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シリーズ企画

2021年04月号

ポストコロナの成長ビジネス

コロナ禍においてビジネス様式や消費動向は大きく変わりました。ポストコロナの時代にはどのようなビジネス、 産業が成長を遂げるのでしょうか。長年にわたってベンチャー企業などの研究に取り組んできた松田 修一氏に、 コロナ禍の影響を概観してもらいつつ、新たなビジネスの可能性について語っていただきました。

松田 修一 氏

早稲田大学 名誉教授 商学博士
ウエルインベストメント株式会社取締役会長
株式会社ミロク情報サービス
社外取締役

松田 修一 氏

1966年公認会計士試験2次試験合格、73年監査法人サンワ事務所(現在 監査法人トーマツ)入社、社員(パートナー)として中堅・ベンチャー企業のコンサルティングに従事。商学博士(早稲田大学)取得後、86年早稲田大学助教授、91年教授に就任。2012年早期退職、名誉教授。現在、ウエルインベストメント株式会社取締役会長、日本ニュービジネス協議会連合会副会長。また、05年よりMJS社外取締役。元日本ベンチャー学会会長。経済産業省・財務省・文部科学省・総務省などの審議会・委員会などの要職を歴任。MJS税経システム研究所の顧問も務める。

投資に関する税制改革を

 コロナ禍による経済的な影響はあと2年ほど続くと思われます。日本はこれまでも幾多の災害や戦火を乗り越えてきたのですから、なんとしても今回のコロナ禍も乗り越えなければなりません。

 その一つの未来の転機として想定しておかなければならないのが2030年です。これはSDGs(持続可能な開発目標、図1)※1の達成目標年であり、日本においては全国に約280万人いる団塊世代がおよそ半数になると予測されている年でもあります。当然、国内の人口は減少するので、SDGsに即して大量消費・大量生産の時代から脱却し、人的・物的資源を効率的に活用することがますます重要になるわけです。また、1900兆円超に上る個人金融資産の半分以上は高齢者の所有資産なので、2030年までにはその多くを相続や投資などによって再分配していかなければなりません。

 このパラダイムシフトを最大限に生かすには税制などの抜本的な改革が必要です。例えば、エンジェル税制※2における控除対象額の上限を引き上げることができれば、ベンチャーへの投資は確実に活発化するでしょう。また、株式投資型クラウドファンディング※3についても上限の引き上げを推進すべきです。アメリカでは株式投資型クラウドファンディングで1社当たり数百万円の投資を実施することがざらですが、日本においては年間50万円が上限となっており、思うようにこの種の投資スタイルが定着していないのが現状です。コロナ禍を契機に少しずつ投資熱が盛り上がりつつあるので、政府にはこれを機に税制改革や金融教育を推し進め、投資による富の再分配を進展させていってほしいと思います。

図1SDGs(2030年達成テーマが示した)持続的成長領域

図2 2050年産業構造変革を加速するグリーンイノベーション

SDGsに即した事業展開

 では、民間企業はこうした状況下において、どのような取り組みを実施すべきなのでしょうか。ここからはいくつかのテーマに即してお伝えしていきたいと思います。

 まずポイントになるのはSDGsを意識した事業を展開することです。具体的な要素としては、成長・雇用、クリーンエネルギー、イノベーション、循環型社会、温暖化対策、生物多様性の保全、女性の活躍、児童虐待の撲滅、国際協力といったことを意識してほしいと思います。例えば生物多様性の保全という要素であれば、従来通りの農林水産業だけでなく、陸上養殖などの分野に注力し、自然環境を守りながら食糧問題の解決に寄与するという方針を掲げるといったことが考えられます。また女性の活躍という要素では、女性経営者や女性幹部をいかに増やしていくかがポイントになるでしょう。

 企業にはそういった具体的な施策を展開しながら、自社がSDGsをどの程度、達成しているかを定期的にモニタリングするとともに、しっかりと公表していってほしいと思います。それは地域からの信頼を得ることにつながり、ひいては自治体からの補助や金融機関からの融資を受けたり、そして新卒採用をはじめとした人的資源を確保したりすることにつながるはずです。

グリーンイノベーションの波に乗る

 次に注目したいキーワードはグリーンイノベーションです(図2)。これは2050年までにカーボンニュートラル※4を実現するという政府目標の達成に向けた取り組みのことで、既に2020年度第3次補正予算では2兆円規模の「グリーンイノベーション基金」が新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に組成され、今後、10年間にわたってカーボンニュートラルに関連する企業の革新的な研究開発が支援されることになっています。

図3 無形資産(知的資本)への投資の高さと持続的成長

 具体的なテーマも、エネルギー転換(再生可能エネルギー(太陽・地熱・風力)、低コスト水素サプライチェーン※5、高効率・低コストな超省エネ)、運輸(グリーンモビリティ※6、高性能蓄電池(EVなど)、バイオ燃料)、産業(ゼロカーボンスチール、光合成プラスチック、CO2吸収セメント)、業務・家庭・横断領域(グリーン冷媒、働き方改革、行動変容、シェアリングエコノミーによる省エネやテレワーク)、農林水産(生態系による炭素蓄積、スマート農林水産業、DAC(直接空気回収技術))といった具合に幅広いので、あらゆる業種の企業がチャレンジすることができます。特に高性能蓄電池(EVなど)に関しては、テスラ社や中国メーカーなどの台頭によって、自動車業界の産業構造が激変すると思われます。既に自動車業界に関わっているモノづくり系企業については、この波に乗り遅れないように注意してもらいたいところです。

 他方、自ら革新的な事業を立ち上げるには資金や時間が不足しているという中小企業は、そのような技術を持つ大学発ベンチャーなどとタッグを組むことを視野に入れるとよいでしょう。ただ、その時に重要なのは投資先を強引にコントロールしようとしないことです。例えば、KDDIは2017年にIoT通信プラットフォーム「SORACOM」を提供するソラコム社を買収しましたが、KDDIがソラコム社の独自性を最大限に尊重したことで数多くの実績を残すことに成功、第4回「日本ベンチャー大賞」で経済産業大臣賞「ベンチャー企業・大企業等連携賞」を受賞するに至りました。投資する側もされる側もこの視点を大切にしてほしいと思います。

ITとアイデアを巧みに取り込む

 続いて、NEDOが2020年6月に発表した「新しい社会様式に求められるイノベーション像」に着目してみます。この提言では世界的な社会課題の解決実現にあたっては、国内の政策当局、産業界、学界が一体となって取り組み、高い技術力を有する日本の叡智を結集し、世界的なけん引役を担っていくことが必要であるとされていますが、まさにその通りです。この提言で挙げられている共通キーワードはデジタルシフト(リモート、オンライン、分散化、自動化、省人化)、低環境負荷社会への更なる転換(レジリエント※7なエネルギー社会、強靭なサプライチェーン)などで、共通技術としてはオンライン・コミュニケーション(テレワーク、オンライン化(授業、診療、会議など))、リアリティ(バーチャル会議、オンラインイベント)、自動化・省人化(スマート農業・工場など)、信頼性・セキュリティ(接触抑制技術全般、スマート決済(スーパーなど)、インフラ、交通)、環境・エネルギー対策(3R※8、環境材料、バイオ生産、天然物合成技術、再生可能エネルギーへの移行、エネルギーシステムの強靭性増強策)などが挙げられています。

 この内容を見ても分かるように、現在、求められているイノベーションの大半はITと関連したものになります。つまり、もはやITを活用しなければイノベーションを起こせない時代になっているのです。事実、農業などの分野においても、もともと農業と関係がない業種がスマート農業に取り組み、イノベーションを起こし始めています。そういう意味でも、これらのキーワードと縁がない企業は、まずはそういった事業と関わっている大学や企業と連携してみることが肝心です。大学発ベンチャーなどとの連携は敷居が高いと感じるようであれば、大学や地元の小中高校などと連携し、学生や生徒の知恵を借りるというのも一案です。若者たちは既存企業にはないアイデアを持っているので、自分たちが持っている技術やサービスを地域の中でどのように活用できるかをあらためて問うてみるといいでしょう。

無形資産の重要性が顕著に

 こうした取り組みを推進していくにあたっては、無形資産(知的資本)に対して、正しい認識を持たなければなりません(図3)。とりわけ昨今の世界経済の中核を担っているGAFA※9に対抗していくには、無形資産を重視しなければならないのです。

 これまでも知財の重要性はたびたび指摘されてきましたが、これだけあらゆる業種にITが活用されるようになると、知財の確保はもはや必要不可欠です。これをおろそかにすると、せっかく自社あるいは連携先が優れた技術を持っていても、他社が類似する技術を知財化したが故に使えなくなる、ライセンス料を支払う必要が生じるようになるといった事態に陥りかねないので、特許などによる知財化は開発とワンセットで進めるくらいの心構えを持つべきでしょう。そうしておけば、仮に自社でその技術を使いこなせなくとも、他社に売却したり、ライセンス契約を結んだりすることで、収益に結び付けられる可能性も見えてきますし、金融機関などからの評価も確実に上がります。

 なお、無形資本の重要性については、ジョナサン・ハスケルとスティアン・ウェストレイクの著書『無形資産が経済を支配する~資本のない資本主義の正体』(東洋経済新報社)が参考になるので、関心がある方はこちらも一読してみてください。

税理士の先生方に求められること

図3 無形資産(知的資本)への投資の高さと持続的成長

 ポストコロナに向けてこうした動きが進む中、税理士の先生方が取り組むべきことは数多くあります。まずは富の再分配を促すためにも、地方における相続問題に寄与していただければと思います。また、顧問先がSDGsをどれくらい達成しているかを顧問先とともに検証し、アピールの材料として活用していくことも重要になるでしょう。さらに、都市部に近い方々は独自のアイデアを持ち起業したスタートアップの拠点となる施設などに積極的に足を運び、起業家やその卵たちのニーズを汲み上げ、一緒になってイノベーションに取り組んでみてはどうでしょうか。内閣府では現在、「世界と伍するスタートアップ・エコシステム拠点都市」の形成に向けた取り組みを推進しており、首都圏や中部、近畿、福岡、他にも札幌や仙台、広島、北九州などの拠点が選定されています。大学などとパイプがある先生方であれば、顧問先をはじめとした地元企業とのマッチングを積極的に推進するのも有意義でしょう。

 税理士の先生方は経営者にとって最も身近な存在です。その特性を活かしながら、経営者と向き合い、その本音を聞き出すことで、地域の企業とともにポストコロナの時代に立ち向かっていただきたいと思います。

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