長年、地場企業の変遷を見守り
日韓またいでの税務にも注力
兵庫県神戸市三宮の地で、30余年にわたって地元事業者の税務・経営支援に 取り組んできた呉 幸哲(お へんちょる)先生。在日韓国人であるご自身のネットワークを活かして、 日韓にまたがる相続・譲渡案件も数多く手掛けられています。お客様からの紹介で顧問先数を 増やし続け、先生の指導のおかげもあってこれまでに事業の不調で倒産してしまった 顧問先はなく、現在も全体の4分の3ほどが黒字経営を維持しているといいます。
阪神・淡路大震災を経験しクラウド会計の導入に注力
呉先生は独立開業以前の1990年代から、ここ兵庫県神戸市三宮の別の事務所で働かれていたと伺いました。よろしければ開業までの経緯を教えてください。

「常に顧問先とは何でも言い合える間柄であろう」
と意識してきたと呉先生は語ります
呉 幸哲先生(以下、敬称略) 私は大学卒業後、税理士資格取得を目指して専門学校に通い、92年から神戸市三宮の会計事務所で働いていました。93年に結婚、94年に長男が生まれ、その半年後の1月に阪神・淡路大震災が発生し、私も被災したのですが、幸い大きなけがはありませんでした。
ただ、被災直後の税務対応は本当に苦労しました。神戸市では被災に伴う確定申告の期限延期が決まっていたのですが、その延期が決算対応の集中する5月までだったのです。私が所属していた事務所では約150の顧問先が被災し、雑損控除や法人の繰戻し還付などの対応に追われました。また、当時は顧問先の資料も紙ベースでしたから、火災で焼失したというご相談も多く、この対応にも苦労しましたね。当時の経験を活かして、最近はお客様に『かんたんクラウド会計』などの導入を進め、経理データを紙以外で管理するようデジタル化に最善を尽くしております。これも当時の経験があってこそだと感じています。
その後、2005年に40歳で独立されたそうですね。開業当初の顧問先の数や業種・規模などの傾向についてお聞かせください。
呉 前職時代から担当していた顧問先を一部引き継ぎ、開業時から約20社の税務顧問を務める形でスタートしました。そのうち約半分を占めていたのがパチンコ店運営会社やパチンコ周辺機器の販売会社、その他関連会社です。当時はパチンコ業界が活況で、顧問先の1社は年商2000億円以上の好業績を上げていました。10年ほど前から業界は下火となりましたが、顧問先各社は時代の流れを読んで別事業に軸足を移して苦境を乗り切り、中にはその転身を機に大きく躍進した企業もあります。例えば、丹波市にある合宿施設付きのサッカー場やキャンプ場などの運営に軸足を移して順調に業績を伸ばしている顧問先や、パチンコ関連事業から撤退し、不動産事業へ主力を切り替え、最近では大阪でサウナ施設運営を始めた顧問先もあります。
決算書は〝会社の通知表〟納税意識にも前向きな変化
呉先生はそうした顧問先に対して、どのような税務・経営上のアドバイスを行ってきたのでしょうか。
呉 パチンコ業界の話が中心になってしまいますが、かつて現金機※が主流のころは売り上げの圧縮・除外などが横行し、〝脱税の温床〟とも呼ばれていました。こうした中、私はパチンコ業を含めた全ての顧問先企業に対して「本業で利益を上げて正しく税金を納め、バランスの良いきれいな決算書を作りましょう」と伝えてきました。決算書は言うなれば〝会社の通知表〟であり、金融機関も投資家も成績が良い会社への融資や出資をいとわないですし、その逆もしかりです。脱税が横行していたあの時代でもこういった指導をしてきましたし、時には正しい税額の納付を避けたがるお客様もいましたが、今では正しく納税してきたことで金融機関からの評価が高くなり、「あの時の先生の指導があったおかげで今がある」と言っていただいたこともあります。その方は開業当初からの付き合いですが、納税を嫌がるどころか、「今期はこれだけ儲けを出せた」と前向きに捉えていただけるようです。
私は税理士として「常に顧問先とは何でも言い合える間柄であろう」と努め、こうした考えも顧問先にずっと伝え続けてきました。そのおかげか前職時代からこれまでの30数年、数多くの企業の税務に携わってきた中で、資金繰りが行き詰まって倒産してしまった顧問先はありませんし、全顧問先の約4分の3が黒字の無借金経営を続けています。
※現金機…プリペイドカードを買わず現金で直接パチンコ玉を借りて遊技する台、もしくは機種のこと
在日韓国人税理士だからこそできる顧問先支援とは
ここ数年、顧問先にはどのような業種が増えていますか。

顧問先の方が来訪されたらすぐに対応できるよう職員さんの
作業スペースは入り口の真正面にあります
呉 以前にはなかった新しいビジネスが生まれてきているのを実感しています。その筆頭としては経営コンサルティング業の顧問先でしょうか。他には、外国人就労支援関係の学校の運営に取り組む企業が増えています。これは文部科学省から認可を受け、ネパールやバングラデシュなどから日本に来た外国人に語学を教えて、企業に派遣するビジネスで、学校や学生の寮のために自社所有の建物が必要だったり、近隣住民との調整をしなければならなかったりと、参入にはそれなりに初期費用と時間がかかります。当事務所では神戸と大阪に2社ずつ、そうした顧問先があります。また、この業務では海外現地の日本語学校との連携体制を構築し、ビザ取得のサポートも必要で、ある程度スキルのある人材が求められます。余談ではありますが、私も税理士でありながら、その企業に適した外国人のマッチングの支援をお願いされたこともあります。日本では人手不足を背景に外国人雇用の需要が高まる中、今後もこうしたビジネスは増えていくことでしょう。
企業の税務支援に加えて、韓国籍の方の相続・譲渡案件のサポートも手掛けているそうですね。
呉 私自身が在日韓国人で、韓国人経営者とのネットワークを持っております。加えて、近畿税理士会の国際部副部長として韓国税法の翻訳を担当してきた他、日本税理士会連合会の国際税務情報研究会にも10年以上所属しています。こうした中、在日韓国人の相続・譲渡案件を数多く手掛けてきました。
例えば、ある在日韓国人が本国にいる祖父から土地を相続し、それを売却して得た金銭を日本へと送るには、韓国で税金を支払ったことを証明する必要があるため、韓国税務士※が申告書を作成し、韓国の税務署に申告、納税します。その後、韓国の税務署より、資金出処確認書の発行を受け、初めて日本への送金が可能になります。私はそうした書類を翻訳して日本の税務署に提出する業務を担っております。もちろん、日本と韓国それぞれの税法における課税範囲や課税基準の違いによって生ずる二重課税を防止するため、外国税額控除の申告も適宜行います。
※税務士…韓国における税理士に相当
次世代に向けて事務所の承継を見据えた後継者育成へ
最後に、今後の展望をお聞かせください。
呉 当事務所は今年4月で21年目に入り、私も還暦になります。100以上の顧問先企業のこれからと事務所の職員たちの雇用を守るためにも、持続可能な事務所経営を見据えた後継者の育成に取り組まねばなりません。できれば40代の有資格者に声をかけ、5年ほどかけて承継を進めたいと考えています。
また、以前から顧問先の自計化に力を入れてきましたが、冒頭に申し上げたように、特に最近はMJSの『かんたんクラウド会計』の導入を呼び掛けています。新規のお客様から導入を推し進めており、税務・経営支援業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいます。今後は当事務所内でもこれまで以上に顧問先管理などの面でDXを進めて、税務・経営支援の高付加価値化や業務効率化を図っていきたいと思います。
ますますのご発展を期待しています。
History & Story税理士までのあゆみ
呉先生が高校生だった1980年代の当時は司法修習生の国籍条項に代表されるように、外国籍の人は日本で士業に就けないという考えが一般的で、在日韓国人の呉先生自身、税理士という進路を意識していませんでした。ですが、就活中に同じ在日韓国人の会社の社長から「外国籍でも税理士にはなれる。数少ない韓国人税理士になれば私のような韓国人経営者から重宝される」と教わり、税理士資格の取得に向けた勉強を始めたそうです。大学卒業後、数年間は生まれ育った大阪で簿記の講師として働き、その後、兵庫県神戸市三宮の会計事務所に就職し、働きながら勉強を続けました。そして1995年2月、29歳の時に税理士登録。その事務所でさらに約10年、所属税理士として働いた後、2005年に40歳で独立開業し現在に至ります。事務所の職員は在日韓国人で構成しており、ほとんどの方が勤続10年以上。当初の顧問先は在日韓国人経営者の企業が大半でしたが、紹介等により徐々に変遷し、現在は日本人経営者の企業と半々くらいだといいます。
呉税理士事務所

- 所在地/
- 兵庫県神戸市中央区東町116番地
- TEL/
- 078-393-3056
- 設立/
- 2005年
- 職員数/
- 6名
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神戸市の絶品グルメと海沿いの新拠点
「GLION ARENA KOBE」
新港町に新たな賑わい拠点誕生

4月4日に開場した「GLION ARENA KOBE」
(1月30日撮影)
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神戸市三宮の南に位置する神戸ウォーターフロントエリア。かつては倉庫が立ち並ぶ港湾の物流拠点となっていましたが、近年の再開発で神戸ポートミュージアムや水際緑地などが整備され、人々の往来が活発な魅力溢れる街に変貌しています。4月4日、このエリアに新たなランドマーク「GLION ARENA KOBE」が誕生しました。これは新港第二突堤の上にそびえ立つ、270度海に囲まれた〝水辺のアリーナ〟で、プロフェッショナル・バスケットボールのリーグチーム「神戸ストークス」の本拠地となっています。収容人数は約1万人、年間を通してバスケットボールの試合が行われる他、音楽ライブやイベントなどの開催も予定されています。特に注目を集めているのが、屋内に常設する横24m×縦13mの巨大LEDビジョン。このスクリーンに向かって馬蹄上に囲まれた観客席から、臨場感溢れる鑑賞体験ができます。また、地産地消の食事を味わいながらアリーナのステージを鑑賞できる特別フロア(VIPエリア)が設けられるなど、関西最大級のアリーナとして話題になっています。
ところでこの新港第二突堤エリア(通称「TOTTEI」)は、三宮市街地から徒歩20分圏内、ポートターミナル駅から徒歩2分というアクセスの良さも魅力です。興行がない日もアリーナでは10店舗の飲食店が営業しており、隣接する「TOTTEI PARK」は木々や緑に囲まれ、四方の海と山の眺望を味わいながらのバーベキューやクラフトビールなどを楽しむこともできます。パーク内の建築物は全面ガラス張りで、365日、どんな天候でも回遊でき、年間300万人の来場者数を見込んでいます。
今年は阪神・淡路大震災から30年目の節目の年、4月13日からは大阪・関西万博が開幕します。新たに生まれ変わった神戸ウォーターフロントエリアに、市民からの期待も高まっているようです。

店舗外観

(手前から左回りに)イチボ、ハツ、シンタン、(真ん中)テツ、奥がハツモト
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神戸の下町・宇治川商店街東にある「焼肉満月」は〝西の最高峰〟との呼び声高い焼肉の名店です。なんと言っても肉の質が高いことで知られています。中でも塩ホルモンは30年以上前から続く名物メニュー。「塩テツ」は絶妙な塩加減、焼いた時に肉が反り返らないよう隠し包丁を入れるなど、肉のうまみを最大限に引き出す細やかな工夫が施されています。前菜に欠かせない13~14種類のナムル、テールスープなど、お肉との相性ピッタリの副食も存在感抜群です。
店主の李宗祐さん(56歳)は、ネットで簡単に情報が手に入らない時代に自らの足で仕入れ先を開拓し、独学で料理を学んできたといいます。和食やフレンチ、イタリアンなど名店を訪れてはその味わいを「脳で吸収し」「納得するまで専門書を読み漁った」そうです。そんな李さんの人並外れた熱意とこだわりが、焼肉満月のメニューに余すところなく表現されています。肉好きで知らない人はモグリ、と言われるほどの名店ですが「特別な店というより、どんな人でも気軽に食べられる店という佇まいが大事と思っている。食事は毎日のもので、基本は白飯とハラミ、キムチがあればそれで満足。オーソドックスなものが一番難しい」と李さん。ちなみに同店の顧問を務められ、常連でもある呉先生は「おうちゃんスペシャル」というカスタムメニューをよく注文されるのだとか。呉先生が「日本一」と太鼓判を押す名店、ぜひ足を運んでみていただきたいと思います。