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シリーズ企画

2023年03月号

物流の2024年問題を考える

最近、運輸・物流業者の間で「2024年問題」が話題になっています。これは働き方改革関連法によって 2024年4月1日以降、自動車運転業務の年間時間外労働時間の上限が960時間に制限されることによって発生する さまざまな問題(運送・物流業者の売上減、ドライバーの収入減など)のことを指します。 そこで、物流コンサルティングサービスを手掛ける船井総研ロジ(株)の河内谷 庸高氏に 「2024年問題」の概要とその対策についてお話しいただきました。

河内谷 庸高  氏

船井総研ロジ株式会社
ライン統括本部
物流ビジネスコンサルティング部
部長

河内谷 庸高 氏

2006年船井総研グループに入社。入社以来、運輸・物流業を中心に、業績アップコンサルティングを展開。運輸会社・物流会社向けに、マーケティング戦略の立案や運賃交渉支援、デジタル化・業務効率化、ドライバー採用強化といったテーマをメインにコンサルティングを行っている。物流企業経営研究会「ロジスティクスプロバイダー経営研究会(会員数約300社)」を主宰。

運輸・物流業界を揺るがす「2024年問題」の影響

 働き方改革関連法が施行され、大企業では2019年4月から、中小企業では2020年4月から時間外労働の上限規制(年間720時間)が適用され始めましたが、運輸・物流業者業界については5年間の猶予期間を経て、2024年4月からの適用となります。その内容は自動車運転業務の年間時間外労働時間の上限を960時間に制限するというものです(その他、2023年からは月60時間超の時間外割増賃金率が25%から 50%に引き上げられます)。その結果、ドライバーの1カ月当たりの時間外労働時間の上限(ドライバーが月間22日勤務、1日1時間の休憩の場合)が98時間から80時間に引き下げられることになり、運送・物流業者の売上やドライバーの収入に大きな影響が出ると見られています。

 まさに今、運輸・物流業者業界やドライバーはこの法令への対応を急いでいるわけですが、現状、1カ月当たりの労働時間を275時間以内(2024年4月以降の法定労働時間173時間+時間外労働時間80時間+休憩時間22時間)に抑えられている事業者はまだほとんどいません。特に長距離ドライバーは現在の改善基準告示である月293時間(そのうち時間外労働時間は98時間)を遵守するのも困難な状況にあるのです。また、国土交通省の「トラックの輸送状況の実態調査結果」で1運行の拘束時間を見ても、現状では長距離ドライバーの44・3%が16時間となっており、いかに今回の労働時間の制限がシビアなものであるかがうかがえます。特に事業規模が小さい事業所については対応が難しく、「2024年問題」を前にして「事業を譲渡したい」という声も上がっているほどです。現に2006年から2019年にかけての車両規模別運送会社数の推移を見てみると、車両数が30台未満の事業者は減少傾向にありますが、それ以上の数の車両を有している事業者は増加傾向にあり、業界全体で徐々に大規模事業者への集約が進展していることが分かります。おそらくこの傾向は「2024年問題」を機にさらに加速していくのではないかと思います。

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3つの対策を実施し高効率な輸配送を実現

 では、この難問に事業者はどのように対応すべきなのでしょうか。シンプルに効果を上げられるのはドライバーの出勤日数を減らすことなのですが、それでは売上が減少するのはもちろん、十分な給与を得られなくなることで、ドライバーの離職率が高くなってしまうかもしれません。つまり、事業者はドライバー一人ひとりの労働時間を法定時間に収めながら、これまで以上に高効率な輸配送業務を確立する必要があるのです。

 そうした中、あらためて注目を集めているのが「中継輸送」という方法です。例えば東京―九州間への輸送の場合、その中継拠点を大阪などに設けてそこでドライバーを交代することで、一人当たりの労働時間を削減するというものです。もちろん、より多くの拠点を有していれば、交代回数を増やし、ドライバー一人当たりの負担をさらに軽減することも可能になります。ちなみに、この方法は古くから知られていましたが、拠点数を増やす必要があるため、ある程度の規模の事業者しか採用することができていませんでした。しかし、「2024年問題」が浮上してきたこともあり、ここにきて比較的規模が小さい事業者も中継輸送を検討するようになってきています。もっとも、小規模事業者の場合は新たに拠点を設ける資金がないので、小規模事業者同士でお互いの事業所を拠点として活用したり、既に中継輸送を実施している大規模事業者の拠点を借りたりして中継輸送に取り組んでいるケースが目立ちます。

 2つ目の対策として挙げられるのが荷物の積み下ろしにかかる時間の短縮です。輸配送というと走行時間だけが注目されがちですが、実は積み下ろしにかかる時間もかなり大きく、ドライバーが自ら積み下ろしをする場合、それだけで2時間ほどかかってしまうことがあります。そこで、積み下ろしをする場所(納品先や自社拠点など)にあらかじめサポートを依頼しておき、その時間をできるだけ短縮するのです。また、従来のように宵積み(前日のうちに荷物を積み込んでおくこと)をするのではなく、当日の朝一などに効率的に荷物を積み込むことで労働時間を圧縮することもできるでしょう。

 そして、3つ目の対策が実車率(走行距離のうち、荷物を載せて走行した距離の比率)の向上です。国土交通省によると、運輸・物流業者の実車率は50%を切っているとのことですが、複数の輸配送を同時に行ったり、荷下ろしの後に近隣で荷受けするような配車を増やすことができれば、まだまだ実車率を高めることはできるはずです。とはいえ、それを実現するには納品時間にある程度の余裕を持っておく必要があるので、まずは荷主に協力を依頼し、時間指定を緩くしてもらうことが重要です。

ドライバーだけでなく管理部門のレベルアップも必須

 ドライバーのマネジメントを担う管理部門の対応にも注目してみましょう。例えば今回の働き方改革関連法への対応にあたって、管理部門はドライバーの走行時間や時間外労働、休憩時間に関して、これまで以上にそれらが法定の範囲内に収まっているかどうかを念入りにチェックしなければならなくなっています。その中でも見落とされがちなのが休憩時間です。デジタルタコグラフ(デジタル式運行記録計)の導入で、運転時の速度や走行時間・距離などの情報は簡単に管理できるようになりましたが、案外と休憩時間の管理を怠っているケースが見受けられるので注意してほしいと思います。このように休憩時間が正確に把握できていなかったり、記録に残っていなかったりすると、未払い残業代として請求されるなどのリスクにつながりかねないので、休憩時間の管理にも万全を期すようにしていただきたいと思います。

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 ちなみに、こういったリスクを解消するには、管理職の日々のチェックが重要です。先述した休憩時間の問題のケースであれば、まずはデジタルタコグラフによる記録を毎日管理し、チェックを行うようにします。そして、その内容に食い違いがある時にはその都度、ドライバーに事実確認をし、誤りがあれば正し、その履歴をしっかりと残すような仕組みを構築することで、休憩時間の誤差が生じるリスクを軽減することができるはずです。

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運賃の引き上げや人材獲得にも注力

 もっとも、こうした対策を講じていくには相応の投資が必要になります。しかし、小規模事業者の場合、資金的な余裕がないところが多く、私のもとにも多くの相談が寄せられています。その時に考えてほしいのが運賃の引き上げです。経営者の中には「運賃の引き上げを交渉すると仕事を打ち切られてしまうかもしれない」という危惧を抱いている方もいますが、そもそも「2024年問題」に対応することができなければ、早晩、事業は立ち行かなくなるので、今がまさに正念場と考えてください。

 また、2020年4月に「標準的な運賃」が定められたことも追い風になっています。これは「2024年問題」を受けて、国土交通省が「事業者が法令を遵守して持続的に事業を行う際の参考となる運賃」として定めたものです。設定にあたってのポイントは①人件費として全産業平均の単価を使用②車両の償却年数を5年で設定③年間稼働時間を全産業平均の労働時間約2086時間(残業ゼロの労働時間)程度に設定④実車率を50%(帰り荷が無く車庫へ戻ること)で設定⑤適正利潤(1台/年当たり)として、固定費・変動費に対して、利益率が年2・7%で設定となっており、東京を起点として福岡市まで長距離輸送をする場合の「標準的な運賃」は中型車で22万5730円、大型車で30万250円、トレーラーで38万9300円と算出されています。

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 荷主に対してこうした根拠をしっかりと伝えた上で、自社の輸配送費用や原価率などを明確に示して交渉に臨めば、ある程度の理解は得られるはずです。しかも、昨今はドライバー不足やコロナ禍による物流量の拡大、ウクライナ危機を端緒とした燃料代の高騰なども相まって、運賃交渉が比較的通りやすい状況にあります。輸送事業者の中には〝どんぶり勘定〟が常態化してしまっているところもありますが、そういった事業者はこれを機に自社の経営体質を改善し、万全を期した上で交渉に臨んでほしいと思います。

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 こうした取り組みを推進するとともに、人手不足の解消にも努めなければなりません。もともとドライバーの多くは「働ければ働くだけ稼げる」ことを重んじていましたが、働き方改革によって労働時間が制限された今、時間外労働による賃金向上は望めません。であれば、これからは先述したような業務の効率化や運賃向上の働きかけ、DXの推進、さらにはマーケティングや営業力の強化による売上アップを図りながら、ドライバーの賃金水準や労働環境を高めていくことが重要になります。また、社会全体が人手不足に悩む中、若手人材に関心を持ってもらうにはホームページやSNS※1などのオウンドメディア※2を最大限に活用する必要もあるでしょう。輸送事業者を顧問先に持つ会計事務所様には、これらの視点を共有することで、「2024年問題」を乗り切れるよう伴走いただければと思います。

※1 Social Networking Serviceの略で、登録された利用者同士が交流できるWebサイトの
  会員制サービスのこと
※2 自社で保有するメディアの総称。ここではブログなどのデジタルツールを想定

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