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沖縄会独自企画

2022年11月号

沖縄「市場」観光の魅力

戦後の露天闇市を起源とし、時代の変化とともに独自の商い文化を育んできた沖縄の市場文化。 長年、各地で住民の台所として親しまれ、現在では観光地としても人気のスポットとなっています。 そこで今回は、建て替え計画が進展し2019年から仮設市場での営業が続いている那覇市第一牧志公設市場と、 今なお野菜の相対売りが息づく農連市場(現・のうれんプラザ)、昔ながらのアーケード街に飲み屋が軒を連ねる 栄町市場商店街など、沖縄の市場の魅力をお伝えしたいと思います。

仮設市場でも変わらない〝県民の台所〟の魅力

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〝沖縄県民の台所〟として長年、県民や近隣飲食店、
観光客に親しまれてきた那覇市第一牧志公設市場(移転前)

 まずは沖縄の市場の代表格、那覇市第一牧志公設市場から紹介したいと思います。古くから〝沖縄県民の台所〟と呼ばれ、食材が何でも揃う沖縄最大の市場として地元住民や飲食店などに親しまれてきました。場内には小さな店舗が100店以上もひしめき合い、沖縄近海で獲れた色鮮やかな魚や精肉の他、ゴーヤーや島らっきょ、ヘチマといった島野菜の漬物など、沖縄料理に欠かせない食材が所狭しと並んでいます。

 この市場最大の特徴は、場内での商いが相対売りで成り立っていること。観光地というイメージが強い第一牧志公設市場組合ですが、実は生活市場としての機能をしっかりと残しているのです。組合長を務める山城こんぶ店の3代目、粟国 智光氏も「店側と馴染み客とのやりとりは親から子へと代々引き継がれていて、例えば精肉店であれば、店主は肉の種類や部位、分量など、お客の細かな要望や好み、時には家族構成まで知っている。これだけ地域住民の生活に根差した市場は全国的に見てもかなり希少だと思う」と言います。もちろん、観光客も気楽にこの相対での買い物を楽しむことができます。精肉店では精肉だけでなく、ラフテーやスーチカーなどお土産になる加工品も売っており、漬物店では沖縄ならではの漬物や珍味を味見できるので、気軽に店の方に声を掛けてみてください。また、観光客に大好評なのがいわゆる「持ち上げ」。1階の鮮魚店や精肉店で食材を購入し、2階の食堂で調理代を払って調理してもらうという第一牧志公設市場ならではの仕組みで、割安価格で好みの魚介類のみそ汁やフライ、煮付け、バター焼きなどが食べられるとあって人気です。

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〝場内には沖縄ならではの鮮魚や食材、加工食品が
所狭しと並ぶ(移転前)

 このように地元住民の台所として親しまれるとともに、昔ながらの沖縄の市場を体感できる県内屈指の観光スポットにもなっている第一牧志公設市場ですが、19年7月からは市場建て替えのため、一時、仮設市場(元の場所から100mほどはなれた「にぎわい広場」)での営業となっています。とはいえ、その魅力は何一つ変わらず、先述の持ち上げなども可能なので、那覇観光の折にはぜひ立ち寄ってみてください。

 なお、市場建て替え工事の進捗は予定よりも遅れているものの、来年の春にはリニューアルオープンを迎えられる見込みとのこと。「リニューアル後は公設市場の3階に調理体験や交流などができる多目的スペースが設けられる予定なので、界隈の飲食店ともコラボしながら、島内外の人たちに沖縄の食文化を発信していきたい」と粟国氏は言います。この間、コロナ禍で市場関係者も周辺の飲食店も厳しい状況にあったそうですが、古い建物を活用した飲食店が人気を集めるなど、新たなトレンドも盛り上がっているので、市場界隈の一体的な取り組みにも大いに期待したいところです。沖縄県では今、琉球料理や泡盛の世界遺産登録に向けた取り組みが進められていますが、リニューアルした第一牧志公設市場はその拠点として重要な役割を果たすことになるでしょう。

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入口には、農連市場時代の看板が掲げられている

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2015年に農連市場の建物が解体された後、17年10月に再スタートを切ったのうれんプラザ

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仮設の第一牧志公設市場の前に立つ粟国氏

昔ながらの野菜の相対売りと多種多様なグルメを満喫

 那覇市第一牧志公設市場のほど近くにはかつて、もう一つ昔ながらの相対売り文化が息づく「農連市場」がありました。農家が野菜や果物、花きを直接持ち込む他、肉や魚、惣菜、雑貨を扱う店などがトタン屋根の下に100店以上も軒を連ねていたのですが、建物の老朽化で解体、17年10月に真新しい3階建ての「のうれんプラザ」として生まれ変わりました。

 その建物内1階には農産物販売スペースがあり、現在も旧農連市場時代からの相対売りが以前と変わらず行われています。市場が動き始めるのは、だいたい深夜2~3時頃から。生産者たちの搬入や野菜の仕分け、簡単な加工作業などが行われた後、4~5時頃になると地元住民や飲食店、小売業者などが買い物・仕入れに訪れ、生産者や卸業者との間で相対売りが行われます。

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名嘉鮮魚店のミニ海鮮丼と魚汁、天ぷら

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魚卸売業者の飲食ブースで、新鮮かつリーズナブルな海鮮丼や魚汁などを味わえる

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早朝には現在も、地元農家などが野菜を持ち寄って昔ながらの相対売りを行っている

 この相対売りの様子を見物するだけでも楽しいですが、のうれんプラザはグルメスポットとしても実に魅力的。館内には居酒屋や沖縄そば店、八重山そば店、ベトナム料理屋、焼肉屋など数多くの飲食店が軒を連ねている他、名嘉鮮魚店など海鮮丼や天ぷらを店先で販売し、飲食ブースを設けている魚卸業者もあるので要チェックです。「早朝に相対売りでの買い物に挑戦してみたり、朝ごはんにお惣菜や天ぷらを買ったり、お昼に飲食店で食事したりと、のうれんプラザの楽しみ方はさまざま」と話すのはのうれんプラザ商店会長の友利 繁文氏。「コロナ禍を経て営業が不定期となった店などもあるが、ここのところは全体的に活気が戻ってきている」そうなので、立ち寄ってみてはいかがでしょうか。

迷路のようなアーケード商店街が人気の飲み屋街に

 那覇市内の市場といえば、栄町市場商店街も外せません。飲食事業者などが食材を仕入れにくる市場ではないのですが、14~15年前からこの商店街の独特な雰囲気に魅了された人たちの出店が相次ぎ、今では個性的な店が軒を連ねる飲み屋街として市民や観光客の間で定着、夜ごと多くの人でにぎわう様子はまさに沖縄の市場文化に相通じるものがあります。古びた低層アーケードの下、細く迷路のように入り組んだ路地は散策するだけでも楽しいですが、何といっても道端に並べられたテーブルで杯を傾けてみるのがオススメ。安価でおいしいツマミを出す店が多いこともあって、つい夜遅くまでハシゴ酒をしたくなってしまうこと請け合いです。

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 ただ、ここ数年の盛り上がりの陰で、栄町市場商店街は第一牧志公設市場などと同様、建物の老朽化という課題を抱えています。そもそも、このアーケードはかなり古く、組合ができる以前に各店有志でつくったものだと言います。栄町市場商店街振興組合事務局長の黒島 浩氏は「昔の姿をとどめたまま、これだけ多くの新規出店がある商店街は全国でも珍しい。組合の誰もがこのままの形で栄町を残していきたいと願っている」と話しています。組合員有志でアーケードや建物の補修を行うなど、一丸となって課題と向き合っているそうです。

 それぞれ姿を変えながらも、昔ながらの趣や文化を今に残している市場は、沖縄観光に欠かせないスポット。沖縄にお出掛けの際はぜひ訪れてみてください。

昼の栄町市場商店街。飲食店が増えたことで食料品を中心とした買い物需要が高まり、なかにはランチ営業をする店も

昼の栄町市場商店街。飲食店が増えたことで食料品を中心とした買い物需要が高まり、なかにはランチ営業をする店も

人気の飲み屋街となっている栄町市場商店街

人気の飲み屋街となっている栄町市場商店街

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