CHANNEL WEB

シリーズ企画

2021年11月号

相続対策の新たな潮流

本格的な高齢化社会を迎え、「相続」という言葉が多くの人にとって、身近なものになってきています。それに伴い、新たな相続対策サービスなどが次々と誕生しています。そこで、本特集の前半では 株式会社船井総合研究所 DX支援本部 士業支援部 相続信託ビジネスグループ マネージャーの川崎 啓氏に最新の動向を紹介いただき、後半では関連した相続対策サービスをご紹介します。

川崎 啓 氏

船井総合研究所 DX支援本部
士業支援部 相続信託ビジネスグループ
マネージャー

川崎 啓 氏

早稲田大学卒業後、新卒で株式会社船井総合研究所に入社し、司法書士向け経営支を専門に行う。その後、相続分野の業績アップ支援を専門で行う部署を立ち上げ、士業支援部 相続・信託ビジネスグループのマネージャーに就任。現在は税理士、司法書士、法律事務所、不動産会社の中で相続分野に注力する事務所の経営サポート全般を行っている。

士業以外の業種が主体となった相続対策サービスが急増

 高齢者の人口は2040年まで増え続けると言われており、それに伴い相続案件も増加するとみられています。昨年来のコロナ禍の影響は大きく、対面式の相談会やセミナーなどが減少し、一時期は相談依頼の件数も減少傾向にありました。そうした中、堅調なのがインターネットを活用した相続対策サービスです。中には全ての手続きをインターネットで完結できるものもあり、コロナ禍にあってさらに注目を集めています。

 それらの中でも最近、特に目立つのが不動産会社、金融機関、保険会社、葬儀社など、士業以外の事業者が主体となった相続対策サービスです。例えば不動産会社でいうと、相続を切り口にすることで、相続後の不動産の名義変更や売却を一貫して引き受けるといった狙いがあるわけです。

 また、サービス内容としては、民事信託を中心としたものが多数みられます。その背景にあるのは被相続人の高齢化による認知症の進行です。認知症が進行し、意思表示などが困難になると、銀行預金を引き出したり、株式などの有価証券や不動産を売却したりすることができなくなるといった支障が生じるため、被相続人が元気なうちに財産の管理・運用方法などを決め、信頼する人などにその管理・運用など託すことができる民事信託が注目されているのです。

 こうした動向を象徴するのが、福岡県福岡市を拠点とする「福岡相続サポートセンター」です。こちらは(株)三好不動産という不動産会社を主体としており、不動産オーナーに認知症対策として民事信託や不動産管理会社の切り替えなどを提案しています。ちなみに、実務については提携している士業の先生方が対応することになっているそうです。また、「ファミトラ」というサービスでは家族信託(信頼する家族に信託財産を託すスキーム)の組成をウェブ上で簡潔に進めることができるサービスを展開、信託の適切な管理・運営まで担うことで差別化を図っています。もちろん、中には士業を中心としたサービスもあります。家族信託については司法書士法人トリニティグループが主体となって「スマート家族信託」というサービスの展開を始め、来年から本格的にエンドユーザー、士業事務所へのサービス提供を始められるようです。

 相続発生後の申告手続きに関しても、新たなサービスが続々と誕生しています。例えばみずほ信託銀行(株)ではワンストップで相続手続きを引き受けるサービスを展開し、顧客である資産家の囲い込みを進めています。今後は信託銀行だけでなく、その他の銀行についても相続対策サービスに乗り出してくるケースが増えてくるかもしれません。また、クラウド上で相続税の申告書作成まで行える「better」というサービスも注目されており、こちらはニッセイ・キャピタル(株)、AGキャピタル(株)などが主体となっています。

 その他、「そうぞくドットコム不動産」というサービスがあります。これは(株)AGE technologiesというIT系のベンチャー企業が立ち上げたサービスで、相続で発生した自宅や土地などの不動産の名義変更手続きをウェブ上で簡潔に行えるというものです。最近は複数のベンチャーキャピタルからの投資なども相次ぎ、取り扱い件数が増加しているようです。

新規のサービスを活用して 顧問先への支援を拡充する

 元来、士業の先生方は顧問先などの経営支援や資産管理の一環として相続対策の業務を担ってきましたが、近年はこのように士業以外の分野の事業者が相続を切り口にして本業との相乗効果を高めようとする動きが顕著になってきています。現に相続対策サービスには図に示したようなさまざまなニーズがあり、先述したように多岐にわたる業種の事業者が関連性を持てるようになっています。

相続発生前後の相続対策サービスまとめ

 しかも、相続対策サービスに乗り出す事業者の多くは圧倒的な資本力をベースにしており、今後も同様のサービスは増加し続けるものと思われます。であれば、こうしたサービスと連携したり、活用したりすることで、事務所の相続サービスの拡充を図っていくのも一案と言えるでしょう。

 一方、自力で相続対策サービスを確立させていくのであれば、今こそアナログで攻めるべきではないかと思います。特に資本力を持った相続対策サービスが強い影響力を持つ地域については、インターネットをあまり使用しない層へのアプローチが重要になるので、新聞の折込広告をはじめとした紙媒体を活用し、案件を獲得していくといいでしょう。

 また、あらためて既存の顧問先との信頼関係を強化することも忘れてはいけません。本来、税理士の皆さんは顧問先の資産状況を誰よりも正確に把握されているはずであり、それは顧問先にとっても気兼ねなく相続などのことを相談できる要因の一つになり得るはずです。ところが、顧問先との日常的なコミュニケーションが希薄だと、どうしても信頼関係を構築することができず、いつの間にか他の事業者や士業の先生方に案件が流れてしまうので注意しなければなりません。

 もちろん、依然として複雑な案件については士業に強みがあります。新規の相続対策サービスの多くは簡易な相談や手続きに対応するものであって、複雑な案件には対応できていない部分があるのが現状です。つまり、コンサルティングが必要な案件は引き続き士業の領域として残るため、相続税などに強い先生方はいかんなくその専門性を活かせます。そうした認識の下、事務所全体で相続対策に力を入れたり、他の士業と連携することで高度なワンストップサービスの体制を構築したりしていけば、さらに事務所の相続対策サービスを強固なものにできるかと思います。

 これからも他業種が主体となった多彩かつ利便性の高いサービスは続々と誕生していくものと思われます。税理士の皆さまにはぜひともそういった新規のサービスを活用しながら、顧問先の相続需要を喚起し、その支援内容を拡充していってほしいと思います。

1

相続対策サービス事例

資産家の高齢化に伴って認知症などが問題視される中、早期の相続対策の重要性が指摘されています。そのニーズに応える新たなサービスを紹介します。

「家族信託」の実務を徹底サポート「ファミトラ」

(上)「ファミトラ」のロゴ (下)「ファミトラ」の料金体系。別途、外部弁護士・司法書士との間で契約書作成費用が発生

(上)「ファミトラ」のロゴ (下)「ファミトラ」
の料金体系。別途、外部弁護士・司法書士との間で
契約書作成費用が発生


 厚生労働省の「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」(2017年7月改訂版)によれば、日本の高齢者の実に4人に1人が認知症とその予備軍であり、認知症高齢者や介護者への支援策拡充が求められているのはもちろん、認知症発症後の財産管理にまつわるリスクを軽減することが超高齢化社会の最重要課題の一つとなっています。その中で近年、特に注目度が高まっているのが「家族信託」です。認知症などにより自分で財産管理ができなくなってしまった時に備えて、家族にその管理や処分の権限を与えておく手法であり、従来の成年後見制度に比べると制約が少なく、柔軟な財産運用が可能となっています。ただ、制度として施行されてから十数年が経過したとはいえ、まだ家族信託の実務に精通した専門家は少ないのが実情で、一般にはあまり浸透していません。(株)ファミトラが運営する「ファミトラ」は、そんな家族信託の組成をサポートする安価で手軽なサービスです。専任の家族信託コーディネーターが電話やオンライン会議システム、あるいは対面で利用者の課題や希望をヒアリングした上で最適な家族信託組成プランを提案し、信託契約書の作成や信託契約の公正証書化、専用の銀行口座の開設、不動産登記といった手続きについても各種士業や銀行などの専門家と連携をとって、実際に信託契約を締結するまで総合的にサポートするところがこのサービスの特長です。さらに、信託契約の組成後もファミトラが信託監督人として信託の安定的な運営を継続的に支えてくれるので安心できます。

通常、一般的な家族信託組成サービスの信託組成報酬は信託財産の評価額の0・5~1%ほどですが、ファミトラではITを活用することによるコミュニケーション方法の合理化、プランの作成コストの圧縮を実現している

 他、信託監督人サービスをパッケージ化することによって、長期にわたる安心と諸費用の定額化、大幅な低価格化の両立を達成しています。これからも高齢化がさらに深刻な社会課題となる中、こういったサービスの広がりは家族信託の普及を促進する可能性を秘めています。


早期相続対策ニーズを抱える層にアプローチ「レタプラ」

 同じく認知症などのリスクを見据え、「50歳から相続の第一歩を」というキーワードを掲げて存在感を強めているのが(株)FP?MYSの「レタプラ」です。

 これはスマートフォンで簡単に相続税を概算できる無料のプラットフォームサービスで、一般の利用者にとっては相続を考える第一歩として、まず「自分が相続対策においてどのような位置付けにあるのか」を把握することが可能です。また、士業や金融機関などの専門家向けの「レタプラBiz」はチャット機能を備えており、専門家が「相続対策に漠然とした不安を抱えているが、士業への対面での相談は敷居が高い」と感じている50代の潜在的顧客層に早期にアプローチするためのツールとしても適しています。オンラインで顧客の相続税の試算を共有することで、スムーズに個別具体的なアドバイスやコンサルティングを実施できるようになるのです。

 ちなみに、このサービスを開発した(株)FP―MYSは代表取締役の工藤 崇氏自身がファイナンシャルプランナーである他、チーム・株主に税理士・弁護士・資産コンサルタントが揃っています。まさに専門家集団ならではの視点で生み出されたサービスと言えるでしょう。同社では19年3月以降、基本的なサービスに加えて不動産会社やハウスメーカー、士業やM&A仲介会社など向けに特化したカスタマイズ版を順次開発、今後も相続を起点として発生するさまざまな社会課題に対応できるよう、さらなるプラットフォームサービスの拡充を図っていくとしています。

煩雑な相続手続きをネットで簡単に「そうぞくドットコム不動産」

 もう一つ、高齢化とともにニーズが急拡大する相続マーケットで躍進している(株)AGE technologiesの「そうぞくドットコム不動産」を紹介します。

 その名の通り、相続手続きの中でも不動産の名義変更手続きのサポートに特化したサービスです。不動産の名義変更手続きといえば、戸籍の収集はもちろんのこと、登記申請書や遺産分割協議書、相続関係説明図など何種類もの公的な申請書類の作成が必要であり、難解で複雑な上、かなり時間がかかってしまうケースも多々あります。ところが「そうぞくドットコム不動産」であれば、面倒な戸籍や住民票などの収集をネットで簡単に依頼することができ、手続きに必要な申請書類一式もウェブで自動作成されるので、手続きにかかる手間が大幅に削減されるのです。

(上)「そうぞくドットコム不動産」のロゴ (左)「そうぞくドットコム不動産」のトップページ

(上)「そうぞくドットコム不動産」のロゴ
(左)「そうぞくドットコム不動産」のトップページ

 しかもこのサービスのウリは「定額制」であること。不動産の相続手続きを専門家などに依頼すると、家族関係の複雑さや不動産の数などによって価格が変わることが一般的ですが、「そうぞくドットコム不動産」では利用者の「実際に手続きしてみないと費用が分からない」という不安を解消するため、あえて定額でのサービス提供に踏み切ったといいます。

(上)「そうぞくドットコム不動産」のロゴ (左)「そうぞくドットコム不動産」のトップページ

 現在、日本全国における相続に伴う不動産名義変更の申請件数は年間約100万件、一方で不動産登記の専門家である司法書士は2万人ほどと、不動産相続にまつわるさまざまな社会課題を解決するには圧倒的に供給側が不足しています。特に所有者の死亡後も登記簿がそのまま放置された「所有者不明土地」が各地で問題となっており、その全国における面積を合計すると、なんと北海道を上回る広さになると言われています。同社は「そうぞくドットコム不動産」を皮切りに、こうした社会課題に対して預貯金の手続きや相続税の申告、遺言書の作成など、「そうぞくドットコム」のブランドの下、専門家や関連事業者らとも連携しながらさまざまなソリューションを提供していくという方針を掲げています。

▲ ページトップ