「頼み事を断らない」スタンスと
顧問先との会話が何より大事
周南工業地帯の東部にあるモノづくりのまち、山口県光市において、長年にわたり 父子二人三脚で地場企業の税務と経営を支えてきた松本透税理士事務所。 頼まれ事を決して断らないスタンスと、顧問先との会話によるコミュニケーションを大事にする 松本 透先生に、新たな事業にチャレンジする地場企業の動きや今後の展望について伺いました。
顧問先との会話を通じて困り事やニーズを引き出す
松本先生の事務所は親子二人三脚で立ち上げたそうですね。
松本 透所長(以下、敬称略) 15年ほど前、それまで父と私が勤めていた山口県光市内の会計事務所から独立し、現在の事務所を構えました。父は立ち上げ時点で30年以上にわたって税理士として活躍し、前の事務所で数多くの中小企業や小規模事業者の税務を担ってきました。設立当初はそこで受け持っていた顧問先約50社を引き継ぐ形でスタートしました。
顧問先にはどういった企業や事業者が多いのでしょうか。
松本 光市は全国有数の石油化学コンビナートである周南工業地帯の東部に位置しています。市内には武田薬品工業や日本製鉄グループなどの大工場があり、その下請けの製造業が当事務所の顧問先の約半数を占めています。次に多いのが海運業で、その他の業種も含めますと、現在では個人事業者から中小・中堅企業まで合計約110社の税務を担っています。
開業当初から顧問先が倍増したのですね。この15年間、どのようにして新たな顧問先を開拓してきたのでしょうか。
松本 父の代から一貫して「お願いします」と言われたら決して断らずに引き受ける、というスタンスを守り続けてきました。おかげで、紹介や口コミを通じて、徐々に顧問先が増えていきました。また、近年では他の事務所からの紹介も増えています。市内には現在、20数人の税理士の先生がいるのですが、その多くは高齢で廃業を検討していたり、既存業務で手いっぱいのため新規顧客の受け入れが難しいと聞きます。そういった時に当事務所を紹介いただけているそうで、結果的に顧問先の拡大につながりましたね。
もちろん、数多くの顧問先に対応するために、事務所の規模も拡大してきました。開業当初は4人体制だったのですが、今では父と私の税理士2名のほかに、正社員5名、パートタイム1人の計8名体制で顧問先支援にあたっています。
さまざまな業種の顧問先を引き受けて、業務の幅も広がったのではないですか。
松本 その通りですね。以前、ある社会福祉法人の顧問を引き受けました。そのお客様は「事業規模を拡大していくにあたって事務に手が回らないので力を貸してほしい」ということでご相談に来られました。支援を引き受けた当時、私には社会福祉法人の会計や税務の知識がなかったのですが、支援とそれに伴う具体的な実務を通じて知見を広げました。そのおかげもあり、現在ではその法人の税務会計全般を当事務所で担っています。
あらためて、顧問先への経営支援で大事にしていることがあれば教えてください。
松本 税理士が顧問先の経営を支える上で最も大事なのは、「会話によるコミュニケーション」だと考えています。特に事業承継や相続の案件に関しては事務的に進めてしまうと絶対にうまくいきません。まずは経営者や後継者、家族の話をしっかりと聞き、思いを汲み取るよう心掛けています。
また、私が顧問先を訪問する際には、経営者や幹部だけでなく、必ず事務の方と話をします。この時、世間話に始まって、常日頃から困っていることや気になっていることなどを聞き出します。例えば、顧問税理士が別の先生から私に切り替わった直後であれば「以前はどういう風にやっていましたか」と気軽に聞いてみます。なるべく以前のやり方を踏襲し、現場に負担をかけないようにするのは大前提ですが、もし効率化・省力化できそうなところがあるようなら積極的にアドバイスするようにしています。
もちろん、職員一人ひとりにもこうした会話によるコミュニケーションを大事にするよう伝えています。当事務所には勤続年数が長く地元の事業者の状況をよく把握しているベテランもおりますので、日々のやりとりの中で顧問先のニーズや困り事を聞き出すことも多々あります。
新たな事業にチャレンジする顧問先を下支え
ここ最近、顧問先からはどのようなご相談が舞い込むのでしょうか。
松本 直近ではやはり、2023年10月に始まったインボイス制度に関する相談が多いですね。新制度への対応に向けた体制がまだ整っていない企業様も多く、個々の具体的なケースについていろいろな相談が寄せられています。当事務所では各顧問先の事業の状況や取引先の情報などを把握し、その都度、適切なアドバイスに尽力しています。
新型コロナウイルスの5類引き下げ後も、資材・燃料の高騰や内需の低迷など、中小企業にとって苦しい状況が続いています。こうした中、先を見据えて新たな事業に挑戦している顧問先の取り組みなどございましたらご教示ください。
松本 県内で5~6店舗のガソリンスタンドを経営しているある企業はガソリンの消費量が減少傾向にある中、排気ガスをきれいにするために必要不可欠な高品位尿素水の製造販売事業を新たに始めたというお話を伺いました。その企業様はいろいろなことに挑戦されており、まったくの異業種であるキクラゲの菌床の製造・販売事業も立ち上げて軌道に乗せつつあるそうです。
また、金属加工業を主軸とする老舗モノづくり企業が開発したオリジナル製品「くつ底キャッチャー」が注目されています。これは工場などの階段の昇り口につける金属製の滑り止めで、テレビ番組にも取り上げられたことが功を奏し、大手製造業者からの引き合いが増えているようです。この顧問先は代替わりを機に、「新しい事業にチャレンジしていきたい」ということで、中小企業診断士を通じて当事務所にお声掛けがあり、今の関係に至ります。私たち税理士は新たなビジネスの提案や技術・製品開発そのものを手助けすることはできませんが、こうしたチャレンジには経営判断にあたっての税務・会計上のサポートが欠かせません。ですので、私どももしっかりとその役割を果たせるよう心掛けています。
事務所の次世代を担う人材の育成と業務効率化が課題
最後に、今後の展望をお聞かせください。
松本 当事務所では、2023年6月に父に代わって私が代表となりました。ずっと父と私の二人三脚でやってきて、それは今後も変わりませんが、父も高齢ですので、これからは少しずつ父が担当していた顧問先を私が引き受けていくことになるかと思います。
また、新たに人材を確保する必要もあります。現在17歳の息子が自分も税理士になると言ってくれていますが、先のことは分かりません。当事務所に加わって一緒に地域の中小企業や小規模事業者を支えてくれる税理士の方との縁を探るなど、何かしら策を考えているところです。
今後のことでもう一つ、税理士業界の人手不足がこれからさらに深刻化していく中にあって、働き方や業務の仕組みをより良いものに改善していく必要性を切に感じています。テレワークは既に可能ですが、顧問先との書類のやりとりなどはいまだにアナログですから、どうしてもできる範囲が限られてしまいます。書類のペーパーレス化はもちろん、新たなシステムを導入してどんな業務でもテレワークで行えるようにするなど、柔軟な勤務形態を実現し、多様な人材を受け入れられるようにしていきたいと思います。
本日はありがとうございました。ますますのご発展をお祈りいたします。
History & Story税理士までのあゆみ
お父様が長らく地元の会計事務所に勤務されていたことから、松本先生は高校生の時、将来の進路を考える中で「自分も地域の事業者を支える仕事がしたい」という気持ちが芽生えたそうです。
岡山大学の法学部に進学し、大学院では税法を学ぶかたわら専門学校で税理士資格取得に向けて勉学に励んだといいます。そして卒業後、地元へ戻り、お父様が勤務していた会計事務所に勤めました。その事務所に勤めながら資格勉強を続け、20代後半に税理士資格を取得されました。その後、勤務先の事務所の所長である大先生が亡くなり、国税局に勤めていた息子さんが跡を継ぐことになったタイミングで、お父様と松本先生は独立することになったそうです。
松本透税理士事務所
- 所在地/
- 山口県光市浅江1-16-9
- TEL/
- 0833-74-0200
- 設立/
- 2007年
- 職員数/
- 6名
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山口県光市の地域活動と一大スポーツイベント
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山口県光市にある虹ケ浜海岸は「日本の渚百選」など数多くの選定を受ける西日本屈指の海水浴場です。毎年4月30日から端午の節句まで、海岸では約140匹の鯉のぼりが元気に空を泳ぐ姿を見ることができます。これは光市浅江地区のまちづくり団体が中心となって、東日本大震災で犠牲になった子どもたちを悼み、掲げているもので、松本透先生もこの活動に携わっています。
鯉のぼりを掲揚することになったきっかけは、市立浅江中学校の生徒たちが2013年、宮城県東松島市を交流事業で訪れた時のこと。幼い弟を津波で失った青年が震災で亡くなった子どもたちを慰めようと、弟の好きだった青い鯉のぼりを集めて掲げるプロジェクトを続けていることを知り、「地元浅江地区でもぜひ協力したい」と住民に呼びかけ「虹の鯉のぼりプロジェクト」をスタートさせたといいます。虹ケ浜海岸では「お父さんもお母さんも空と海でつながり、見守っているよ」という思いを込め、赤や黒の真鯉、緋鯉と青い鯉のぼりを一緒に掲げて泳がせた後、被災地に青い鯉のぼりを贈っています。
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山口県下松市沖、瀬戸内に浮かぶ笠戸島で毎年2月に開催されるのが「くだまつ笠戸島アイランドトレイル」です。トレイルとは未舗装の道のことで、トレイルランニングは、林道や登山道など自然の中を駆け抜けるアウトドアスポーツです。
舞台となる笠戸島は、「七浦七岬」と呼ばれる変化に富んだ海岸線を持ち、整備されたハイキングコース、摺鉢山や高壺山など標高200mを超える山、海の上を走る海上遊歩道と、下松市を代表する観光スポットがあります。コースは国民宿舎大城をスタート・ゴールとして、島全体を使った30km(累積標高=1660m)のロングコースと、島北部を使った17km(累積標高=1000m)のショートコースがあり、全国から多くのランナーが集います。
コース中3カ所あるエイドステーションでは、住民を中心に温かいスープ、地元特産品を使った料理、地元名菓が振る舞われます。漁港を持つ島ならではの大漁旗を使った応援や選手一人ひとりの名前を呼びながらの応援もあり、地域一体となったおもてなしが魅力の大会となっています。