2020年02月号
会計事務所の整理整頓術
忙しい時期になると、事務所やデスク周りには書類や資料が積み上がってしまいがちです。しかし、そうした状況になると探し物に時間がかかってしまったり、ともすれば重大なミスにつながったりする恐れもあります。 そこで事務効率化コンサルタントで『事務ミスがない人の図解整理術〔書類・メモ・データ〕』『デスクワーク整理術』などの著者であるオダギリ 展子氏に、会計事務所における効率的な整理整頓術を教えていただきます。
ミス防止のための工夫が高じて整理整頓術へと発展
私は以前、特許事務所で働き、その後は貿易事務も経験しました。いずれの職場でも多種多様な書類を処理・管理する業務に携わったのですが、扱う量も多く、ミスの許されないものでした。例えば特許事務所で私が担当したのは外国特許の出願事務。そもそも特許取得の手続きは複雑で専門性が高い上、出願先の国によって異なる特許法に合わせて、各案件の処理の仕方も変わってきます。期限管理や作業の優先順位などもその都度迅速に判断しなければならず、かつ小さなミスが損害賠償などのリスクにつながる可能性もあるので、事務所には、ミスを防ぐためのルールがいくつもありました。私はこうした緊張感あふれる事務仕事を通して、ルールを遵守して作業することでいかにミスを減らせるかを身をもって学びました。と同時に「自分のデスクの上を整理すれば、よりミスが起きにくくスムーズに仕事ができるのではないか」と思い、独自にさまざまな整理整頓術を実践していったのです。
今回はその中から、数多くの顧問先様を抱え、膨大な書類の処理・管理を日々行っている税理士の先生方や事務担当の方などにとって役に立ちそうな方法をご紹介したいと思います。
入口から出口まで「書類の流れ」を机上につくる
私の整理整頓術の基本は、ひと言でいえば「デスクの上や周辺をきれいに保つこと」に尽きます。やるべきことは実にシンプル、「何がどうなっているか分かるようにする」ことです。レイアウトを決める際には「使用頻度」と「使う手」を意識しましょう。使うことが多いアイテムは手前に、そうでないものは奥に置く、そして右利きの人であれば右手で使うメモや筆記具などは右側に、電話は左側に置くのが鉄則です。
書類の整理整頓と管理についても、考え方は同じです。3頁の図1をご覧ください。見るからに乱雑で混とんとしたデスクです。このようなデスクの問題点を整理すると次のようになります。
①書類を受け取る際の「入口」が決まっていないため、受領時に無秩序に置いてしまう(置かれてしまう)
②受領後の保管先にも決まりがなく、その場限り
③どの書類がどういう作業段階にあるのか、すぐに分からない
④机上での各書類の軌道に一連の流れがない
そして、これらの問題点を解決する方法と効果は以下の通りです。
①机上に書類受け取り専用のトレイを置く→受領時の書類の散乱が防げる
②机上に複数のボックスファイルか複数段のトレイを設置して、処理中の各書類を作業段階別に保管する→作業段階が一目瞭然で、どこにどのような書類があるかすぐ分かる
③①と②の他にトレイを1つ設置して、保留にする書類専用の保管場所とする→稼働中ならびに未処理の書類と保留書類の識別がクリアになる
④処理が完了した書類は机上から撤去する→デスクの上から不要な書類がなくなる
これら①~④を実践するための作業手順をより具体的に解説していきましょう。まず、全ての書類を現在稼働中の「アクティブな書類」とそうでない「非アクティブな書類」の2種類に分けます。次に、アクティブな書類を作業段階別に分類します。分類例としては「新しく受け取った書類」「処理中の書類・段階1」「処理中の書類・段階2」「処理中の書類・段階3」「保留中の書類」といった具合です。そしてこれらを机上に設置したトレイやボックスファイルなどの所定の場所に保管します(図2 ※この図では、処理中の書類の保管にはボックスファイルを使用)。しかるべく分類・各所に保管した書類は、図のように作業の進捗とともにルールに従って所定の場所に移動させていきます。
このように、書類の整理整頓と管理において最も重要なのは、書類を受け取って(入口)から作業が完了して手放す(出口)までの流れを机上につくることです。この際、特に注意すべきなのは、出口となるスポットが入口ほど明確ではないため、書類の撤去が後手になりがちだということ。処理完了後の書類は、速やかに机上から撤去するように心がけることが大切です。
機能的な文具を取り入れて書類管理
こうした「書類の流れ」をつくるにあたって忘れてはいけないのが、機能的な文具を積極的に取り入れることです。私も愛用しているオススメ商品は、コクヨの「グルーピングホルダー〈KaTaSu〉」。これは複数のA4クリアホルダーをまとめて整理することができる幅広のホルダーで、書類の束が薄くても厚くてもしなって崩れたりせず、立てて整理できることが最大のポイントです。脇にある裏表各2㎝ほどのスペースにインデックスを付けることもできますし、クリアホルダーからメモが抜け落ちたり、他の書類が混入したりするのも防げます。私が事務員をしていた時にはこの商品は発売されていませんでしたが、もしあったら絶対に使っていたと思います。案件書類をしっかり管理できるということで仕事がよりスムーズになり、私には手放せないものになっていたでしょう。
文具に関しては、他にも機能的で省スペースにもつながる優れモノも多々あります。以下で最近のオススメ商品を3点ご紹介しますので、ぜひチェックしてみてください。
段によって使い分け効率的な引き出しの活用術
机上だけでなく、引き出しをうまく使うことも整理整頓のポイントです。中央に設けられた幅広で浅い引き出しは通常は空にしておき、離席の際に机上に広げている書類などがあった場合、それらを一時的に収納し、席に戻るまでの仮置き場にすると◎。また、机脇にある最上段の引き出しは文具の収納に最適です。こまごまとした文具には、市販のトレイや空き箱などを利用した間仕切りを活用しましょう。デッドスペースとなってしまいがちな中段の引き出しを有効に使うには、①引き出しの高さを生かす②モノを取り出す際に他の収納物をどかさずに済むように収納する③収納時に上下に重ねないで立てる④使用頻度の高いモノほど手前に収納する、などがポイントです。そして下段の引き出しは、A4サイズのファイルを背表紙を上にして保管するのにピッタリ。その際には、ファイルの倒れ防止に引き出し内にボックスファイルを設置する、書類やメモがボックスファイルの間に紛れ込むのを防ぐためにボックスファイル同士をダブルクリップなどでとめる、といった工夫をするとよいでしょう。
役目を終えた書類はデジタル化して保存
以上、デスクの上や引き出しにおける整理整頓術についてお話ししてきましたが、その先には当然、作業が完了した書類をどう取り扱うかという問題があります。会計事務所であれば、顧問先の経理・経営に関する膨大な数の書類を一定期間保存しなければならないことでしょう。効率のよい保存・管理のための整理整頓術はいろいろとありますが、私は長い目で見た場合、デジタルデータでの保存・管理の導入をお勧めします。さまざまな形状・サイズの書類を手早くデータ化してパソコン画面上で簡単に保存・管理できる「ScanSnap」(PFU)などは、使い勝手も良く、業務の効率化にもつながるでしょう。さらに、同製品のクラウド環境を活用すると、MJSの「ACELINK NX-Pro」と連携し、証憑類を会計データに自動変換することができるので、顧問先様にもお勧めです。
稼働中の書類は、機能的文具を活用しつつ、紙ベースで「書類の流れ」に沿って保管・管理し、その後の保存・管理はデジタル化。これが私が考える最も効率的でミスが少なく、ムダのない事務仕事の進め方です。皆様のご参考になれば誠に幸いです。
フリーアドレス・ペーパーレス化とは!?
MJSでは、従業員の座席を固定しないフリーアドレス(FA)、そして本制度導入に当たって必須となるペーパーレス化の推進に取り組んでいます。
FAでは誰がどの席に座ったとしても仕事ができるように、オフィスに配するデスクに脇机や引き出しを設けません。各人の資料や道具は個人用ボックスにしまい、必要な際に取り出して使用します。また、"書類を置く面積にも家賃が発生している"という考えのもと、キャビネット設置も最小限に抑えます。このように、紙資料を置けるスペースに限りがあるので、必然的にペーパーレス化が促進されます。紙の場合、まず印刷し、それを運ぶ人がいて、使用後にファイリング作業が発生し、保管場所も必要となる上、過去の書類を探すのに多大な労力がかかります。ペーパーレスにするとこれらの作業や手間がなくなり、検索も容易になるのです。
MJSで活用しているのは、富士ゼロックス社の「DocuWorks(ドキュワークス)」。紙資料を複合機で読み取って電子化し、サーバー等に格納することで共有のデータとなります。ここでのポイントは、ルールを統一することです。電子化する資料の選別、電子化と資料破棄のタイミング、データの拡張子は何にするかなどを明確化しておくと、運用がスムーズになります。なお、「DocuWorks」には他にも文書のOCR読みとりやペーパーレスファックスなど、仕事を便利にする多彩な機能が備わっています。
一般的にFA導入で期待できる効果は、コスト削減です。紙資料の総量が減ること、また従業員の外出が多い職場であれば、人数分の座席を用意せずとも事足りるかもしれません。これらは省スペース化につながり、賃料削減や人員増にも柔軟に対応できる体制を実現します。また、働き方の多様化促進も効果として挙げられます。固定の席がないことで、社内外どこでも働く習慣が身につきますし、作業をするためわざわざオフィスに戻る必要もなくなり、直行・直帰のワークスタイルが可能となります。さらに、自由席や省スペース化により創出できたコミュニケーションスペースでの従業員の多彩なコミュニケーションの活性化という効果も期待できます。
現在、MJSでは全国15拠点でこの取り組みを行っており、今後も順次進めていく予定です。また、大手町や大阪などのオフィスではお客様の見学を受け入れることもあり、どのような取り組みを行っているかご覧いただいております。