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昭和歌謡とシティポップ

VOL.5

Z世代をはじめとした若者たちの間で、懐かしの昭和歌謡・シティポップが流行しています。
最終回を迎える今回はシティポップの由縁たる「都会性」を考察したいと思います。
「昭和」に精通したライター、田中 稲氏に解説していただきました。

田中 稲たなか いね

田中 稲たなか いね

ライター/アイドル、世代、懐かしブーム、昭和歌謡を中心に執筆活動を展開中。『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、ライフスタイル誌『CREA』のWEBサイトでコラム「田中稲の勝手に再ブーム」(https://crea.bunshun.jp/list/tanakaine)を連載中。

 シティポップの魅力の一つは、その名が示す通り、「都会の情景」を音楽や歌詞で表現している点にあります。具体的な地名や風景が歌詞に出ることはなくとも、シティポップならではの洗練されたメロディやアレンジによって「都会の孤独と自由」といった雰囲気を醸し出すことができているのです。大貫 妙子さんの『都会』などはその代表例でしょう。

 私にとって「都会の情景」を初めて印象付けてくれた楽曲は『ルビーの指環(ゆびわ)』だったかもしれません。寺尾 聰さんのフワフワとした歌声がメロウな※メロディと相まって、都会の夜の街並みが眼前に浮かび上がってくるように感じられたものです。また、タイトルに地名が登場する数少ないシティポップとして、ラ・ムーの『青山Killer物語』も印象深いですね。当時はあまり評価されていませんでしたが、改めて聴くと菊池 桃子さんのほんわかとした声とフュージョンサウンドが見事にマッチしており、ちょっと大人な「都会の情景」が感じられます。

 こうした都会的な雰囲気の決め手はボーカルや楽曲のアレンジにあります。例えば『モンロー・ウォーク』は浜辺の恋愛模様の歌詞にも関わらず、南 佳孝さんのボーカルと坂本 龍一さんのアレンジが相まって、軽快かつ客観的な印象の「都会の情景」に結び付いているように思えるのです。対して、郷 ひろみさんが歌った同曲のカバー『セクシー・ユー』はアイドル歌謡らしいアレンジで情緒的な雰囲気があり、おのずと人物にフォーカスしやすくなっています。シティポップと昭和歌謡の最大の違いはこの点にあるのかもしれません。

 シティポップのもう一つの特徴といえば「ドライブの情景」を想起させることです。しかも、演歌が北国への移動の情景を多用しているのに対し、シティポップは都会でのドライブ、あるいはリゾート感のある南国ドライブを思わせます。1980年代初頭のトロピカルブームなどの影響もあるのかもしれませんが、多くのアルバムジャケットが南国の海やアメリカ西海岸の風景をモチーフにしています。その代表格といえば、大滝 詠一さんの『A LONG VACATION』でしょう。収録曲の『恋するカレン』は清涼感に満ちた一曲で、ドライブにもってこいです。

 ドライブといえば、池田 聡さんの『モノクローム・ヴィーナス』も外せません。1980年代にスズキのアルトのCMソングに採用された楽曲で、都会の孤独を歌詞で表現しながらも、ユーロビートのようなテンポとアレンジによって疾走感も見事に表現しています。今の若い世代はあまり車に乗らない、出かけないと言われていますが、半面、ドライブをイメージさせるシティポップを好んで聴いています。ひょっとしたらシティポップを通じて、仮想ドライブに出かけているのかもしれませんが、音楽の醍醐味は自身の体験と重ね合わせて得られる感情の高ぶりや心地良さでもあります。インターネットやSNSの普及によって、私たちは労せずに多くの情報を得たり、疑似体験をしたりすることができるようになりましたが、若い世代には音楽をきっかけにより多くの体験をし、生活を豊かに彩ってほしいですね。もちろん、私たち昭和世代にとってもシティポップにはまだまだ〝発見〟があります。久しぶりに聴き直して、ノスタルジーに浸りながら、感性を磨いてみてはいかがでしょうか。

※英語の「mellow」に由来し、ここでは派手さがなく、穏やかなテンポでリラックスできるような曲調のこと

沖縄の代表的な昭和歌謡

『A LONG VACATION』ⓒTHE NIAGARA
ENTERPRISES INC.

『A LONG VACATION』

大滝 詠一

『恋するカレン』などを収録した1981年のアルバム。アメリカンポップの影響を受けた軽快なメロディ、何層にも音を重ねて生み出されたナイアガラ・サウンドと鼻にかかった伸びのある声が相まって、都会的でありながらも優しい大人の雰囲気を醸し出している。

『missing』ⓒテイチクエンタテインメント

『missing』

池田 聡

1986年にリリースされた池田 聡のデビューアルバム。デビュー曲であり、大ヒット曲でもある『モノクローム・ヴィーナス』が収録されている。その他の楽曲も個性派ぞろいだが、伸びのある高い声によって、全体を通して繊細で洗練されたイメージに仕上がっている。

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