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会計人のリレーエッセイThe Essay Series from Accountants

人生を変えた本

  • 東北会
  • 岩松 正記
  • 宮城県仙台市

「私の人生を決めた本」

 先日、仮面ライダーの表紙に引かれて『文藝春秋』2023年5月号を購入したところ、目に留まったメイン企画が「私の人生を決めた本」というものでした。自分の場合はいったい何だろうと考えたところ、思い浮かんだ一冊を紹介します。

 駿河兼吉『会計事務所の経営戦略』(マネジメント社)。20代後半、ブラック企業に勤めていた私は税理士を目指していたものの、将来に希望を持てず、悶々としていました。「資格さえ取れば」と独立開業する日を夢見ていた頃、古本屋で出会ったのがこの本でした。

 本書の内容は、現役税理士である著者が自身の事務所の経営状況を公開しているというものです。「経営戦略」という題名にもかかわらず顧客開拓の手法などは全く書いていない。代わりに顧問先ごとの顧問料(もちろん匿名)やその他の報酬の一覧やランキングが月ごと年ごとで表され、事務所収入のABC分析※や従業員の給料まで、とにかく数字が並んでいる。一税理士事務所の経営状況を全てあからさまにしているという本でした(現在は廃版)。

 正直、本書は一般受けするような本ではありません。しかし、まだ一般企業に勤めていた私にとっては「税理士になるとこういう形で顧客を持つようになるのか」と想像を膨らませることができ、税理士事務所に入る前から金銭面で税理士の仕事をイメージできた点では、やはり自分の人生に多大なる影響を与えた一冊と言える内容だったと思います。

 著者の税理士は血縁的集団を売り物としている職業会計人会を有する会社の会計ソフトを使っている事務所で(しかもまだご存命のようです)、実は私が最初に勤めることになった事務所も同じソフトを使っていました。私は生来のへそ曲がりのため当該団体の思想にはなじめず、職員時代から悪態をついていたせいか合格祝賀会にも呼ばれず、独立してからもニューメンバーズへの誘いはおろかDMも届きません。そんなご縁で今は別なソフトを使っているわけですが、それもまあ、自分の選んだ道なのだろうなぁと思っている次第です。

 ちなみに上記本の税理士事務所は、今から30年前で従業員数18名(うち家族5名)、顧問先200社で年2億円の売上だったとか。自分が税理士登録してちょうど20年、著者の事務所と比べると規模は1/3程度ですが、それでも全くのゼロから始めて今の数字ですから、これが自分の身の丈にはちょうど合っている規模なのかなと思いつつも、それでも税理士になってよかったなぁと思う今日この頃でありました。

※売上高・コスト・在庫といった評価軸を一つ定め、多い順にA、B、Cと3つのグループ分けをし、優先度を決める方法

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