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シリーズ企画

2020年09月号

広がる「応援の輪」
今こそクラウドファンディング活用!

コロナショックを機に、さまざまな業界で急速に導入が進んだテレワーク。多くの会計事務所でも導入が進みましたが、一方で「導入してみたいが、進め方やポイントが分からない」という声も上がっています。そこで、ここでは船井総合研究所 士業支援部 グループマネージャーの鈴木 利明氏に、会計事務所におけるテレワーク導入の利点やポイント、そして今後の可能性について紹介いただきたいと思います。

中山 亮太郎 氏 (なかやま りょうたろう)

(株)マクアケ 代表取締役社長

中山 亮太郎 氏
(なかやま りょうたろう)

慶応義塾大学卒業。2006年、サイバーエージェントに入社後、社長アシスタントやメディア事業の立ち上げを経て、10年からベトナムにベンチャーキャピタリストとして赴任。帰国後、13年に(株)サイバーエージェント・クラウドファンディング(現・(株)マクアケ)を設立し、代表取締役社長に就任し、応援購入サービス「Makuake(マクアケ)」をリリース。着実に実績を積み重ね、19年に東証マザーズ上場を果たす。

今の時代にマッチした「応援購入」のメリット

 当社では一般的なクラウドファンディングと差別化を図るために、「Makuake(マクアケ)」を「新しいものや体験の応援購入サービス」と位置付けています。クラウドファンディングというと「募金や寄付を集める仕組み」といったイメージがあるかと思いますが、Makuakeはこれまでにない新たな商品・サービスを応援購入するためのプラットフォームなのです。では、通常のECサイトと何が違うのかというと、例えばものを作る前に応援購入するサポーターを事前に募る仕組みになっているため、新たな商品・サービスを販売するだけでなく、テストマーケティングやPRの場としてMakuakeを活用できるという利点があります。まずはMakuakeで消費者の反応を確認してから、さらに改善が必要であれば改善する、売上げが好調であれば生産量を予定より多めに準備する、売上げがいまひとつであれば製品の改善点やターゲットを見直したり、場合によっては取りやめを検討するといった判断をくだすことができるわけです。また、事業者にとっては試作段階でキャッシュを得ることができるというのも、大きなメリットになっています。

 ちなみに、Makuakeを通してヒットする商品の多くには、新奇性だけでなく、独自のストーリーがあります。既に無数の商品・サービスで溢れている日本においては、ストーリー性が重視される傾向が強いのです。そのため、当社のキュレーター※は事業者と念入りに打ち合わせを行い、その思いやこだわりがサイト上でしっかりと伝わるように努めています。

 おかげさまで、Makuakeの事業規模は年々右肩上がりで成長し続けており、これまでに実施してきたプロジェクトの数は1万件を超えるまでになりました。そして今、コロナ禍によるステイホームや外出自粛といった生活環境の変化によって、そのニーズはさらに拡大しています。自宅で過ごす時間が長くなり、多くの人が自宅での生活を豊かにしてくれるような商品・サービスを求めるようになった他、外出自粛によってこれまで以上にeコマースが一般化してきたからです。

 もちろん、事業者もそういったニーズに対応した商品・サービスを次々とリリースしているので、ここからはいくつかの事例を紹介したいと思います。

※博物館、美術館、図書館などの施設において、収集する資料の鑑定や研究などを行う人物。そこから派生し、同社の場合はプロジェクトの魅力を引き出し伴走する担当者を指す

Makuakeを活用してピンチをチャンスに

 コロナ禍にあって特に顕著に増えているのが、もともと下請けを中心としていた製造業がオリジナル商品をリリースする動きです。例えば、ある縫製メーカーでは百貨店などの売上げが急激に下がり、発注元からの受注が激減してしまったのを機に、思い切ってオリジナル商品の開発に踏み切り、Makuakeでリリース、大いに注目を集めました。なお、こういったケースにおいては、引き続き自宅での生活を豊かにしてくれる商品が売れています。例えば、テレワークで自宅にいる時間が長くなったことから、着心地と機能性に優れた作務衣などがヒットした他、新潟県燕三条の刃物やキッチン用品などもヒットしました。

 また、飲食店に関しても面白い動きがありました。デリバリーやテイクアウトに続く第3の柱として、お取り寄せに対応した商品を開発し、Makuakeでリリースするといった取り組みが活発化したのです。実際、イタリアンのお店がパスタソースを開発したり、居酒屋が冷凍のおつまみセットを開発したりと、さまざまなジャンルの店が個性的な商品開発に取り組み始めました。これまでに飲食店がMakuakeでお取り寄せ商品を開発するという動きはほとんど見られなかったので、まさにコロナ禍の窮地から生まれた新たなチャレンジと言えるでしょう。

(上)オンライン日本酒市2020のイメージ(下)オンライン陶器市2020のイメージ

(上)オンライン日本酒市2020のイメージ
(下)オンライン陶器市2020のイメージ

 このように個別の事業者の取り組みが増加する一方で、当社でMakuakeの中に特設ページを設け、各産業を支援したケースもあります。その一つが「オンライン陶器市2020」です。陶磁器の産地では毎年ゴールデンウィーク前後に大規模な陶器市を開催し、窯元や作家が新作などを発表しますが、今年はコロナ禍のため、こうしたイベントが軒並み中止になってしまいました。そこで、当社では食器・生活雑貨を取り扱う「クラフトストア」と協業し、それぞれの産地や事業者に声がけして、オンライン陶器市を開催してみることに。すると、有田焼や波佐見焼など全国各地の窯元や作家が続々と参加を表明し、事業者からも消費者からも多数の喜びの声を頂戴することができました。

 これと同様の手法で開設したものの中に「オンライン日本酒市2020」があります。政府の緊急事態宣言を受けて飲食店が休業を余儀なくされる中、販路を失ってしまった蔵元を何とか応援できないかと思い、日本酒専用WEBメディア「SAKETIMES」とともに企画した特設ページです。早速、各蔵元にオンライン上で新酒をお披露目してもらったところ、こちらも大いに注目を集め、事業者からも消費者からも喜んでいただけました。陶磁器や日本酒に限らず、潜在的なファンが多い産業はまだまだ存在すると思うので、当社ではこれからもこういった取り組みを積極的に推進し、応援購入によって日本の産業を元気づけていきたいと考えています。

QR

 その他、コロナ渦と直接的な関係はありませんが、芸能人がモノづくりに挑戦するといった動きもありました。例えば、アーティストのきゃりーぱみゅぱみゅさんはメーカーとコラボレーションして香水とボディクリームを開発し、ボディクリームに関しては500万円以上、香水に関しては1400万円以上の売上げを達成しました。また、声優の小岩井ことりさんもメーカーとコラボしてイヤホンを開発し、なんと1億円以上の売上げを達成しています。芸能関係もテレビやドラマの収録やイベントが中止になってしまったことから大打撃を受けたので、今後はこういう動きがさらに活発化するかもしれません。当社ではこういったコラボのマッチングなども手掛け、より良い商品・サービスが生まれるように努めています。

 こうした取り組みを通じて、私はこの間、地方の経営者の皆さんのメンタルの強さをあらためて実感しました。いろいろな経営者の方々からお話を伺う機会がありましたが、いずれも収益減に悩まされながらも、前向きに活路を見出そうと努力されており、頼もしさを感じるほどでした。ウィズコロナ、アフターコロナの影響はまだまだ尾を引くとは思いますが、それでも事業者は創意工夫を諦めないし、また同様に消費者も楽しむことを諦めないはずです。その両者をしっかりとつなぐことができるよう、私たち自身もMakuakeというプラットフォームに磨きをかけ続けたいと思います。

寄付型クラウドファンディングの活用事例

 「Makuake」の取り組みに続き、ここでは寄付型クラウドファンディングを活用した映画館とNPO法人の事例を紹介します。

1

名画座がクラウドファンディングに挑戦 アフターコロナを見据えた設備投資も

映画の魅力を伝え続ける久保田支配人

映画の魅力を伝え続ける久保田支配人

 コロナ禍ではエンターテインメント業界も大打撃を受けました。例えば、映画館もその一つ。緊急事態宣言を受け、全国各地の映画館が1~2カ月ほど休館を余儀なくされた他、再開後もソーシャルディスタンスを維持するために座席数を制限せざるを得ないなど厳しい状況にあります。

 こうした中でクラウドファンディングを活用し、アフターコロナを見据えた設備投資を進めているのが、東京・飯田橋にある「ギンレイホール」という映画館です。この映画館の前身は「神楽坂銀鈴座」という松竹系の封切館でしたが、1958年に火災によって全焼し、60年に「銀鈴ホール」として新たに生まれ変わったそうです。そして、74年からは2本立て上映を主体とした「ギンレイホール」という名画座になり、全上映作品を鑑賞できる年間パスポート制の「ギンレイ・シネマクラブ」を発足したり、神楽坂映画祭をはじめとした映画文化活動を展開したりしながら、多くの人たちに映画の魅力を届け続けてきました。

 しかし、コロナ禍の影響を免れることはできず、2月中旬頃から来館者の数は徐々に減少。さらに3月頃からは「コロナが怖くて電車に乗れないので観に行けない」「家族に止められて行くことができない」といった声とともに、来館者数がさらに減少していきました。そして政府による緊急事態宣言を受けて、4月8日から2カ月間は休館を余儀なくされたそうです。「売上げが2、3月と半減した上に休館中はゼロだったので、合計で約3000万円もの損失が生じてしまいました」と久保田 芳未支配人は振り返ります。現在は2本立て上映を再開しているものの、座席を半数以下に制限したり、上映回数を減らしたりしているため、通常の2、3割の収益しか上げることができないそうです。

 そこで、同館が着目したのが「MotionGallery (モーションギャラリー)」というプラットフォームを活用し、寄付を募ることでした。「以前から映画文化活動のためにクラウドファンディングの活用を模索していましたが、今回は存続をかけた資金援助のお願いなので覚悟を持って実施に踏み切りました。ご支援の特典としては、オリジナルグッズ(クリアファイル、トートバッグ、Tシャツ)や会員カードなどをご用意しました」と久保田支配人。

 6月19日に開始されたこの取り組みは、SNSなどを通じてすぐさま多くの映画人や文化人、映画ファンの間で話題になり、開始4日目にして目標金額の1000万円を達成。最終的には2000万円以上の寄付を集めることに成功しました。「想像以上の反響に驚きましたが、私たちの活動以前に映画監督の深田 晃司氏と濱口 竜介氏が発起人となって『ミニシアター・エイド(Mini-Theater AID)基金』(モーションギャラリーで実施)で3億3100万円以上の寄付を集めてくださったこと、そして小規模な映画館を応援しようという機運が盛り上がっていたことが大きく影響したのだと思います」と久保田支配人。その上で「応援してくださった皆様に感謝しつつ、いただいた寄付は損失の補填に充てるとともに、一部はアフターコロナの時代にも安心してご来館いただけるよう、館内や座席の抗菌施工や手洗器の自動水栓化などに活用したいと思います」とも。ぜひともこの危機を乗り切って、末永く名画座の明かりを灯し続けてほしいものです。

ギンレイホールのレトロなロビー。ちなみに、2021年公開予定の映画『キネマの神様』(山田洋次監督)に登場する映画館「テアトル銀幕」はギンレイホールがモデルとされている

ギンレイホールのレトロなロビー。ちなみに、2021年公開予定の映画『キネマの神様』(山田洋次監督)に登場する映画館「テアトル銀幕」はギンレイホールがモデルとされている

2

クラウドファンディングを活用して 主力事業や組織体制の見直しを図る

「Change Maker Study Program」の一コマ。地域住民と接しながら地域の課題とその解決策を模索していく

「Change Maker Study Program」の一コマ。地域住民と接しながら地域の課題とその解決策を模索していく

 東日本大震災を機に、2012年6月に発足したNPO法人SET。当時、同NPOの三井 俊介理事長は法政大学の学生でしたが、岩手県陸前高田市広田町の復興支援に携わったのを機に大学卒業後は広田町に移住、現在に至るまで広田町における地域活性化に力を注ぎ続けています。

 そんな同NPOのメイン事業は、地域おこしの担い手を育成するために13年から実施している「Change Maker Study Program」。若者たちに広田町に1週間滞在してもらい、その間、地域における課題の発見、解決策の提案・実行・報告を行ってもらうというものです。また、17年からはこのプログラムを発展させた「Change Maker’s College」も展開。実施期間は4カ月で、参加者たちは週に2回の授業でウェルビーイングとサスティナビリティを学びながら、課題解決型のビジネスを立ち上げていくといいます。ちなみに、市外からの参加者で広田町での長期滞在を希望する人には、同NPOが日中の仕事やシェアハウスを手配し、より広田町での暮らしに入り込めるように支援するとのことです。

 しかし、コロナ禍によって20年はこうしたメイン事業に甚大な支障が生じました。「本来であれば2月からChange Maker Study Programで約200名の大学生を受け入れる予定でしたが、社会的責任と人命を最優先し、全額返金の上で中止を決定しました。しかも、この事業は私たちの年間収益の7~8割を占めるものだったため、翌3月末には倒産の危機に直面することになってしまいました」と三井理事長。そこで、三井理事長は助成金などの情報収集に奔走しましたが、NPO法人に特化した緊急時の助成金がないことが判明、次の一手として2月28日から「倒産を回避し、未来につなげるための資金調達を行う」ために「Syncable(シンカブル)」というプラットフォームを活用して寄付を募ることにしたそうです。その結果、「ありがたいことに開始後わずか2日間で初期目標の200万円を達成することができ、3月末に倒産という最悪の事態を免れることができました。その後も新たな組織づくりに向けて、追加で500万円の目標を掲げたところ、シンカブルだけで500万円以上の支援を受けることができました」と三井理事長。そして、この寄付に国や民間企業からの補助・融資などを加え、どうにか来年7月までは資金繰りのメドを立てることができたそうです。「絶望的な状況でしたが、メンバー全員で『ピンチはチャンス』という視点を共有できたことが大きかったように思います」と三井理事長は振り返ります。

 もちろん、こうした資金繰りとともに、同NPOは新たな組織づくりのためにさまざまなことに取り組んできました。「コロナ禍が収束するまでには2年以上かかると想定し、今まで主軸としてきた交流事業の見直しを検討するなど、新規事業の開発に本格的に着手し始めました」と三井理事長。さらに「持続可能性を高めるために組織体制の見直しを図ったり、現地メンバー全員でビジョンを共有し合う時間を週に1回、3時間ほど確保したりしてきました」とも。

 また、こういった経験をきっかけに、三井理事長は「地方の価値を再確認できた」と言います。「地方は都会のように過密状態になることが少なく、感染リスクを抑えることができます。最近では早くも地方への移住を検討している人が増えているそうなので、コロナ禍収束後を見据えて、さらに広田町の魅力を高められるような事業を展開していきたいと思います」と。そして、交流事業に関しても「徐々に万全の体制で人を迎え入れていく」としており、この4月からは3週間の隔離体制を設けた上で、10名の参加者を受け入れてChange Maker’s Collegeを実施しています。コロナ禍を経て、SETがどのような進化を遂げ、地域にどのような成果をもたらすか、これからも要注目です。

「Change Maker Study Program」の一コマ。地域住民と接しながら地域の課題とその解決策を模索していく

「Change Maker Study Program」の一コマ。地域住民と接しながら地域の課題とその解決策を模索していく

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