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関東信越会独自企画

2022年10月号

栃木県佐野市で進める
移住促進策「佐野らーめん予備校」

栃木県佐野市(金子 裕市長)では、市への移住とラーメン店の創業や事業承継をワンセットで支援するプロジェクト 「佐野らーめん予備校」を実施しています。2020年のスタート以来、9世帯19人が佐野市に移住し、ラーメン店3店舗が 独立開業を果たしました。早速、このユニークなプロジェクトを運営する佐野市総合政策部総合戦略推進室移住・定住係の 西沢 治氏と予備校事務局代表者の若田部 賢氏に事業の内容と目的、受講生の現況などをご紹介いただきました。

佐野市への移住を見据えた「佐野らーめん店」の開業を支援

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佐野らーめん予備校のロゴ

 栃木県佐野市は県南部に位置し、宇都宮、小山、足利、栃木、那須高原に次ぐ県6番目の人口規模の都市です。都内から70km、電車やバス、車で1時間半以内という便利なアクセスと豊かな自然、『万葉集』にも詠まれた歴史と文化の街としても有名です。

 そんな佐野市が誇るご当地グルメといえば「佐野らーめん」です。青竹で延ばす「青竹打ち」で打ったコシのある縮れ麺と澄んだ醤油味のあっさりスープが特徴のラーメンで、良質の小麦粉とまろやかなおいしい水から生まれるもちもちとした食感、独自の味とコクに魅かれて県外からも多くのファンが訪れます。人口約11万5500人(2022年8月現在)の佐野市内には150店舗以上のラーメン店があり、人口当たりのラーメン店舗数では全国でも上位となっています。

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予備校共同代表の若田部 賢氏。本業はグローバルアクションパートナーズ(不動産業)。移住先や空き店舗探し、修業先の紹介などを行う他、商工会議所や地元金融機関、佐野らーめん会などの関係機関との連携を行っている

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佐野市役所近くにある「佐野らーめん予備校」の外観。レンタルキッチンを借り上げて使用、調理実習用の厨房と座学教室がある

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佐野らーめんとジンジャー竜田

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青竹打ち」を指導する五箇氏。青竹打ちは体力勝負だ

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第5期生に指導する調理講師の五箇 大成氏。

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人気の老舗佐野らーめん店「日光軒」の元店主で、青竹による麺打ち、スープ、具材、盛り付けまで基礎的な佐野らーめんの調理ノウハウを指導

 しかし、その一方で既存の佐野らーめん店については、高齢化やコロナ禍などによる後継者不足で閉店を余儀なくされている店舗があることも事実です。また、その他の地方都市と同様、佐野市では都市部への人口流出や少子高齢化などによる人口減少が進行しています。こうした中、市としても危機感を持って移住・定住促進施策を進めていくことになり、「佐野市への移住を見据えた佐野らーめん店の独立起業を支援」というユニークな趣旨の「佐野らーめん予備校」プロジェクトを始めたのです。

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青竹打ちは佐野に住んでいた中国人料理人が、
広東省で見られる青竹を使用して製麺する
技術を大正初期に伝えたことから
始まったとも言われている

 全国でもユニークな移住促進策としてメディアでもたびたび紹介していただきましたが、このプロジェクトは移住定住促進の一環として「移住」を推進しながら、佐野市ならではのラーメン店の創業をバックアップするものです。そもそも移住となると「安定した仕事」が必要ということで、週末に人気のラーメン店に行列ができていることに着目、移住後の安定した仕事として「佐野らーめん店」を創業してもらうという構想を打ち出し、国の地方創生推進交付金を活用して20年8月から佐野らーめん予備校をスタートしたのです。しかし、佐野らーめんを伝授する予備校を行政が単独で運営することはできません。そこで「地元愛」「らーめん愛」のある民間プレイヤーの協力の下、市と地域が連携してこのプロジェクトを推進していくことになりました。

 ちなみに、安定した仕事として佐野らーめん店の経営を選んだ理由の一つに、その廃業率の低さがあります。過去10年間のデータを調べてみると廃業率は13%ほどとなっており、これなら「安定した仕事」として大丈夫だと確信したのです。

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基礎研修での座学の様子

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平打ち縮れ麺が特徴の佐野らーめん

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2022年8月に開講した第8期の3人の受講生。出身や年齢、職業はさまざま

予備校への入学条件は「移住」と「熱意」のみ

 このプロジェクトはご当地グルメとして重要な財産である「佐野らーめん」を今後も守っていくための施策でもあります。後継者不足により空き家、空き店舗が増えると防犯上の問題もあるので、予備校修了生には新規開業に加えて、既存店の承継開業という選択肢も用意しました。

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伝統的な佐野らーめんの特徴は澄んだ
あっさり系のスープ

 その成果は着実に上がっており、このプロジェクトが本格的にスタートする前にプログラム開発に参加していただいた第0期生の参加者を含めて、現在9世帯、19名が移住してくれました。そして、そのうち3名が独立開業を果たしています。

 そんな佐野らーめん予備校のカリキュラムは約2カ月間の基礎研修から始まります。佐野らーめんに関する知識から麺やスープの作り方や盛り付け方法、メニュー作成、開業に必要な営業許可、税金関係の申請・届出方法、保険手続き、融資に必要な事業計画書の書き方、自治体からの助成金や補助金の申請方法までさまざまな内容が盛り込まれています。

 この基礎研修が修了すると今度は本格的な修業に入ります。新規開業か事業承継かによって修業期間は異なりますが、その期間は概ね1~3年ほど。参加資格は基礎研修中もしくは研修後に速やかに移住していただくことのみで、移住や開業時の人材・不動産・資金運用計画などについても各分野の専門家がワンストップでサポートします。

予備校の自走化を目指し収益化を図る工夫も

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 昨年度は、コロナ禍で思ったように研修を実施できませんでしたが、今年度(22年度)は切れ目なく研修を実施する予定です。順調に実施できれば、6期から12期生までを輩出したいと考えているところです。

 また、現在は国の地方創生推進交付金事業として実施していますが、いずれは民間による自走化を目指していきたいと考えています。移住とワンセットとなった研修に加えて既存店の経営相談、佐野らーめんの青竹打ち体験などのバリエーションを展開して、受講者数の確保、佐野らーめん予備校ならではの商品開発などで収益化を図っていきたいと考えています。

 佐野らーめんは佐野市にとって大切な財産です。新規開業店と既存の佐野らーめん店、関係者で一丸となって、市全体の活性化を図っていきたいと思います。

「佐野らーめん 佐よし」(佐藤 義之氏が2022年3月に開店)

「佐野らーめん 佐よし」(佐藤 義之氏が2022年3月に開店)

「麺屋ブラス」(菅原 勝之氏が2021年12月に開店)

「麺屋ブラス」(菅原 勝之氏が2021年12月に開店)

「青竹手打ち佐野らーめん 晴れる屋」(小林 隆宏氏が2021年4月に開店)

「青竹手打ち佐野らーめん 晴れる屋」(小林 隆宏氏が2021年4月に開店)

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