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中部会企画①

2020年07月号

世界農業遺産「清流長良川の鮎」の
自然・文化・暮らしの魅力

「鵜飼」が行われることで有名な長良川は、岐阜県北部の郡上市大日ヶ岳を源流に県内を縦断し、伊勢湾まで全長166kmにわたって延びています。流域に約86万人の人口を抱え、日本三大清流の一つとしても名高く、2015年には「清流長良川の鮎」というテーマで世界農業遺産に認定されました。その認定の背景や長良川の魅力、そして美しい清流が守り続けられている理由などついて、世界農業遺産「清流長良川の鮎」推進協議会事務局の丹羽 宣子氏にお話しいただきました。

世界農業遺産に認定された「長良川システム」

郡上市美並苅安(みなみかりやす)地区を流れる長良川。長良川の上流域であり、郡上鮎のふるさととして知られる

郡上市美並苅安(みなみかりやす)地区を流れる長良川。長良川の上流域であり、郡上鮎のふるさととして知られる

澄んだ川底の石に付着した苔を食べて育つ天然の鮎は芳醇な香りがすることから、「香魚」とも呼ばれる。鮎は海と川を行き来して1年で一生を終える「年魚」であり、秋にふ化した鮎は冬を海で過ごし、春に川を遡上し、夏に縄張りを作って成長する。そして、秋に川の中流域で産卵し、その一生を終える

澄んだ川底の石に付着した苔を食べて育つ天然の鮎は芳醇な香りがすることから、「香魚」とも呼ばれる。鮎は海と川を行き来して1年で一生を終える「年魚」であり、秋にふ化した鮎は冬を海で過ごし、春に川を遡上し、夏に縄張りを作って成長する。そして、秋に川の中流域で産卵し、その一生を終える

鮎の塩焼き。シンプルな調理方法であるがゆえに鮎の香りを存分に楽しめる

鮎の塩焼き。シンプルな調理方法であるがゆえに鮎の香りを存分に楽しめる

 長良川は2015年に「清流長良川の鮎」(里川における人と鮎のつながり)として「世界農業遺産」に認定されました。それもそのはず、長良川と鮎は地域経済や歴史文化と深く結びついています。歴史を振り返ると、1915年(大正4年)に漁業協同組合の前身である水産組合が長良川で人工的にふ化させた鮎を放流していたという記録があります。そして、それ以来、長良川流域の漁協では水産資源を増やすための放流事業や漁場整備に加え、植林や河川の清掃活動などにも精力的に取り組み続けてきました。

 さらに、長良川ではこうした漁業者による取り組みの他、地域全体で「人の生活・水環境・漁業資源」を相互に連環させて一つの循環をつくる「長良川システム」の確立にも取り組んできました。こうした持続可能な地域づくりの取り組みが世界的に認められ、今回の世界農業遺産認定につながったものと思っています。今後も世界農業遺産の理念である「遺産的価値のある農業・地域システムを保全し、次世代へ継承していくこと」に基づき、この長良川システムをさらに深化させていきたいと考えています。

鮎菓子。鮎をモチーフにしたカステラ生地で
求肥(ぎゅうひ)を包んだ岐阜の銘菓。岐阜
県ほど多くの種類の鮎菓子がある地域はない
とも言われている

鮎の伝統漁法である「やな漁」。晩夏
から秋にかけて大きなすのこ(やな)を設置
し、川をくだる鮎を獲る

長良川システムの多種多様な展開

1300年の歴史を持つ長良川の鵜飼。
岐阜市の長良と関市の小瀬(写真)
で行われている。例年、鵜飼漁は
5月中旬から6月に始まり、12月に
禁漁となる。岐阜県内の鵜匠は
宮内庁から「宮内庁式部職鵜匠」
に任命されており、鵜匠による
長良川鵜飼漁の技術は国の重要
無形民俗文化財に指定されている

 では、続いて長良川システムにおいて、どのようなことを実践しているかを紹介していきたいと思います。

 まず、清流を守り続けるためにはこの世界農業遺産のシンボルである「鮎を守り育てる」ことが重要であり、その中核となるのが日本最大規模の鮎生産能力を持つ「魚苗センター」です。この施設にて河川で採捕された天然鮎を親にして稚鮎を育成し、安定的な放流を実践しているのです。

 また、当地では鮎が産卵しやすいように川底をおこして砂利をならす「人工産卵場の造成」や人の手で受精させた卵を川に戻す「人工ふ化放流」などにも取り組み、「鮎王国ぎふ」を目指しています。

 もう一つのポイントとなるのが、鮎の成育環境となる清流を守ることであり、その根幹を担うのが森林整備です。山からの湧き水が清流をつくるため、清流を持続的に維持するにはこの森林整備が不可欠なのです。そこで、当地では長良川流域の森林造成事業に力を注いでおり、漁業者や市民が協働した長良川源流域の森育成事業、長良川流域連携クリーン作戦などを展開。漁業者や市民とともに森や川を守る活動を推進しています。

ブランディングを推進し国内外での販路を拡大

 こうした取り組みを推進する一方で、当地では鮎のブランディングにも取り組んでいます。その成果は着実に表れており、19年からは郡上漁協(郡上市八幡町)が東京豊洲市場に出荷を始め、大変高い評価を得ています。今後は飛騨牛など本県が誇る食材ともコラボレーションし、首都圏でのフェアなどでPRを強化したいと思っています。

 また、最近では海外向けの販路拡大にも取り組んでおり、19年11月には岐阜県産鮎の輸出拡大のために創設した認定制度「岐阜鮎海外推奨店」の第1号店として、タイ(バンコク)にある日本食レストラン「きさら」を認定しました。今後も推奨店舗の拡大に取り組み、海外展開を促進していきます。

 さらには、メディア向けに長良川流域を巡る体験ツアーも実施するなど、観光振興にも注力。さまざまな方法で、世界農業遺産のブランド力を活用した交流人口の拡大を図っていきたいと考えています。


若い世代に向けて体験活動を実施

 長良川は鮎だけでなく、さまざまな文化を育んでくれています。実際、この地域には1300年の伝統を持つ鵜飼に代表されるように、川と密接に結びついた伝統漁法、歴史、伝統工芸、食文化、生活があります。

 そこで、こうした文化を次代に引き継いでいくための取り組みとして、当地ではさまざまな体験活動を展開しています。その一環として、若い世代の関心を高めるため、自然と触れ合いながら楽しく学び・体験できる「清流長良川あゆパーク」での釣り、つかみ取りなどの漁業体験や漁協による釣り教室、伝統漁法「鮎友釣り」講習会などを提供しているところです。

 私たちはこれからも先人の努力と知恵により受け継がれてきた「清流長良川の鮎」を未来につないでいきたいと思っています。国内を自由に移動できるようになった折、ぜひ皆さんも中部地方にお立ち寄りの際には、長良川にまで足を延ばしてみてください。

長良川流域には水を大切にする精神が息づいている。「水の町」として知られる郡上市八幡町にある湧き水「宗祇水(そうぎすい)」も、周辺住民の生活の水として大切に使われてきた

長良川流域には水を大切にする精神が息づいている。「水の町」として知られる郡上市八幡町にある湧き水「宗祇水(そうぎすい)」も、周辺住民の生活の水として大切に使われてきた

「清流長良川あゆパーク」(2018年オープン)では、つかみ取りなどの体験活動を実施している

「清流長良川あゆパーク」(2018年オープン)では、つかみ取りなどの体験活動を実施している

美濃和紙や良質の竹材を用いて作られる岐阜提灯。出荷額は全国1位

美濃和紙や良質の竹材を用いて作られる岐阜提灯。出荷額は全国1位

清流に育まれた文化の一つである「美濃和紙」。長良川流域には清らかな水が深く関わる伝統工芸技術が数多く残っている。本美濃紙を含む「日本の手すき和紙技術」は県内初のユネスコ無形文化遺産に登録されている

清流に育まれた文化の一つである「美濃和紙」。長良川流域には清らかな水が深く関わる伝統工芸技術が数多く残っている。本美濃紙を含む「日本の手すき和紙技術」は県内初のユネスコ無形文化遺産に登録されている

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