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シリーズ企画

2019年08月号

空き家対策の現状

総務省が2018年に実施した「住宅・土地統計調査」によれば、現在、国内の空き家総数は約846万戸に上るそうです。野村総合研究所は、さらに2033年には約2000万戸に達すると予測しており、空き家問題はまさに待ったなしの状況にあります。今回のシリーズ企画では、国土交通省 住宅局住宅総合整備課 住環境整備室長の上森 康幹氏に空き家の現状や問題点、国が実施している空き家対策について解説していただいた上で、自治体ごとに行われている空き家対策の事例を取り上げます。

上森 康幹 氏 (あげもり やすみき)

国土交通省 住宅局
住宅総合整備課 住環境整備室長

上森 康幹 氏
(あげもり やすみき)

高知県生まれ。1991年、東京大学大学院工学系研究科修士課程修了、同年、建設省入省。2008年、国土交通省九州地方整備局建政部住宅調整官、11年、国土政策局地方振興課企画専門官、12年、住宅局住宅生産課木造住宅振興室企画専門官、14年、大牟田市副市長、16年、独立行政法人都市再生機構ストック事業推進部企画課長、17年、国土交通省住宅局建築指導課昇降機等事故調査室長を経て、18年より現職。

空き家問題解消へ向けた法整備

 ひとくちに「空き家」といってもさまざまな種類がありますが、問題となっているのは、何ら利用されず放置された施設や住宅です。現在の国内の空き家総数である846万戸から「賃貸用又は売却用の住宅」(461万戸)などを除いた約347万戸の「その他の住宅」がそれに当たります。図表1を見れば明らかであるように、「その他の住宅」は1988年から20年で約2倍に増えました。そのうちどのくらいが居住・利用が可能で、どのくらいが廃屋同然なのか、といった細かな状況把握はできていませんが、3分の2以上が木造の一戸建て住宅(239万戸)となっており(図表2)、老朽化して使い道のない空き家が急増していることは確実です。

 こうした状況にあって、国は2015年5月に「空家等対策の推進に関する特別措置法(以下、「空家法」)」を施行。個別の空き家などの状況を把握することが可能な立場にある市区町村に、地域の実情や必要に応じて「空家等対策計画」を策定したり、専門家や専門機関と連携して対策を講じるための「法定協議会」を設置したりすることを求めました。そして、同法によって「そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態、その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等」が「特定空家等」と位置づけられ、自治体はその改善や立て壊しなどに向けた「助言・指導」「勧告」「命令」などを物件所有者に行えるようになりました。要は、空き家放置に対する行政の目がより一層厳しいものになったわけです。実際、この「特定空家等」に指定されると、固定資産税の「住宅用地の特例」という最大6分の1の軽減処置が適用されなくなるので、物件所有者にとって空き家放置のデメリットはかなり大きいといえるでしょう。

 ちなみに同法のこれまでの実績は、図表3・4・5の通りです。まず「空家等対策計画」の策定状況については、全国1741市町村のうち策定済みが1051で約6割で、策定予定ありが約3割と、全国9割の自治体が何らかの対策を講じていることになります。「法定協議会」の設置状況については、設置済みは約4割ですが、設置予定なしが591と3割以上を占めてしまっています。「特定空家等に対する措置の実績」については、助言・指導が1万5000件以上、勧告が約900件、命令が111件、そして所有者に代わって行政が適正管理や解体を行う「行政代執行」が41件、所有者不明物件に対する「略式代執行」が124件となっており、いずれも徐々に増えています。

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ファイル共有ツール導入のビフォーアフター

財政支援と税制措置で空き家対策を促進

 国はこうした各自治体における空き家対策をより推進するため、「空家等対策計画」に基づく空き家活用・除却などを地域のまちづくりの柱とする市区町村に対して、社会資本整備総合交付金とは別枠で財政支援を行っています。空き家を壊したり修繕したりといったハード面での整備費用を補助するもので、19年度予算では33億円を計上しています。

 空き家に関する多様な相談に対応できる人材育成、専門家などとの連携による相談体制の構築、地方公共団体と専門家の連携といったソフト面での取り組みに対する支援も行っており、「空き家対策の担い手強化・連携モデル事業」として19年度予算で3・39億円を投じています。このように、空き家対策に熱心な自治体ほど、ハード・ソフト両面で財政支援を受けられるようになっています。

 また税制措置については、相続により空き家になった不動産を相続人が売却し適用要件を満たした場合には、当該不動産を売却した際の譲渡所得から3000万円を控除することができるという「空き家の譲渡所得の3000万円特別控除」が、16年の税制改正で設けられました。

官民の地域連携が空き家対策のカギ

 空家法の施行から約4年、各地で成果が上がっているとはいえ、当然、地域によって実情は異なります。例えば、たった1軒の空き家を行政代執行で壊すだけでもかなりの労力とコストがかかるので、特に小規模自治体にとってはマンパワーや財政面で厳しく、思うように事を進められません。さらに個人所有の空き家の場合、所有者が分からなかったり、「仏壇や荷物が置いてあるから」など所有者の都合で処分・活用ができなかったりと1軒ごとにさまざまな事情があり、これらに逐一対応していくのは大変です。自治体が単独でこうした課題を乗り越えることは不可能なので、地域の民間企業や団体、専門家といかに有意義な連携体制を構築するかが空き家対策のカギとなります。次頁で紹介されているのは、まさにそうした地域連携が基盤となった事例ですので、ぜひ参考にしていただきたいと思います。

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地域貢献型の空き家活用

東京都 世田谷区

一般財団法人世田谷トラストまちづくりの松本氏(左)と世田谷区住宅課の皆さん(左から課長の蒲牟田 和彦氏、住宅担当主事の山本 達也氏、住宅担当係長の竹田 雅哉氏、住宅担当の丹野氏)

一般財団法人世田谷トラストまちづくりの松本氏(左)と世田谷区住宅課の皆さん(左から課長の蒲牟田 和彦氏、住宅担当主事の山本 達也氏、住宅担当係長の竹田 雅哉氏、住宅担当の丹野氏)

 世田谷区は2011年度に策定した先10年間の住宅政策の基本方針において、「地域資源である空き家・空き室等の住宅資産」の活用を重点プロジェクトの一つと位置づけました。区都市整備政策部住宅課住宅担当の丹野 亜佑美氏によれば、13年に地域貢献型の空き家活用事業をスタート。「世田谷区空き家等地域貢献活用相談窓口」を設け、「空き家などを保有するオーナーと、地域貢献活動を手掛ける団体とのマッチングとともに、空き家改修費用の助成(最大300万円)、専門家(建築士など)の派遣、事業計画立案セミナーの実施などに取り組んできた」そうです。

 区からの委託でこの窓口業務を担っているのは、05年から「地域共生のいえ」事業を手掛けてきた一般財団法人世田谷トラストまちづくり。「地域共生のいえ」とは、区内の建物のオーナーが自宅や建物の一部を地域に開放し、多世代交流や子どもの遊び場、高齢者のサロンなどとして活用するもので、同法人地域共生まちづくり課まちづくり事業担当主任の松本 勉氏によれば、現在区内22カ所が登録されているとのこと。オーナーの募集は町会回覧などで行い、「手を挙げてくれた方にヒアリングした上で、地域のニーズも考慮しながら活動内容を検討する」そうです。そして「『地域共生のいえ』について周囲の住民に告知・説明したり、オープン当日のセレモニーを手掛けたりと、開設とその後の活動がスムーズにいくようサポートするのが私たちの役割。もちろん活動を続けていくなかでの困り事についても随時相談に応じている」と言います。

 世田谷トラストまちづくりはこの「地域共生のいえ」で培ったノウハウを生かし、13年以降は区の「世田谷区空き家等地域貢献活用相談窓口」としても空き家を募集。オーナーが主体的に空き家での活動を展開していく「地域共生のいえ」に対して、区の事業では「空き家を何らかの地域活動団体に柔軟に利活用してほしい」という漠然とした相談も含めて受けることが可能です。選択肢が多様化したおかげで空き家活用についての問い合わせが増えており、中には「区の事業で相談しているうちに『地域共生のいえ』に興味を持ち、自ら積極的に地域貢献活動を手掛けることにした方もいた」そうです。

 ただ一方では課題も多く、「区域の9割が住宅地である世田谷区ならではの難しさがある」と松本氏。というのも、第一種低層住居の用途にはさまざまな制限・制約がある上、法令が定める安全確保のための仕様や耐震基準に合うよう建物の改修・是正を行わねばなりません。そのため「金銭的負担や労力を理由に空き家活用を諦めてしまう方も多い」のです。

 そこで同法人では「区の地域貢献型の空き家活用事業における改修費用助成はもちろん、未就学児童と保護者の集いの場を作る『おでかけひろば』事業など、福祉施設運営に対する助成事業を組み合わせることで、なるべくオーナーの金銭的負担を軽減できるよう工夫してきた」と言います。その成果として、事業スタートから6年間で15件の空き家活用事例が生まれたそうです。「増え続ける放置空き家を直接減らす取り組みではないが、これからも前向きに地域貢献活動の場としての活用事例を重ねることで、地域全体における空き家対策の機運を高めたい」と松本氏は話しています。

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空き家調査員育成プロジェクト

埼玉県 毛呂山町

 埼玉県内で最も空き家率が高い自治体である毛呂山町では、2015年から東洋大学理工学部建築学科と連携し、学生たちとともに空き家活用のためのプロジェクトを検討・実施してきました。まちづくり整備課の酒井 優氏によれば、その中で町職員たちは「自分たちが空き家活用の素人であることを痛感した」と言います。「使えそうな空き家の選定にしても、空き家のリノベーションにしても、何らかの施設として活用した空き家のその後の運営にしても、相応の専門知識やノウハウを持つ民間の力を借りなければ事業が成り立たない」と。

 そこで、同町は18年度の「空き家対策の担い手強化・連携モデル事業」の採択事業として、不動産鑑定業者の(株)三友システムアプレイザルとともに「空き家調査員育成プロジェクト」に乗り出しました。

 目標は「誰もが空き家活用をスムーズに進められるような仕組みづくり」。プロジェクトの柱として、同社はオーナーに代わって空き家調査をする「空き家調査員」の育成を行いました。「町に選定された相談窓口団体が、三友システムアプレイザルの不動産調査ノウハウを集約した『不動産調査テキスト』を用いて空き家の不動産調査を実施、大学教授や建築士、宅建士など専門家の協力も得ながら、利活用の可能性の提示などでオーナーをサポートする体制を作り上げた」そうです。

 また、空き家の調査情報、保有・修繕・売却・取壊し・転用などのコストの概算などを考慮し、経済合理性を加味した独自の「空き家トリアージ」手法も開発しました。「空き家トリアージ」とは、空き家の実態把握を効率よく実施するための分類作業のこと。具体的に同社が提唱したのは、空き家調査を実施した上で「市場性が高く、流通可能」を緑、「改修・リフォーム等を施すことで流通可能」を黄、「安全・衛生上問題はないが市場性が低く流通不可」を赤、「安全・衛生上問題があり、且つ市場性が低く、取壊しが必要」を黒に分類し、それぞれに応じた提案を行うというものです。講習(座学と現地実習)や「空き家トリアージマニュアル」を通じて、町職員や相談窓口団体は空き家調査や選定のノウハウを徐々に身に着けていきました。

 毛呂山町ではこうした事業を継続している他、この秋からは国の助成金を得て、建物の解体・撤去に必要な費用を50万円を上限に補助する制度もスタートする予定です。「倒壊の恐れがある『特定空家』だけに問題を絞らず、減価償却を終えた『空き家になる可能性がある物件』も対象にすることで、少しでも未利用物件が市場に出回るような状況にしたい」と言います。 ちなみに、同町における空き家調査員育成や空き家トリアージなどは「毛呂山モデル」として埼玉県下の他自治体にも展開中。新潟県佐渡市や北海道の人口減少自治体などに対しても、同モデルの応用を予定しているそうです。

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