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シリーズ企画

2021年08月号

事業再構築補助金のポイントと活用事例

コロナ禍が長期化し、当面の需要や売上の回復が期待しづらい中、政府は「事業再構築補助金」を打ち出し、新分野展開や事業転換、業種転換、業態転換、事業再編という思い切った事業再構築に意欲を有する 中小企業等の挑戦を支援しています。そこで、中小企業庁 経営支援部 技術・経営革新課の鈴木 裕介課長補佐に、この制度の概要と申請のポイントなどを詳しく解説していただきました。 (本稿は7月16日時点の情報です。最新の情報は中小企業庁または事業再構築補助金事務局のウェブサイトをご覧ください)

経済産業省
中小企業庁経営支援部
技術・経営革新課 課長補佐

鈴木 裕介 氏

2009年経済産業省入省。貿易経済協力局資金協力課(現・通商金融課)課長補佐、通商政策局中東アフリカ課課長補佐などを経て現職。

最大規模の中小企業支援策

 コロナ禍にあってさまざまな業界で従来型のビジネスが立ち行かなくなっている今、あらゆる企業が「いかにウィズ・ポストコロナの社会や産業構造の変化に対応していくか」という課題に直面しています。そんな中、資金力や人材力に乏しい中小企業は単独で既存事業を転換したり、新たな商品開発に乗り出したり、売り方や売り先を大幅に変更したりといったチャレンジになかなか踏み切れません。そこで、国が中小企業や中堅企業のこうした「事業再構築」を後押しする目的で打ち出したのが「事業再構築補助金」です。公募は5回に分けて行われることになっており、申請方法は電子申請システムのみ。第1回公募期間は2021年3月26日~5月7日、第2回は5月20日~7月2日で、既に第1回の審査結果は当庁ホームページ上で公開し、現在は第2回審査の最中です。

 この事業再構築補助金の特徴は何と言っても、〝これまでにない規模の補助金〟だということです。中小企業庁としては、従来から中小企業等による生産性向上に資する革新的サービスや試作品の開発、生産プロセスの改善などのための設備投資を支援するものづくり補助金などを所管してきましたが、同補助金の支援額上限は1件当たり1000万円、持続化補助金やIT導入補助金などにしても数十万円から数百万円規模にとどまっていました。一方、事業再構築補助金は上限6000万円から1億円に達するケースも想定されるという、中小企業に対するものとしては過去最大規模の補助・支援策となっています。

 また、対象経費が幅広く認められていることも事業再構築補助金のポイントです。「事業再構築」とは具体的には新分野展開や業態転換、事業・業種転換、事業再編またはこれらの取組を通じた規模の拡大などを指しますが、対象経費は建物費、機械装置・システム構築費、技術導入費、専門家経費、運搬費、クラウドサービス利用費、外注費、知的財産権等関連経費、広告宣伝・販売促進費、研修費、海外旅費(卒業枠、グローバルV字回復枠のみ)など多岐にわたります。このように規模の大きさと対象の幅広さから、事業再構築補助金は中小・中堅企業が苦境を乗り越え、日本経済を復興していく上で極めて重要な支援策とみられているのです。

各枠の補助率や要件

 事業再構築補助金の補助率や要件などについてご説明したいと思います。左上表の通り、まず「通常枠」の補助金額は中小企業者等が100万円~6000万円(補助率2/3)、中堅企業等が100万円~8000万円(補助率1/2)となっています。要件は売上高減少要件として、2020年10月以降の連続する6カ月間のうち、任意の3カ月の合計売上高がコロナ以前の同3カ月と比較して10%以上減少していること。そして事業計画については認定経営革新等支援機関とともに策定する必要があり(補助金額が3000万円を超える案件については同機関や金融機関とともに策定)、その内容として補助事業終了後、3~5年で付加価値額の年率平均3・0%以上増加、または従業員1人当たり付加価値額の年率平均3・0%以上の増加が見込める計画であることが条件となります。

 この通常枠の他、中小企業向けの「卒業枠」と中堅企業向けの「グローバルV字回復枠」、「緊急事態宣言特別枠」が設けられています。卒業枠は中小企業等が事業再構築を通じて資本金または従業員を増やし、3~5年の事業計画期間内に中堅・大企業等へ成長するための事業再構築を支援するもので、全ての公募回の合計で400社限定、補助金額は6000万円超~1億円(補助率2/3)となっています。 グローバルV字回復枠は事業再構築を通じて、コロナの影響で大きく減少した売上をV字回復させる中堅企業等を支援するもので、全ての公募回の合計で100社限定となっています。補助金額は8000万円超~1億円(補助率1/2)、要件はグローバル展開(海外直接投資、海外市場開拓、インバウンド市場開拓、海外事業者との共同事業)を果たす事業であること、補助事業終了後3~5年で付加価値額の年率平均5・0%以上増加、または従業員1人当たり付加価値額の年率平均5・0%以上増加する見込みの事業計画を策定すること。また、この枠ではコロナ以前からの合計売上高の減少率が15%以上であることが売上高減少要件として設定されています。

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 最後に緊急事態宣言特別枠ですが、これは2021年の国による緊急事態宣言発令により深刻な影響を受け、早期に事業再構築が必要な飲食サービス業、宿泊業等を含む中小企業等に対する特別枠です。緊急事態宣言に伴う飲食店の時短営業や不要不急の外出・移動の自粛などによる影響を受けたことで、21年1月~6月のいずれかの月の売上高が対前年または前々年の同月比で30%以上減少していることが要件となっています。補助金額は従業員数5人以下で100万円~500万円、6~20人で100万円~1000万円、21人以上で100万円~1500万円(補助率は中小企業者等が3/4、中堅企業等が2/3)です。

多くの中小企業が 新分野への挑戦を計画

 続いて第1回公募の応募状況や傾向についてですが、わずか約1カ月の募集期間に2万2000件に及ぶ応募があり、業種別では製造業がおよそ4分の1で最多、次いで宿泊業・飲食サービス業が5分の1、約15%が卸売・小売業といった割合でした。事業計画の傾向としては新分野展開の申請が圧倒的に多く(半分以上の1万2000件強)、これに事業転換や業種転換も合わせるとおよそ1万6000件弱が新しい商品・商材・サービスの開発やこれまで手掛けたことのない事業へのチャレンジを計画していました。ただ、多くの事例は知識もノウハウも全くゼロの分野に取り組むわけではなく、あくまでも従来の事業に関連した産業への進出、長年かけて培ってきた技術を新しい発想で生かした商品開発などの事例です。

 企業の規模別でみると実に9割以上が中小企業で、卒業枠やグローバルV字回復枠の応募は数百件にとどまっていました。卒業枠とグローバルV字回復枠については目標に達しなかった場合に返金の可能性があるため、中小・中堅企業ともに躊躇するところが多かったのではないかと思います。特にグローバルV字回復枠はその名の通りグローバル展開を果たすことが要件となっていますが、リスク評価などの準備にしっかり時間をかけた上で応募しようと考えている企業が少なくないと思われます。

申請数の増加や事業計画書の質の向上のために

 第1回公募における大まかな傾向は以上の通りですが、これからの課題として事業計画の書き方に関する問い合わせが非常に多いことが挙げられます。コロナ禍で苦境に陥っている中小企業の経営者の中には、事業計画を書いたことがそもそもない、あるいは極めて苦手だという方が多いのが実態です。頭の中でやるべきことが分かっていても、その事業計画を外部から客観的に判断できるような形にまとめるノウハウはまた別ですし、まして先行きが不透明な状況下で未来を見据えた内容を記載し、付加価値額などの論拠も示さなければならないので、平時の補助金申請とはまた違った難しさがあります。そこで当庁では、製造業や飲食業、宿泊業など主だった業種からいくつか優れた事業計画の事例を選定し、ホームページなどで可能な範囲で公表していくことを検討しています。まずは大まかにでも「事業再構築に向けた事業計画とはどんなものか」をイメージするところから始めて、着実に申請の準備を進めていただければと思います。

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 繰り返しになりますが、日本経済の今後は中小・中堅企業の事業再構築にかかっていると言っても過言ではありません。この補助金を念頭に、これから本腰を入れて新たな展開に舵を切ろうとしている企業も多いと思うので、当庁としては今後、より積極的に情報発信に取り組んでいきたいと考えています。ただ、もちろんそれだけでは十分とは言えません。中小企業経営者と距離が近く、経営状況も把握している税理士・公認会計士の先生方には、ぜひ顧問先の新たなチャレンジにつながる一手として、事業再構築補助金の申請サポートを積極的に手掛けていただきたいと思います。

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