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会計人のリレーエッセイ

2022年07月号

さあ、面白くなってきたぞ。

北陸会

石川県金沢市髙柳 満

 近頃、何をするにも時間がかかるようになってきた。新しい仕事に着手する際も、勢いをつけないとなかなか一歩を踏み出せない。

 若い頃は、多少抱え込んでいても全く苦にならなかったのに。これは異常かと副鼻腔炎の検診の際にお願いして頭のCTを撮ってもらったが著変はないとのこと。てっきり呑み過ぎで脳が萎縮を始めたのかと恐れていたのだが、これでは女房の言うとおりただの怠け者で物事から逃げているだけの男ということになってしまう。

 もたもたしているせいか一日が過ぎるのも驚くほど早い。直ぐに夕方が訪れる。小学生の頃、50分間の授業が長くて苦痛に悶えていたのが嘘のようだ。人は感動することが少なくなると時間の経つのが早くなるそうだが、繊細慎重な(臆病ともいう)私は日々些細なことで一喜一憂しているので、決して無感動ではないはずだ。老いとは思いたくないが、同じことをするにも時間がかかるようになってきているのだろう。

 この由々しき事態を解決するには、作業効率を少しでも上げるしかない。元来、ながら勉強が性分の私は、試しに音楽を聴きながら仕事をしてみることにした。従業員のいない日曜日を選び決行した。まずは無難なところでクラシックと思い、好きなモーツァルトのピアノ協奏曲を数曲選んだ。気がつくといつの間にか指揮者になっている自分がいて手が止まっている。これはいかん、気合を入れるぞと次は陸軍分列行進曲。最初はいい感じだったが、程なく、これまで幾度かニュース映像で見た学徒出陣を想起した。私など及びもつかない優秀有望な学徒が、家族を想い、好きな人を想い、国を想い散っていったのだ。気がつくと涙に咽ぶ自分がいて手が止まっている。今の私には「ながら」さえ荷が重いことを思い知った。

 さて困ったと攻め倦ねていると、とある情報を仕入れた。効率を上げる直接的手段ではないのだが、手一杯の時、もう一歩を踏み出せない時に有効である。それはただひとつの言葉を口にするだけ。

 「さあ、面白くなってきたぞ。」と声に出して言うのだ。ここで大事なのは笑いながら言うこと。それもニコニコではなく、エースのジョーばりのニヤリでいく。これで、かっかしていた気持ちが鎮まり、自分を俯瞰できているように感じるから不思議だ。雑念が消えてストレスなく仕事に打ち込めるというわけだ。結果、効率アップも達成できているように感じる。

 試そうと思われる諸兄はいないだろうが、もし効果がなくても受け売りなので、私にかっかしないでください。

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