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先進事務所の取り組みイメージタイトル画像©Nakigitsune-sama/shutterstock.com

事務所拡大のポイント

会計事務所の
「成長ステップイメージ」から見る
ブレイクスルーポイント

コロナ禍や税制改正などを経て、さらに激動の時代に直面している税理士業界。そこで、本コーナーでは船井総合研究所の山田 颯斗氏に昨今の税理士業界の動向や先進事務所の取り組みについて語ってもらいます。

山田 颯斗 氏(やまだ はやと)

株式会社船井総合研究所

山田 颯斗 氏(やまだ はやと)

法務・税務ビジネス支援部
税理士・公認会計士グループ マネージャー

新卒で(株)船井総合研究所に入社。以来、人材紹介会社向けコンサルティング、会計事務所向けコンサルティングに従事し、全社において最速・最年少で管理職に昇進。経理コンサル事業の発展に向けたR&Dに努め、現在は経理コンサルを中心とした業績アップコンサルティングにおいて定評を得ている。

「会計事務所経営.com」

人口減少時代に求められる持続的な成長

 会計事務所は主に立ち上げから数年の創業期において、他事務所と遜色ない高い水準の売上成長率、営業利益率を誇るのですが、そこから規模を拡大することなく、現状維持をキープしていた事務所ほど、時とともにこれらの水準が下がる傾向が見受けられます。他方、持続的な成長を遂げている会計事務所の経営状況を確認してみると、売上成長率・営業利益率が伸びるごとに職員を増やし、規模を拡大しています。そこで、今回は会計事務所の規模拡大のポイントについてお伝えしたいと思います。

 図1にもある通り、職員数5名未満の「生業」では売上規模はもちろんのこと、リソースの関係で提供できるサービスにも限りがあります。ただ、ここから次のステージに上がるのをためらわせる障壁が存在します。それは「家業」(職員数5~9名)規模に引き上げると、代表の収入が大幅に減ってしまうことです。一人親方の時と比べ人件費が増えるなどで利益が圧迫され、すぐに売り上げが伸びないことが要因に挙げられますが、ここを乗り越えさらに上のステージへと進むことができれば、代表の収入は再び増え、提供できる支援・サービスも豊富になることで顧問先の事業も安定・成長していき、ひいては持続可能な事務所経営を叶えることができるはずです。


 また、この約10年間で、会計事務所の件数の増減を規模(職員数)ごとに調査してみると、「生業」はほぼ横ばいでしたが、「家業」は最も減少、「小企業」(職員数10~14名)の会計事務所は総じて増加傾向にあることが分かっています。つまり「家業」段階の事務所が最も伸び悩んでいるといえ、このステージが会計事務所の成長のターニングポイントと考えられます。また、職員数30名以上の「中堅企業」クラスの会計事務所(全体の1%程度)と職員数30名未満の「企業」クラス以下の会計事務所を比較すると、図2のように規模が大きい会計事務所の方が従業員一人あたりの売り上げ、時間単価も高く、離職率も下がるなど、メリットが目白押しです。


「中堅企業」を視野に堅実な成長を

 ここからは会計事務所が成長ステップごとにどのようなポイントを押さえるべきなのかを紹介していきます。

 まず「生業」からステップアップを目指すには、経営者の意識変革が欠かせません。冒頭に述べた通り、生業の段階で十分な顧問先数を確保できていれば、代表は次の段階に進むよりも高い収入を得やすく、ここが判断の分かれ目になります。

 次の「家業」から「小企業」へのステップは、代表が最も悩みやすい時期でもあります。特に苦労するのは人材面で、この規模になると所内で揉め事が生じたり、代表が期待していた職員が突如退職したりといったことが多々あり、拡大路線へ進み続けることを躊躇してしまう方が散見されます。これは先ほどの調査結果にも反映されており、「家業」の会計事務所が各規模別で最も少ない要因と言えます。そういった課題を乗り越える解決策として、職員のマネジメントに長けた幹部を外部から採用し、右腕になってもらうという方法があります。集客施策に関しては新たに相続税申告などに力を入れることをお勧めします。

 そして壁を乗り越え、さらに小企業から「企業」のステップになると、組織を盤石なものにできるかどうかがカギを握ります。まずは幹部を2名以上とするとともに、管理職人材を育成することで、文鎮型組織(トップ以外は横並びの組織構成)からの脱却を図ることが肝要です。転職サイトなどを活用し、外部から大手企業や中堅企業のエリアマネージャーや営業課長などをヘッドハンティングするのも一案です。給与が多少下がっても会計事務所の成長性や業務内容に魅力を感じてくれる方も多く、弊社のクライアントでも採用に成功している例は多々あります。また、注力するサービスは経理コンサルをはじめとしたBPO業務の展開に加え、クラウド会計や生成AIの活用による業務等の生産性の向上支援が挙げられます。これらを実践することで、「中堅企業」(職員数30名以上)への道が拓けてくると思います。

 会計事務所の業界は今後、M&Aと規模の二極化が加速していくとみられます。現にM&A仲介会社による大規模な案件こそ目立たないものの、知人同士や知人のつてをたどったM&Aは盛んに行われています。まずはこの成長ステップイメージで自所の現在地を確認しながら、皆様の進みたい方向性を検討いただければ幸いです。

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