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昭和歌謡とシティポップ

VOL.3

Z世代をはじめとした若者たちの間で、懐かしの昭和歌謡・シティポップが流行しています。
そこで、今回は昭和歌謡やシティポップの影響を受けた現代のアーティストに注目。
「昭和」に精通したライター、田中 稲氏にそのあたりを解説していただきました。

田中 稲たなか いね

田中 稲たなか いね

ライター/アイドル、世代、懐かしブーム、昭和歌謡を中心に執筆活動を展開中。『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、ライフスタイル誌『CREA』のWEBサイトでコラム「田中稲の勝手に再ブーム」(https://crea.bunshun.jp/list/tanakaine)を連載中。

 現代のアーティストの楽曲を聴いていると、昭和歌謡やシティポップのエッセンスを上手に取り入れているように感じます。例えば歌詞に関して、1990年代や2000年代に多かった英語を多用した歌詞ではなく、日本語にこだわった詩的な情景描写や死生観も含めた内省的な内容のものが増えています。これは前回述べた「エモさ」(感情が揺さぶられて、何とも言えない気持ちになること)に通じるところであり、まさに昭和歌謡との共通点と言えるでしょう。個人的にはその背景にはSNSによって煽られ高まる自己承認欲求と、それに伴う〝疲れ〟があるように感じています。SNSが持つ共感と同調圧力の二面性によって、若者たちは自身の内面と向き合い、心の旅をするようになったように思うのです。

 そして、その傾向に拍車をかけたのがコロナ禍です。「死」が近くなり人生を考えるようになった。さらにステイホームにより音楽系のサブスクリプションサービスが急速に普及し、多くの若者たちが昭和歌謡やシティポップに触れる機会が増えて、そこからさまざまなインスピレーションを得るようになったのではないでしょうか。

 では、どのようなアーティストに影響が感じられるかというと、昭和歌謡では米津 玄師、藤井 風、あいみょん、アイナ・ジ・エンドなどが挙げられます。米津 玄師の代表曲『Lemon』はその最たるもので、「夢ならばどれほどよかったでしょう」という歌い出しには昭和歌謡のセンチメンタルな感じが出ています。

 藤井 風は学生の頃からYouTubeで昭和歌謡を多くカバーし、アップしてします。ご自身の楽曲も昭和歌謡のテイストが感じられるものに仕上がっており、特に『死ぬのがいいわ』の「三度の飯よりあんたがいいのよ あんたとこのままおサラバするよか 死ぬのがいいわ」という直情的な歌詞には昭和歌謡を通り越して、演歌を感じてしまうほどです。あいみょんの楽曲については、歌詞全体に昭和歌謡、あるいはフォークソングの情緒が感じられます。代表曲である『マリーゴールド』はまさにその典型で、「麦わらの帽子の君が 揺れたマリーゴールドに似てる」というサビで表現された青春の情緒は往年の昭和歌謡、フォークソングに通じるところがあります。おそらく吉田 拓郎が好きな人たちはアッという間にあいみょんのとりこになるのではないでしょうか。

 一方のシティポップはどうかというと、Vaundy、キタニタツヤなどが「ネオシティポップ」と評されています。ネオシティポップとはシティポップに何らかの影響を受け、2010年以降にリリースされた楽曲のことで、単にシティポップを引用するのではなく、テクノやヒップホップとの融合を図るなど、現代風にアレンジされているのが特徴です。また、imaseもシティポップに影響を受けた楽曲をつくりだしており、代表曲である『NIGHT DANCER』の都会的なリズム感やグルーヴ感を耳にすれば、一瞬でそのことを納得していただけると思います。

 このように昭和歌謡やシティポップのエッセンスは今の時代にもしっかりと受け継がれており、読者の皆さんにとってもその多くが耳なじみの良いものになっています。若者たちとの話のタネにもなりますし、これを機会にサブスクリプションサービスを活用して、「令和の歌謡曲・シティポップ」に耳を傾けてみてはどうでしょうか。

昭和歌謡・シティポップの影響を感じる楽曲

死ぬのがいいわ©HEHN RECORDS/
UNIVERSAL SIGMA

『死ぬのがいいわ』

藤井 風
作詞:藤井 風
作曲:藤井 風

2020年に発表された『死ぬのがいいわ』が世界的に知られるようになったのは2022年の夏頃。タイのTikTokユーザーの間でこの楽曲を使った動画投稿がはやり、瞬く間にTikTokやSpotifyで人気を集めることになった。

マリーゴールド©ワーナーミュージック・
ジャパン

『マリーゴールド』

あいみょん
作詞:あいみょん
作曲:あいみょん

吉田 拓郎のファンでもあるあいみょんの代表曲。フォーキーなメロディと巧みな情景描写を織り込んだ歌詞が、幅広い世代に甘酸っぱい青春時代を想起させ、絶大な支持を集めることになった。

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