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シリーズ企画

2022年10月号

「Z世代」のことを知る

1990年代中盤から2000年代序盤生まれの「Z世代」と呼ばれる若者たち※。彼らは生まれた時点でインターネットが 普及していたデジタルネイティブであり、情報の受発信なども含め、現在のトレンドを牽引している存在です。その興味・関心、 そして志向性にはどういった特徴があるのでしょうか。若者文化に詳しいマーケティングアナリストの原田 曜平氏に お話を伺い、Z世代の特徴やビジネス上の付き合い方などについて解説していただきました。
※米国で1960年代中盤~1980年頃生まれが「X世代」、1980年頃~1990年代中盤生まれが「Y世代」、それに続く世代という意味でZ世代と呼ばれます。

原田 曜平 氏

マーケティングアナリスト

原田 曜平 氏

1977年東京生まれ。広告業界で各種マーケティング業務を経験した後、2022年4月より芝浦工業大学・教授に就任。その他、信州大学・特任教授、玉川大学・非常勤講師。BSテレビ東京番組審議会委員。マーケティングアナリスト。専門は日本や世界の若者の消費・メディア行動研究及びマーケティング全般(調査、インサイト開発、商品・パッケージ開発、広告制作など)。2013年「さとり世代」、2014年「マイルドヤンキー」、2021年「Z世代」がユーキャン新語・流行語大賞にノミネート。主な著書に『寡欲都市TOKYO 若者の地方移住と新しい地方創生』(角川新書)、『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』 (光文社新書)、『アフターコロナのニュービジネス大全 新しい生活様式×世界15カ国の先進事例』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。

「チル」と「ミー」を重んじるZ世代の若者たち

 「Z(ゼット)世代」は欧米発の概念で、「1990年代中盤(または2000年代序盤)以降に生まれた世代」(10代前半~25歳くらいまでの若者)を指します。移民・難民やその子どもたちも多い欧米諸国では、このZ世代の人口が他の世代に比べて多く、消費の面からも大いに注目されています。また、日本においても市場や企業が持続的な成長を遂げるためには、これからの市場を担い、情報の受発信能力が高いZ世代に振り向いてもらうことが喫緊の課題となっており、ここ最近、急速に注目度が高まっています。

 では、Z世代にはどのような特徴があるのでしょうか。まず、すぐ上の世代である「ゆとり世代」(「ゆとり教育」を受けた1987年~1995年生まれの世代)とZ世代とでは、生きてきた時代背景が大きく異なります。ゆとり世代が生きた時代の大半は平成不況下にありましたが、Z世代は人生の多くをアベノミクス経済下で過ごしてきました。結果、ゆとり世代が「失われた20年」、そして就職氷河期を経験してきた一方で、Z世代は超売り手市場の中で「ダイヤモンドの卵」と呼ばれ、不安や競争の少ない安心・安定した生活を送ってきたのです。

 そうした中で、Z世代は「チル」と「ミー」という二つの価値観を育んできました。チルとは、もともとはアメリカのラッパーたちのスラング※1で、「chil out」の略です。日本語では「まったりする」という言葉が近いニュアンスになると思います。より具体的にいうと「マイペースに居心地よく過ごす」ことであり、Z世代の若者たちはどんなに楽しい仕事よりもプライベートでのチルな時間をはるかに好みます。彼らは「働き方改革」や「ワークライフバランス」といったキーワードの普及とともに育ったわけですが、そういった時代背景もまたチルという価値観を育む要因になったのかもしれません。
※1 俗語、略語、若者言葉などを総称した言葉

 もう一方のミーはZ世代特有の過剰な自意識を意味します。もっとも、若者は昔から自意識過剰であり、自分のことだけしか考えられないわがままな存在だったかもしれません。しかし、長らく若者研究をしてきた私の実感では、Z世代の自意識はゆとり世代以上に拡大しています。ゆとり世代まではかろうじて年功序列や縦社会的な感覚、組織に尽くす「for all」の感覚が残っていたように思いますが、Z世代ではそれらが減退し、代わりに「for me」の感覚が強烈になっているのです。しかも、それは個人主義化が進んだというわけではなく、あくまで同調志向の中で自意識を高めるといった性質のものです。日常生活でもSNS上でも周囲から「いいね」という承認をもらって生きてきたせいか、また多くの大人の寵愛を受けて育ってきたせいか、Z世代はある種のプチ万能感を有しているのです。

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 ただその反面、Z世代は繊細さと脆さも同時に持っており、日常生活にストレスや不満足感も抱き続けています。事実、2020年の「Z世代白書」(TikTok Ads)でも「日常生活にストレスを感じている」(Z世代60・6%)、「日常生活に満足していない」(同58・5%)、「孤独を感じることがある」(同56・1%)などの項目で、Z世代の数値は上の世代よりも高くなっています。その背景にはSNS上で他者とつながりやすくなった一方で、悪目立ちすると噂や陰口が広がってしまうといった、ある種の「新村社会」が構築されてしまったことがあるのかもしれません。

 ところで、マスメディアの論調の中には「Z世代の若者はSDGs※2に対する意識が高く、社会貢献に積極的な傾向がある」といったものがありますが、私は決してそのようには感じません。もちろん、優秀な若者の中にはそういった高い意識を持つ人材もいますが、多くはゆとり世代以上に自分のことばかりを考えているでしょう。ただ、芸能人や海外セレブたちの影響もあって、ファッション的な感覚でSDGsやエコに取り組むケースは散見されます。無印良品の詰替ボトルが人気を集めたのも、そういったムードありきのものと思われます。また、最近はヴィーガン※3に傾倒する若者が増えていますが、これも芸能人や海外セレブたちの影響によるもので、当の若者たちはヴィーガンが本来、どのようなものなのかすらあまり把握していないようです。
※2 2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標 ※3 完全菜食主義者

コロナ禍を経て多様化するZ世代の消費傾向

 次にZ世代の消費傾向についてご紹介しましょう。平成不況によって若者の消費離れは急速に進みましたが、Z世代に関してはアベノミクス景気の下、一部の消費意欲が拡大傾向にあります。その特徴として面白いのが「間接自慢」です。これは私の造語の一つで、直接的に他人に自慢するのではなく、間接的に他人に自慢したいという欲求や間接的に自慢する行為を意味します。SNSの投稿一つとっても、直接的な自慢だと新村社会において村八分になってしまいかねないため、多くのZ世代があえて間接的な手法を採用しているのです。

 例えば、ある女性がSNSに「東京出張行って来ました」という書き込みとともに、新幹線のチケットの写真を投稿したとします。ですが、この投稿で伝えたいのは東京出張という事実ではなく、その写真の端っこに写り込んでいるブランド品を東京で買ったこと、それがとても可愛いことだったりするわけです。こうしたZ世代の欲求を見事に掴んだのが「診断シェア」と呼ばれる一連のサービスです。アプリやサイトで自分の顔や性格を診断してもらい、その結果をSNSに投稿することができるというサービスなのですが、これを使えば間接的に自分の特徴をアピールすることができるとあって、今もZ世代の間でヒットし続けています。ちなみに、間接自慢の影響はインスタグラムやツイッターに投稿する自撮り写真にも表れています。自撮り写真をそのまま載せると自意識過剰と思われてしまいかねないので、この診断アプリの他、自撮り写真を加工できるゲームフィルターなどを免罪符として活用しているのです。

 こうしたトレンド以外にも、令和に入ってからは「映えピク」(インスタ映えするピクニック)、「チェンジング」(注いだお湯の温度で色が変わるマジックマグカップなど、従来は変化しなかったモノが変化するようになったモノ)などが流行りましたが、コロナ禍以降はさらに続々と新たなトレンドが生まれています。

 友情確認をテーマにしたトレンドもその一つで、友人たちと会える機会が減ったことから、アクセサリー作りを楽しめるカフェやバーなど、体験型の飲食店が人気を集めています。また、コロナ禍の鬱憤を晴らすようにさまざまなチャレンジに興じるZ世代も続出。ホカンス(ホテルでバカンスの略)やハイブランドが出店したカフェなどでのセレブ体験が大人気です。さらに、一人時間が増え、情緒不安定になる若者が増えたこともあって、瞑想やサウナ、ユーザーの思考や感情を分析し、フィードバックしてくれるAIジャーナリング・アプリ「muute(ミュート)」などが一世を風靡しています。

企業が推進すべきZ世代との付き合い方

 こうした特徴を持つZ世代と接する際には、彼らがチルとミーを重んじていることをしっかりと念頭に置かなければなりません。一例としては、Z世代の多くが自意識の高さゆえに「いじり」を受け付けなくなっていることに注意しなければなりません。かつては距離感を縮めるために、いじりがコミュニケーションの手段として使われることがありましたが、Z世代はいじりを極端に嫌います。日常生活でもSNSでも「いいね」をもらってきた彼らにとって、短所を突かれるいじりにはストレスしかありませんし、ともすればパワハラやセクハラの一種と捉えられることもあるでしょう。同世代同士であれば許容されることがあるかもしれませんが、年齢が離れているのであれば、基本的にいじりはNGと考えていたほうがよいと思います。

 もちろん、自意識や自己承認欲求が強いZ世代を頭ごなしに叱りつけたりするのも言語道断です。でも、時にはアドバイスや指導をしなければならない時もあるはず。そういう時には「9割褒めて1割は改善提案」というスタンスを貫いてください。仮に褒めるところがなくても9割は褒めることに徹し、残りの1割で「こうしたらもっと良くなるのに」と改善提案をするのが効果的です。もちろん、「俺の背中を見て学べ」という昭和スタイルもNG、適度な距離感をとりながら、褒めることを軸にしたコミュニケーションを心掛けるといいでしょう。

 コミュニケーションの取っ掛かりに自信がなければ、まずは一人ひとりの「推し」(好きなアニメキャラクターやアーティスト、アイドルなど)を聞いてみるのも一案です。Z世代の多くは情報社会の中で、多くの推しを持っているので、何かしら共通項を見出すことができれば、話を広げられるかもしれません。

 いわゆる「飲みにケーション」をどうすればいいか迷う方もいるかもしれませんが、プライベートを重んじるZ世代に対しては、できるだけ仕事の一部として飲み会を設定することが望ましいと思います。シリコンバレーの一部の企業では、飲み会は就業時間中に自由参加で、かつ会社の費用で実施しているそうですが、理想をいえばそういったスタイルを目指すべきです。

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 冒頭でZ世代がダイヤモンドの卵であると紹介しましたが、今なお超売り手市場は続いており、優秀な若者を採用するには企業側も若者に寄り添うことが求められます。その時には先ほど述べたようにミーを意識したコミュニケーションの他、チルに焦点を当てた福利厚生にも気を配ってほしいと思います。ネットフリックス(動画のサブスクリプションサービス)を福利厚生に加えたり、女子社員に美容代として2万円を支給したりして話題になったベンチャー企業がありますが、Z世代にとっては軽井沢の保養所に宿泊できるといったことよりも、プライベートな時間をまったりと楽しめることのほうが魅力的なのです。場合によってはチルの代表的なコンテンツであるシーシャ(水タバコ)店に通えるチケットを支給するといったこともウケるかもしれませんし、社員食堂についてもインスタ映えやヴィーガン志向などを意識してみるといいかもしれません。

 人事労務の方針にしても、Z世代からするといかに社員のプライベートに寄り添い、応援してくれるかといったことがポイントになります。そういった観点からいえば、副業を推進し、プライベートがより充実するようにしてあげることもアピールポイントになるはずです。

 オフィスの外装・内装をはじめとした雰囲気づくりも重要なポイントになります。チルとミーを重んじるZ世代にとっては、同じ仕事をするにしても、いかにオシャレな空間で働けるかということがこれまで以上に重要になるからです。それこそインスタ映えするチルな空間であれば、多くの若者たちが憧れを抱いてくれるはずです。

Z世代の感性を重んじ効果的な採用・活用を

 最後にZ世代が優しい感性を持っているということにも触れておきたいと思います。Z世代はSDGsやエコ意識が決して高くはないと述べましたが、彼らの多くはむやみにポイ捨てすることを嫌いますし、LGBTQをはじめとした多様な価値観にも寛容です。チルでまったりした時間や空間を好むとともに、人や環境に対して優しさを示す世代でもあるのです。そういった点からも、企業は刺激よりも優しさを重んじた施策を重視した方がよいかもしれません。

 他方、Z世代ならではの感性を活かした仕事を振ることも、彼らの自己肯定感を満たし、さらに積極的に働いてもらうための方策になると思います。例えば、子どもの頃からスマートフォンに慣れ親しんだ彼らにとって、同世代に訴求する動画をはじめとしたコンテンツを作成するのはお手の物、その能力を活用して広報などの業務を担ってもらうのもいいかもしれません。

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 Z世代についてさまざまな視点からお伝えしてきましたが、読者の皆さんの中には「ここまで寄り添う必要があるのか」と思う方もいるかもしれません。特に地方の場合は賃金面で不利ですし、Z世代の物欲などを刺激するモノが少ないといった問題がありますが、そうであればまず地域の魅力を知っている地元出身者を対象にしたリクルート活動を展開してみてはどうでしょうか。また、世代間のギャップを埋め、円滑なコミュニケーションを図るために、Z世代の考え方を理解する研修などを実施してみるのも効果的でしょう。冒頭で述べた通り、Z世代はこれからの時代を支える重要な存在であり、その採用・活用なくしては企業の持続的な成長はありえません。そのことをあらためて認識いただき、これからの企業経営の参考にしていただきたいと思います。

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