働き方改革の手法として注目度が上昇中
中小企業が「週休3日」を 導入するには
1週間に3日間休みを設ける「週休3日制」。日本政府も多様な働き方の実現に向けた働き方改革の一環として、同制度の導入を各企業に促しています。しかし、現状では大手企業など一部のみが導入するに留まっているようです。そこで、本特集では週休3日制の概要やそのメリット・デメリット、そして中小企業が導入する場合のポイントや事例などを紹介します。
Part1
週休3日制の4分類を把握し自社に合った手法と仕組みの検討を
週休3日制は国内外でどのように実施されているか
週休3日制は海外では欧州、特にアイスランドを起点に広がりを見せています。アイスランドは周辺国と比べ、長時間労働が慢性化していたこともあり、その打開策として早い段階から週休3日制のトライアルを実施しました。そして、それがうまく機能したことから、他の欧州諸国でも次々とトライアルが行われるようになりました。
最近では日本でも働き方改革の次の一手として注目され、日本アイ・ビー・エムやLINEヤフー、パナソニックなどの大手企業が導入。私が所属しているリクルートでも、休みを増やし、年間平均すると、週休3日に近い、週休2・8日となっています。
「週に1日休みを増やす」と聞くと大変なことのように思えますが、働き方の歴史を振り返ってみると、あながち無理なことではありません。
歴史を振り返ると、日本で労働者の休日が初めて定義されたのは1911年に成立した工場法からで、同法によって休日の基準は月に2日以上と定められました。その36年後の1947年に労働基準法が成立し、労働時間は1日8時間、週48時間となり、休日についても「使用者は毎週少なくとも 1日の休日か、4週間を通じて4日以上の休日を与えなければならない」と定められることになったのです。そして、1987年には労働基準法の改正によって「週40時間労働制」が本則に規定され、段階的に週40時間労働制と週休2日制が定着していきました。現在も週44時間労働が特例として認められている業種はありますが、2024年4月からその一部(建設、物流・運送、医療)が週40時間労働となるなど、着実に働き方は進化し続けています。
こうした変化を見ていくと、およそ40年おきくらいのスパンで訪れています。そう考えると、まさにこれからの数年は大きな変化が訪れるタイミングと捉えることができるでしょう。近年はITをはじめとしたテクノロジーの発展が目覚ましいこと、コロナ禍を経て、DX(デジタルトランスフォーメーション)が各分野で急速に進んだことなども、働き方改革を推し進める要因になると思われます。
メリット・デメリットと導入のポイントをチェック
週休3日制の導入形態には4つのタイプがあります(図1)。
1つ目のⒶ圧縮労働型は休みを増やす分、1日の労働時間を長くし、1週間の総労働時間を変えない手法です。リモートワークが多い職種であれば通勤時間分を労働時間に充てれば、うまく移行できる可能性があります。ただ、1日の労働時間が長くなるので、人によっては忌避感が生じるかもしれません。
2つ目のⒷ労働日数・時間・報酬削減型は休みを増やす分、給与も削減します。3つ目のⓒ労働日数・時間削減・報酬維持型は休みを増やしても、給与額は維持します。4つ目のⒹフレキシブル労働型は、月または年単位で労働時間を管理し、合計の労働時間、給与額とともに変わりません。この中で、日本でⓒパターンを導入している事業者は極めて少ないのが現状です。
こうした分類を踏まえ、週休3日制のメリットとデメリットを図2にまとめました。まずメリットとして、趣味に時間を割きたい人や育児、介護に追われている人たちにはワーク・ライフ・バランスの向上、副業やリスキリング機会の増加などが期待でき、企業としては離職率の低下や採用候補者の拡大が見込めます。
一方、デメリットも様々ですが、特に注意が必要なのはコミュニケーションの減少で、社内ミーティングの設定のしづらさや顧客対応の煩雑さなどが課題になります。これらの対策としてマネジメントや情報共有、シフトに関する新たな仕組み作りが必須になるでしょう。例えば、1つの仕事を2人以上で担当する「ジョブシェア」などの仕組みを同時に導入するというのも一案かもしれません。また、思い切って全社的に土日と〇曜日を休みにすることで、社内外でコミュニケーションがちぐはぐにならないようにするという方法も考えられます。
海外に目を向けると、アイスランドの行政機関では週休3日制の導入後に、来客が多い曜日や時間帯が明らかになり、そのタイミングは全員休みを取らないようルールを追加しました。もちろん行政機関に限らず、組織ごとに最適なアレンジを加え、サービスレベルを維持しながら業務を効率化していくことが肝要です。
ちなみに、当社ではⒹを採用しているのですが、この導入形態は社員一人ひとりが自身のライフスタイルに合わせてフレキシブルに休暇を取得できることが最大のメリットです。例えば、繁忙期にはしっかりと働き、そうでない時にまとめて1週間、2週間などの長期休暇を取ることが可能になります。ただし、他のタイプにも言えますが、コミュニケーションの減少による問題を起こさないようにするには、仕組み作りはもちろん、労働者各人が自分の業務やタスクを自己管理することが大前提になります。業種による向き、不向きもありますが、週休3日制の導入が可能な人材が社内にどの程度いるかということもポイントになってくるでしょう。
Part2
週休3日制の適切な導入で薬剤師不足を解消!!
自然豊かな地方でこそ週休3日制を活用できる
当社ではこれまでにさまざまな業種に週休3日制の導入を支援してきました。特に多いのが調剤薬局です。勤務形態の多くは週に1日の休みと2日の半休を入れた図3のような勤務形態になり、さらに半休の日の午後に会議や勉強会が入ることが多いです。結果的に休みが減り、働き方に悩む薬剤師が多い傾向です。
そこで、当社では特に人手不足が深刻な地方の調剤薬局に対して、常勤と認められる最低労働時間(週32時間)をクリアする形で、【週4日×9時間出勤の週休3日制】または【週3日×9時間+半休(5時間労働)】(図4)といった勤務形態を提案し、実際に求人を出していただいています。結果、多くの調剤薬局で薬剤師採用の問題が解消され、長期雇用にもつながっています。
その他、介護施設も週休3日制との相性が良く、導入前は20%ほどだった離職率が10%以下にまで低減したケースもあります。また、宿泊業や食品製造・小売業(パン屋など)においても、週休3日制を導入することで採用率が伸びたケースなどが多々あります。現代においては給与だけでなく、ライフスタイルにマッチする働き方ができるかどうかがますます重視されているのです。
なお、会社規模の面では大手企業よりも中小企業の方が導入しやすい傾向にあります。大手企業の場合は情報共有やマネジメントに関する仕組み作り、就業規則の改定などに膨大な時間とコストを要しますが、中小企業であれば、経営者の一存で柔軟に行えますし、大手よりもスピーディーに従業員のコンセンサスを得やすいといった面があるからです。
それに、先ほどの調剤薬局のケースでも強調しましたが、地方の企業こそ週休3日制を活用すべきだと考えます。
例えば、アウトドアが好きな人にとって、自然豊かな地方での週休3日の生活はあこがれでもあります。現に地方にある当社のクライアントでも、「余暇を利用して、釣りや登山を楽しみたい」という理由で入社する人たちが続々と増えています。もともとはそういった地方の企業こそ人手不足に悩んでいたわけですが、地域資源と週休3日制を組み合わせることで、人材を難なく集め、意欲的に働いてもらえる環境を創出することができるようになるのです。
都市部においても、昨今は副業やリスキリングの機会を求めている人たちが増えているので、週休3日制の有無が採用面でも有利に働き始めています。中途社員の募集の場面であれば、現職の年収のまま、週休3日制を打ち出すことで、無理に高い報酬を出さずとも優秀な人材を募れる可能性が高まっているのです。
当社が実施したアンケートでは、28・7%が「給与は8割で良いので週32時間の週休3日制に魅力を感じる」と回答しています。これを少ないと見るか、「3割も」と見るかは捉え方次第ですが、働き方の多様化が進む中、世界的な潮流に鑑みても、今後、国内でのニーズはさらに高まっていくでしょう。人手不足で困っている企業は特に、週休3日制を適切に導入することで、人手不足の解消を目指していただきたいと思います。