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特集 SPECIAL FEATURE

イマドキ人材の就活はSNSからの情報収集に力

人口減少時代における
人材確保戦略を考える

出生率の過去最低記録の更新が報道されるなど少子高齢化が深刻化しています。そして近年は業種を問わず、 人材不足に悩まされている事業所が少なくありません。課題解決に向けては、イマドキの人材が集まりやすい 職場環境・条件を整えるだけにとどまらず、女性労働者や外国人労働者の採用、そして定年退職後のシニア雇用を 積極的に進めていくことを視野に入れることも重要です。本特集では、特に中小企業が人材を確保するには どういったポイントを押さえればよいか、近年の状況を分析しながら、大手企業に負けない採用の在り方を考えます。

人口減少時代における<br>人材確保戦略を考える

HobbitArt/shutterstock.com

髙橋 慎二 氏

阪南大学 経済学部 教授

髙橋 慎二 氏

2004年東洋大学大学院経済学研究科経済学専攻博士後期課程修了。地域中小企業の存立・発展に向けた課題に関する研究に取り組んでおり、現在は阪南大学経済学部教授、同経済学部長。若年者地域連携事業の実施に係る協議会(厚生労働省大阪労働局)委員なども兼任している。

採用活動は知名度勝負
費用苦戦もやはり欲しい新卒

 私の実家は東京で茶の卸販売店を営んでおり、その影響から私は中小企業の経営のあり方に興味を持つようになりました。一時は税理士になることも視野に大学院へ進学し、最終的に中小企業の研究者になり今に至ります。今回は税理士の皆様の視点を意識しながら、私が研究を重ねる中で見えてきた昨今の人材採用の傾向をご紹介します。

 まず、足元では少子高齢化が進み、売り手市場と言われる中、人材獲得競争は激しさを増し、中小企業にとって人材確保は深刻な課題になっています。その最大の要因となっているのが「情報の非対称性(情報格差)」で、いわば企業の知名度の有無が大きく影響しています。中小企業の多くは採用サイトやPRにかける費用を捻出できていないのが現状で、ゆえに新卒採用で苦戦し、人員不足分を中途採用で補っている傾向が見て取れます。

 リクルートワークス研究所の「中途採用実態調査(2017年度実績)」から、企業規模別の新卒・中途採用比率をみると、新卒採用と中途採用の比率(※1)は大手・中小企業全体で均すとおよそ3:7となり、企業規模が小さくなるほど中途採用比率が高まる傾向にあることが分かりました(図表1)。

 多くの中小企業の経営者は「即戦力になるので、中途採用に力を入れている」と述べています。一方で「新卒社員を迎え入れることで、日常業務の見直しや既存の技術・サービスの見直しのきっかけを作り、改善を図りたい」といった声も根強く、技術力が重視されるモノづくり系や建設系であっても同様です。これはどの業種も積極的に新卒を迎え入れて、職場の雰囲気を活発化させたいとの考えから来ているようです。しかし、これから少子高齢化が加速し、大学進学者が減少していくことを考慮すると、中小企業が新卒の人材を確保することはより難しくなり、結果的に中途採用がさらに拡大していくことが予想されます。

「定着」を意識して職場環境を整える

 中途採用の市場においては、一般労働者の他、「女性労働者」、「シニアワーカー」(定年退職後、60代以降)、「外国人労働者」など、さまざまなタイプの人材がいますが、近年はどのタイプも非常に人気で、彼らの確保は大手企業も交えた人材争奪戦となっています。こうなると、企業規模の大小に関わらず、「新卒」も「中途」も確保が非常に困難であることが分かります。こういった背景を意識し、まずは近頃の若者がどういった労働条件と環境を求めているのかをお話しします。

 近頃の若者たちはSNSやWebサイトを使って就職先を探すようになりました。本学の学生たちもそうですが、最近の若者はテレビや雑誌などのマスメディアから離れ、SNSなどで自ら情報を収集するのが常となっており、見方を変えれば中小企業にとってチャンスとも言えます。なにより、SNSなどによるアプローチはマスメディアを活用する場合のように膨大な費用がかからず、中小企業でも地元で就職活動をする求職者にターゲットを絞り、適切な情報発信を行えば、しっかりと彼らへアプローチすることができるからです。

 そしてSNSなどの運用を始める前に注力していただきたいのが「採用」ではなく、「定着」に向けた取り組みです。人口減少社会を見据え、これからは愛着を持って、長年勤めてもらえるかが重要になっていきます。ですので、まずは定着してもらえる環境を整えることが、採用活動にもポジティブな効果をもたらすことになるのです。

 定着の話をすると、中小企業の経営者は「給与などの待遇面に問題があって離職率が高くなっている」と考えがちなのですが、私の調べる限り、実際の退職理由は「希望していた業務に携われなかった」「やりがいが感じられなかった」など、待遇面以外の問題であることも多いです。実際、最近の若者は真面目で、結果が出ることにやりがいを感じ、お金への執着よりやりがいや働きがい、さらには趣味やプライベートを重んじる傾向にあります。テレビドラマを倍速で見るなどタイパ(タイムパフォーマンス:時間対効果)を重んじるのもこの世代の特徴です。

 つまり、彼らに成長の機会を与え、チャレンジを正当に評価すること、そして業務の効率化を図り、残業などを軽減するなどすれば、定着に関しても採用に関しても大いにプラスに働くはずです。また、近年のウェルビーイング(※2)といった日常生活と仕事の調和を求める思想の広がりは、中小企業にとって追い風です。例えば、今流行りの「推し活」(※3)のための特別休暇制度を設けてみるのもいいかもしれません。中小企業は大手企業よりも柔軟かつスピーディに制度設計を変えられますので、さまざまな施策にチャレンジしていただきたいと思います。

 また、チャレンジできる環境という点では、非正規社員と正社員の垣根を低くすることも肝要です。中小企業の場合、あらゆる業種で多能工化が進んでいるため、非正規社員の業務が属人化し、代替が利きづらくなっているケースが散見されます。特に正社員よりも非正規の方の割合が多い事業所は要注意です。そういった場合、同一労働同一賃金の観点も踏まえて、非正規社員を正規社員として再雇用するなどのキャリアプランを設け、実際に機能させることができれば、優秀な非正規社員はもちろん、「タイミングを見計らって正規社員になりたい」と考えている人たちにとっても魅力的な職場になるはずです。

※1…比率は新卒採用が18年卒の大学生・大学院生、中途採用が17年度の正社員募集を調査対象として集計・計算したもの
※2…身体的、精神的、社会的に良好な状態、つまり幸福な状態を指す概念
※3…自分が好きなアイドルや俳優、アニメキャラクターを応援する活動

女性やシニア、外国人が定着しやすい職場とは

 では、ここからは若者だけでなく、女性やシニア、外国人といった人材に対して、どのようなアプローチが効果的か紹介していきます。

―女性社員の場合
 結婚を機に寿退社をするというのは過去の話で、イマドキは結婚後も正社員として働くケース、さらには非正規社員としてワーク・ライフ・バランスを維持しながら働き続ける方が増えています。一方、フルタイムで働けない女性もいます。多くは子育て、親の介護などで時間に制約があり、長く働けないなど、何かしらの事情を抱えています。中小企業ができる取り組みとしては、リモートワークを大胆に取り入れながらフレックスな働き方を推奨する、時短勤務を推奨するなどがあります。

―シニア社員の場合
 彼らの雇用にあたっては、その人たちが持っているスキルを高く評価するとともに、定年を延長するなどして、長期的に活躍してもらえるような環境を整えることが欠かせません。ただこの場合、若手社員とのギャップの解消も同時に進める必要があります。特に大手企業OBの場合、過去の栄光を捨てきれず、現場の若手社員とぶつかるケースも珍しくありません。せっかく、シニア社員が活躍できるようになっても、若手社員が職場にいづらくなって次々と辞められてしまっては本末転倒です。まずは年齢の垣根を越えたコミュニケーションを推進し、両者が居心地よく働ける職場を模索することが重要でしょう。

―外国人社員の場合
 彼らについて言えば、技能実習生のことを思い浮かべる方が多いと思いますが、定着という観点から考えると、留学生など、日本の文化や社会に関心を持っている層にアプローチした方がより長期の定着につながるでしょう。ベトナムをはじめとした東南アジアから多くの優秀な留学生が来日している今日はまさに好機です。彼らは非常に人気で、特に能力の高い外国人労働者の確保は熾烈(しれつ)な争奪戦となっています。また、日本人よりさぼらず、優秀な結果を残すことから既存社員への刺激にもなっているようです。他にも、インターンシップで訪れた留学生が再訪し、そのまま就職してくれるケースもあります。例えばSNSなどの発信を続けていると、留学生が祖国に帰った後もそのSNSを通してインターンシップ先のことを思い出すきっかけになり、結果としてつなぎ止めの役割も果たすのです。

 さまざまなポイントを述べてきましたが、人材不足に拍車がかかる中、今後はこれまで以上に人材定着の現状分析、社員が魅力を感じる職場環境づくり、そしてSNSなどでの情報発信が重要になります。ぜひとも税理士の皆様にはそういった観点や取り組みに注目いただき、顧問先の皆様が定着と採用の好循環を生み出せるようにアドバイスしていただきたいと思います。

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