ご当地自慢
2020年03月号
丸亀市、三豊市、多度津町、観音寺市
2010年に始まり、19年に第4回目を迎えた「瀬戸内国際芸術祭」。今回のご当地自慢では昨年の芸術祭秋会期に合わせて、その舞台である瀬戸内海西部の本島(香川県丸亀市)と粟島(同三豊市)、高見島(同多度津町)、伊吹島(同観音寺市)を訪ねました。各島に展示されていたアート作品はもちろん、文化施設や史跡、島グルメなどの魅力をたっぷり紹介したいと思います。
瀬戸内の島々で行われる一大アートイベント
瀬戸内国際芸術祭は「海の復権」をテーマとした一大アートイベントです。古来より海上交易の要衝として重要な役割を果たし、新しい文化や様式を多数吸収してきた瀬戸内海の島々を舞台に、毎回、国内外の著名な現代アーティストや建築家が島の人たちと共にさまざまなアートを制作・展示してきました。これらの作品やプロジェクトを通して人々の交流促進や観光誘致を図り、失われつつある地域の活力を取り戻すことが芸術祭の目的です。会期は春・夏・秋に分かれており、今回紹介する本島、粟島、高見島、伊吹島はすべて19年9月28日(土)から11月4日(月)までの秋会期に会場となった島々です。
塩飽諸島の中心地、本島でアートと歴史、グルメ巡り
まず紹介する本島は、備讃瀬戸の大小28の島々からなる塩飽諸島の文化・行政の中心地として栄えた島です。その繁栄の歴史は古く、戦国時代にまでさかのぼります。当時、備讃瀬戸の複雑な潮流についての知識や高度な造船・操船技術を有していた塩飽諸島の人々は、時の権力者たちの下で「塩飽水軍」として活躍するとともに、朱印状を与えられ、本島を本拠地として島々の自治を許されていました。その後、彼らは中世から江戸中期にかけて海運業で全国的に活躍し、多くの富を本島にもたらしたのです。現在、島内にはその繁栄ぶりを物語るかのように多くの寺社仏閣が点在している他、かつて塩飽全島の政務が行われていた塩飽勤番所跡(①)や船方650人の代表者である「年寄」の墓などの史跡、塩飽水軍や塩飽廻船の根拠地として栄え、江戸時代幕末から戦前にかけて建てられた古い町並み、その他仏像や調度品、伊藤若冲の掛け軸などの優れた文化財も数多く残っています。
そんな本島の各所に展示されていた瀬戸内国際芸術祭2019秋会期作品は、歴史情緒漂うこの島ならではの趣向のものばかり。例えば本島港の汽船待合所の近くに設置されていた石井 章氏の「Vertrek『出航』」もその一つ。これは塩飽水軍として名を馳せた者たちが乗組員として活躍し、日本で初めて太平洋を往復した咸臨丸をモチーフにした彫刻作品です(③)。その咸臨丸の水夫の生家を舞台として、屋外に壁画、室内床に水鏡を設置した眞壁 陸二氏の「咸臨の家」も素晴らしい作品でした(④)。また島南東の海岸には、塩飽諸島に暮らす漁師や島民たちが編み上げたカラフルな全長120mにも及ぶ漁網による「そらあみ〈島巡り〉」(五十嵐 靖晃氏作品)が設置されており、そのスケールの大きさに思わず圧倒されてしまいました(⑤)。こうした作品は港のそばでレンタサイクルを借りればとても快適に、効率よく見て回ることができるのでオススメです。また、会期中は本島漁協の水産物直売所(⑥)にお土産処「島娘」がオープン、たこ天や鯛カツ丼(⑦)などを味わえるようになっていました。次回、22年に予定されている瀬戸内国際芸術祭の際には、島内の史跡やアート作品とともに、こうした島グルメも堪能してみてほしいと思います。
粟島ののどかな集落でアートと島の風情を体感
続いて、まるで船のスクリューのようなユニークな形をした粟島へ。人口約200人、周囲16㎞のこの島には、かつて日本初の海員養成学校(1897年設立)がありました。現在も残っているその校舎を活用した粟島海洋記念館本館内(⑧)に、日々野 克彦氏の「瀬戸内海底探査船美術館プロジェクト ソコソコ想像所」(⑨)やフランス発の科学探査スクーナー船「タラ号」の活動内容にまつわる作品など、海に関連した作品が多数展示されていました。また、島の中心部にある旧粟島中学校の廃校舎を活用した「粟島芸術家村」は、三豊市が2010年から実施してきたアーティスト・イン・レジデンス事業の本拠地。島に若手芸術家を招いてその創作活動を支援する取り組みが続けられており、瀬戸内国際芸術祭2019秋会期中は大小島 真木氏と、マユール・ワイェダ氏の「始まりの洞窟」(⑩)が目玉作品として展示されていました。大小島氏が海上で一体の白い鯨の遺体と出会ったことから着想した作品で、生命と循環、そして生態系の連鎖をテーマとした「鯨シリーズ」の一つです。
他にも粟島には旧粟島幼稚園や旧粟島小学校など、廃校舎を活用した会場があり、それぞれ個性的なアート作品が展示されていました。こうした作品の魅力もさることながら、旧粟島小学校の屋上から集落ごしに海を見渡せたのは思わぬ収穫でした(⑪)。普段は入れない建物に入ることができるのも、瀬戸内国際芸術祭の魅力の一つと言えるでしょう。また、アート作品以外にも、昔ながらの趣ある武内商店(⑫)に立ち寄ったり、島の宿泊所・食事処ル・ポール粟島で昼食をとったりと(⑬)、のどかな集落を散策しながらゆったり島の風情を感じるのもまた一興です。
高見島や伊吹島など尽きない瀬戸内の島々の魅力
さて、瀬戸内海西側エリアには他にもたくさん個性的な島が点在しています。例えば粟島の北東に浮かぶ高見島。この島は大半が山で平地が少ないため、技術力の高い塩飽大工によって急斜面に造られた家が多いのが特徴です。斜面に階段状に組まれた石垣の上に古民家が立ち並ぶ景観はこの島ならでは。残念ながら現在では古民家のほとんどが空き家となっていますが、瀬戸内国際芸術祭を機にアート作品の展示空間として生まれ変わった建物もあります。中島 伽耶子氏が手掛けたインスタレーション作品「時のふる家」はその一つ(⑭)。真っ暗な室内にカットしたアクリル板を通して光が鋭く入ってきて、幻想的な空間をつくり出していました。
最後に伊吹島を紹介したいと思います。周囲わずか5・4kmの小さな島ながら、名産品である「伊吹いりこ」の人気は絶大。聞けば、漁場と加工場が非常に近く、漁獲から加工まで網元が一貫して手掛けるため、鮮度バツグンの上質ないりこを生み出すことができるとか。その伊吹島では、建築事務所のみかんぐみと明治大学学生がコラボして16年につくった「イリコ庵」(⑮)が昨年の瀬戸内国際芸術祭でもオープン。「島の小さな集会所」がコンセプトのこの建物、芸術祭期間中は訪れる人たちの交流の場となった他、島の食材をふんだんに使った弁当も販売していました。
以上、駆け足で瀬戸内海西側の島々を紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。アート作品のみならず、各島いずれも様々な魅力を持っているので、瀬戸内国際芸術祭の会期中にそれぞれの島をじっくり見て回るのはもちろん、会期以外の時期にもぜひ訪ねてみてほしいと思います。