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特集 SPECIAL FEATURE

AI時代を生き抜くための継続的学習

「デジタルリスキリング」
で次代を生きる

現代社会において、技術の進歩は加速度的に進んでおり、特に2023年以降のAIの急激な発展は、働き方や必要とされるスキルを根本的に変化させています。 そうした中、注目度がますます高まっているのが「デジタルリスキリング」です。 しかし、いざ挑戦しようとしたり、自社に取り入れてみようとしたりしても、具体的な進め方が分からない方も多いのではないでしょうか。 そこで本特集では、その意義や支援策とともに、それに取り組むメリットや具体的な進め方などを紹介します。

PART1
企業の生産性向上を支える人材育成支援制度

リスキリングに活用できる人材開発支援助成金

 政府が2022年に「デジタル田園都市国家構想総合戦略」を策定し、デジタル人材育成を国家戦略として位置づけて以来、各省庁で具体的な支援策が展開されています。厚生労働省においては、従来から実施してきた職業訓練制度をデジタル時代に対応する形で拡充していますが、従来の職業訓練が特定の職種に特化した技能習得であるのに対し、デジタルスキルは業種や職種を問わず横断的に必要となる基盤的能力という特徴があります。そのため、幅広い労働者層に対してデジタルスキルやデジタルリテラシーの底上げを図ることと、高度なデジタル人材の育成を並行して進めています。

 具体的な施策の1つとして、企業が従業員に対して実施するデジタル関連訓練に対し、「人材開発支援助成金」を通じた支援を行っています(図1)。



 例えば、この助成金の「人への投資促進コース」※1のうち「①高度デジタル人材等訓練」では、企業内においてデジタル分野に関する高度人材を育成した場合の経費等を支援しており、企業内のDX推進の中核的な役割として活躍していただくことを期待しています。さらに「②情報技術分野認定実習併用職業訓練」では、IT分野未経験者を対象として、座学(OFF‐JT)と実務経験(OJT)を組み合わせた体系的な訓練プログラムを提供した場合の経費等を支援しており、基礎から応用まで段階的に学習できる環境を整備することで、企業内におけるDX推進の基盤づくりを支援しています。

※1 これらの制度は令和8年度末までの時限措置

 その他、「事業展開等リスキリング支援コース」※1というものもあります。こちらは新規事業の推進にあたって必要となるスキル習得を支援するもので、デジタル人材の育成も含まれています。これらの支援策の利用実績は、中小企業での活用率が大企業を上回っています。

 業種については、高度デジタル人材等訓練や情報技術分野認定実習併用職業訓練は基本的に情報分野に関する訓練を対象としているため、情報通信業での利用が中心です。他方、事業展開等リスキリング支援コースについては、幅広い業種でご利用いただいています。

 人への投資促進コースの「②情報技術分野認定実習併用職業訓練」の活用事例としては、情報処理の仕事にIT分野の経験者を優先的に採用していた企業が、未経験者を積極的に採用してOFF‐JTとOJTを組み合わせた訓練を実施した例があります。基本的なプログラミング言語の習得をOFF‐JTで学びつつ、OJTとして実際に発注を受けたシステムの構築まで、丁寧にレクチャーすることで受講者の企業への定着率が高まったというケースがあります。また、事業展開等リスキリング支援コースを利用し、建設企業がデジタル技術を活用した書類作成支援の訓練を実施したことで、現場技術者の負担が軽減し、長時間労働が是正されたというケースもあります。これらの事例はデジタル化の効果が単なる効率化を越えて、労働者の働きやすさの向上にも寄与するDXの好事例であることを示しており、ぜひ多くの事業者に参考にしていただきたいと考えています。

経営戦略から逆算して人材育成プランを策定

 もっとも、やみくもにデジタル人材を育成すればよいというわけではありません。先述した活用事例のように、自社の経営の中でどのようにデジタル人材を活用していくかという視点、つまり人材育成プランが重要になります。その際にお勧めしたいのが「生産性向上人材育成支援センター」の活用です(図2)。これは独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が運営するポリテクセンターなど全国87カ所に設置されている機関です。中小企業などの生産性向上に向けた人材育成を支援するための相談窓口を担っており、企業の人材育成に関する相談支援から、課題に合わせた人材育成プランの提案、職業訓練の実施まで一貫して支援しています。相談内容は「ベテランのノウハウを若手にどう伝承すればよいか」「工場にITを導入したいがどうすればよいか」「インターネットを活用して販売促進を行いたい」などと幅広く、また、相談費用は無料ですので気軽に活用いただけるかと思います。加えて、要件を満たした場合に人材開発支援助成金を活用することができるので、コストを抑えながら、計画的にデジタルリスキリングを推進することができるでしょう。



 さまざまな支援策をご紹介しましたが、経営者を支える税理士の皆様にお伝えしたいのは、人材育成は「コスト」ではなく、「投資」ということです。AIの普及などの急速な変化に対応していくには、その場しのぎの教育ではなく、経営戦略と人材育成をしっかりと紐付けながら、積極的にDXを推進していかなければなりません。そのためにも生産性向上人材育成支援センターの相談支援なども活用しながら、戦略的にデジタルリスキリングを進めていただければと思います。


PART 2
継続的・実践的学習でAI時代のキャリアを切り拓く

成果を上げるためのリスキリング手法

 リスキリングについて、リクルートワークス研究所の定義では「新しい職業に就くため、もしくは今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に対応するために必要なスキルを獲得すること」とされています。しかし、私はより本質的な視点として、IBMが提唱する「市場の変化に対応し、価値創造を実現するための積極的なスキル獲得活動」という定義を重視しています。前者が「対応しなければならない」という受動的なニュアンスであるのに対し、後者には「できるようになる」という能動的なニュアンスがあるからです。変化が激しい今日においては、このように社会の変化を脅威と考えるのではなく、機会と捉える姿勢が重要だと思うのです。

 昨今の最も大きな変化と言えばAIの普及とその影響です。事実、生成AIの台頭以降、ビジネスを取り巻く環境は急変し続けており、本格的なAI時代に入ったと言えるでしょう。

 これにより、従来のスキル習得の考え方も根本的な見直しを迫られ始めています。特にプログラミング分野では、従来必要とされていた「コードを一文字も間違えずに書く」という能力よりも、「AIと効率的にコミュニケーションを取りながら開発する」能力が求められてきています。もちろん、こうした変化は他分野でも起きており、各業界で「何を学び、何を学ばなくてよいか」の判断基準が大きく変わってきているのです。

 こうした状況下においてリスキリングで成果を上げるには、2つの重要なポイントがあります。1つ目は継続的な学びにすることです。昨今のAIによる変化はもちろんのこと、社会は常に変容し続けるので、学びに終わりはありません。生涯続くマラソンと捉え、学び続けることが何より重要です。2つ目は実践的な学びにすることです。リスキリングというと、動画や書籍、あるいはセミナーなどによるインプットをイメージしがちですが、むしろ実際に試してみるアウトプットが重要です。仕事や日常生活で実践することで、より早く、生きたスキルを身につけられるようになります。

 こうした観点から、私はOODAループ(Observe-Orient-Decide-Act)という意思決定のフレームワークの活用をお勧めしています※。従来のPDCAサイクルが計画立案に時間をかけるのに対し、OODAループには社会や技術の変化を観察し(Observe)、情勢判断し(Orient)、迅速に意思決定を行い(Decide)、実際に行動する(Act)というサイクルを素早く回すことで、変化の激しい環境に適応することを目指しています。このフレームワークを活用すれば、変化が激しいAI時代においても、スピーディに継続的かつ実践的な学びを得られると思います(図3)。

※ OODAループについては2024年10月号にて特集しております



 ただ、忙しいビジネスパーソンの中にはなかなか時間が取れず、リスキリングに取り組めない方もいることでしょう。そういう方はまず「習慣化」と「時間の再投資」を意識してほしいと思います。まず習慣化については、毎日の学習時間を確保し、カレンダーツールに定期の予定として入れるようにしましょう。また、その際には長期的な目標だけでなく、月単位や日単位の小さな目標を立て、その成果を実感しながら次のステップに進むようにしてください。次に時間の再投資については、習得したITスキルやAIの知見などを積極的に活用して業務効率化を図り、それによって空いた時間を新たな学習に再投資するような好循環を目指してみてください。こうした取り組みを実践すれば、時間を確保しながらモチベーションを維持できるようになるはずです。 続いて、学ぶ内容について考えてみましょう。AI時代に突入した今、リスキリングにおいてもAIをうまく扱うことは避けては通れないスキルの一つです。また、その他の学習を進めるにあたってもAIは大いに活用できます。例えば学習の計画を立てるにあたっても、AIと壁打ちした方がいいですし、先述した習慣化においても学習時間にアラートを出す設定をすることもできます。

 ただ、AI時代においても、完全に基礎知識が不要になるわけではありません。むしろ、AIと効率的にコミュニケーションを取ることや、批判的検証を行うための基礎知識がますます重要なものになります。

 ExcelやGoogleスプレッドシートなどの表計算ソフトは、コンピューターが得意とする4つの基礎概念(演算、関数、データ型、データベース)を実務に活用できる優れた教材です。これらの基礎概念は、プログラミングからデータ分析、さらにはAI活用まで、あらゆるデジタルスキルに共通する要素であり、他の高度なスキル習得の土台にすることができるので、リスキリングの入口として学ぶ価値は十分にあります。

能動的に学びやすい組織や環境の整備が必須

 最後に組織としてリスキリングに取り組む場合のポイントを紹介します。まずはなんと言ってもリーダー層が率先して学ぶ姿勢を見せることです。例えば、経営者自身がAIを戦略策定やマーケティング活動に活用していけば、おのずと組織全体のAI活用に対する理解と推進力が向上し、現場レベルでの取り組みに反映されていくことでしょう。

 また、ベテラン社員へのリスキリングの促し方にもポイントがあります。そもそも、年齢や経験を重ねるほど、新しい学習に対する心理的抵抗が高まり、従来のやり方を維持したがる傾向が強くなるものです。そのような風潮から脱却させるには、普段の職場環境から離れた「越境学習」の機会を設けるとよいでしょう。コミュニティ活動や異業種交流などの場では、職場での肩書きや既存の役割から解放され、「初心者として学ぶ」姿勢を取りやすくなるからです。実際、私が主宰している「ノンプログラマーのためのスキルアップ研究会」というコミュニティには、さまざまな企業・団体から、20~70代まで幅広い年齢層の参加者が集い、前向きにデジタルリスキリングに励んでいます。

 リスキリングは「やらされる活動」ではなく、「自己実現と価値創造のための積極的な投資」です。一人でも多くの人たちにそういった認識を持っていただき、AI時代の豊かで充実したキャリア形成の礎にしていただきたいと思います。

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