東京会企画
2022年04月号
東京の隈研吾建築に見る
多彩なアートデザインと世界観
今や日本だけでなく世界的に著名な建築家、隈 研吾氏。米国の雑誌『TIME』で「世界で最も影響力のある100人 2021年」に選ばれただけでなく、現在も30を超える国々で多彩なプロジェクトを進行中です。また、東京都内には「2020東京オリンピック・パラリンピック」のメインスタジアムとなった「国立競技場」をはじめ、「JR高輪ゲートウェイ駅」「浅草文化観光センター」など、隈 研吾氏が設計・デザインに携わった建築作品が多数あります。ここではそのうちの7件のコンセプトについて、隈研吾建築都市設計事務所および建築主に紹介していただきました。
■台東区立浅草文化観光センター
(竣工:2012年4月)
東京都台東区雷門2−18−9
観光案内施設:案内ロビー・展示スペース・喫茶室など8階建ての複合施設で2012年、リニューアルオープン。
「江戸の文化を今に伝える東京を代表する観光地、浅草雷門の向かい側の角地、わずか326㎡の敷地に立地。伝統的木造住宅を7つ積み重ねたようなデザインの複合的な文化センターを提案し、浅草という土地に残る界隈性の立体化、垂直化を試みた。それぞれのフロアには勾配のついた屋根と天井、木製のルーバーが付加され、昔ながらの木造の家にいるような、安らぎ、くつろぎを得ることができる。屋根とルーバーは日差しを防ぐ役割も果たす」
■一行院 千日谷会堂
(竣工:2018年6月)
東京都新宿区南元町19−2
寺院:信濃町駅の近く、千日坂の中腹に立つ江戸時代から続く浄土宗の寺院・一行院の新本堂。
「谷上から見下ろされる立地を考慮して屋根を重視し、特別に型を起こして押し出したアルミ製の丸瓦でゆったりとした大屋根を覆った。また、大きく張り出した庇に守られた内外装には、幅300㎜の杉の無垢板を大和張りのディテールで取り付け、誰もが気楽にご先祖様に会いに行きたくなるような、コミュニティの核となるような新しいお寺のあり方を追求した」
■明治神宮ミュージアム
(竣工:2019年10月)
東京都渋谷区代々木神園町1−1
神社の展示施設(美術館・博物館):日本を代表する神社、1920年創建の明治神宮の参道の途中に立つミュージアム。
「明治神宮の森自体を主役と考え、建築をその中に溶けこませることを目標にした。一見、原生林にように見える明治神宮の森は、明治天皇が亡くなった後に、全国のボランティアの手によって持ち寄られ、植えられたものであり、100年の短期間で野原があった場所にこれだけの深い森が生まれたことは、林学上の奇跡とも言われている。軒の高さを抑え、屋根を細かく分節し、外壁も大和張りと呼ばれるディテールを用いて細かく分節することによって建築を森の中に消していこうと試みた。構造体にH鋼を用い、可能な限り透明な空間を実現し、H鋼のフランジ間をヒノキの板で埋めることで、構造のシャープさと空間の暖かさ、やわらかさとを両立させた。建築に際して切り落とされた楠、欅などの樹木は家具や内装に再利用して森という貴重な資源を循環させることを試みた」
■国立競技場
(竣工:2019年11月)
東京都新宿区霞ヶ丘町10−1
観覧場:東京2020オリンピック・パラリンピックのメインスタジアムに使用。
「大きなスタジアムを小径木の集合体としてデザインした。ファサードを複層の庇の重なりとしてデザインし、それぞれの庇の軒下部分を小径木のルーバーで覆うことによって、日本の建築が守り伝えてきた軒下の美を現代にふさわしい表現にしようと試みた。ルーバーは日本で最も多く流通している105㎜角の杉材を三つ割りして用い、ルーバー同士のピッチを各方位で調整することによって、ルーバーの密度に変化をつけ、ヒューマンなリズムを軒裏につくろうと試みた。屋根は鉄骨と中断面の集成材を組み合わせたトラス構造とし、木材の軸剛性を利用して、風や地震で生じる屋根トラスの変形を抑えた」
■渋谷スクランブルスクエア
(竣工(Ⅰ期):2019年8月)
東京都渋谷区渋谷2丁目
駅ビル:渋谷駅に直結した複合施設型高層ビル(駅ビル)
「歩行者、3本の鉄道、高速道路、水路などのさまざまな動き、流れの交差する場所に立つタワーを、それぞれの流れの速度と質にレスポンスするように変形させながら、大地へとやわらかく着地させた。通常ガラスの内側に施されるセラミックプリントをガラスの外側に施すことで、ガラスに対して従来とは異なる立体的な表情を与えることができた。首都高に面する南面では壁面緑化を施し、ランドスケープとタワーとの有機的結合にチャレンジし、最上階には東京を見下ろす木のデッキが出現した。若者の街と呼ばれる渋谷のスピードと流れにダイナミズムが感じられる新しい超高層が出現した」
■高輪ゲートウェイ駅
(竣工:2020年3月)
東京都港区港南2丁目
駅:JR山手線における49年ぶりの新駅
「東京の環状鉄道、山手線30番目の駅となる新駅で、品川-田町駅間に誕生した。13haの駅前の敷地に計画が進められている〝新しい街〟と一体となって、東京の新しいゲート、海と陸をつなぐ新しいゲートとなることが期待されてこの駅名となった。街と駅とをシームレスにつなげることを目的として駅の上に膜構造の大屋根を架け、膜は鉄骨と杉の集成材で作られた折り紙形状のフレームで支えられている。駅構内は、従来の駅と異なり、天井も高く明るく開放的な空間が出現した。木のフレームと白い膜の組み合わせは、和紙を用いた日本の障子を想起させるものとなった。壁面には、木の板を凸凹をつけて貼る「大和張り」と呼ばれる伝統的技法が用いられ、それによって従来の駅舎にはないようなヒューマンスケールで暖かい空間が出現した」
■鍋島松濤公園トイレ
(竣工:2021年6月)
東京都渋谷区松濤2-10-7
公共トイレ
「緑豊かな松濤公園に集落のようなトイレの村をデザインした。ランダムな角度の耳付きの杉板ルーバーに覆われた5つの小屋は〝森のコミチ〟で結ばれて森の中に消えていく。多様なニーズ(子育て、身だしなみ配慮、車いす等)にあわせて、村を構成する一つずつのトイレのプラン、備品、内装も異なる。そのいろいろな個室を分棟とすることで、ポストコロナの時代のふさわしい、公園に開かれた風通しの良い、通り抜けできる〝公衆トイレの村〟ができあがった。トイレにも多様性の時代、森の時代がやってきたのである」
(画像撮影:永禮賢、提供:日本財団)