
岡山 耕二郎 氏株式会社岡田商会 常務取締役
ネットショップに
キャラクター戦略を
掛け合わせ
ハンコ産業の未来を拓く!!
さまざまな逆境をはねのけてきた経営者にスポットを当てる本コーナー。 第6回目は斜陽産業となっているハンコ業界にあって、業績をV字回復させた (株)岡田商会 常務取締役の岡山 耕二郎氏にお話を伺いました。
Profile
[おかやま・こうじろう]家業であるハンコ町工場の2代目として、人気アニメのIP(知的財産)を活用した様々なハンコを企画。プレスリリースとSNSを活用した広報活動を通じて、累計15万本以上のヒット商品に育てる。また、独学で学んできたPRの知見を同じ中小企業に伝えたいという想いからPR事業部を設立、関西圏を中心にセミナーへの登壇や中小企業向けPRサポートを行う。
御社は1980年の設立とのことですが、まずはその経緯からお聞かせください。
岡山 耕二郎・岡田商会常務取締役(以下、敬称略) 創業者である父はもともとソニーの機械製品の販売店を営んでいたのですが、その事業が厳しい状況にありました。そんな事情から次のビジネスを模索していたそうです。出張先の山梨県で「この地域はハンコ作りが地場産業として有名で、〝ハンコ御殿〟もいたるところにある」と耳にし、その日のうちに現地のハンコ問屋を視察。地元(大阪市)に戻ってからすぐにハンコの製造卸業の岡田商会を立ち上げたそうです。
当時、ハンコは家庭、法人ともに必要不可欠な物でしたし、なにより利益率が高かったので、業績も堅調に伸びていきました。ところが、1998年頃からハンコのネットショップが、2000年頃からはフランチャイズチェーン店が誕生し、私が大学を卒業して当社に入社した2000年にはその勢いが急伸していました。実際、町のハンコ屋が2万円くらいで販売していた物が、半値以下で購入できるとあって、多くのお客様が離れていきました。こうした背景から当社も危機感を覚え、新たな販路を開拓するため、私が責任者となってネットショップを立ち上げることになったのです。
その結果はどうでしたか。
岡山 独学で「ハンコズ」というネットショップを立ち上げたのですが、当初はその他多くのネットショップに埋もれてしまい、ほとんど売り上げを立てることができませんでした。「商圏が全国に拡大する分、競争も激しくなる」という当たり前のことが全く理解できていなかったのです。何とかしようと、「Yahoo!」や「goo」などのポータルサイトにバナー広告を出そうとしましたが、既に空き枠がなく、自社サイトを広く知ってもらうことすらできない状態でした。
厳しい状況はしばらく続いたのでしょうか。
岡山 そうですね。しばらくすると、ポータルサイトのバナー枠に空きが出て、他にもGoogleのリスティング広告※が登場し、少しずつ効果的な広告を打てるようになり、アクセス数は増えていったのですが、さらに厳しい価格競争の波に飲まれ、利益がどんどん圧迫されていきました。広告費や人件費はおろか、家賃すらまかなえず、父からも「家賃も出せないようならやめてくれ」と言われる始末でした。
しかし、当社にとって、お客様に直接、ハンコを売ることができるのはこのネットショップしかなかったので、その後も何とか継続させようと思いつく限り手を尽くしましたが、出口が全く見出せなくなり、精神的にもかなり追い詰められてしまいました。
※検索結果に表示されるテキスト型の広告
その逆境をどのようにして乗り越えたのですか。
バリエーション豊富な「ねこずかん」
職人が海外向けのゴジラのハンコを彫っている様子
岡山 1匹の猫との出会いが転機になりました。15年に友人が経営している保護猫カフェに足を運んだところ、受付猫に一目惚れし、その日のうちに里親として引き取ることにしたのです。もっとも、当社の経営状況は依然として厳しく、社員15名程度の町工場でありながら、その年の9月、10月頃には月に1000万円以上の赤字を出すなど、非常に深刻でした。
先も見えない状況で、後継ぎでありながら、このままだと潰れると覚悟していました。その時、ふと目に入ったのが愛猫の存在でした。この子を迎え入れてから猫好きの友達も増え、ささやかな生きがいができていました。まずは身近な友達が喜んでくれる商品をつくろうと思い立ち、できたのがネコのイラスト入りハンコです。同年12月26日にネットショップで「ねこずかん」と銘打って販売しましたが、売れ行きは期待に反し、年明けの1月4日までの注文件数はわずか4件。思わず肩を落としてしまいましたね。
ただ、これで終わってはいけないと、プレスリリースにも挑戦してみました。見よう見まねで1月6日に配信したところ、その日の夕方から社内がざわつき始め、社員から「ねこずかんが売れています」という報告が入りました。わずか数日で5000件以上と、今まで見たこともないペースで注文が入りました。ニュースサイトなどをチェックすると、さまざまなメディアで紹介され、SNSで拡散され、その後もテレビや新聞社から取材依頼が次々と舞い込んできました。
すごい数ですが、無事に納品できたのでしょうか。
岡山 「これを乗り越えられたら次がある」と一念発起し、社員たちとともに全力疾走しました。私自身、過労で倒れたりもしましたが、お客様が理解を示してくださり、1カ月かけて何とか全てを納品することができました。あとになってから気付いたのですが、自分の名前と、猫好きにはたまらない、かわいい猫のイラストを組み合わせられること、銀行印にも使用できる意外性などがヒットの要因だったのではないかと思います。
その後も個性的なヒット商品を次々と生み出していますね。
岡山 「犬のハンコも欲しい」「鳥のハンコも欲しい」といったお客様のリクエストに応えながら商品開発に取り組みました。弊社で安売りしていた頃の倍くらいの価格帯でしたが、飛ぶように売れ、売り上げが上がるだけでなく、社員も自分たちが作ったものが評価されることに喜びを感じ、全社的にモチベーションが高まっていきました。
ポケモンや人気アニメとのコラボ商品も多数作っていますね。
岡山 2017年頃になると他社からも同じようなコンセプトの商品が次々と販売されるようになり、何か次の一手を打つ必要があると感じていました。そんな時、たまたま手塚治虫記念館を訪れ、手塚治虫さんが人生をかけて作り上げたマンガやアニメの素晴らしさに心を打たれ、その翌日にダメ元でプロダクションに連絡し、コラボ商品の提案をしてみたのです。すると、先方も興味を示してくださり、コラボ商品の第1弾「手塚ずかん」が誕生したのです。その後も大好きなマンガやアニメの版権管理会社を調べては提案し、次々と新商品を生み出していきました。ライセンス商品は同業他社の参入障壁がきわめて高いので、結果として差別化にもつながりましたね。
最後に今後の目標についてお聞かせください。
岡山 〝道具としてのハンコ〟の枠を越え、その可能性をさらに広げていきたいですね。また、最近は自社のノウハウを活かして立ち上げた材料卸事業やPR支援事業も好調なので、さらにシナジー効果を出せるようにしていきたいと思います。

