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シリーズ企画

2022年08月号

ウェブ会議のポイント解説

コロナ禍を契機に、対面ではなくウェブで会議をする機会が増えた方も多いかと思います。対面とは違い、 会話をするだけでも苦慮する場合があり、スムーズにコミュニケーションを図るには工夫が必要です。また、会議システムによって 便利な機能もあります。そこで、一般社団法人会議ファシリテーター普及協会代表理事を務める釘山 健一氏に、 「会議ファシリテーション」のノウハウとウェブ会議をスムーズに進めるポイントをレクチャーしていただきます。

釘山 健一 氏

会議ファシリテーター養成人、 一般社団法人会議ファシリテーター 普及協会 代表理事

釘山 健一 氏

トリプルキャリア(教員、営業マン、市民活動スタッフ)に基づき、「会議を変えると社会が変わる」と確信。 参加者の主体性と可能性を引き出す〝合意形成型会議〟の新たな会議手法を構築する。現在、企業・行政のファシリテーター養成人として精力的に活動。年間100本の講座実績を持つ。

ウェブ会議では参加者に大きめリアクションを促す

 コロナ禍においてリモートワークが普及したことで、ウェブ会議に関するノウハウ本が多数刊行されています。その中では多くの場合、ウェブ会議に用いるツールや機能を使いこなして効率的に会議を進める方法論が説かれているようです。しかし「便利なオンラインツールを使えば会議が効率的で有意義なものになる」とは言えません。なぜなら、パソコンなどの画面越しに行われるウェブ会議では話しやすい雰囲気づくりや気楽な発言や会話が難しいからです。そのため、ウェブ会議のファシリテーター※には、リアル会議以上にコミュニケーションを円滑にするための工夫や気配りが求められます。

 例えばウェブ会議において「人の発言をじっと聞く」姿勢は、「銅像のように固まっている姿」に映ってしまい、動きがないと「パソコンがフリーズしてしまったのかな」「ちゃんと聞こえているのだろうか」と他の参加者に心配をかけてしまいます。そこで大事になってくるのが、ファシリテーターが参加者にできるだけリアクションをとるよう促すことです。私自身がファシリテーターを務める際には、話し合いの初めに必ず「リアクションは普段の2倍でお願いします」と伝えます。それに加えて、話し合いの途中で「共感した人は拍手をしてください」「分かった人はOKサインをお願いします」といった具合にリアクションを促すようにしています。こうした工夫で「リアクション2倍」が当たり前になれば、リアルな会議でも大きなリアクションで話を聴く癖がつくことと思います。

※会議が円滑に進行するよう働きかける役割

話しやすい雰囲気づくりのため「環境整備」も重要

 なるべくリアルでの会議と同様の環境をつくって参加者同士が話しやすくすることも非常に重要です。最も良くないのは、参加者の画面が薄暗かったり、インターネット環境が不十分で画面が粗くなってしまっていたりすること。薄暗くて粗い画面の向こうにいる顔もよく見えない人物が相手では、満足に会話もできません。インターネット環境を整えるのは当然として、私がウェブ会議を主催する際には「とにかく照明を明るくしましょう」と参加者に呼びかけています。ちなみに私自身は6畳間に24畳用のメインライトを付けている他、正面と左右で計3つのリングライトを使っています。

 もちろん、画面の明るさと同様、音声をクリアにする努力も怠ってはいけません。努力といっても事は簡単で、外付けのマイクを導入するだけでパソコンの内蔵マイクとは聞きやすさ、明瞭さが段違いになります。相手の表情や目・口の動きなどがリアル会議よりも分かりづらく、互いの発言や動きが参加者に伝わるまでに微妙なタイムラグが生じるウェブ会議。そうした数々の弱点を乗り越えるには、便利な機能よりもまずは環境整備、これを心がけていただきたいと思います。

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合意形成を経て結論に至るために

 こうした細かな工夫はもちろん大事ですが、ここからはさらに大前提として「そもそも会議ファシリテーションとは何か」をあらためて考えながら、ウェブ会議ならではの注意点や機能の活用について触れていきたいと思います。

 数年前から会議を効率的で有意義なものにするためのスキルとして「ファシリテーション」が注目されていますが、これはあくまでも欧米で生み出されたものであって、そのまま日本で導入しても思うような効果を上げることはできません。何しろ日本と欧米とでは、会議参加者の性質が大きく異なります。大まかに言うと、欧米人が「自分から発言する、論理的に話すことに慣れている」のに対し、日本人は「自分から発言しない、感覚で話すことが多い」のが特徴。欧米型の会議ファシリテーションは当然、主体的に意見を発信する人が集まる会議で使うことを想定しているため、日本人には馴染まないことのほうが多いのです。そこで、私は日本人の性質を踏まえた「日本型ファシリテーション」を提案してきました。日本型ファシリテーションの目的は、参加者全員がしっかり発言・発信し、合意形成を経て納得感・満足感のある結論に至ること、その一点にあります。では、合意形成とは何かをお話ししましょう。

 会議で結論を出すための手法としては、多数決が一般的です。それ自体はもちろん悪いことではないのですが、多くの会議では合意形成を経ることなく多数決で事を決めてしまっています。「合意」とは、反対意見が一つもなく全員が同じ結論に至るということではありません。むしろ、皆それぞれ意見は違っても、辿り着いた結論に反対でも、「皆で決めたことだから納得感をもってそれを受け入れよう」と参加者が思えることが目指すべき会議のゴール、合意の基本なのです。この合意を形成するには「参加者全員から発言を引き出し、皆で決めたという一体感」を生み出す必要があります。そのための環境づくりや手法の一部を説明していきます。

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・グループ分け

 参加者全員が発言できるようにするためにまず大事なのは、会議の人数を絞ることです。私がこれまで、数多くの企業や行政におけるファシリテーター養成に取り組んできた経験からいうと、リアル会議において参加者全員が自由に発言できる人数は最大で4人。それ以上の参加者がいる会議の場合は、必ずグループ分けを行うべきです。まずグループごとに話し合った上で、全体の会議に移るという流れがよいと思います。その場合のグループメンバーの上限ももちろん4人。例えば12人の会議の場合、ちょうど半分の6人で2グループに分けたくなるかもしれませんが、6人だと積極的に発言するのはせいぜい3~4人で、残りの2~3人は発信力のある人たちに押されて「ただ聞いているだけ」になってしまいます。これでは、納得感・満足感を持った合意形成は望めないでしょう。

 リアル会議より発言しにくく、コミュニケーションが取りにくいウェブ会議では、なおさら参加者全員が発言できる環境づくりが大事です。「リアル会議でなら自信を持って発言できるが、ウェブ会議では遠慮してしまう」という人も多く、ウェブ会議で積極的・主体的に意見を言える人はかなり突出した希少な人だということを前提に考えておいたほうが確実です。そのためウェブ会議の場合、グループ分けのメンバーはリアル会議よりさらに減らし、最大3人までとするのがベターだと思います。なお、ウェブ会議用のオンラインツールには、それぞれ参加者が複数のグループに分かれて話し合うための機能が備わっており、ごく簡単にその機能を利用することができます。例えばZoomであれば、事前に「ブレイクアウトセッション機能」を有効にしておき、会議が始まったら下部の「ブレイクアウトセッション」アイコンをクリック、各ルームの人数やメンバー、ルーム名などを決めていくだけです。とても便利な機能なので、ぜひ使ってみてほしいと思います。

・紙に書きださせる工夫

 参加者が「言いたいことを十分に言えていない」という不満感を抱えている会議では、当然のことながら一体感も満足感も生み出せません。そこで、リアル会議では「全員発言」につながるよう「付箋」を活用することをお勧めしていますが、ウェブ会議ではこれが使えないため、付箋の代わりにA4の紙などに意見やアイデアを書きださせることで「参加者の主体性や可能性を引き出す」よう努めてください。まず3分ほど時間をとって、参加者それぞれがテーマから思いつくことを手元の紙に書き記すのがオススメです。そして全体の話し合いに移る前に参加者を3人以下の小グループに分けて話し合う、という時間を設けるのがよいでしょう。ただこの時、「紙に自分の意見を書いてください」という指示を出すのはNGです。参加者全員がやる気十分で発言力もあるという場合にはこの指示でもうまくいくかもしれませんが、発言力が弱い人は「自分の意見」と言われると「そんなにしっかりした考えはない」と固まってしまって何も書けません。そこで「テーマについて思いつくことを何でもいいのでたくさん書いてください」という指示を出すようにしてみてください。小さな違いだと思われるかもしれませんが、たったこれだけで会議が劇的に変わります。何より、「書く」に対するハードルを下げることで数多くの声が上がるようになります。また「意見」と限定すると、書いた人は「ここに書かれたことが自分の意見なのだ」とそれに捉われてしまいがちですが、数多くの声が上がれば全体を見渡し、客観的な姿勢で話し合いに臨むことができるようになりますし、「皆で意見を出し合った」という一体感も生まれます。

・投票で決める

 結論の出し方について、先ほど多数決が一般的と述べましたが、実はそれ以外にも「投票」という方法があります。多数決に比べて圧倒的に参加者の不満が残りにくいので、ぜひ試してみてほしいと思います。これは文字通り、参加者がそれぞれよいと思った意見やアイデアに票を投じ、その集計結果に従って結論を出すという方法ですが、やはりいくつかポイントがあります。まず設定すべきなのが「自分の意見、自分が属するグループの意見には投票できない」というルールです。そうすれば「自分は正しい」と主張し対立し合わないで済みますし、互いに自分のグループに投票できないので「贔屓のない客観的な視点で選んだ良い意見」が選ばれることとなります。そのため、参加者は投票結果を受け入れざるを得ず、不満が出にくいというわけです。また、結果をランキング表で残すことも大事です。多数決の場合、多数決で残ったものと落ちたものとに分けられ、落ちたものは消えてなくなり、これが選ばれなかった参加者の不満につながってしまいます。一方、投票結果のランキング表には、いろいろと出された意見やアイデアが消えることなく示されます。これが全ての意見を大切に対等に扱っている証しとして、参加者に納得感を与えてくれるのです。

 ウェブ会議の場合、Zoomなどの機能を使えば、この投票をきわめて迅速に行うことができます。その方法は「ブレイクアウトセッション」よりはやや複雑ですが、慣れれば簡単です。事前にミーティング設定画面に「投票」を追加し、質問文と選択肢を作成、会議中にファシリテーターが「投票の起動」をクリックすれば、参加者全員にその質問文と選択肢が共有され、回答できるようになる、というわけです。「ブレイクアウトセッション」同様、ぜひお試しいただきたい機能です。

堅苦しい会議より気軽な「対話」を

 ここまで、リアルとオンラインを問わず、広く会議における合意形成に役立つノウハウやポイント、そしてウェブならではの機能についてもいろいろと解説してきましたが、最後に「対話」の重要性についてお伝えしたいと思います。会議というと、何らかの課題を解決したり重要事項の結論を出したりするために「意見を言い合う場」というイメージが一般的ですが、これに対して対話とは「思いを語り合う」ことです。意見には根拠が求められるため、「意見を言い合う場」としての会議ではどうしても、参加者は何か思いついたことがあっても気軽には言えず、発言に慎重になりますし、発言内容に責任が問われるので意見を言いにくくなります。

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 一方、「思いを語り合う」なら発言に根拠などいらず、「何となく」や思いつきで気軽に発言でき、責任も問われないので尻込みすることもありません。これからは従来のような堅苦しい会議ではなく、こうした対話の場を数多く重ねることが企業や行政の問題解決や組織改革に必要ではないでしょうか。そして何らかの結論を出す必要がある場合でも、まずは日本型ファシリテーションによる対話の場をつくって互いに想いを語り合い、一体感を醸成した上で本題の会議に入っていくのがもっともスムーズだと思います。当然、リアルの会議以上に発言しにくく、コミュニケーションを取るのが難しいウェブ会議においては、この対話や「全員発言」のための環境づくりが非常に大事になってきます。今回紹介したポイントを押さえるとともに「気軽に即座に、参加者の居場所を問わずミーティングを設定できる」ウェブ会議ならではの利点や各種機能を活かし、ぜひ対話を重ねていっていただきたいと思います。

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