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特集 SPECIAL FEATURE

ポストコロナ社会の倒産傾向と対策を考える

中小企業の倒産件数増加!
税理士の伴走支援に高まる期待

「ゼロゼロ融資」の返済、円安、資材・原材料・光熱費の高騰などを背景に、コロナ禍の最中と比して 全国企業倒産の件数が増加傾向にあります。そこで、昨今の企業倒産の傾向などについて、 企業の信用調査などを手掛ける(株)東京商工リサーチ 情報本部情報部の坂田 芳博氏にお話しいただきました。

中小企業の倒産件数増加!<br>税理士の伴走支援に高まる期待

©Yarkee/shutterstock.com

企業倒産の件数がコロナ禍前の水準に

 この5月11日に当社が発表した『全国企業倒産状況』を見ますと、2023年4月の全国企業倒産(負債額1000万円以上)の件数は610件(新型コロナウイルス関連倒産は235件)となり、13カ月連続で前年同月を上回る結果になりました(図表1)。



 なお、新型コロナウイルス関連倒産については、22年9月から8カ月連続で200件超で推移しており、20年2月からの累計は5786件に達しています。また、ここ最近で最も倒産件数が目立ったのは3月で、その件数は809件(新型コロナウイルス関連倒産は318件)となっています。これらの数字だけを見ると、倒産件数が著しく増えたように思われるかもしれませんが、実はそういうわけではありません。そもそも、倒産件数はコロナ禍前まで600~800件程度で推移しており、それがコロナ禍においては実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)などの影響で、400~500件程度に抑制されていたのです。

 つまり、昨今の倒産件数の増加はコロナ禍以前の状態に戻りつつあることの表れと言えます。事実、倒産件数が800件台に達したのは19年7月以来でしたが、この頃はコロナ禍前であり、消費増税と人手不足などの影響が取り沙汰されていた時期です。ところが、コロナ禍に入ってゼロゼロ融資などの資金繰り支援が充実したことで、いつ倒産してもおかしくなかった企業の資金繰りが一時的に上向き、倒産件数の増加に歯止めがかかったのです。実際、19年度の倒産発生率は0・250%でしたが、コロナ禍以降は20年度が0・204%、21年度が0・167%と大幅に低下し、ここ10年間で最低の水準でした。しかし、コロナ禍が収束し始めた22年度は一転して0・200%にまで戻り、23年度はさらに19年度の水準に近い数字になると思われます。

 もっとも、「コロナ禍以前の水準に戻っただけだから安心」というわけではありません。コロナ禍前の経済状況そのものが良くなかったわけですから、経営者の皆様、そしてそのサポート役である税理士の皆様には引き続き細心の注意を払っていただきたいと思います。

業種ごとの動向と倒産の具体的な原因

 では、業種ごとの動向はどうなっているのでしょうか(図表2・3)。ほとんどの産業において全国企業倒産の件数は増加傾向にあり、全10産業のうち、小売業を除く9産業で前年同月を上回る結果になっています。

 最多はサービス業他の191件(前年同月比23・2%増)で、8カ月連続で前年同月を上回っています。コロナ禍にあってはゼロゼロ融資や協力金などのおかげで何とか経営を維持することができていた飲食店が、ここにきて返済を諦め、破産するケースが目立っているのです。コロナ禍が落ち着き、客足が戻ってきているところも増えていますが、それ以上に昨年からの物価・光熱費の高騰によって経営がダイレクトに圧迫されています。ただ、サービス業の中でもホテル・旅館などの観光関連の事業者については、インバウンドがコロナ禍前の水準に戻りつつあることもあって、稼働率が大幅に改善するなど、明るい兆しが見られます。





 次いで、建設業の企業倒産は134件(前年同月比65・4%増)で4カ月連続、製造業は77件(同26・2%増)で9カ月連続と、それぞれ前年同月を上回っています。これらの背景にはコロナ禍以前からの人手不足、そしてウクライナ情勢悪化に伴う光熱費の高騰などが影響しています。製造業については、コロナ禍の巣ごもり需要を取り込めた企業がある一方で、商機を逸してしまった企業も多く、二極化が従来よりも顕著になっている印象があります。 この他、運輸業24件(同9・0%増)と情報通信業27件(同68・7%増)が7カ月連続、不動産業が19件(同46・1%増)で6カ月連続、金融・保険業が4件(同100・0%増)で3カ月連続、農・林・漁・鉱業が8件(同33・3%増)で2カ月連続、卸売業が66件(同20・0%増)で2カ月ぶりに、それぞれ前年同月の企業倒産件数を上回っています。

 ゼロゼロ融資の返済もさることながら、全ての業種に影を落としているのはやはり物価・光熱費の高騰です。この窮地を脱するには価格転嫁が不可欠ですが、「取引が打ち切られてしまうのではないか」などの理由で、多くの経営者が二の足を踏んでいる状況にあるようです。また、人手不足についてもコロナ禍を経て、さらに悪化しているように思われます。特に飲食や宿泊などの業界については、コロナ禍の期間に従業員やアルバイトをやむなく解雇せざるを得なかった事業者が多く、その分を補充できずにいるのが現状です。「客足やインバウンドが戻ってきているにもかかわらず、人手が足りないがゆえに十分な利益を上げることができない」といったケースが散見されるなど、ますます深刻な状況になっています。現に23年4月の「人手不足」関連倒産は12件(前年同月比500・0%増)となっており、前年同月(2件)の6倍に急増しています(図表4)。



 その内訳を見ますと、賃上げ機運が高まる中にあって「人件費高騰」が8件(前年同月ゼロ)、「求人難」が3件(同ゼロ)、「従業員退職」が1件(同2件)となっています。なお、1~4月の累計は44件(前年同期比158・8%増)で、前年同期の2・5倍と大幅に増加。内訳は「人件費高騰」が18件(前年同期ゼロ)と際立っている他、「求人難」が15件(前年同期比50・0%増)、「従業員退職」が11件(同57・1%増)で、全ての要因で大幅に増加しています。

 今や新卒採用も転職も超売り手市場と言われるような状況にあり、もはや単に賃金を上げれば人が集まるという時代ではありません。自社の魅力を高め、それをしっかりと発信しなければ、人を集めることができないということを意識しなければなりません。

政府系金融機関だけでなく税理士の支援が必要

 今年5月以降はゼロゼロ融資の返済が本格化しますし、物価・光熱費の高騰は引き続き中小企業の経営を大きく圧迫し続けるものと思われます。特にゼロゼロ融資によって過剰債務に陥ってしまった企業は注意が必要です。経済が復調してきたら融資を受け、業務拡大や新規事業などにトライするのが一般的ですが、過剰債務に陥ってしまった企業は追加融資を受けることが難しく、こうしたチャンスを逸してしまう恐れがあるからです。企業倒産件数はコロナ禍前の水準に戻りますが、こうした状況が続けばゼロゼロ融資を返済する前に倒産企業が続出するかもしれないということも念頭に置いておかなければなりません。

 こうした状況にあって、政府はゼロゼロ融資の返済によって企業倒産がむやみに増えないよう、さまざまな施策を講じています。例えば22年10月に閣議決定された「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」を踏まえ、23年1月からコロナ禍の影響下で債務が増大した事業者の収益力改善などを支援するため、借り換え需要に加え、新たな資金需要にも対応する信用保証制度(コロナ借換保証)を開始しているところです。これは保証限度額を民間金融機関のゼロゼロ融資上限額である6000万円を上回る1億円に設定し、業態転換など事業の立て直しを支援するというもので、100%保証の融資は借り換え後も保証を維持、保証料は低水準に設定、保証の対象期間は10年以内とし、借り換えた場合の元本の返済は最長5年間猶予するといった内容になっています。

 ちなみに、この制度を利用するには一定の要件を満たした上で、金融機関との対話を通じて「経営行動計画書」を作成し、金融機関による継続的な伴走支援を受けなければなりませんが、その際の事業性評価や経営行動計画書の内容が中途半端では意味がありません。そもそも、将来性が見込めないゾンビ企業に対して借り換えを認めてしまえば、単に倒産が先送りになってしまうだけです。そうでなくとも、リーマンショックの影響を緩和するために09年に制定された中小企業金融円滑化法によって、日本には多くのゾンビ企業が誕生し、その影響を依然として引きずっている状況にあります。ある意味、健全な新陳代謝が進み、日本経済が持続的成長を遂げていくためにも、当時と同じ轍を踏まないようにしなければなりません。

 私としてはこういう状況だからこそ、税理士の皆様に顧問先の実態を冷静に分析した上で、経営者と一緒に借り換えをするか否かの判断を下していただきたいと考えています。そのためには事業性評価によって会社の強みと弱みを分析し、あらためて金融機関にもしっかりと納得してもらえるようなビジョンや経営行動計画書を策定する必要がありますが、経営者の思いに寄り添いながらそれらを成し遂げられるのは税理士の皆様以外にいないと思うのです。

 私は今後の全国企業倒産の動向について、当面は19年時点と同程度(700件前後)で推移していくのではないかと見ています。今はコロナ禍からの反動で一時的に増加が目立っていますが、急に1000件を超えるようなことはないでしょうし、しばらくは増加傾向が続いても、政府の施策などが浸透すれば、すぐに落ち着きを取り戻すと思います。

 しかし、先述したような人手不足や物価・光熱費の高騰が解消される見込みは立っていないので、多くの中小企業が徐々に窮地に追い込まれることになるでしょう。であればこそ、今のうちに成長の可能性がある産業や業界を探り、ビジネスチャンスを見出すことが重要になるはずです。当社は信用調査会社として、長年にわたって全国の企業情報などをリサーチしてきた実績を有しているので、そういった前向きな情報に関心を持たれましたら、是非とも気軽にお声がけいただければと思います。

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