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“新時代”の事務所のあり方
「経理コンサル」と 「Z世代活用」で 税理士業界のDXに 対応する!!
コロナ禍を経て、デジタル化が進展し、さらに激動の時代に直面している税理士業界。そこで、本コーナーでは船井総合研究所の能登谷 京祐氏に昨今の税理士業界の動向や先進事務所の取り組みについて語ってもらいます。
生産性向上の観点から経理コンサルや記帳代行が急浮上
当社が実施している会員アンケート(合計71事務所が回答)の結果を分析したところ、2022年の税理士事務所の「成長」「停滞」「注目」のポイントを以下のように集約することができました。まず「成長」のポイントは、1~3億規模の事務所の「経理コンサル」事業参入が増加し、事務所全体の新規売上で平均1000万円以上増収していることが分かりました。次に「停滞」のポイントとしては、平均残業時間が約10時間増加、離職率はわずかに増加しており組織運営に課題があることが判明。そして「注目」のポイントとしては、爆発的というほどではないですが、クラウド化推進が着実に進んでおり、事務所ごとの対応に差が生じてきているという点です。
ここで着目したいのは成長のポイントにある経理コンサルという事業です。これはクライアントに対し、DX(デジタルトランスフォーメーション)なども含めた経理環境の改善を提案するというサービスで、改正電子帳簿保存法やインボイス制度への対応によってそのニーズが急拡大していると思われます。また、コロナ禍を機に多くの企業が生産性の向上に目を向け始めたという背景も大きいでしょう。
こうした中、職員数30名のA税理士事務所では改正電帳法への対応を機に、まずは自事務所の課題を抽出し、着実に仕組み化を推進。そのときに得られた知見やノウハウを集約し、「経理診断」という経理コンサルサービスを立ち上げました。すると、顧問先以外の企業からも問い合わせが入り、今やこのサービスだけで年間1億円ほどの売上を達成しているそうです。
また、経理コンサルとは毛色が少々異なりますが、経理業務の効率化を支援するという観点から、記帳代行業務にこれまで以上に注力する例も増えています。例えば、B税理士事務所では賃金優位性があり、かつテレワークなどを希望する優秀な経理人材が多い地域に記帳代行の拠点を設け、コストパフォーマンスに優れたサービスを実現し、順調に売上を伸ばしています。リモートワークの環境が整った今、記帳代行の拠点を別の地域に設けるというのは決して難しいことではないですし、今後は拠点を沖縄、さらには海外に設けるところも増えてくるかもしれません。
Z世代を活用したデジタルマーケティング
他方、私は2023年の業界予測(10の未来視点)として、図表の項目を提唱しています。業界の二極化の拡大、デジタル化・クラウド化の進行が大きな影響を及ぼすことなどが挙げられ、今後まさにこうした動きを推進する税理士事務所が売上を伸ばしていくと思います。また、中でも最近伸びてきている事務所の動向を分析していくと、「Z世代※1活用」と「デジタルマーケティング(後述)」が重要なキーワードになることが分かってきました。
まずZ世代活用については、税務会計といった枠に捉われなければ、実はさまざまなメリットがあります。事実、Z世代は「デジタルネイティブのためクラウド化が推進しやすい」「SNS運用もできるためマーケティング活動も任せられる」「新しい考え方にも柔軟に対応することができる」「若いスタッフがいるだけで、より若い世代の入社に繋がり事務所の平均年齢を引き下げることができる」「仕事でもタイムパフォーマンス※2を重視した意見を反映する」など、DXや広報PRに必要な要素の大部分を補ってくれる存在なのです。
もっとも、その効果をきちんと発揮してもらうには、もう一つのキーワードであるデジタルマーケティングにも注目しなければなりません。デジタルマーケティングとは、インターネットやAI技術といったデジタルテクノロジーやデジタル化されたデータを用いたマーケティング手法です。それによって「Webユーザーの興味を可視化でき打ち手を最適化できる」「可視化したデータを基に面談時の提案力を強化できる」「メールマガジンと連動させナーチャリング※3機能として活用できる」「各種SNSと連動でき、運用コストが省力化できる」「潜在顧客を点数化し見込みの高い層に直接アプローチできる」などのメリットを享受することができます。これら全てに精通しているZ世代を獲得することは困難かもしれませんが、Z世代の多くはデジタルマーケティングに関してある程度の素養を有しているので、採用時にはどのくらいのことができるのかをあらかじめ確認しておくといいでしょう。
とはいえ、今はどの業種においても人材不足が課題になるような時代です。税理士事務所でも若手人材を獲得するのはそう容易なことではありません。そのためにも、まずは若手人材が入りたいと思ってくれるような職場環境を構築していくことが重要になってくるかもしれません。一朝一夕にはいかないことではありますが、先進事務所を目指す上では欠かせない一歩になるはずです。
※1 1990年代中盤から2000年代序盤に生まれた世代
※2 かけた時間に対する満足度を表す言葉
※3 潜在顧客の購買意欲を高めるために、対象の興味度合いに応じて段階的に商品の情報提供を行うマーケティング活動