東京会独自企画
2025年06月号
ピンチをチャンスに変えた豊島区の挑戦
豊島区は2014年に東京23区で唯一、「消滅可能性都市」と指摘されましたが、子育て支援や安全・安心なまちづくりなどに取り組み、現在は消滅可能性都市から見事に脱却を果たしています。そこで、この間の豊島区の取り組みや現状について、豊島区政策経営部ならびに都市整備部の皆様にお話を伺いました。
PART1
「消滅可能性都市」から脱却した豊島区(解説:政策経営部)
「消滅危機」を機に強化した切れ目ない子育て支援施策

豊島区は2014年5月に日本創成会議の調査で、若年女性(20~39歳の女性)の人口が5万136人(2010年時点)から2040年までに2万4666人に減少(50・8%減)する可能性があると指摘され、「消滅可能性都市」のリストに東京23区で唯一、名を連ねました。消滅可能性都市とは基準年から30年後の若年女性人口が5割以上減少する可能性がある自治体を指します。若年女性がこのペースで減少すると出生率が減少する他、最終的に消滅の可能性があるというものです。
実を言うと、豊島区は10の大学が立地するなど、若年層の流入・流出が多く、必然的に合計特殊出生率が低くなりやすい傾向があります。また、この発表がなされた時点ではすでに若年女性の人口も含め、区の人口は増加傾向にあったのですが、確かに若年女性の数が少なかった時期もあり、当時の豊島区長はもちろん、多くの職員と区民の皆様が消滅可能性都市という指摘にショックを受けました。

こうした背景の下、豊島区では「ピンチをチャンスに」を合言葉に、まちづくりに全力で取り組んできました。具体的には指摘を受けた5月のうちに豊島区消滅可能性都市緊急対策本部を設置し、①子どもと女性にやさしいまちづくり②高齢になっても元気で住み続けられるまち③様々な地域との共生④日本の推進力という4つの柱を掲げ、7月には若年女性から成る「としまF1」会議を設置し、幅広いご意見をいただきながら、11の事業を採択しました。まちづくりというとハードの整備というイメージが強いかもしれませんが、実際にヒアリングを重ねていくと、多くの区民の皆様がソフト面の充実を望んでいることが分かり、豊島区では妊娠・出産、子育ての相談にワンストップで対応する「子育てナビゲーター」の設置など、切れ目のない子育て支援などに力を注いできました。また、待機児童の問題にも早い段階から取り組み、私立保育園の数を2014年から2023年までの10年間で8倍にするなどして、2017年以降は待機児童ゼロを実現。それと同時に区では小学校や中学校の改修にも積極的に予算を投じ、教育環境の充実に努めてきました。また、高齢者施設「ことぶきの家」を児童館と統合した「区民ひろば」という地域コミュニティ施設において、乳幼児や子育て世代、高齢者など幅広い世代が集い、交流を図れる場づくりも進めました。

女性コスプレイヤーも訪れる家族連れに安心なまちへ変貌
こうした取り組みとともに、中心地である池袋のまちづくりにも多面的に取り組んできました。そもそも、池袋には大規模な繁華街があり、池袋駅の乗降客数は1日200万人超と国内屈指。一方で回遊性が乏しく、まちに繰り出す来街者が少ないという課題がありました。そこで、池袋エリアの回遊性を高めるために、女性や家族連れが安心して楽しめるよう、池袋駅の東口、西口にある公園を整備するなどしてきました(詳細はPART2にて)。
このまちづくりの過程においては、清掃活動やイメージアップに一丸となって取り組んでいただくなど、区民の皆様にも協力いただきました。おかげで、今や池袋は家族連れに加えて、若年女性にとっても大人気の街へと変わり、国内最大級のコスプレイベント「池袋ハロウィンコスプレフェス」を安全・安心に開催できるまでになりました。

豊島区民らと実施する清掃活動の様子

2024年の「池袋ハロウィンコスプレフェス」の様子
©池袋ハロウィンコスプレフェス2024
住みたい・住み続けたいまちを目指して基本構想・基本計画を策定
現在の人口は2014年比で2万人増、若年女性の数も6%増となりました。そして、2024年に人口戦略会議が公表した報告書では、豊島区が消滅可能性都市から脱却したことも示されました。もっとも、今も外国籍の方が12・3%(そのうち35%が留学生)を占めており、依然として合計特殊出生率が0・89と東京23区で最も低い状態に変わりはありません。ゆえに人口戦略会議の報告書では「ブラックホール型」(他地域からの人口流入が多く、出生率が低い)との指摘を受けています。
しかし、豊島区には池袋以外にも巣鴨や大塚、目白、雑司が谷など、個性的な街が数多くあり、多様な文化や商店街が数多く存在していること、大学が10も立地し、若年層が流入しやすいといったポテンシャルがあります。これらを最大限に活かすとともに、区民目線のまちづくりを推進していきたいと考えています。
その一環として、区では豊島区基本構想・基本計画の策定にあたって、10代から80代の区民の皆様が参加した区民ワークショップや、区長と区民が直接意見交換するタウンミーティングを開催した他、パブリックコメントを募集し、400件以上のコメントを頂戴しました。そして、今年3月に「豊島区基本構想・基本計画」を策定しました。加えて、区が目指す「3つの理念」と政策分野ごとの「7つのまちづくりの方向性」などをコンパクトにまとめた『豊島区基本構想・基本計画ミニブック』を発行しました。今後は区の職員が各地区でこのミニブックを活用し、区民の皆様とビジョンを共有しながら具体的なまちづくりに取り組んでまいります。

「豊島区基本構想・基本計画ミニブック」

豊島区が目指す将来のまちの姿
PART2
池袋エリア再開発の未来(解説:都市整備部)
東京23区内各地で再開発が進む昨今、池袋駅周辺ではどのように再開発が進展しているのでしょうか。PART1に続き、池袋エリアの再開発の動向について伺いました。
池袋は駅周辺の回遊性が乏しく、「駅袋」と揶揄(やゆ)されてきました。そこで、豊島区では池袋エリアの回遊性を高めるため、2014年から旧庁舎周辺と新庁舎周辺の2拠点を南北区道で結ぶダンベル型のまちづくりを推進。2015年には区有資産を活用し、財政負担ゼロで、日本初の民間マンション一体型の新区庁舎を竣工した他、旧庁舎跡地周辺はオフィスや映画館、劇場、中池袋公園などから成るHareza池袋を整備しました。
また、美しい芝生が広がる南池袋公園、区内最大面積を誇り、ファーマーズマーケットなどが開催されるイケ・サンパーク、東京芸術劇場と一体となった池袋西口公園など、個性的な公園を整備するとともに、それらを赤くレトロなデザインのコミュニティバス「IKEBUS(イケバス)」で結ぶことで、さらなる回遊性の向上に努めてきました。
現在も豊島区では「誰もが居心地の良い歩きたくなるまち」をコンセプトに回遊性の向上に取り組んでいます。直近では池袋駅西口地区の都市計画が2024年に決定となり、芸術文化をコンセプトに2040年代竣工を目標とした高層ビルを3棟建てるとともに、駅前の車道を廃止し、歩行者空間にする計画を進めています。改札がある地下から地上へのアプローチには吹き抜け空間を設ける予定になっているので、開放感に満ちた新たな〝池袋の顔〟になると思います。
また、池袋駅東口のグリーン大通り沿いにある南池袋二丁目28番街区地区にも動きがあります。この地区には現在、5棟のビルが建っているのですが、すべての建物の築年数が40年以上と老朽化が進んでいる他、複数の駐車場出入口によってにぎわいが分断されている、安全で快適な歩行者空間になっていないなどの課題があります。そこで、これらの問題を解消するために一体的な開発を進め、2031年度に業務機能に加えて、商業・文化・交流機能などの誘導を狙ったオフィスや店舗が入る高層ビルの竣工を目指しています。
その他、池袋駅の東口と西口をつなぐことを目的として、駅の北側と南側にそれぞれデッキを設ける計画もあります。さらに、環状第5の1号線の雑司が谷工区が完成したら、池袋駅東口の明治通りの交通量が緩和されることから、東口駅前に歩行者広場を設け、さらににぎわいを創出しやすい環境を整備したいと考えているところです。
これらの再開発によって、池袋エリアはこれまで以上に開放的で、回遊性の高いまちになるでしょう。ただ、その一方で池袋エリアには昔ながらの文化や建物はもちろん、アニメやガチ中華などの新たなカルチャーも醸成されつつあります。豊島区としてはそれらを大切に育みながら回遊性の向上を図ることで、池袋ならではのまちづくりを実現したいと構想しております。
