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シリーズ企画

2019年10月号

経営革新等支援機関の今後の展望

2012年に経営革新等支援機関を認定する制度が創設され、現在3万2000以上の機関が認定を受けています。ただ、創設の目的である中小企業への経営支援については、どれくらいの認定機関が実際に活動を行っているのか疑問視する向きもあります。そこで、経営革新等支援機関の支援や中小企業とのマッチングなどを手掛けている中小企業基盤整備機構の経営支援部 支援機関サポート課に、経営革新等支援機関の現状と課題、そして今後の展望について伺いました。

小串 仁志 氏

独立行政法人
中小企業基盤整備機構
経営支援部 支援機関サポート課
課長代理

小串 仁志 氏

1998年4月、地域振興整備公団に入団。山形県や長崎県において工業団地等の分譲・管理業務に従事。2004年7月の独立行政法人 中小企業基盤整備機構への改組後は、クリエイション・コア東大阪におけるインキュベーションマネージャー業務、中小企業大学校東京校における企業研修企画業務、東北本部における経営支援業務など幅広い業務に携わる。現在は地域支援機関等の支援能力・機能の向上・強化を目的とした地域支援機関等サポート事業の企画立案等を担当。

経営革新等支援機関に対する中小機構の地域支援機関等サポート事業

 経営革新等支援機関の認定制度は2012年、中小企業の経営課題の多様化・複雑化を背景に施行された「中小企業経営力強化支援法」に基づいて創設されました。ご存じの通り、税務や金融、企業財務などに関する専門知識や支援の実務経験が一定レベル以上の個人、法人、中小企業支援機関などを経営革新等支援機関として認定するもので、現在のところ認定機関は3万3683(19年6月28日時点)。内訳としては7割強が税理士(個人、法人)、各地の信用金庫や信用組合などの地域金融機関や商工会・商工会議所等の地域支援機関も経営革新等支援機関となっています。

 私ども中小企業基盤整備機構(以下、中小機構)では、北海道本部から沖縄事務所まで全国各地の10カ所の拠点で、経営革新等支援機関をはじめとした地域の中小企業支援機関のサポート事業を行っています。その柱は①対話による課題の顕在化(全国の中小企業支援機関に対して、専門性の高い中小企業支援アドバイザーが直接訪問、ヒアリング。その場で経営支援のアプローチの仕方をアドバイス) ②ニーズに合わせた講習会の開催(事業性評価、伴走型支援、IT導入による生産性向上など、中小企業支援機関のニーズに合わせた講習会を開催) ③現場で役立つ支援情報の提供(中小機構が培ってきた支援ノウハウを結集し、現場で活用できるコンテンツを公開、提供)の3つです。

身近な支援機関としての経営革新等支援機関

 昨今、いかに支援能力・機能を向上、強化するかが経営革新等支援機関の課題となっています。特に地域の中小企業・小規模事業者が気軽に相談できる支援機関としての存在意義は大きく、計画的かつ継続的な支援が求められています。そのためには当然、支援対象である事業者の財務情報などの情報だけではなく、非財務情報についても十分に把握する必要があります。経済産業省は11年頃から、経営理念や社の歴史、匠の技、顧客ネットワークといった「知的資産」の価値を重視する「知的資産経営」を推進してきましたが、今後はこの知的資産経営に加えて、事業性評価やローカルベンチマークなど、将来を見据えた評価指標・評価手法を取り入れて経営を支援していくことが重要です。そこで中小機構としては、これらをテーマとした講習会を実施することで、中小企業の非財務情報を把握する手法についてお伝えしています。講習会に際しては一方的に講義するだけでなく、グループワークなども取り入れ、より多くの議論や情報交換・意見交換が行えるようカリキュラムを策定しています。また、日頃の支援活動などに生かせるよう、実際の支援先の情報を持ち寄っていただくなどの工夫もしております。

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税理士などを含む認定支援機関に対し、東北経済産業局と中小機構の東北本部が連携して行った講習会の様子

直接ヒアリングを軸とした多種多様なサポートを展開

 当機構の各地の拠点に寄せられる相談に対する支援の一例を挙げますと、例えば沖縄県の中小企業を中心に組合の設立や運営などを支援する沖縄県中小企業団体中央会から「中小企業の健全な発展を図るため、組織化指導などのコンサルティング機能を向上させたい」という相談を受け、中小機構沖縄事務所の中小企業支援アドバイザーが訪問。ヒアリングを重ねる中で、同中央会が「支援先の強みを明確化できていない」という課題を抽出、同事務所はヒアリング力と提案力を向上させる講習会を提案・開催しました。同中央会職員らは講習会で得た知識を活用し、事業の強みを理解しながら今後の方向性を提案できるまでにスキルアップ。支援機関として一歩踏み込んだサポートを提供できるようになりました。

 また、福岡県久留米市に本拠地を置く久留米商工会議所は新しく策定した「経営発達支援計画」において「小規模事業者自らの持続的な経営と自立化を支援するために、経営改善の意識・意欲レベルに応じた個社支援を行う」という目標を設定、職員のさらなるスキルアップを目指していました。そこで中小機構九州本部の中小企業支援アドバイザーが訪問しヒアリングを行い、支援メニューの一つである「事業計画書作成支援講習会」を開催。これを受けて実践的なスキルを身につけた同商工会議所職員らは支援企業の補助金獲得などの成果を上げることができました。

写真2
写真3

 もちろん、経営革新等支援機関の大部分を占める税理士、公認会計士の方からの相談もあり、税務・財務分野以外のテーマ、例えば顧問先の人材育成や経営計画、売上・販路拡大などの面で、当機構の登録専門家がさまざまなアドバイスを行っています。

 経営革新等支援機関の認定制度が始まってから約7年、一定以上の専門性と実績を備えていれば認定を受けられることから、当初は多くの支援機関等が経営革新等支援機関に名乗りを上げましたが、難しいのはその看板を維持していくことです。昨年9月から5年ごとの更新制度も導入されたこともあって、今後ますますその活動の質を問われることになります。当機構としては、これからも多様な支援によって、全国各地の経営革新等支援機関の支援能力・機能の向上、強化のお手伝いをさせていただきます。

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旭日税理士法人

宮城県 仙台市

旭日税理士法人 代表社員の桑畑 弘道先生

旭日税理士法人 代表社員の桑畑 弘道先生

2003年に開業した仙台市の旭日税理士法人は、多彩な法人顧客の経営支援の知見を生かし、経営革新等支援機関として活発に活動しています。これまでの支援事例や認定支援機関としての課題、メリットなどについて伺いました。

多数の法人顧客に向け密接なサポートを実践

 暗闇の中、明け方に山間から差し込む最初の光「旭日(きょくじつ)」のように中小企業を照らしたい―。そんな意味合いを込めて名付けられたという旭日税理士法人。現在、スタッフは32名で税理士の他に複数の社会保険労務士も在籍、縁あって併設された弁護士事務所ともタッグを組んでおり、ワンストップで多彩な税務・財務・経営支援に対応できることで高い評価を得ています。東北税理士会の常務理事、総務部長も務める、旭日税理士法人 代表社員の桑畑 弘道先生によれば、「顧問先の大部分は法人。営業活動は基本行わず、ほぼご紹介で月1社以上のペースで法人顧客を増やしてきた」そうです。その秘訣は「税理士である前に、一人の人間として経営者に寄り添う」スタイル。「顧問先を訪問する際には、税務・財務状況の確認と同じくらい、社長にお孫さんが生まれたとか、奥様が入院されたとか、そうした家族の情報も大事だとスタッフに言い聞かせている」といいます。そしてこのような密接な顧問先支援とともに、桑畑先生が重視してきたのが経営革新等支援機関としての取り組みです。制度開始当初から認定に向けて準備を進め、東北では草創の経営革新等支援機関として認定を受けたそうです。

事業承継マッチングと新たな事業展開を支援

 その後、旭日税理士法人は多彩な中小企業支援活動を積極的に展開してきました。例えば、2014年の(株)かね久の事業承継案件もその一つ。同社は自社で粉砕処理したパン粉の販売を主力とする食料品卸事業者で、以前は金久商店という屋号でした。旭日税理士法人と同社との付き合いは長く、桑畑先生はこれまで同社の経営相談にたびたび乗っていました。経営状況は上々でしたが、後継者不在が課題だったといいます。そして「私の代で廃業しようと考えている」と経営者から聞いた時に桑畑先生の頭に浮かんだのが、別の顧問先でもともと食品会社の専務を務めていた遠藤 伸太郎氏のことでした。当時、遠藤氏はちょうど独立起業を検討中。「同じ食品業界でもあり、両者をマッチングさせられるのではないか」と考えた桑畑先生が引き合わせた結果、お互い乗り気に。従来の従業員を全員残すなど条件をすり合わせた上で事業承継が成立、遠藤新社長の下、同社はかね久として再出発することになりました。

 桑畑先生はその後も継続して同社の経営支援を続け、金久商店時代の経緯や従業員のことをよく知っている立場からさまざまなアドバイスをしました。そして大手食品卸事業者の価格攻勢などで競争環境が激化する中、桑畑先生と遠藤社長は「パン粉活用ノウハウを生かして取引先のメニュー開発を手掛けたり、調理方法のアドバイスを行ったりしてはどうか」と相談。石巻市出身の遠藤氏が前職時代の人脈を活用して「規格外に大きいカキ」を安価に仕入れるルートを確立し、取引先に同社のパン粉と石巻のカキを使ったカキフライの取り扱いを提案したのです。これが好評で同社は売上を伸ばすことができ、同時に取引先との関係強化にもつながったそうです。

バンクミーティングを重ねて事業再生に成功

 クリーニング業大手のI社の事業再生支援も、旭日税理士法人の経営革新等支援機関としての役割が発揮された事例です。東日本大震災後、同社の経営状況は厳しく、経営者が会社の立て直しに苦慮していたところ関係者から紹介を受け、旭日税理士法人が同社を支えることに。しかし、いざ桑畑先生がヒアリングしてみると、同社は取引銀行すべてに事業再生計画を説明するバンクミーティングを開かねばならない状況にまで追い込まれていました。

 それでも桑畑先生は諦めません。「かつては中小企業の経営が行き詰まってしまったら、ほとんどの場合、金融機関はサジを投げていましたが、昨今では財務状況だけでなく将来的な事業性を評価して支えてくれるケースが増えてきています。ただ、その時には企業側が事業再生計画や業務改善計画をしっかり立てねばなりません。それをサポートするのが経営革新等支援機関の使命」と桑畑先生。その思いを胸に、これまでの法人経営支援の知見を生かして「経営方針や状況説明のサマリーや作業工程のモニタリング、営業管理、資産の減少分をコストカットで補填するためのアクションプラン」など緻密なレポートを作成し、14年に初のバンクミーティングに臨みました。以来、これまでに11回を重ね、当初は3カ月に一回だったミーティングが現在では半年に一回になり、同社の経営は少しずつ上向いてきつつあるそうです。

(上)自社で粉砕処理したパン粉の販売を主力とするかね久の商品ラインナップ。中央上部にあるのが石巻産カキとかね久のパン粉でつくったカキフライ (中央)現在売り出し中、仙台味噌仕立ての牛たんコロッケ (下)東北第1号で経営革新等支援機関に認定

(上)自社で粉砕処理したパン粉の販売を
主力とするかね久の商品ラインナップ。
中央上部にあるのが石巻産カキとかね久の
パン粉でつくったカキフライ(中央)
現在売り出し中、仙台味噌仕立ての牛たん
コロッケ(下)東北第1号で経営革新等支援
機関に認定

ニーズが高まる早期経営改善計画

 もう一つ、旭日税理士法人が取り組んでいる「早期経営改善計画」作成支援についても紹介したいと思います。早期経営改善計画とは、早期の経営改善に取り組みたい中小企業・小規模事業者を支援する国の事業で、認定支援機関が資金繰り管理や採算管理などの経営改善計画の作成を支援し、計画策定後もフォローするというもの。桑畑先生はみやぎ産業振興機構のセンター長から協力を要請されたのを機に、顧問先である(株)佐藤建設の早期経営改善計画作成支援に携わりました。同センターでは近年、早期経営改善計画の推進に力を入れているのですが、その背景には東北地方の建設業界が抱える経営課題があるそうです。「かつて、宮城県内に限らず東北地方の建設会社のほとんどは大赤字を抱えて壊滅的な状況でした。そんな時に起こったのが11年の東日本大震災。それからしばらくは建設バブルで仕事が溢れ、東北の建設業界の景気は一気に上向きました。ところが、多くの建設事業者はその状況に甘んじてしまい、最近になっても財務状態が悪いままの会社が多く、再び経営が悪化してしまう可能性が高い」といいます。そのため、東北の建設業界において早期経営改善計画のニーズが高まっているのです。「(株)佐藤建設の案件はメインバンクからの依頼を受けたものでしたが、今後はより積極的に早期経営改善計画の作成支援を手掛けていきたい」と桑畑先生は力強く語ります。

より高付加価値な顧問先経営支援のために

 このように、経営革新等支援機関として多彩な実績を重ねてきた旭日税理士法人。桑畑先生はこの認定制度について「これからの時代、税理士が付加価値の高い顧問先の経営支援を行っていくためには重要なもの」と強調します。そして「私たちは顧問先企業の経営数字をすべて把握しており、そうした立場だからこそ実施できる経営支援メニューがたくさんあるはず」と。

 昨今、経営革新等支援機関に認定されていながら、実際にはその看板にふさわしい活動ができていない事務所も多くなっていると言われますが、この点に関しては「全都道府県に設置されている中小企業再生支援協議会の『経営改善支援センター』との連携が鍵を握るのではないか」と桑畑先生。実際、経営改善支援センターでは経営支援のための具体策やノウハウ、先進事例などをレクチャーしてくれる他、中小企業が認定支援機関に対して負担する経営改善計画策定支援に要する計画策定費用やフォローアップ費用の3分の2(上限200万円)を補助する制度も用意しています。まずはこうした機関に支援のあり方について相談してみるのが、高付加価値な経営支援体制構築のための第一歩だといえるでしょう。

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