CHANNEL WEB

シリーズ企画

2020年10月号

コロナ禍に"資格を越えた全員参加型"
税理士法人グループが果たしている役割

コロナ禍による生活者消費の減退やインバウンド需要消失の影響を受け、多くの顧問先企業が苦境に立たされています。こうした中、会計事務所は顧問先支援のために、どのようなことをなすべきでしょうか。コロナ禍における顧問先支援に尽力されている四谷大林税理士法人グループの代表である大林 靖典先生に、具体的な取り組みについて伺いました。

大林 靖典 氏 (おおばやし やすのり)

四谷大林税理士法人 理事長
代表税理士

大林 靖典 氏
(おおばやし やすのり)

30歳の時に税理士試験に合格。1987年より石渡会計事務所にて税理士としての礎を築き、92年に大林税務会計事務所を設立。2017年に四谷大林税理士法人を開設し、グループ全体として税理士7名、公認会計士1名、社会保険労務士2名、職員10名の総勢20名の陣容でクライアントのニーズに的確に、スピーディーに応えている。その後、出身地でもある名古屋事務所を設立。現在、新型コロナの影響で大打撃を受けている中小企業に対して、これまで培ってきたノウハウを生かした支援に尽力している。

足を使って幅広く周知させる

 今年に入り、新型コロナウイルス感染症が拡大し、4月には緊急事態宣言が発出されるなどの影響を受け、日本経済は多大なダメージを負いました。それはなお現在も続いており、国内の多くの企業は存続をかけ困難に立ち向かっています。共に歩む会計事務所も同様に、苦境に立っている顧問先企業を支えていかなければ、永続性を保つことは困難になると考えます。実際に、多くの事業者がコロナ禍で窮地に陥り、当グループに救いを求めており、それに対し"全員が一致団結して"さまざまな支援を行っています。当グループでは、資格の有無を問わず、また税務業務だけではなく、コンサル部を中心に職員一人ひとりがさまざまな分野で自らの強みを生かして活躍しています。そして、特に、高齢者や情報技術への知見が不足している方、また資金に困窮している方など、社会から疎外されている方や本当に困っている方を一人でも多く救うことが当グループの使命です。

 コロナ禍の影響は当然ながら一過性のものではありません。新型コロナウイルスの感染状況は予断を許さず、今後も当面は3密を避けたり、ソーシャルディスタンスを保ったりという「新常態(ニューノーマル)」、いわゆるウィズコロナの社会が続いていくと思います。

 こうした中、政府は第1次・2次補正予算で総額60兆円近くもの巨費を投じて、給付金や助成金、補助金を出した他、金融機関も官民を問わず積極的な融資を実施しています。既に多くの先生方は手を打たれていることと思いますが、資金繰りに苦心している顧問先がいる場合は、まずはこういった制度を最大限に活用し、顧問先の手元資金を充実させることが必要かと思います。

 しかし近年、こうした情報の多くはインターネット上で発信されており、事業者の中にはなかなかその情報にまでたどり着けないでいるところもあります。特に経営者が高齢の場合は要注意です。例えば、私が事務所を構える東京・四谷の飲食店街においても、かなりの数の経営者が高齢でそういった情報に疎く、こちらが働き掛けるまでジッと我慢をしていました。そこで、当グループではそういった方々のもとに積極的に足を運んだり、電話をかけたりして情報を提供し、不必要な「あきらめ倒産」が増えないように努めてきました。結果、ありがたいことに今のところ顧問先に関しては一件も倒産や廃業がありません。顧問先にとって必要な情報をスピーディーに届けることも、重要な役割の一つであるとあらためて認識させられた一件でもありました。

 もちろん、給付金の申請にあたってもスピーディーさが求められるので、当グループでは柔軟に素早く対応できるような体制を整えています。

 ちなみに、当グループではコロナ禍に関する助成金などの申請については、通常費用の半額で引き受けることにしましたが、普段パソコンを使っていない顧問先の中には「それでは困る」と言って通常料金を支払おうとしてくれる方もいらっしゃいました。それだけ普段パソコンを使ってない方にとっては貴重な情報であり、サービスであったわけです。手間と時間は掛かりますが、これからも引き続きこういった情報については、しっかりと足を使いながら顧問先に伝えていきたいと思います。

事務所前の立て看板やホームページなどで、コロナ禍に苦しむ事業者へ支援の方法があることを訴求

事務所前の立て看板やホームページなどで、コロナ禍に苦しむ事業者へ支援の方法があることを訴求

コロナ対策関連融資を活用し顧問先と明るい未来を描く

 次いでコロナ対策関連融資についてお伝えしたいと思います。コロナ禍においては官民問わず、多くの金融機関が優遇措置を講じていますが、とりわけ政府系の商工中金と日本政策金融公庫が実施している中小企業向けのコロナ対策関連融資は内容が手厚く、充実しています。例えば、日本政策金融公庫の新型コロナウイルス感染症特別貸付融資であれば、5年間の返済据置期間や3年間の実質無利子期間が設けられている他、申請も極めてスムーズに通るようになっており、場合によっては電話のみで審査が通ってしまうほどです。また、通常だと融資を受けることが難しい事業者であっても、現在は融資を受けやすくなっているので、これを機に毎月の運転資金の6カ月分くらいの手元資金を準備しておくといいでしょう。なお、こうした融資に関する諸手続きに関しても、当グループではすべてワンストップサービスで対応することで、多くの顧問先に喜んでいただいています。

コロナ対策関連給付金・助成金、融資の活用法

 しかし、単に借りただけでは、5年間の返済据置期間が終了した後に再び苦しい状況に立たされてしまいますし、貸しはがしなどのリスクも顕在化してきます。企業としては、この間に新たなビジネスモデルを創出しなければならないのです。ただ、下手に焦ってはいけません。まずは手元資金をある程度、潤沢にして心に余裕を持たせた上で、じっくりと新たなビジネスモデルとそれを軸にした中長期的な経営計画を練ることです。場合によっては、それと同時に事業承継や相続対策などを検討してもいいでしょう。いずれにしても、明るい未来を思い描くことが顧問先のモチベーションアップにつながっていくはずです。

経営者を鼓舞しながらビジネスモデルの構築を支える

 では、コロナ禍にあって、具体的にどのようなビジネスモデルを描くことができるのでしょうか。最も厳しい業種の一つとされる飲食業を例に挙げながら、そのあたりについて考察したいと思います。

 飲食店に関しては、依然として廃業が相次いでいますし、売上げがいまだに8~9割減から回復しないところもあります。それでも今のところ多くの事業者が持続化給付金や家賃支援給付金、雇用調整助成金などを活用してなんとかしのいでいる状況ですが、この9月あたりから再び資金繰りに窮するところが増えてくるような気がしています。

 ですが、そういった中にあっても売上げを伸ばしている飲食店も少なくありません。例えば私たちの事務所が入っているビルの1階にある和食店は、コロナ禍の当初は売上げが激減して嘆いていましたが、コンサル部の担当者が「弁当を販売してみては」と助言すると、すぐに乗り気になって弁当のメニュー開発と販売をスタートしました。おいしくてリーズナブルな本格和食弁当ということで評判になり、今ではコロナ禍前と比べて逆に売上げが伸びているとのことです。しかも、弁当の場合、飲食事業よりも売上げが予測しやすく、材料のロスを抑制することができるため、利益率も高くなっているそうです。

 また、ある飲食店は従来の仕入れのネットワークを活用して産直野菜などの販売に乗り出し、売上げを伸ばしています。特にスーパーマーケットの混雑ぶりが話題になっていた時期に注目を集め、その後もその品質の良さからリピーターを獲得し、順調に業績を伸ばし続けているようです。

 この2つはコロナ禍における顧客ニーズの変化を敏感に察知し、対応した事例といえるでしょう。既に多くの飲食店がこういった新規事業を始めていますが、顧問先の中にまだ始めていないところがあれば、チャレンジするようにアドバイスしたり、経営者と一緒になって知恵を絞ったりすることが大切だと思います。また、新規事業の立ち上げに関しては、働き方改革推進支援助成金(新型コロナウイルス感染症対策のためのテレワークコース)やIT導入補助金などを活用することができるので、併せてこうした情報を提供していくことも重要になってくるのではないでしょうか。

 あと、当グループがよく経営者の方に伝えているのは、「ウィズコロナの社会においては物理的な距離をとらなければならないので、ますます顧客との心の距離を縮めることが大切になる」ということです。そして、こういう時代だからこそリモート通信や手紙といったツールを活用して顧客の心を掴むことができれば、新規事業でも売上げを伸ばすことができるはずだと強調して伝えています。現時点で最も危険なのは、前述した通り、不必要な「あきらめ倒産」が増えることですから、こういったアドバイスで経営者を鼓舞することも、経営支援に携わる者の務めの一つと考えます。

倒産・廃業の危機を救うために事業再生やM&Aも視野に入れる

 そうはいっても、全ての事業者がこの窮地を乗り切れるわけではありません。この急激な環境変化によって、事業者の業績はさらに二極化していくものと思われます。顧問先支援に最善を尽くしたとしても、顧問先が倒産や廃業の危機に直面するケースも想定されます。

 そういった時のためにも、当グループでは、あらためて事業再生や事業整理などの手法を理解し、場合によっては顧問先にその可能性を示す準備もしています。

コロナ対策関連給付金・助成金、融資の活用法

 ちなみに、顧問先が危機的状況に陥ったらどうするかというと、まずはできるかぎり自力再生を目指すようにアドバイスします。そして、自らも再生プロジェクトに積極的に関わり、資金繰りの改善や販管費の見直しなどを迅速に進めていきます。多くの経営者はそういった整理を客観的に行うことができずに頭を悩ませてしまうので、私たちが第三者として介入していく必要があるのです。

 また、これからはM&Aの可能性にもあらためて注目すべきでしょう。コロナ禍による二極化でM&A市場は自然と活発化していくはずですから、しっかりとM&Aという選択肢があることを顧問先に伝えなければなりませんし、その場合は顧問先のメリットになるようなマッチングや条件で成約できるよう、自身のネットワークや仲介会社との関係性に磨きをかけておかなければなりません。もちろん、コロナ禍で売上げが伸びている企業にとっては、M&Aがさらなる業績アップのチャンスになることもあるので、そのあたりも念頭に置いています。

会計事務所が本領を発揮すれば全国の事業者を救うことができる

 ここまで、コロナ禍において当グループが実践していることについて述べてきましたが、それを万全の体制で成し遂げるには職員のモチベーションを高めることが何よりも重要になります。しかし、その一方でコロナ禍関連の業務によって、通常時よりも職員の仕事量が格段に増えてしまっている現実もあります。当グループにおいても、私も含め多くの職員たちが昼夜を問わず、対応に追われ続けています。

プレゼント

 その時に大切になるのが、「一人でも多くの人を救おう」という使命を組織全体で共有することです。苦境に立つ顧問先を支えるには、多大な労力を要します。この思いがあるからこそ、経営支援に尽力することができるのです。当グループでは全員が高い意識を持って顧問先の支援に努めており、コロナ禍を経て、より一層一体感が醸成されているように感じるほどです。

 しかし、いかに思いがあっても、身体や体力がついてこなければ意味がありません。ですから、当グループでは積極的にテレワークを推進し、生産性の効率を図りつつ、職員やその家族の安心・安全を守れるように配慮しました。と同時に、通勤時の混雑を避けるために事務所に宿泊したいという職員の要望にも対応し、事務所に宿泊できるような体制も整えました。

 事業者にとって最も身近な相談相手は、会計事務所です。だからこそ、会計事務所は今こそ本領を発揮し、顧問先を全力で支えなければなりません。当グループにおいても、顧問先の経営環境が大きく変化していく中で、顧問先を守り成長を支援していくことに、真摯に取り組んでまいりたいと思います。

▲ ページトップ