収集に努めるとともに、専門家と連携した個別支援を強化して、生成AIに関する支援策を設けたり、ベンダーやコンサルティング企業と連携して、伴走支援の体制を整えていきたいと考えています。

 今、中小企業にとって人手不足が最も深刻な課題となっていますが、生成AIがその解消の一翼を担っていくことは間違いありません。そして、こうした中で私たちは税理士の皆様が重要な役割を果たしていくと考えています。人手不足に悩んでいる顧問先の業務を生成AIでいかに効率化できるかという観点でアドバイスをしていただければ、より一層、中小企業における生成AIの活用が進むはずです。中には「ITには詳しくない」と謙遜される方もいるかもしれませんが、生成AIの可能性を認識いただき、その可能性をお伝えいただくだけでも、中小企業の意識改革は大きく前進することでしょう。ぜひ全国各地の支援機関と連携しながら、生成AIの利用を推進していただきたいと思います。

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