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北陸会企画

2020年02月号

輪島塗の世界

日本を代表する漆器・芸術品として知られる「輪島塗」。しかし、往時に比べるとその生産量は減少の一途をたどっており、生産者数も減少傾向にあります。そこで、輪島漆器商工業協同組合を取材し、あらためて輪島塗の歴史と変遷、たぐい稀な技術と魅力、そして昨今の販路展開について紹介したいと思います。

堅牢性を支える重要工程

 全国に20カ所ほどある漆器産地のうち、輪島塗の特徴は何より「丈夫で長持ちする」こと。輪島漆器商工業協同組合事務局長の隅 堅正氏によれば、その堅牢性は「120以上もの細かい工程によってつくり出されており、それぞれの工程を専門の職人たちが完全分業制で担っている」そうです。例えば、漆器をより堅く引き締めるための重要な工程であり、特に手間暇がかかる「下地塗り」の工程を大まかに説明すると、次のようになります。

 ①木地全体に生漆を染み込ませ、接合部分や欠けやすい部分にコクソ漆(漆と米糊と木屑を混ぜたもの)を塗る。

 ②木地の弱い部分や傷みやすい部分(椀なら縁や底)に「着せ物漆」(生漆と米糊を混ぜたもの)で麻布や綿布を貼りつける(布着せ)。

 ③着せ物が乾燥してから、布着せの部分と木地との境目を小刀で削って平たくしたり、漆を塗りつけてなだらかにしたり、砥石で磨いたりする。

 ④生漆と米糊と地の粉(輪島市内にある小峰山で産出する珪藻土を蒸し焼きにし、粉砕した粉末)を混ぜたもので木地全体に「下地塗り」を3回にわたって施す。

 これでようやく下地が完成しますが、この後も中塗り、上塗りと数多くの工程が重ねられていきます。

輪島塗について学ぶなら「輪島塗会館」へ

 こうした輪島塗の技術や工程は、江戸時代前期頃に確立されたと言われています。「能登半島の先端部に位置する輪島には大きな港があったことから、漆器屋の主人が自ら北前船に乗り込んで行商して回り、その堅牢性が全国に知れ渡った」そうです。こうして、輪島塗は冠婚葬祭や料亭の膳に用いられる高級漆器としての地位を確立していったのです。

生産量減少と産地復興

 平成の初め頃までは産業規模拡大を続けた輪島塗ですが、その後は日本人の生活スタイルの変化などを背景に急激に生産量が減少していきました。生産額の推移をみると一目瞭然、1991年の180億円に対して、2018年の推計は38億円。ピーク時には関連産業も含め3000人以上いた職人も、現在では3分の1以下にまで減ってしまっているそうです。

 しかし一方では近年、こうした状況を脱しようという動きも盛り上がっています。例えば「複数のメーカーが洋風な生活スタイルや食卓にマッチしたデザインの漆器を開発したり、漆器の特徴や魅力、扱い方などをレクチャーする講座を開催したり、といったことに取り組んでいる」ほか、子どもたちに地元の伝統産業の魅力を伝えようと「輪島市内の小中学校の給食で漆器椀や箸を使ってもらったり、輪島塗プレートを小学校の卒業記念品にしたり」といった取り組みも進めているそうです。「輪島塗は漆器産地としては珍しく、間に問屋を介すことなく行商スタイルで独自の販売網を築いてきた歴史があるので、その原点に立ち返って、これまで以上に積極的に現代の顧客に直接アプローチする機会を増やしていきたい」と隅氏は意気込んでいます。今後の伝統工芸品産地の未来は、まさにこうした活動にかかっています。

吸物椀松沈金

吸物椀松沈金

下地工程(布着せ)

下地工程(布着せ)

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