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特集 SPECIAL FEATURE

攻略のカギはプロンプトにあり

ChatGPTをはじめとした
生成AIの現在と未来

ChatGPTの登場により、ビジネスシーンが大きく変わりつつあります。そこで、今回の特集ではその最新動向と 会計事務所業界への影響にフォーカスを当て、前者についてはAI(人工知能)の社会実装に取り組むPKSHA Technologyの 佐野 長紀氏と南 正人氏に、後者についてはアイユーアソシエイツ代表の竹田 清香先生にお話を伺いました。

※本記事はミロク情報サービスが編集しました。

Part1

「AIの民主化」を実現したChatGPTの特色

 OpenAI社の「ChatGPT」の登場により、「生成AI」と呼ばれる分野の注目度が急激に高まりました。生成AIとは、さまざまなコンテンツを生成できるAIを指し、主なコンテンツとしては、文章(テキスト)、画像、音声、音楽、動画などがあります。ChatGPTはその中でもテキストを生成する大規模言語モデル(LLM、Large Language Model)で、他にもGoogle社の「PaLM」、Meta社の「LlaMA」などが有名です。LLMとは、利用者が入力した内容に続くテキストを予測し、アウトプットするAIです。ここまで注目を浴びるようになったのは、コンピューター言語だけでなく、口語のような言葉で指示文(プロンプト)の入力が可能になった点にあり、利用者の裾野が一般ユーザーまで拡大した他、膨大な量のタスクを繰り返す中で精度が高まり、今では質疑応答や文章の生成、要約や翻訳、プログラミングコードの作成など幅広い用途で活用できるようになったことが大きいと考えています。アウトプットされるテキストの精度も急速に向上しており、今やかなり自然で違和感のない回答を得られるようになっています。

 中でも特に世界的な注目を集めているのがChatGPTです。その特長は誰でも気軽に使えるというところで、一般の人でもスマートフォンなどにChatGPTのアプリをインストールすればすぐに使用することができます。おかげで、多くの人にとってAIが身近な存在になり、まさに「AIの民主化」が実現したのです。

 2023年に入ってからの勢いは特にすさまじく、世界中でChatGPTを活用したアプリやサービスが数多く誕生しています。その種類は実に多様ですが、とりわけバックオフィス業務の自動化に関するものが多いように思います。例えば、ChatGPTを活用して金融機関の稟議書を自動生成するサービスなどです。当社が関わっている分野ですと、コンタクトセンターのDX(デジタルトランスフォーメーション)に活用してオペレーターの応対内容を要約、評価したりするサービスもあります。今後、業務の標準化を図りやすいバックオフィス業務はさらに自動化が進んでいくと思われます。

ChatGPTの活用とLLMの未来像

 ChatGPTをはじめとしたLLMを使いこなし、自分が必要とする回答を得るには的確なプロンプトを入力しなければなりません。単に「〇〇とは何ですか」という問いであれば、検索エンジンで十分です。そうではなく、「〇〇を記念して〇泊〇日で旅行に出かけたいと思っているが、良いプランはあるか」といった具合に、ある程度条件を詳細に定めた上でプロンプトを設定する必要があります。そして得られた回答をもとに会話を重ねていけば、より自分が欲しい回答に近づき、その繰り返しがさらにChatGPTの確度を高めることになります。



 ビジネス活用の一例として、コンサルティングサービスなどであれば、ChatGPTと自社の情報やノウハウを掛け合わせた独自のチャットボットを開発し、新規顧客からの相談の敷居を下げ、相談対応に割く時間を軽減し、業務効率化を図ることもできるでしょう。

 ただ、よく指摘されることですが、ChatGPTは真偽が定かではない情報をアウトプットしてしまうことがあります。インターネット上にある情報から学習し、回答した結果なので、中には情報量が足りず、不正確な回答となる可能性もあります。

 また、実際にChatGPTを導入する際にはさまざまなガイドラインを設ける必要があります。例えば、チャットボットを開発する場合に「競合他社の商品・サービスを推薦しないようにする」といった制限です。これを設けなければ、知らず知らずのうちに他社の販促をしてしまいかねません。

 また、個人情報の取り扱いにも注意が必要です。現に国内外でAIに関する法規制などが検討されていますが、その多くは個人情報の流出を懸念するものです。良かれと思って入力した個人データが大規模言語学習に使用され、拡散してしまうリスクがあります。ChatGPTをはじめとしたLLMはいずれも発展途上の技術であり、現時点では不完全です。それを念頭に置いた上で導入を検討すべきですし、導入にあたってはLLMがアウトプットした情報を精査・分析する人を介在させることを意識していただきたいと思います。

 現状、欧米に比べて日本はLLMへの対応が遅れています。そうした中、英語をベースにしているChatGPTではなく、日本語をベースにしたLLMを開発すべきではないかという議論があります。一方でゼロから開発するにはコストもかかるため、全ての領域を網羅するのではなく、業界特化型にして日本語でなければ表現しにくいことをアウトプットするシステムにすれば、相応の強みを発揮できると思います。

 いずれにしても、今後はバックオフィス業務を中心にさらにChatGPTの活用は進展するはずです。既に検索エンジンに導入されているLLMもありますが、これからはスマートフォンに標準装備されるなど、さらに身近な存在になるでしょう。SFチックな話になりますが、常に私たちのバディのようなAIキャラクターが存在するようになり、そのキャラクターとの対話を通して情報を得たり、モノやソフトを動かしたりできるようになるかもしれません。


Part2
ChatGPTが会計事務所に与える多様なインパクトを考察する

プロンプトを工夫してChatGPTを活用

 生成AIの代表格といえばChatGPTですが、今やその用途は多岐にわたっており、税理士個人としても会計事務所としても有効に活用することができます。

 実際に私自身、セミナーのテーマ案やランディングページ※のキャッチコピー案のアイデア出しなどにChatGPTを活用しています。最近は以前にも増してアウトプットされる日本語が自然になり、使い勝手が良くなってきているように感じています。自分にはない視点を得られた時にはとても参考になりますし、良い叩き台になります。その際にポイントになるのが「質問力」です。いわばプロンプト(指示文)の精度によって、良い回答が得られるかどうかが大きく変わってくるのです。

※自社の商品やサービスに関する情報をまとめたページ

 ChatGPTのようなLLMの利点は、プロンプトに応じて文章をアウトプットしてくれる点です。ぜひその強みを生かした活用方法を模索してほしいと思います。

 当社では社内業務の効率化をテーマに、複数のチームでChatGPTの新たな活用方法を検討しているところです。時にはAIに詳しい外部の方をお招きしてレクチャーしていただきながら、1カ月に1回くらいのペースで各チームが互いの研究成果を発表する機会を設け、効果的なプロンプトを共有したり、「個人が特定できるような質問をしない」などのポイントをまとめたガイドラインを整備したりしています。こういった取り組みを経て、より柔軟かつ効率的にChatGPTを活用できればと考えています。

会計事務所での活用が多様に拡大中

 先日あった「会計事務所博覧会2023」のChatGPTに関するセミナーではモデレーターを務めさせていただきました。このセミナーでは大野 修平先生(セブンセンス税理士法人 ディレクター)、朝倉 歩先生(サン共同税理士法人 CEO)、大堀 優先生(スタートアップ税理士法人 代表社員)にChatGPTの活用事例について発表いただきました。その中で大野先生はプロンプトの実演をし、会計事務所ならではの活用事例などをご紹介くださいました。

当日のセミナーでは会計事務所での活用事例が披露された

 朝倉先生はサイボウズ社の業務改善プラットフォーム「kintone」を掛け合わせた事例を紹介されました。kintoneは日報をはじめとした業務システムアプリを必要なだけ追加できるサービスで、その中にChatGPTも導入することができます。朝倉先生の事務所ではこれを土台に独自の「商談AI」を作成し、職員の商談やミーティングに役立てているそうです。このAIは商談時に録画・文字起こしを自動的に行う他、商談内容の分析・評価も行います。業務改善はもちろん、営業力を強化し、職員の成長を促すことが期待されます。

 大堀先生には「税金スッキリくん」という自社サービスについてお話しいただきました。「税金スッキリくん」は利用者の質問に回答する「チャットボット機能」を持つAIサービスで、その基幹システムにChatGPTが活用されています。会計事務所には税務会計に関する質問が数多く寄せられますが、その大半が重複したものであり、中には複雑な専門知識を必要としないものもあります。そこで、大堀先生の事務所ではそういったシンプルな質問に関してQ&Aを整備し、ChatGPTで自動的に応答できる仕組みを整えたのです。結果、業務負担が大幅に減少し、コンサルティングをはじめとしたその他の業務により注力できるようになったといいます。

 会計事務所の中には独自のノウハウをお持ちのところも多数あると思いますが、こういった仕組みを応用すれば、顧問先向け、あるいは業界向けにサービス提供が可能になるかもしれません。また、顧問先向けでなくとも、職員教育の一環として内部向けにこうしたシステムを整備することもできそうです。

AIの時代だからこそ個性がますます重要になる

 このように、ChatGPTをはじめとした生成AIは会計事務所の業務を大きく前進させてくれる可能性があります。一方で、「AIの発達で会計事務所の業務がなくなってしまうのではないか」と危惧する声もあります。実際、バックオフィス業務については大部分がAIに取って代わられるかもしれません。しかし、汎用的な生成AIの機能はあくまでも一般的な情報を収集し、一般的な回答を出すことにとどまります。だからこそ、これからは税理士や公認会計士の独自性のあるコンサルティング能力や分析能力、提案力が重視される時代になるのではないでしょうか。

 昨今、会計事務所や中小企業においてもDXの重要性が叫ばれています。ChatGPTなどの最新テクノロジーも積極的に取り入れ、まずは事務所のデジタルリテラシー向上を図る必要があります。そして、DXを推進したい中小企業の多くが相談相手を求めています。最も身近にいる会計事務所こそ、その役割を担える立場にあると考えています。当グループでは以前から中小企業のIT化などバックオフィス業務の効率化・改善を積極的に支援しており、2022年10月にはそのサービスに特化した(株)アイユーアソシエイツを設立し、私が代表に就任しました。DXの最大の目的は、業務改革であり飛躍的な生産性の向上です。その支援を通じて、中小企業のさらなる成長に寄与していきたいと考えています。

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