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中部会企画②

2021年05月号

森林総合教育センター「morinos」が 森と人の未来をつくる

濃尾平野の最北端、岐阜県美濃市にある県立森林文化アカデミーの敷地に2020年夏オープンした「森林総合教育センター(愛称:morinos(モリノス))」。その誕生のプロセスや設立にかける思い、そして現在の取り組みについて、モリノスの井田 琢也技術課長補佐兼研修係長と、モリノスの発案者である萩原 ナバ 裕作森林文化アカデミー准教授にお話しいただきました。 写真提供:森林総合教育センター(morinos)

森が楽しいと感じられる場所を提供し続けます!

 ―井田 琢也氏
(モリノス技術課長補佐兼研修係長)

 日本初の森林教育の総合拠点施設「森林総合教育センター(愛称:morinos(モリノス))」は2020年7月22日、林業に関する専修学校である「岐阜県立森林文化アカデミー」(岐阜県美濃市内)内にオープンしました。モリノスのすぐ隣にはアカデミーの33?haの広大な演習林が広がっていますが、これほど近くに演習林がある林業関連の学校は日本でもここだけだと思います。もちろん、この森こそがモリノスのフィールドであり、ここをベースにさまざまな取り組みを展開しています。

 モリノスが目指すのは100年先の森づくりを見据え、森林に対して責任ある行動ができる人づくりです。「すべての人と森をつなぎ、森と暮らす楽しさや森林文化の豊かさを次世代につないでいくこと」をコンセプトに森で遊べる場所や森林教育プログラムの提供、人と森をつなぐ指導者の育成に取り組んでいます。建物は建築家・隈 研吾氏(東京大学名誉教授、森林文化アカデミー特別招聘教授)の意匠原案の下、アカデミーの教員・学生のアイデアと技術を結集して完成したもので、令和2年度木材利用優良施設コンコールにおいて林野庁長官賞を受賞しました。

 施設は主に「モリノスセンターハウス」、「モリノスひろば」、そして「森林(アカデミーの演習林)」によって構成されており、建物前の「モリノスひろば」では土の山や砂利、石、木材といった資材、リヤカーやバケツ、スコップといった道具を自由に使って、土遊びや穴掘り、木工工作、焚き火、秘密基地づくり、森の散策、どんぐり拾い、葉っぱ遊び、ロープ遊びなどを楽しめます。もちろん、大人も楽しめるフィールドになっており、パン窯を使ったパン作りや火おこし、バードウォッチング、薪割りなどのレンタルセット(無料)もあります。

競走ではなく森や自分と一体化することが大切な「リラックス・ラン」

競走ではなく森や自分と一体化することが大切な「リラックス・ラン」

自分で作ったハンモックに包まれると自然と素敵な表情になる。森の中での至福のひととき

自分で作ったハンモックに包まれると自然と素敵な表情になる。森の中での至福のひととき

アカデミーの演習林「森を歩くと、不思議や発見がいっぱい」 幼児の森の学校プログラムの様子

アカデミーの演習林「森を歩くと、不思議や発見がいっぱい」 幼児の森の学校プログラムの様子

モリノスを中心としたアカデミーや演習林の全景。演習林の広さは33ha、そのほとんどがヒノキの植林地となっている

モリノスを中心としたアカデミーや演習林の全景。演習林の広さは33ha、そのほとんどがヒノキの植林地となっている

萩原 ナバ 裕作アカデミー准教授。2007年に環境教育の指導者養成のための教員としてアカデミーに配属されるまでは、奥多摩(東京都)でインタープリター、オーストラリアでエコツアーガイドなどを務めてきた

萩原 ナバ 裕作アカデミー准教授。2007年に環境教育の指導者養成のための教員としてアカデミーに配属されるまでは、奥多摩(東京都)でインタープリター、オーストラリアでエコツアーガイドなどを務めてきた

センターハウスにある図書コーナー。絵本や図鑑、森林教育関係図書などを自由に閲覧できる

センターハウスにある図書コーナー。絵本や図鑑、森林教育関係図書などを自由に閲覧できる

 森林教育プログラムが充実しているのもモリノスの特徴の一つです。幼稚園、保育園、特別支援学校、小中高、大学といった教育機関向けに「森の空間を活かした」体験プログラムをオーダーメイドで提供しています。その他、「森で教える国語、算数、理科、英語」などの授業を行う研修を教育機関と連携して進めています。一般向けにはノルディックウォークやリラックスラン、子ども向けキャンプ、マイハンモック作り、ナイトハイク、森の音楽教室、星空ピアノ、バターナイフ作り、鹿革クラフトなど森とつながる幅広いジャンルの入口が開かれてます。また、指導者向けのプログラムも充実しており、森の手入れの他、リスクマネジメントやロープワークといった野外技術、ファシリテーション講座、ビジュアルコミュニケーション講座などを実施しています。

 おかげさまで、20年7月に開館してからこの2月末までにモリノスには1万人以上の皆さんが来場してくれました。今まで森とほとんど関係がなかった方にも来ていただけるよう、これからも魅力的なプログラムを生み出していきたいと思います。

「すごい」「不思議」が学びの原動力森を感じて楽しんでほしい

ひとくちメモ
施設概要
モリノスの建物

モリノスの建物は太い丸太がVの字で連続
しているのが特徴。ドイツ語の森を意味する
「WALD」の頭文字「W」の字にも見える。
正面の柱にはアカデミー生が伐採したこの
森の樹齢106年のヒノキが使われた

QR

 ―萩原 ナバ 裕作氏
(岐阜県立森林文化アカデミー准教授)

 「すべての人と森をつなぎたい」「社会の課題を森の空間を活用して解決していきたい」「みんなでつくる持続可能なコミュニティ(空間)をつくりたい」―。そんな思いからモリノスを発案しました。

 もともと森林文化アカデミーでは森林環境教育とインタープリテーションを専門とし、特に「森と人をつなぐ」「自由な学び」という活動に焦点を絞っていました。そして、「森の入り口」となるような施設を造れないかと模索していた時に、ドイツ・シュトットガルトの「ハウス・デス・ヴァルデス(森の家)」という森林教育施設を訪問する機会があり、「これこそが私たちが目指すものだ」と感銘を受けたのです。「実験場」「みんなでつくる」「混ざり合う」「学び合う」「変化しつづける」といったコンセプトが次々と湧いてきました。

 こうして完成したモリノスの建物には、日本の森林文化や岐阜県が誇る木材加工の最先端技術、アカデミーによる20年間の蓄積(環境、技術、人、ネットワーク)といったこだわりを随所に詰め込みました。また、森や人を中心に据えたプログラムも数多く用意し、誰もが森林を通して学べるような〝場〟づくりを目指しました。

 このような施設は全国的にも極めて珍しいと思うので、中部地方にお出かけの際には、さまざまな角度から「森」を体験することができるモリノスにぜひお立ち寄りいただきたいと思います。一人でも多くの人が森を通してハッピーになっていただけることを願っています。

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