ご当地自慢
2022年06月号
日田市・玖珠町
大分県といえば〝おんせん県〟ですが、今回ご案内するのは豊かな自然に包まれ、 古くからの文化が薫る県西部地域の日田市と玖珠町。福岡都市圏や別府、湯布院といった温泉地からも好アクセスで、 いずれにも趣深い町並みが広がっています。さっそく、各所に点在する魅力的なスポットを紹介していきましょう。
天領ならではの町並みを歩き特産品をお土産に
まずは江戸時代に天領(幕府直轄地)として栄えた日田市から。その歴史と文化が凝縮された中心街、豆田町をご紹介します。この一帯には昔ながらの土塀・白壁の建物や石畳のあるレトロな町並み(①)が広がっており、趣深い通りをゆったり歩くだけでも楽しいのですが、ぜひとも立ち寄ってほしいスポットが満載。その筆頭が「ひな人形ミュージアム ひな御殿」(②)です。かつて、日田市は幕府直轄の経済の中心地として九州随一の繁栄を極め、その中で絢爛豪華なひな人形の文化を生み出しました。町内には現在も年代ものの立派なひな人形を保管している旧家が多く、毎年2月中旬から3月いっぱいにかけて開催される「天領日田おひなまつり」ではそれらが一斉に公開されます。そんな期間限定公開のひな人形を常設展示しているのがこの「ひな御殿」。館内には老舗味噌・醤油蔵の(有)日田醤油(後述)の先代が全国各地から収集した3800体以上のひな人形と4500個以上の雛道具が展示されており、その雅な美しさはまさに圧巻です。
次にご紹介するのは「天領日田 はきもの資料館」。ここは、下駄の三大産地のひとつとして知られる日田市で長年、下駄を製造してきた(株)オオツカが開設した直売所兼資料館(③④⑤)。直売所ではスギ、ヒノキ、キリなどさまざまな素材の下駄が販売されており、中でも地元・日田杉でつくった「日田下駄」がオススメ。同社取締役会長の大塚 豊三郎さんによれば、その特徴は「木の表面を焼くことで浮き上がった木目」。模様の美しさもさることながら、「自然の木目がかすかに足裏を刺激し、通気性も良くベタつかない」そうです。家履きや散歩用、浴衣下駄などに買い求める観光客が多く、バランスを取るのが難しい「一本歯下駄」も「体幹を鍛え、健康な体を保てる」とスポーツ選手や若者を中心に人気だとか。お土産にいかがでしょうか。
さて、お土産といえば日田醤油も有名です。約170年の歴史を持ち、天皇献上の栄誉も賜った由緒正しい味噌・醤油蔵の(有)日田醤油が掲げるコンセプトは「自然の素材を自然に扱う」こと。厳選された素材を用い、昔と変わらぬ仕込みで醸された深いコクがある醤油「これ一本」や各種味噌はもちろん、生野菜・温野菜がごちそうになる「MISO DIP」シリーズなど魅力的な逸品が揃っているので、じっくりお気に入りを選びましょう(⑥)。
また、散策の途中でお腹が空いたらぜひ食べてほしいのがご当地グルメの「日田焼きそば」(⑦)。茹でた麵の表面を鉄板でパリッと焼き、大量のモヤシを投入して作る焼きそばです。麺のパリパリとモヤシのシャキシャキがたまりません。お試しあれ。
日田が生んだ偉人淡窓の足跡をたどる
もう一つ、日田市の歴史と文化を語る上では咸宜園跡が外せません。咸宜園とは、日田生まれの儒学者で詩人の廣瀬淡窓が文化14年(1817年)に開いた私塾のこと。実力主義を徹底し、学力を客観的に評価する「月旦評」を実践、塾生に自治を任せるなど独自の教育法が評判になり、実に5000名以上の門下生が全国から集まりました。咸宜園跡は現在、国の指定史跡となっており、隣接する咸宜園教育研究センター(⑧)では咸宜園や廣瀬淡窓、門下生について詳しく学ぶことができます。
日田市にはここで紹介した豆田町界隈以外にも、車でちょっと足を延ばせば焼き物の窯元がのどかな集落に点在している「小鹿田焼の里」(⑨)、日田市出身の漫画家、諫山創さんの大ヒット作『進撃の巨人』と市がコラボして建てた銅像(⑩)やミュージアムなどがあるので、興味がある方はドライブがてら巡ってみてください。
小さな城下町のある「童話の里」
続いて、日田市のお隣りにある玖珠町をご紹介してまいります。この町の特徴はなんといっても、「メサ」と呼ばれる上部が平らなテーブル状の山がいくつもあること。中でも町のシンボルとなっているのが伐株山で、この山にはその昔、天にも届く巨大な楠を大男が伐り倒してできた伐り株が山になったのだ、という伝説が残っています。頂上は真っ平らな草原で、玖珠の美しい町並みが一望できます。車でアクセスできるため、休日にはピクニックや散策に訪れる人でにぎわう人気スポットです(⑪)。
玖珠町はこのような山々に囲まれた盆地になっていることから寒暖差が激しく、農作物がよく育ち、とくに米(ヒトメボレ)は「玖珠米」としてブランド化され、JR九州の高級寝台列車「ななつ星」のレストランにも採用されている逸品。町内で栽培されている原木しいたけも非常に品質が高く、ふるさと納税などでも人気です。
また、玖珠町は「日本一小さな城下町」があることでも有名です。江戸時代、この地を治めていたのは豊後七藩の中で最も小さな藩として知られた森藩。その藩主の久留島家のルーツは瀬戸内海の来島水軍(村上水軍の一軍)で、来島長親が関ヶ原の戦いで西軍について敗れたことで、海のない豊後森藩に移されたといいます。その後、小さな藩ながらも270年にわたる藩政の中で森町界隈(⑫)は美しく整備され、現在もメインストリートには白壁の蔵屋敷が軒を連ね、その先には8代藩主久留島通嘉が造り上げた見事な城館庭園もあります。
この通りを歩くと、通り沿いにいくつもかわいらしい石像が佇んでいるのに目が留まると思います。これは世に童話を広め、日本の児童教育の土台を築いた口演童話家、久留島武彦氏が玖珠町出身であることから、地域をあげて行われている「童話の里」をテーマとしたまちづくりの一環で建てられたものです。町内にはその久留島武彦氏の足跡を伝える久留島武彦記念館(⑬)がある他、玖珠町商工観光政策課は現在、久留島氏の大好物だったすき焼きを名物にしようと広報に注力しています。現在、7店舗で「おおいた豊後牛」や地元産野菜、しいたけを使ったすき焼き(⑭)が食べられます。
貴重な鉄道遺跡は一見の価値あり
豊かな自然、小さな城下町、そして童話の里とさまざまな顔を持つ玖珠町ですが、最後にもう一つ紹介したいのが「鉄道の町」としての顔です。玖珠町には昭和初期、久大本線の全線開通に合わせて蒸気機関車の車両庫がつくられ、最盛期には25両もの蒸気機関車が所属し、1日の利用者数は5000人以上だったといいます。1970年のディーゼル化に伴い役目を終えましたが、その後、九州で現存する唯一の扇形機関庫として国の登録有形文化財に。現在も機関庫と転車台、そして蒸気機関車を見学できます(⑮)。迫力満点ですので、コアな鉄道ファンならずとも一見の価値ありです。
日田市、玖珠町と駆け足でご紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。古い歴史と文化に彩られた大分県西部地域にぜひ一度おいでください。