CHANNEL WEB

シリーズ企画

2020年03月号

外国人雇用のポイント

多くの中小企業が人手不足で悩む中、あらためて外国人雇用のあり方に注目が集まっています。そこで、外国人労働者が増加している背景や外国人技能実習制度などの概要、さらに外国人雇用の際のポイントなどについて、社会保険労務士法人 加藤マネジメントオフィスの加藤 千博代表にお話を伺いました。

加藤 千博 氏

社会保険労務士法人
加藤マネジメントオフィス
代表社員

加藤 千博 氏

1988年、青山学院大学経済学部経済学科卒業。同年、イタリア ペルージャ大学イタリア語学科専攻(2年間)。90年、ファッション関連会社 イタリア駐在員事務所開設。イタリアを中心にヨーロッパの一流ホテルや一流レストラン、高級ブランド店などのサービスを学ぶ。帰国後はファッション関連会社、不動産会社、飲食店(イタリアンレストラン)、デザイン企画会社など、多くの会社経営に携わると同時に従業員の福利厚生を向上させるため、人事評価制度設計、賃金制度設計に尽力。2010年、コンサルティング会社 センズプランニング設立。13年、社会保険労務士法人 加藤マネジメントオフィス設立。17年よりMJS税経システム研究所 客員講師。

技能実習制度の現状と仕組み

 日本において外国人雇用が注目されるようになった背景として、深刻な人手不足が挙げられます。実際、外国人労働者数は2018年10月末時点で146万463人となっており、前年同期比18万1793人(14・2%)も増加しています。この数字は07年に届出が義務化されて以降、過去最高のものであり、今後も当面は増加していくと思われます。

 では、続いて外国人雇用にどのような雇用形態があるのかを紹介したいと思います。その形態は大きく3つで、就労ビザによる正規雇用、就学ビザ所有者(留学生)の雇用、技能実習生の雇用に分けられます(図1)。この中で中小企業にとって最も馴染みのあるのは、技能実習制度に基づく技能実習生の雇用です。この制度は国際貢献のため、開発途上国などの外国人を日本で一定期間(後述する特定技能実習の期間も含めると最長5年間)受け入れ、OJTを通じて技能を移転するというもので、現在、技能実習生の数は約28万人に達しています。また、制度の適正化や拡充などは認可法人外国人技能実習機構が担っており、具体的には実地検査技能実習計画の認定、申請内容の事実関係の確認や技能実習の状況についての検査を実施しています。ちなみに、技能実習生の受け入れのパターンは団体監理型と企業単独型の2通りあり、団体監理型は非営利の監理団体(事業協同組合や商工会など)が技能実習生を受け入れ、傘下の企業などで技能実習を実施する方法で、企業単独型は日本の企業などが海外の現地法人、合弁企業や取引先企業の職員を受け入れて技能実習を実施する方法です。そのうち主要なのは団体監理型の受け入れで全体の96・6%を占めており、受け入れ先の企業の半数以上が従業員数19人以下の零細企業となっています。また、受け入れ人数が多い国は、ベトナム(45・1%)、中国(28・3%)、フィリピン(10・1%)の順になっています。

 ところで、18年12月には「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律」が成立し、19年4月からは「特定技能」という在留資格で新たに「特定技能実習生」を受け入れられることになりました。在留期間は従来の技能実習制度の期間も含めて最長5年間(従来の3年間の後、最低1カ月帰国する必要あり)で、認可されている特定産業分野は介護、ビルクリーニング、素形材産業、産業機械製造業、電気・電子情報関連産業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業の14分野です。ただし、特定技能の在留資格を取得するには「技能試験に合格する」ことが就労要件となっていることもあってか、なかなか普及が進んでいない状況です。

 もちろん、こうした技能実習制度だけでなく、今後は正規雇用も拡大していくでしょう。特に私がみる限り、ITなどの分野に関しては多くの企業が、インドやベトナムをはじめとしたIT人材が豊富な国で積極的に採用活動を進めているようです。

失踪者を減らすための方策

図1外国人雇用の3タイプ

 ですが、外国人雇用が進む一方で、外国人労働者の失踪などが社会問題になってきています。例えば現在、技能実習生が失踪してしまう割合は3%程度と言われていますが、評判の良くない監理団体などの場合、その割合が10%超になっていることもあります。 

 こうした状況を改善するには、やはり賃金や就労環境を向上するのが第一です。外国人労働者だから安い賃金でいいという考え方は捨て、少なくとも日本人の最低賃金の水準、例えば手取りで15万円くらいは渡すようにしなければなりません。

 しかし、今のところ多くの技能実習生が賃金不足で苦しんでいるのも事実です。技能実習生の場合、額面で20万円ほどもらうことになっていても、社会保障や監理団体への支払いなどを済ませると手取りが12万円程度になってしまいます。そこから故郷への仕送りなどをすると、結局、手元にほとんどお金が残らず、厳しい生活を強いられることになってしまうのです。さらに現地の送り出し機関に問題がある場合もあります。技能実習生を日本に送り出すにあたって、日本でならいくらでも稼げるとうそぶき、その手数料として多額の金銭を要求するところがあり、多くの技能実習生が膨大な借金を抱えた状態で来日しているのです。そのため、技能実習生の中には通常1、2人しか住めないような広さのアパートに5、6人くらいで住むなどして家賃を極力浮かせたりするわけですが、次第にそういった生活に心身ともに疲れ果て、最終的に失踪したり、不法就労に手を染めてしまったりしてしまうのです。

 こうした状況になるのを避けるためにも、技能実習制度を活用する際にはしっかりと技能実習生と向き合い、日本での業務内容や生活、手取り金額や仕送りできる金額などのイメージを正確に共有し、合意した上で話を進めていかなければなりません。

詳細な契約や規定が肝心

 実際に外国人雇用を進めるにあたって重要になってくるものといえば、雇用契約書です。外国人労働者は日本人以上に契約内容をきちんと精査するので、日本人向けの雇用契約書以上に詳細な記述を要します。特に注意しなければならないのが就業規則に関することです。その中では賃金についてはもちろん、労働時間に関することにも注意を払う必要があります。例えば外国人労働者の場合、就業時間が8時~17時、昼休みが12時~13時になっていると、仕事が中途半端な状態だからといってサービス残業のようなことは一切してくれません。また「取引先との打ち合わせが13時からになったので、11時30分に出かけたい」と言っても、昼休み中の勤務になるということでなかなか理解を示してくれないでしょう。なので、労働時間の付け替えに関してある程度、柔軟に対応してもらえるように契約書の中に盛り込んでおく必要があるのです。その他、外国人雇用の際には業務内容を規定しておくことも重要になります。というのは、外国人労働者の場合、契約書に記載のない業務に応じてくれないからです。そもそも日本は人ありきで仕事をつくっていく傾向がありますが、海外の場合は仕事ありきで人を採用します。そのため、日本のように異動することもなく業務範囲が拡大したり、別のスタッフの仕事をサポートしたりといった考え方が通用しないのです。また、雇用契約書や就業規則の内容を周知し、しっかりと理解してもらうためにも、できるだけ英語版を用意しておくことも忘れてはいけません。

労働条件通知書(見本)

 当然、賃金や社会保障などに関する取り決めや説明もしっかりと行っておく必要があります。とりわけ問題になりがちなのが、日本の社会保険制度に関することです。日本と社会保障協定を結んでいる国の外国人労働者の場合は日本で支払う義務がないのですが、そうでない場合は自国でも日本でも年金を支払う必要が生じるので、そのあたりを事前に納得してもらわなければなりません。また、健康保険制度についても注意しなければなりません。健康保険では日本在住の家族を扶養に入ることができますが、これに自国の家族まで入れようとする傾向が見られるのです。やたらと多くの家族を扶養に入れてくる場合は、特にそのあたりを精査しなければなりません。

 また、就労ビザで来日している外国人労働者を雇用する場合は、業務内容によっては就労ビザを取得し直す必要があるので注意してください。例えば、もともとシステムエンジニアとして就労ビザを取得している外国人労働者に、営業職を任せることはできないのです。就労ビザの再取得には手続きと時間を要するので、面接時にはそのあたりをしっかりと確認しておいてください。

 服務規程の見直しについても検討する必要があります。外国人労働者が遅刻を繰り返したり、業務をきちんと履行してくれたりしない場合、多くの事業者はどのように注意を促していいかが分からず、手をこまねいてしまいます。その際に重要になるのが懲罰などのルールです。遅刻を複数回繰り返したら減俸に処すなどのルールを明確化しておけば、そのあたりのリスクをある程度はヘッジすることができるし、自然に注意を促すことができます。

 そして、もう一つ注意しなければならないのが、文化の違いを受け入れることです。当然のことながら、外国人労働者は国ごとに特有の言語や食文化、宗教をバックボーンとしています。だからこそ、来日前にできるだけ日本の言語や文化を学んでもらうことが重要になるのですが、その実施は会社負担となる場合がほとんどです。そして、例えばベトナム人材を技能実習生として一人迎え入れる場合、こうした教育や監理団体に支払う費用や渡航費などを合わせると一人当たり50万円ほどかかるのです。ちなみに、来日後に監理団体に支払う費用は監理団体によって異なりますが、平均すると一人当たり1万5000円前後といったところかと思います。外国人労働者を受け入れる場合には、そういった費用面も念頭に置くようにしてください。

雇用の窓口を正しく選ぶ

 次に外国人材をどうやって雇用すればよいかといったことを説明しておきます。外国人雇用の方法にはハローワークを利用する、技能実習生などの監理団体に相談するといったものがあります。ただし後者の場合、先述したように費用やサービスレベルに差があるので注意が必要です。最もリスクが少ないのはハローワークですが、その場合、応募人材に限りがあり、自社のビジネスとマッチするとは限りません。ですから、ハローワークでうまく外国人材を見つけられない場合は、同業者で上手に外国労働者と付き合っている企業を探し、そういったところと取引がある監理団体などに相談するという流れが順当のように思います。それでも良い人材と巡り合えない場合は、インターネットなどで外国人材を紹介する会社や監理団体を探し、相談することになりますが、その際には外国人雇用の「安さ」をウリにしていないかどうかをチェックしてください。これからの時代は外国人労働者を安価な労働力とみなさず、日本の人材と同等の待遇をしていくことが重要です。安さをウリにしているところにはそういった視点が欠落しているので、採用後にトラブルが生じるリスクが高くなると思われます。

外国人雇用の可能性

 外国人雇用に関して、さまざまな注意点やポイントを述べてきましたが、それらをうまく実行していけば、外国人雇用を機に新たなビジネスチャンスを掴むことも可能になります。

 本稿のポイント

 そこで、最後に外国人雇用の実例をいくつか紹介したいと思います。まず一つ目は、ある会社がフィリピン人をウェブデザイナーとして正規雇用した際のケースです。面接時にはデザイン能力もあるし、パソコンも使えるというので安心して採用したのですが、いざ働いてみてもらうと、制作物の多くが既存のデザインをそのまま模倣したものであり、オリジナリティが著しく欠落していました。ですが、そのフィリピン人は人柄が良く、コミュニケーション能力に長けていました。そこで、同社はそのフィリピン人と話し合い、いったん退職した上で営業人材として就労ビザを取得し直してもらい、3カ月後にあらためて正規雇用しました。結果、営業先が日本国内だけでなく、フィリピンやその周辺の国々にまで拡大し、同社は大きなビジネスチャンスを掴むことに成功しました。

健全な外国人雇用を目指し日本ビジネス能力認定協会を設立

 次にベトナムから技能実習生を受け入れた建設会社のケースを紹介します。同社は昨年7月に私と一緒にベトナムのホーチミン市を訪ね、現地の送り出し機関の案内のもと、10名のベトナム人と面接しました。そして、この1月下旬から2月上旬に2名のベトナム人を技能実習生として迎え入れています。同社の経営者はいずれベトナムにグループ会社を設立し、自社で育てた技能実習生にその会社を任せたいと考えているそうです。

 このように外国人労働者を通してグローバル化を目指すという方針は、国内の人口や需要が頭打ちとなっている日本において、ますます重要になってくるはずです。ぜひそのあたりも認識した上で、外国人雇用の可能性を模索していただきたいと思います。

▲ ページトップ