2019年03月号
税理士業界全体の未来を見据えつつ
志を同じくする事務所と新法人設立
2018年12月、異なる地域の複数の事務所によって設立された新大和税理士法人。その代表として金沢市に拠点を持つ平野 豊先生は、これまで税理士会の会務運営に携わるなかで、税理士業界全体の未来を見据えて 中小企業支援事業に注力してきました。その取り組みや新法人の今後の展開について、お話しいただきました。
最重要課題である事業承継支援に注力
新大和税理士法人は平野先生が中心となって、複数の事務所とともに立ち上げられたそうですね。
平野 豊代表(以下、敬称略) 1990年の開業当時は個人事務所でしたが、約8年前に平野税理士法人として法人化を果たし、2018年12月、私たちのほかに東京都の2拠点、愛知県名古屋市と三重県津市のそれぞれ1拠点の事務所とタッグを組み、新法人を設立しました。
組織としての変化とともに、この約10年の間に平野先生ご自身の意識も大きく変わったと聞いています。
平野 北陸税理士会や日本税理士会連合会(日税連)の活動に携わり、それらを通して全国各地の素晴らしい先生方からご指導いただく機会を得ることができました。そして、税理士会や税理士制度の歴史と意義をあらためて学び、税理士業界全体の維持・発展を強く意識するようになりました。そのためには会務運営や事務所経営のなかで、いかに税理士として社会貢献できるかを常に意識することが重要だと思っています。
北陸税理士会の会務運営を通じて、税理士業界のためにどのようなことに取り組んでこられましたか。
平野 中小企業支援、特に事業承継支援に最も注力しました。日本が抱える課題は多々ありますが、なかでも少子高齢化、人口減少が深刻です。私たち税理士の関与先の大多数を占める中小企業・小規模事業者数は、90年代初頭には480万ほどだったのが、2016年頃には380万にまで減少してしまいました。経営者のボリュームゾーンはいまや60代後半となっており、この先5年、10年で団塊の世代が一斉に引退していきます。その数は百数十万社以上とも言われ、そのうち後継者が決まっている企業は半分以下であり、当然、企業数は激減するでしょう。税理士業界にとって、そして日本経済にとって由々しき事態を少しでも食い止めるために、いかに事業承継をスムーズに行うかが喫緊の課題となっているのです。そこで北陸税理士会では17年4月、全国に先駆けて事業承継支援サイト「担い手探しナビ」を開設。この動きがきっかけとなって、18年10月には日税連で全国規模の同様のサイトがつくられました。これは税理士が関与先企業の窓口となって引き継ぎ先を探す登録制マッチングサイトで、北陸税理士会では約1400人の会員のうち1000人以上が登録・利用しています。さらに全国展開後は毎週100を超える事務所が新規に加わっているそうなので、今後も着実に登録者数を増やし、税理士による事業承継の実績を挙げていくことが求められています。 ちなみにこのサービスは5年前に設立された日税連の中小企業対策部が担当しているのですが、この部門がつくられたのも、北陸税理士会で中小企業支援対策部を発足したのがきっかけでした。
北陸はまさに中小企業支援の先駆けの地なのですね。
平野 約380万社ある中小企業・小規模事業者のうち、法人は250万社ほどで、そのほとんどに税理士が関わっています。国や金融機関以上に企業と関係が深い存在として、私たちは中小企業・小規模事業者支援の主役でなければならないと思っています。
税理士としての本分を貫き全国展開を目指す
新法人について伺いたいと思います。東京と名古屋、津の事務所とは、どのような経緯でタッグを組むことになったのでしょうか。
平野 これまでも金沢市内の関与先企業が東京に進出したり、逆に東京の企業が北陸進出したり、といった機会には他地域の事務所と情報交換や関与先紹介などを積極的に行ってきました。こうした協力体制をより強固で効率的なものにしようと連携を深めているうちに、地域の枠を超えて合併する案が持ち上がったのです。もちろん、各事務所の代表同士は税法の研修や海外視察などをご一緒するなかで人間関係を築いてきた方々です。この信頼関係が、合併・新法人設立の土台となっています。ちなみに、新大和税理士法人という名称は、いずれは大阪や福岡などにも拠点を築いて全国展開したいという思いを、日本の歴史的古称である「大和」に込めたものです。また、新たな時代を担っていく存在として「新」という文字を冠しました。
地域内の事務所同士が統合する例は多いですが、地域の垣根をまたいでこれだけ広範囲に複数の事務所が新法人を組織することは稀だと思います。立ち上げにあたっては、どのようなコンセプトを掲げたのでしょうか。
平野 当事務所では開業当初からのコンセプトを、新設法人設立にあたり次の4つの経営理念にまとめて掲げています。
・関与先支援 関与先企業の永続・発展に資するため、税務専門家として高度なサービスを提供し、ひいては国や地域の経済社会の発展に貢献する。
・税理士の使命 申告納税制度の理念のもと、納税者との強い信頼関係を構築し、納税義務の適正な実現という税理士の使命を果たす。
・税制と税理士制度 公平公正な税制の実現と税理士制度の更なる発展に寄与する為に積極的に取り組む。
・組織運営 組織構成員の充実した職業生活の達成に向け、構成員間での自由闊達な意見交換を基本にした組織運営に努める。
各事務所もこの理念のもとに、連携して関与先へのサービス向上を図ります。具体的には、当事務所は資産税関係の案件で経験が多く、名古屋の事務所は医業専門、東京都の事務所はM&Aや国際事業を多数手掛けているなど、それぞれの事務所に得意分野があるので、今後は多くの関与先により幅広く高度なサービスを提供できるようになります。複数の事務所で広範な地域をカバーすることで、特に事業承継の相談案件に地域の枠を超えた合併や統合を幅広く提案できることも、関与先にとって大きなメリットになると思います。
新法人と税理士業界の中長期的な展望
現在の各拠点事務所同士の連携状況はいかがでしょうか。
平野 事務所同士で一緒に職員旅行を実施するなど親睦を深め、若手同士の交流も活発に行っています。もちろん、医業関係の案件は名古屋の事務所に任せるなど、関与先の割り振りや共有も進めています。先ほど申し上げたようにいずれ全国各地に拠点を展開できたあかつきには、本拠地は利便性から考えて東京に置くことになるかもしれません。現在のところ私が代表を引き受け、この金沢が本拠地となっていますが、私ももう60代半ばです。次代を担う人材を育てるためにも、各拠点同士での人事交流も積極的に行っていきたいと思います。
最後に税理士業界全体の展望もお聞かせください。
平野 やはり、進歩するICTやAIをいかに取り入れていくかが大きな課題となるでしょう。巷では「これら先端技術の導入で税理士や会計事務所の仕事がなくなる」という意見もささやかれていますが、私はそのあたりを見極めようと、18年6月にバルト三国のエストニアを視察してきました。かの国は世界最先端の電子政府システムを実現させたことで知られ、IT化が進む国の姿として日本の税理士業界でも注目度が高まっています。日本ではマイナンバーカードの普及率は1割台にとどまっていますが、エストニアでは15歳以上の国民に電子IDカードの所持が義務付けられており、ワンID・ワンパスワードであらゆるサービスを受けることができます。国税庁と政府のサービスセンター、大規模な会計事務所の現場を視察して私が確信したのは、どれだけ電子化が進んでも、複雑な税務業務などのケースは最後はフェイス・トゥ・フェイスだということ。仕事がAIに奪われるどころか、むしろAIのサポートで単純業務にかける時間をカットできれば、税理士はより高付加価値な仕事に注力することができるようになると期待を抱きました。これからも先端技術の進歩に常に気を配りつつ、まずは新法人の経営体制をしっかりと強固なものにしていきたいと思います。
本日はありがとうございました。ますますのご発展をお祈りいたします。
お父様が石川県の伝統工芸品・九谷焼の職人だったことから、平野先生は子どもの頃から工芸品に対する愛着が強く、大学卒業後の一時期には地元で九谷焼の修業を積んでいました。その後、社会経験を積むべく親戚の紹介で会計事務所で働くことに。そして、仕事に励むなかで関与先から信頼されることなどにやりがいを感じるようになって独立を決意。1989年に税理士資格を取得し、翌年に開業しました。以前勤めていた事務所からの支援などもあって、関与先の件数は順調に伸びていったそうです。その後、2010年に法人化し、18年12月に新大和税理士法人を設立、代表に就任しました。
新大和税理士法人
- 所在地
- 【本部】 石川県金沢市鞍月4-133 KCビル6F
【虎ノ門事務所】 東京都港区虎ノ門1-12-1虎ノ門第一法規ビル
【町田事務所】 東京都町田市森野1-9-18 プリマ・コスモ5F
【名古屋事務所】 愛知県名古屋市中川区高畑2-14 シェルコート高畑2F
【津事務所】 三重県津市広明町358 オオハシビル4F - TEL
- 076-268-6575(本部)
- 設立
- 2018年
- 職員数
- 89名(法人全体)
- URL
- https://shin-yamato.or.jp