2022年06月号
情報検索のフィールドが多様化
~検索エンジンからSNS へ~
知りたい情報を調べる時、インターネット検索をすることは一般的になりました。しかし今、10代を中心とした若者の間では、 検索エンジンを使うのではなく、SNSで情報を検索する人が増えているといいます。企業もその動向を把握し、 今後のデジタルマーケティング施策に活かす必要があります。そこで本特集では、若者の情報検索の実態と、 SNSを使った検索とはどのようなものか、デジタルマーケティングなどを手掛ける(株)Wedia代表取締役の今井 信氏にお話しいただきます。
スマホの登場・普及でSNS利用者が拡大
近頃、「若者を中心に『SNS検索』が主流になっている」と言われますが、インターネットにおける「検索」の本質は変わっていません。インターネットという巨大な広場で必要な情報を見つけ出すための「検索」の手法として、新たにSNS検索が加わったというわけです。もちろん、これまでのGoogleやYahoo! JAPANなどの検索エンジンによる検索とは、ユーザー側の心理や情報へのアプローチの仕方が異なり、デジタルマーケティングのあり方も変わってきますので、今回はそのあたりについてお話しできればと思います。
その前に、まずはどのようにSNS、そしてSNS検索が台頭してきたのか、あらためてインターネット検索の歴史を振り返ってみましょう。2010年頃まではSNSを利用している人はごく少数に限られており、メディア(ウェブサイト)にリーチするには検索エンジンによる検索しか方法がありませんでした。が、その後間もなくしてSNS利用者層が爆発的に広がったのはご存じの通り。その背景には、何よりも2007年のiPhoneリリースに始まるスマートフォンの普及がありました。それまではメディアを見るためのツールといえばパソコンだけであり、しかも有線接続なので職場や家でしかインターネット検索ができませんでしたが、いつでもどこでもそれが可能になったのです。町を移動しながら「さて、どこの店に行こうか」と検索できるのは画期的でした。また、2012年の4G導入も大きな変化です。手元にiPhoneがあっても、通信速度が遅いうちは軽いテキストデータや小さな画像を閲覧するのが精いっぱいだったのが、4G以降はスマホが〝小さなパソコン〟と化し、外出先でも移動中でもInstagramの画像やYouTubeの動画を検索・閲覧できるようになりました。これらの好条件が整ったことで、SNSはYahoo! JAPANなどのポータルサイトに代わって、多くの人にとってインターネットにおける主な滞在場所となっていったのです。
潜在的なニーズに応えるSNS検索
こうした中、ユーザー側の行動もまた大きく変わりました。インターネットにおいてただ何かを調べる・探すのではなく、コミュニケーションを取ったり共有し合ったりする中で調べる・探す機会が圧倒的に増えたのです。つまり、元々「探そうとは思っていなかった」、けれど「見ているうちに気になったから探そう」という潜在ニーズからの検索行動です。例えばTwitterのタイムライン上に気になるワードや話題が登場したら、そのまま関連するつぶやきを追いかけてみたり、Instagramのハッシュタグで同じテーマやモチーフ、傾向の画像を一挙に表示させて見比べてみたり、といったいわゆる潜在ニーズを前提とした「SNS検索」がどんどん行われるようになっていきました。
従来からある検索エンジンの代表格、Googleはとにかくユーザー側に明確な目的がある時の検索行動をするための場、言うなれば「顕在化したニーズ」に応えるサービスに特化してきたのですが、それに対してSNSはユーザーの「潜在的なニーズ」に応えるサービス。タイムライン上に「友だち」が発信・共有した、あるいはユーザーの趣味趣向に合致したさまざまな情報が流れてきて、ユーザーはそれを眺めながら自身が興味を抱いた投稿や画像、動画を入口として検索行動へと移っていくのです。
このようなSNS検索の広がりに合わせて、ホームページをSNSで代用する小規模事業者や飲食店、小売店なども増えました。TwitterやInstagramのアカウントさえあれば、情報の受発信もコミュニケーションも事足りるし、むしろ中途半端なホームページを作成するよりも集客につながりやすい、というわけです。
膨大なデータを収集するGoogleの優位性
ただ、だからといって「これからの時代はSNSをデジタルマーケティングのメインフィールドとして活用していくべきだ」というのは早計です。なぜなら、明確な目的をもって検索行動をしている人のもとに商品やサービスの情報を届けることがデジタルマーケティングの基本中の基本であり、潜在的なニーズより顕在化したニーズに応えるほうがインターネット広告の効果が各段に大きいからです。そもそも「若者はみなSNSでしか検索しない」といっても、市場規模としてはGoogleのほうが何倍も大きいのが現状です。
Googleの強みは、端的に言えばとにかく膨大なデータを収集していること。検索エンジンのみならず、オリジナルのブラウザ「Google Chrome」やOS「Android」を開発し、それぞれあっという間にシェアを拡大、数多くのユーザーのさまざまな特性に応じた動きや傾向をデータとして収集する体制を整えました。さらに「Google Earth」ではオフラインの世界までもデータ化するに至っています。こうした膨大なデータを詳細に分析することで、インターネットにおけるマーケティングの最適解を導き出すことができるため、Googleは断トツのデジタルマーケティングフィールドとなっているのです。
事実、インターネット広告の市場規模は全体で2兆円ほどで、デジタル市場競争会議の2021年4月の報告によれば、そのうち検索連動型広告が占める割合が 38・6%ともっとも大きく(6787億円)、次いでディスプレイ広告が32・6%(5733億円)、これら検索エンジンを対象とする広告が全体の70%以上を占めています(ちなみに次に大きいのはビデオ(動画)広告で22・0%(3862億円))。これに対してソーシャルメディア(SNSや動画共有プラットフォーム)で展開される広告については広告媒体費の32・4%(5687億円)、SNSは顕在化ニーズ特化型のGoogleには遠く及びません。
SNSにおける広告は、あくまでもニーズ自体ではなく人にアプローチするものです。例えば新製品のパンの販売促進のため、インターネット上に広告を出すとしましょう。Googleであれば「おいしいパン オススメ」といったワードで検索する層にピンポイントで広告をぶつけることができますが、Instagramでは画像検索などの傾向から「このパンを買ってくれそうな人」に向けて広告を打つことになります。顕在化したニーズをキャッチアップする仕組みはSNSにはまだないので、おそらく10年後もデジタルマーケティングにおけるGoogleの優位は変わらないと思います。
SNS広告の市場拡大に貢献するインフルエンサーたち
とはいえ、SNS広告の市場が成長を続けているのもまた事実、「20年後には1兆円規模になる」とも言われています。一つには、すでに広く行われているインフルエンサーマーケティングに大きな可能性があると思います。これはユーチューバーやインスタグラマーなど、SNS上で影響力を持つ「インフルエンサー」に製品やサービスを紹介してもらい、口コミで消費者の購買などにつなげるデジタルマーケティング手法のことを指します。例えば、あるタレントがInstagramのライブ配信(インスタライブ)である化粧品を紹介、絶賛し、それを見た人が「この商品が欲しい」と実際に購入したとしたら、そこにはもはや検索エンジンによる検索行動は発生しません。つまり、SNS上で潜在的なニーズから購買行動に至る流れが成立するわけです。このようなインフルエンサーマーケティングのコンテンツの増加やノウハウの蓄積によって、SNS広告の市場規模は大きく拡大していくのではないでしょうか。
では、現時点においてどのような視点でデジタルマーケティングを展開していくべきか、ということを最後にお話ししましょう。結論から言えば、Google検索重視とするか、SNS検索重視とするかは広告を打つ目的や分野に合わせてその都度考えていくしかありません。例えば美容外科業界やフィットネス業界など、潜在的なニーズを持つ人が多く、かつ画像や動画で商品やサービスの魅力を伝えるのに適した分野はInstagramと非常に相性が良く、SNS広告の効果は大きいと思います。
しかし、必ずしもそうした明確な予測が立てられるわけではないので、どんな商材や分野であっても、まずは顕在化しているGoogle などの検索エンジンに広告を出し、顕在化しているフィールドで獲得が十分できた、ないしは競合性が高すぎて顕在化は狙えないとなってから、潜在ニーズを対象とする各種SNSに広告を打つというのが正攻法です。実際に運用していく中で競合性や広告のトレンドなどは刻々と変動していきますので、それぞれの反応を見て、費用対効果が大きいところに徐々に的を絞っていくのが良いでしょう。何にせよ、インターネット上で広告を打つ場合には潜在的なニーズにアプローチしたいのか、顕在化したニーズにピンポイントで情報をリーチさせたいのか、それぞれの特性を踏まえた戦略を描いた上で事に望むべきだと思います。