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中部会企画①

2021年05月号

「音楽の都」として音楽文化を創造する浜松市の軌跡と魅力

ヤマハやカワイ、ローランドといった世界に名だたる楽器メーカーが立地し、「楽器のまち」として知られる浜松市は、1981年から「音楽のまち」づくりに取り組んできました。その成果が認められ、2014年には世界で7都市目、アジアで初のユネスコ創造都市ネットワークの音楽分野での加盟が認定されました。これまでの取り組みと今後の展望について、浜松市市民部創造都市・文化振興課にお話しいただきました。

ものづくりのまち」から「音楽のまち」そして「音楽の都」へ

「音楽の都・浜松」の中心的な文化施設「アクトシティ浜松

「音楽の都・浜松」の中心的な文化施設
「アクトシティ浜松」。2336席の大ホール
は本格的なオペラやコンサート、バレエ、
演劇、歌舞伎などあらゆる舞台芸術に対応
できる

 浜松地域は江戸時代より綿織物の産地として知られ、長年にわたって繊維業が産業の土台となってきました。そして、明治時代に山葉寅楠が日本初の国産ピアノを製造したことをきっかけに、浜松市はヤマハ、カワイ、ローランドなどの楽器メーカーが本社を置く世界的な楽器産業の集積地に成長。楽器や音楽に関わる技術や人材が、浜松独自の地域資源となり、「楽器のまち」としてその名をとどろかせるようになりました。 そして浜松市は1981年、市制70周年の際に総合計画新基本計画として「音楽のまちづくり」を掲げ、以来、音楽文化の振興に関わる事業に積極的に取り組み、音楽に関連する施設の建設とともに世界的・全国的な音楽事業を開催してきました。例えば、91年から3年ごとに開催している「浜松国際ピアノコンクール」は、世界的に活躍する若手ピアニストを輩出するコンクールとしての評価を確立し、96年にスタートした「静岡国際オペラコンクール」とともに国際音楽コンクール世界連盟に加盟しています。浜松市はこれら2つの加盟コンクールが開催される国内唯一の都市でもあるのです。

 また、吹奏楽や合唱、ジャズなど年間を通してさまざまな音楽イベントを開催しており、音楽文化を担う多くの市民団体が活発に活動しています。市内には94年にオープンしたアクトシティ浜松をはじめ、音楽の鑑賞や発表の場となる施設が複数あり、多くの市民の皆さんに活用いただいています。

 こうした取り組みを基盤として、浜松市では政令指定都市に移行した2007年よりさらに音楽事業に力を入れ、「音楽の都」を目指す取り組みを推進中です。その一環として、11年3月にはユネスコに創造都市ネットワーク(ひと口メモ参照)への加盟申請書を提出。ユネスコ側の都合により審査が一時中止になるなど紆余曲折がありましたが、14年2月に再度、加盟申請書を提出したところ、同年12月に認定されました。また、同年には既に音楽分野で創造都市ネットワークに加盟していたイタリア・ボローニャ市と音楽文化交流に関する覚書を締結するに至りました。

1992年にスタートした「ハママツ・ジャズ・ウィーク」。ジャズをテーマに官民一体となった企画運営がなされている

1992年にスタートした「ハママツ・ジャズ・ウィーク」。ジャズをテーマに官民一体となった企画運営がなされている

4月から10月の週末、JR浜松駅北口広場や遠州鉄道浜北駅前で開かれる「プロムナードコンサート」。地元の学校の吹奏楽部やアマチュア楽団などの演奏に多くの観客が耳を傾ける

4月から10月の週末、JR浜松駅北口広場や遠州鉄道浜北駅前で開かれる「プロムナードコンサート」。地元の学校の吹奏楽部やアマチュア楽団などの演奏に多くの観客が耳を傾ける

アクトシティ浜松の中ホール。ステージ正面にフランス製のパイプオルガンが設置されており、天井のシャンデリアが華やかな空間を演出する

アクトシティ浜松の中ホール。ステージ正面にフランス製のパイプオルガンが設置されており、天井のシャンデリアが華やかな空間を演出する

「音楽の都」の活動を支えるソフトとハードの事業

ひとくちメモ
施設概要

 では、具体的にどのような事業を展開してきたのか、ソフト面とハード面に分けてご紹介したいと思います。まずソフト面の代表例としては、先述した「浜松国際ピアノコンクール」が挙げられます。18年に第10回を数えたこのコンクールは第1次予選からチケットが完売するなど、いまや「音楽の都」の象徴的な事業となっています。また、浜松市の玄関口となるJR浜松駅周辺での音楽イベントも大いに盛り上がりをみせます。学生や社会人の吹奏楽団によって毎年4月~10月の週末に開催される「プロムナードコンサート」、92年から始まった「ハママツ・ジャズ・ウィーク」など、さまざまな音楽イベントが開催され、市民の皆さんが身近に音楽を感じる機会となっています。その他、音楽と教育を結び付けた事業も盛んです。子供たちが生の音楽に触れることを目的としてオーケストラ演奏を鑑賞する「こども音楽鑑賞教室」や、次代の音楽文化の担い手を育成する「ジュニアオーケストラ浜松」「ジュニアクワイア浜松」「アクトシティ音楽院」など幅広い事業を展開することで、「音楽の都」を支える人づくりに取り組んでいます。

 ハード面では市民が文化芸術に気軽に触れることができる場として、また多様な市民活動の拠点として、複数の文化施設を整備してきました。19年10月に開館25周年を迎えた「アクトシティ浜松」はその最たるものです。質の高い実演芸術の鑑賞機会を提供する場となっている他、コンベンション機能も果たしており、「音楽の都・浜松」のシンボル的な役割を担っています。また、「アクトシティ浜松」に隣接し、95年にオープンした「浜松市楽器博物館」は日本初、日本唯一の公立楽器博物館であり、19世紀のヨーロッパの貴重なピアノやホルンをはじめ、アジア、アフリカの楽器、日本の琴や尺八など、「世界の楽器を偏りなく平等に扱う」をコンセプトに、1500点の楽器が常設展示されています。この他、今年の夏には市民の文化活動の拠点として「浜松市市民音楽ホール(通称:サーラ音楽ホール)」が新たに開館する予定になっています。

 昨今のコロナ禍で、文化事業は従来通りの開催が難しい状況となっています。しかし、浜松市では文化を「都市の発展に不可欠なもの」であり、文化振興のための政策を「都市の新しい力を生み出すための重要な政策」と位置付けています。今後もイベントについては国や県の指針やガイドラインを踏まえ、十分な感染症対策を講じた上で、開催可能な形態での実施方法を検討したり、デジタル技術を活用したオンライン配信によるデュアルモードの取り組みを試行したりすることで、「音楽の都・浜松」の文化の灯を絶やさないようにしていきたいと思っています。

今年夏に開館予定の「サーラ音楽ホール」

今年夏に開館予定の「サーラ音楽ホール」 

浜松市楽器博物館には世界の楽器が1500点ほど地域別、テーマ別に展示。アジア最大級の規模を誇る

浜松市楽器博物館には世界の楽器が1500点ほど地域別、テーマ別に展示。アジア最大級の規模を誇る

日本初の公立楽器博物館である「浜松市楽器博物館」

日本初の公立楽器博物館である「浜松市楽器博物館」

1991年に浜松市制80周年を記念してスタートした「浜松国際ピアノコンクール」。世界を目指すピアニストの研鑽の場として3年ごとに開催される。今年は第11回コンクールを11月12~29日に開催予定

1991年に浜松市制80周年を記念してスタートした「浜松国際ピアノコンクール」。世界を目指すピアニストの研鑽の場として3年ごとに開催される。今年は第11回コンクールを11月12~29日に開催予定

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