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特集 SPECIAL FEATURE

顧問料金最適化と職員の新規採用が取り組みの第一歩

クラウドとAPI連携を駆使して
会計事務所のDXを推進

日本におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の遅れを指摘する「2025年の崖」(※1)という言葉が注目されていますが、会計事務所業界にとってもそれは対岸の火事ではありません。
そこで、今号の特集では本誌の連載コーナー「先進事務所の取り組み」に登場いただいている(株)船井総合研究所の
能登谷 京祐氏に、会計事務所のDXの現状、そしてDXの重要性や具体的な導入方法についてお話しいただきました。

※1
2025年の崖……経済産業省が「DXレポート」の中で指摘した問題点。企業や組織において、バラバラの規格で、データ共有がままならない旧システム(主に1980年代に導入されたメインフレームやオフィスコンピューターのシステム、レガシーシステム)の利用に固執し、DXを実現できない状態が続くと、2025年以降に年間で最大12兆円の経済損失を生じさせるおそれがあるというもの。

クラウドとAPI連携を駆使して<br>会計事務所のDXを推進

VectorMine/shutterstock.com

能登谷 京祐 氏

(株)船井総合研究所
ソーシャルビジネス支援本部
士業支援部
税理士・公認会計士グループ
マネージャー

能登谷 京祐 氏

ITリテラシーの向上と
DXの推進が顧問先拡大の鍵

 会計事務所が新規の顧問先を開拓しようとすると、多くの場合は創業支援を軸にすることになります。その際にポイントになってくるのが、これから創業しようとする若い経営者と同レベルのITリテラシーを持っているかということです。

 一昔前の経営者はインターネットで「会社設立」「税理士」などと検索して、近隣の会計事務所に相談し、システムやツールに関しても言われるがままに導入していましたが、今の経営者たちはSNSなどで積極的に情報を集めてから相談に臨みますし、既にクラウド型の会計ソフトや業務管理ソフトを導入していることが増えています。ともすれば、経営者の方が〝ITリテラシーが高い〟こともあるのです。 こうした状況にあって、私は「2025年の崖」しかり、会計事務所業界においても2025年くらいからITリテラシーの有無が会計事務所を選ぶ大きなポイントになってくると思っていたのですが、コロナ禍や改正電子帳簿保存法、インボイス制度の施行などによって、そのスピードが想定よりも1年早まり、もはや会計事務所のDXは待ったなしとなっています。

「会計事務所経営.com」

「会計事務所経営.com」

 会計事務所のマーケティング支援を手掛ける中でも、最近はそのことを実感する場面がしばしばあります。例えば「今の税理士を変更したい」という問い合わせが急増しているのもその表れです。現状、こういった問い合わせは全体の70%くらいを占めているのですが、これが前年比で30%ほど増えているのです。不満の内容は「コロナ禍の際にも補助金や助成金の情報を案内してくれなかった」「改正電子帳簿保存法やインボイス制度に関するアドバイス、サポートがなかった」「税務会計業務を丸投げしたいのに対応してもらえない」といったもので、直接的なDXの遅れへの指摘は少ないですが、情報への感度の高さや発信力といった点が指摘されているため、ITリテラシーやDXにも大いに関連すると思われます。実際、問い合わせていただいた方々にお話を聞くと、「今の会計事務所はクラウド型のシステムやソフトに対応していない」などとDXに関する話題が確実に出てくるほどです。

 また、こうした不満の根幹に「人手不足」という問題があることにも注目しなければなりません。そもそも「新しいサービスを提供してくれない」「税務会計業務を丸投げしたいのに対応してもらえない」といった不満の背景には、企業側の人手不足で「補助金などの情報収集に力を入れられない」「税務会計業務に十分な人手を割けない」といった状況があります。もちろん、会計事務所側も人手不足が大きな課題になっているわけですが、クラウド型のシステムやソフトを最大限に活用することで、生産性を高め、少人数であっても新たなサービスを提供し、顧問先のニーズを満たすことはできるはずです。つまり、会計事務所側のITリテラシーを高め、DXを推進することで、顧問先離れを防ぎ、顧問先拡大を図ることができるのです。



会計事務所のDXで重要な「自動化」と「API連携」

 では、DXに成功している会計事務所はどのような取り組みを実践し、どんな成果を上げているのでしょうか。

 その最初のステップが基幹システムなどの「自動化」機能の活用です。例えば、顧問先がレシートや領収書をスマートフォンで撮影し、クラウド上の基幹システムにアップロードすると自動的に仕訳、数値入力される機能(AI-OCRなど)があります(※2)。これを活用すれば、会計事務所がレシートや領収書を一つひとつ確認して仕訳したり、データを入力したりする手間を大幅に削減することができます。

※2 MJS製品では「Edge Tracker経費精算」と「ACELINK NX−Pro会計大将」を連携させることで対応が可能です。

 その次に活用していただきたいのが、異なるソフトウェア同士を連携させるAPI連携です。例えば、元帳をクラウド上の基幹システムとAPI連携できれば、システムにわざわざ入力するといった事務作業を削減できるようになります。また、同様にクラウド上の勤怠管理ソフトと給与計算ソフトを連携すれば、従業員の出退勤の記録がそのまま給与計算に反映され、大幅に手間を削減できるようになります。

 自動化にしてもAPI連携にしても、最終的に人がきちんとチェックする必要はあるのですが、その労力を差し引いても生産性を著しく向上できることは間違いありません。仮に売上高が横ばいであっても、総労働時間を減らすことができれば、時間当たり単価を急激に上げることができます。事実、私の支援先の中にはクラウド型のシステムを導入することで、時間当たり単価を4倍にすることに成功した会計事務所があります。


 そして、こういったベースを構築した上で将来的に導入を検討していただきたいのが生成AIです。その活用例としては、生成AIに試算表を読み取らせてレポートを作成させるというものがあります。むろん、現時点での生成AIによるレポートは先生方にとって満足のいくようなレベルではないと思いますが、叩き台として活用すれば、レポート作成の時間を短縮することができるはずです。もっとも、生成AIは日進月歩で成長を遂げているので、折に触れて試用し、新たな可能性を模索してみるとよいかもしれません。

DXを推進するには若手専任者の採用が肝心

 ここまで述べてきたように、DXは既存の顧問先離れを防ぐ上でも、顧問先拡大を図る上でも不可欠な取り組みです。また、本誌9月号の「先進事務所の取り組み」でもテーマにした「顧問料金の最適化」の実現に向けては、DXを推進したことで生まれた余力を活かし、補助金対応や経理代行などの新サービスを提供するなどして会計事務所の付加価値を向上させることが肝心です。加えて、経営コンサルティングにも手を広げられればなお良いでしょう。

 ITに精通した、特に若手の経営者にしてみれば、会計事務所にも同レベルのITリテラシーを求めたくなるのは当然のことですし、そうでなければ別の会計事務所を探すことになりますのでDXはまさに喫緊の課題です。会計事務所の皆様におかれましては、ぜひとも基幹システムを軸に多様なクラウド型のシステム・ソフトと連携できる体制を構築し、そういったニーズにしっかりと対応いただきたいと思います。

 しかし、中には「DXを推進するにも人手が足りない」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。実際、職員の皆さんがフル稼働することで何とか業務をこなせているという会計事務所もあるでしょう。ですが、その状況から脱却しなければ未来はありません。未来を切り拓くにはDXに先行投資をしなければならない段階にきているのです。

 ただ、いくら人手が足りないからといって、ITに疎い既存の職員らにDXを任せると、適切な対応ができず、業務量が多過ぎて進捗が遅れてしまいがちです。そのため、私がDXを支援する際には「今いる職員さんを巻き込まず、できるだけ若い方をDXの専任者として新規採用してください」と伝えています。

 最後に私事ですが、今後、成長している会計事務所の職員数、平均年齢、平均在籍年数がどう推移しているかといったデータを収集・分析したいと考えています。引き続き全力で会計事務所のDXを支援していきますので、これを機にチャレンジいただければと思います。



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