中国会企画
2022年05月号
地元が誇る老舗企業
セイショク株式会社
繊維産業が盛んなことで知られる岡山県倉敷市。製品出荷額は全国の市町村で第1位を誇り、 今もなお国内の繊維業界を牽引している。その中で「廃棄布のアップサイクル」に挑戦しているのが 創業142年の老舗染色加工業、セイショク(株)だ。そのSDGsに関する取り組みは海外からも高い評価を受け、 ますます活動の幅を広げている。姫井 明社長に今後の展望と意気込みを聞いた。
制服の生地づくりで繁栄工場には昭和天皇の行幸も
同社の創業は1880年、「5人衆」と言われた地元の名士たちが岡山県倉敷市で織物製造の「正織社」を立ち上げたのが始まりだ。当時は作業服などの生地づくりが主力事業で、丈夫な素材を大量生産できるとあって、陸軍の制服などに用いられていたという。その後、1942年には岡山県織物染色協同組合の晒染工場を買収し、紡績、織布、染色の一貫体制を整備。さらにその年、香川県の豊浜織物(株)と合併し、社名を正織興業(株)と改名し、事業を拡大するとともに、地元での知名度や影響力を高めていった。それを証明するエピソードとして、豊浜工場には1943年に高松宮妃殿下が来臨、1950年には昭和天皇の行幸を仰いだ。現在も本社の一室には、昭和天皇が座った一脚の椅子が大切に保管されているという。
戦後は海外産の安価な素材が流通したことで、「より付加価値の高い事業を進めていこう」と生産拠点を岡山工場に移し、主力事業を織布製造から染色にシフト。色の「再現性」の高さをウリに、企業向けの制服素材を手掛けていった。しかし、平成に入ると染料や燃料の高騰で、損失を計上する年が増えていったという。そのため、婿養子で11代目の姫井 明社長は「社長に就任したての2011年前後には、廃業や規模縮小が脳裏をよぎることがありました」と振り返る。が、それでも「歴史と伝統がある染色事業を継承するために、地元の人が誇りを持てる会社にしたい」と新事業に挑戦することに。それが廃棄布の活用だ。
廃棄布を活用した「ニューノス」誕生 SDGsな観点に海外からも反応
日本の繊維製品は高い品質基準を守るため、厳重に品質チェックが行われており、結果、廃棄処分される布が大量に出てくる。その量は「国内で年間900万㎡以上、焼却で排出される二酸化炭素は192万tに及び、1363万本の杉の年間吸収量にあたる」という。姫井社長は前職が食品関係とあって、この廃棄布の問題は食品ロスの問題と同じではないかと思ったそうだ。
そこで、姫井社長は2012年に新規事業開発課を立ち上げ、「実現可能性」「成長性」「環境保護」をテーマにイチから構想を練ることに。しかし、当初は思うように事業を進めることができなかった。数多くのアイデアが飛び交ったが、そのほとんどが二番煎じだったからだ。だがある日、さまざまな色に染めた規格外布を100枚程度重ねて圧縮し、垂直に削ってみたところ、独特のグラデーションが生まれることを発見。さらに布を500~600枚重ねると、たわみやゆがみが一層増し、水平に削っても模様が現れるようになったという。こうして誕生したのが、今や同社の看板商品になっている廃棄布のアップサイクル素材(※)「NUNOUS(ニューノス)」だ。
約9年かけて開発したこの製品の先進性は実に高く、2021年3月には特許も取得。現在はアートパネルとしてインテリアに用いたり、財布やカードホルダーに加工したりしており、自社の規格外の布はもちろん、他社の規格外の布も受け入れているという。最近ではSDGsの精神と合致するとあって、大手自動車メーカーや海外有名アパレルブランドからも声がかかるなど、多くの大企業から引き合いがあるそうだ。
こうした展開を下支えしているのが展示会・見本市の活用だ。「例えば、会場で知り合った同じ〝匂い〟のする人に積極的に声をかけ、海外での販売方法や新しい協力関係の可能性を聞いたりします。すると、代理店に名乗りを上げてくれる人や新たな営業先など、思いがけない出会いが得られるのです。スムーズに営業を進める上で、自分の目と足で得た情報、つながりは何よりも重要な要素になります」と姫井社長は話す。実際、今年3月にはこうした出会いを機に国内時計メーカー「Knot」がストラップにニューノスを使用した新商品を発売するなど、次々と新たな展開が生まれているという。
将来的には「売上の2、3割をニューノスで上げられるようにしていきたいです」と意気込む姫井社長。そして「仕事の内容は時代に合わせて変えながらも、布の『彩り』という核になる部分は大切にし続けたいと思います。そして今こそ、第三創業を目指し、さらなる挑戦に取り組んでいきたいと考えています」と決意を新たにしている。